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19 永遠の
しおりを挟む意を決したような小さな吐息が聞こえ、私のごくりと唾を飲んだ音が響いた。
「私は……とあるお方と政略結婚をしました。そのお方に他に愛する人がいると知っていたのに、自分の気持ちを優先してしまったのです」
「っ……」
「彼は私のことなど欠片も愛してはいないのに、愛する恋人の為に、私に嘘の言葉を紡がせてしまいました。その言葉を聞く度に、何度も後悔しました。どうして最初から彼を自由にしてあげなかったのか、と……」
「違うっ、違うんだ、ナーシャ!」
咄嗟に大声で叫ぶと、アナスタシアの声は聞こえなくなった。
口を閉じれば、再度声が聞こえて来る。
「何度も白薔薇をいただき、私とは真っ白な関係を続けるのだと……態度で示されていたにも関わらず、傍に居続けることを選んでしまいました」
「違う違う違うっ! あれには花言葉がっ!」
「初夜を捨て置かれた時点で、私は離縁すべきだった。迷っている間に彼の愛する人が身篭り、第二夫人に迎えることになりました。本当は嫌でたまらなかった。でも、彼女が身篭ったなら、次は私に触れてくれるかもしれない。そんな淡い期待を抱いてしまったのです。愛されてもいないのに……」
アナスタシアは、私に愛されていると思っていなかったことに衝撃を受けた。
彼女だけは、私からの愛が伝わっているものだと思い込んでいた。
違うんだ、と呟くことしか出来ず、ただ耳触りの良い声が聞こえ続ける。
「三年もの間、真実の愛によって結ばれた二人の邪魔をし続けたことが、私の罪です。……それでも、もし願いが叶うのなら、お二人が永遠に幸せであることを祈っています。そうでなければ、私は死ぬまで後悔し続けるでしょう……」
震える涙声に、胸を鷲掴みにされた。
クララと離縁するつもりだとは、言えなくなってしまった。
ただ、誤解だけは解きたくて、声を振り絞る。
「白薔薇九本の花言葉は、永遠に一緒にいたい、だ。心からそう願っていたから、渡していたんだ……」
私の気持ちが届いたのかはわからないが、アナスタシアは暫く沈黙していた。
「お話を聞いていただき、ありがとうございました……」
ギシリと音がして、アナスタシアが立ち上がった気配がした。
──お元気で。
最後まで私を気遣ってくれた愛する人は、消え入りそうな声で、永遠の別れの言葉を告げた。
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