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第15話 公爵様は、少しだけ面白くない
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聖獣フェンリルが、私の作った食事をたいらげ、おまけに子犬のように懐いてしまった。
その衝撃的なニュースは、あっという間に城中を駆け巡った。
森の入り口で待機していた騎士たちは、ヴィンセント様に抱きかかえられるようにして森から出てきた私と、その後ろを名残惜しそうについてくるフェンリルの姿を見て、誰もが目を剥いて固まっていた。
厨房に戻ると、料理長は私の無事を泣いて喜び、仲間たちは私を英雄のように称えてくれた。
「まさか、あのフェンリル様を手懐けるなんて!」
「一体、どんな魔法を使ったんだ?」
私が「心を込めて、ご飯を作っただけです」と答えると、誰もが不思議そうな、それでいて納得したような顔をする。
その日から、私の仕事が一つ増えた。
毎朝、ヴィンセント様のお弁当を作る前に、フェンリルのための朝食を作って森へ届けること。
フェンリルはすっかり私に懐き、私が森の入り口に行くと、いつも巨大な尻尾をぶんぶんと振って出迎えてくれるようになった。
私が持っていく特製の栄養満点ごはんを美味しそうに平らげた後、満足げに喉を鳴らしながら頭を撫でさせてくれる時間が、私の新しい日常の、大切な一部になっていたのだ。
そんなある朝のこと。
いつものようにフェンリルのための朝食を届け終え、厨房に戻ろうとすると、森の入り口でヴィンセント様が腕を組んで立っていた。
「……終わったか」
「はい。今日もたくさん食べてくださいました」
私がにこやかに報告すると、彼は「そうか」と短く答えるだけだった。
けれど、その声が、いつもより少しだけ低い。表情も心なしか不機嫌に見える。
「あの、何か……ございましたか?」
「別に」
ぷい、とそっぽを向かれてしまい、私は首を傾げる。最近、時々こうしてヴィンセント様の機嫌が悪くなることがあるのだ。
原因が全く分からず、私は少し困ってしまう。
彼が不機嫌になるのは、決まって私がフェンリルの話をした後だった。
「……お前は」
不意にヴィンセント様が口を開いた。
「俺の料理番だろう」
「はい、もちろんです」
「……そうか」
彼はそれだけ言うと、何も言わずに踵を返し、城の中へ戻ってしまった。
残された私は、呆然とその背中を見送る。
(どういう意味だったのかしら……?)
その時の私には、公爵様が抱える複雑な感情など知る由もなかった。
その日の昼。
私はヴィンセント様のために、いつも以上に腕によりをかけたお弁当を作った。
メインは、彼の好物である肉料理。
子牛の肉を薄切りにし、特製の甘辛いタレで香ばしく焼き上げた、スタミナ満点の焼肉弁当だ。
執務室に届けると、彼は書類から目を離さずに「そこに置いておけ」とだけ言った。
まだ、少し不機嫌なようだ。
私は少ししょんぼりしながら部屋を出たが、扉が閉まる直前、見てしまった。
ヴィンセント様が、お弁当の蓋を開けた瞬間、その氷のような表情がほんの少しだけ和らぎ、すぐに焼肉を一枚つまんで口に放り込んだのを。
(……よかった)
彼の機嫌を直す一番の方法は、やっぱり美味しいご飯なのだ。
私は小さく笑みを浮かべ、厨房へと戻った。
その衝撃的なニュースは、あっという間に城中を駆け巡った。
森の入り口で待機していた騎士たちは、ヴィンセント様に抱きかかえられるようにして森から出てきた私と、その後ろを名残惜しそうについてくるフェンリルの姿を見て、誰もが目を剥いて固まっていた。
厨房に戻ると、料理長は私の無事を泣いて喜び、仲間たちは私を英雄のように称えてくれた。
「まさか、あのフェンリル様を手懐けるなんて!」
「一体、どんな魔法を使ったんだ?」
私が「心を込めて、ご飯を作っただけです」と答えると、誰もが不思議そうな、それでいて納得したような顔をする。
その日から、私の仕事が一つ増えた。
毎朝、ヴィンセント様のお弁当を作る前に、フェンリルのための朝食を作って森へ届けること。
フェンリルはすっかり私に懐き、私が森の入り口に行くと、いつも巨大な尻尾をぶんぶんと振って出迎えてくれるようになった。
私が持っていく特製の栄養満点ごはんを美味しそうに平らげた後、満足げに喉を鳴らしながら頭を撫でさせてくれる時間が、私の新しい日常の、大切な一部になっていたのだ。
そんなある朝のこと。
いつものようにフェンリルのための朝食を届け終え、厨房に戻ろうとすると、森の入り口でヴィンセント様が腕を組んで立っていた。
「……終わったか」
「はい。今日もたくさん食べてくださいました」
私がにこやかに報告すると、彼は「そうか」と短く答えるだけだった。
けれど、その声が、いつもより少しだけ低い。表情も心なしか不機嫌に見える。
「あの、何か……ございましたか?」
「別に」
ぷい、とそっぽを向かれてしまい、私は首を傾げる。最近、時々こうしてヴィンセント様の機嫌が悪くなることがあるのだ。
原因が全く分からず、私は少し困ってしまう。
彼が不機嫌になるのは、決まって私がフェンリルの話をした後だった。
「……お前は」
不意にヴィンセント様が口を開いた。
「俺の料理番だろう」
「はい、もちろんです」
「……そうか」
彼はそれだけ言うと、何も言わずに踵を返し、城の中へ戻ってしまった。
残された私は、呆然とその背中を見送る。
(どういう意味だったのかしら……?)
その時の私には、公爵様が抱える複雑な感情など知る由もなかった。
その日の昼。
私はヴィンセント様のために、いつも以上に腕によりをかけたお弁当を作った。
メインは、彼の好物である肉料理。
子牛の肉を薄切りにし、特製の甘辛いタレで香ばしく焼き上げた、スタミナ満点の焼肉弁当だ。
執務室に届けると、彼は書類から目を離さずに「そこに置いておけ」とだけ言った。
まだ、少し不機嫌なようだ。
私は少ししょんぼりしながら部屋を出たが、扉が閉まる直前、見てしまった。
ヴィンセント様が、お弁当の蓋を開けた瞬間、その氷のような表情がほんの少しだけ和らぎ、すぐに焼肉を一枚つまんで口に放り込んだのを。
(……よかった)
彼の機嫌を直す一番の方法は、やっぱり美味しいご飯なのだ。
私は小さく笑みを浮かべ、厨房へと戻った。
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