スキルなし、聖女でもない。ただの「聞き上手」な私が異世界で幸せを探して旅に出ます~気づけば氷雪の騎士様に溺愛されています~

咲月ねむと

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2章 薬草の町、臆病な魔女の処方箋

2話 魔女の店はトラブル続き、効果は抜群すぎ!

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 ミラの店に通い始めて二日目。
 私たちは、なぜ彼女が「呪いの魔女」と呼ばれているのか、その理由を身をもって知ることになった。

​「あ、あの、試供品です! 『元気が出る薬』なんですけど……」

 ミラがおずおずと差し出した小瓶を、私はありがたく受け取った。旅の疲れが少し残っていたので、ちょうどいいと思ったからだ。

「ありがとう、ミラちゃん。いただきます」

 私は疑いもせず、その薄ピンク色の液体を一口飲んだ。

​ ――カッ!!

​ 飲んだ瞬間、体中の血管が沸騰したかのような熱さが駆け巡った。
 疲れ? 何それ?
 今の私なら、このまま隣町まで全力疾走して、ついでにドラゴンの一匹や二匹、素手で倒せる気がする!

「うおおおお! 元気が! 溢れる!」

 私はその場で猛烈な勢いでスクワットを始めた。止められない。自分の意志とは関係なく、体が勝手に筋肉を動かしたがっている。

「エマ!? おい、どうした!」

 ジークさんが慌てて私の肩を掴むが、私は止まらない。

「ジークさん! 今なら私、岩でも砕けます! 見ててください、高速反復横跳び!」

「落ち着け! 目が血走ってるぞ!」

​ 結局、私が正気に戻るまで一時間かかった。
 その間、私は店の床掃除、棚卸し、窓拭きを完璧にこなし、それでも体力が余って店の周りを三周走ってきた。

​「……ご、ごめんなさい……」

 ミラが今にも泣き出しそうな顔で謝っている。

「普通のポーションのつもりだったんです……。でも、成分を抽出する時に、ちょっと濃縮しすぎちゃって……」

「……ちょっとじゃないだろ」

 ジークさんが呆れたように言った。「軍用の興奮剤でもここまでは効かないぞ」

​ そう。ミラの薬は「失敗作」ではない。
 効果がありすぎる。

 『汚れが落ちる洗剤』を使えば、汚れと一緒に布地まで消滅する。

 『よく眠れる薬』を使えば、三日間昏睡状態になる。

 加減というものを知らない、ある意味での天才。 
 それが「呪いの魔女」の正体だった。

​「素材の良さを引き出しすぎちゃうんだね……」

 私は息を切らせながら、それでも彼女の才能には感心していた。薄めて使えば、こんなにコストパフォーマンスの良い薬はないのだから。

​ その時だった。

 バンッ!

 店のドアが乱暴に開け放たれた。

​「おい、魔女! まだここに居座っているのか!」

​ 入ってきたのは、仕立ての良いローブを着た、恰幅の良い中年男性だった。後ろに数人の男たち――どうやら錬金術ギルドの職員を従えている。
 その顔には、隠しきれない軽蔑と、ねっとりとした欲深さが張り付いていた。

​「ガ、ガリウス様……」

 ミラが怯えてカウンターの陰に隠れる。
 ガリウスと呼ばれた男は、鼻を鳴らして店内を見回した。

「相変わらずカビ臭い店だ。いいか、お前の作った危険な薬のせいで、町の人々が迷惑しているんだぞ。『呪いの店』なんて噂が立てば、我々ギルドの品位に関わる」

​「そ、そんな……。私はただ、みんなの役に立ちたくて……」

「黙れ! 無認可の調合など認めん!」

 ガリウスは一歩踏み込み、カウンターの上の薬瓶を杖で薙ぎ払った。

 ガシャーン!

 ガラスが割れる音が響き、貴重な薬液が床に広がる。

​「あ……」

 ミラの目から涙が溢れた。
 私はカッと頭に血が上った。さっきの薬の副作用ではない。純粋な怒りだ。一生懸命作ったものを、あんなふうに踏みにじるなんて。

​「……何の真似だ」

 私より先に動いたのは、ジークさんだった。
 彼は音もなくガリウスの前に立ちはだかった。
 身長差は頭一つ分以上。見下ろされる形になったガリウスは、一瞬怯んだが、すぐに虚勢を張った。

「な、なんだ貴様は! 私はこの町の錬金術ギルドの支部長だぞ! 部外者は引っ込んでいろ!」

​「部外者じゃない。俺たちは客だ」

 ジークさんの声は低く、地を這うような重低音だった。

「客の前で店の商品を壊すのが、この町の商売のやり方か?」

 彼の手が背中の大剣の柄にかかる。
 抜いてはいない。でも、そこから放たれる「殺気」だけで、取り巻きの男たちは顔色を青くして後ずさった。

​「ひっ……!」

 ガリウスも脂汗を流し、一歩後退した。
 でも、すぐに悪知恵を働かせたような顔つきになる。

「ふ、ふん! 野蛮な用心棒を雇ったところで無駄だ! この店には『営業許可税』の滞納がある!」

「税……?」

「そうだ! 度重なる騒動の迷惑料も含め、金貨十枚! 明日までに払えなければ、この店は差し押さえ、お前は町から追放だ!」

​ 金貨十枚。それは一般市民が一年は暮らせるだけの大金だ。閑古鳥が鳴いているこの店に、そんなお金があるはずがない。

​「そ、そんな大金、無理です……」

「なら出て行け! この土地は立地が悪いが、倉庫くらいにはなるからな!」

 ガリウスは勝ち誇ったように笑い、踵を返した。

「明日だぞ! 明日の日没までに用意できなければ、衛兵を呼んで強制執行だ!」

​ バタン! とドアが閉まる。
 静まり返った店内でミラのすすり泣く声だけが響いた。

「……ごめんなさい、ジークさん、エマさん。巻き込んでしまって……」

 彼女は割れた瓶の破片を拾おうとして、指を切ってしまった。
 赤い血が滲む。

「私なんて、やっぱりダメなんです。薬を作っても失敗ばかりで、みんなに嫌われて……」

​ 見ていられなかった。
 私は彼女の手を取り、ハンカチで優しく押さえた。

「ミラちゃん。諦めるのはまだ早いよ」

「え……?」

「金貨十枚でしょう? 稼げばいいじゃない」

​ 私の言葉にミラもジークさんも目を丸くした。

「エマ、本気か? 明日までだぞ」

「本気です。だって、ここには『最高の商品』があるんですから」

 私は床にこぼれた薬液――割られた小瓶の中身を指差した。それは、床の頑固な油汚れを一瞬で真っ白に分解していた。

​「強すぎるなら、薄めればいい。使い方が難しいなら説明すればいい」

 いいモノが売れないのは、伝え方が悪いだけ。
 それに、あのガリウスという男の鼻を折ってやりたい。

​「ジークさん、手伝ってくれますよね?」

 私が振り返ると、彼は少し呆れたようにため息をついた後、ニヤリと笑った。

「……ああ。乗りかかった船だ。それに、あの狸親父の顔が歪むところが見たい」

​「ミラちゃん」

 私は震える少女の肩を抱いた。

「明日、町中を驚かせてやろう。最高の『魔女の薬』で」
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