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第26話 穏やかな日々と、新しいお弁当
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王都からの使節団が去った後、アシュフォードの城には、嘘のような平穏が戻ってきた。
あれだけ張り詰めていた空気はすっかりと消え、騎士たちの訓練の声も、どこか明るい響きを取り戻している。
そして、私とヴィンセント様の間にも、新しい関係が芽生え始めていた。
彼は相変わらず口数が少なく、表情もあまり変わらない。けれど、私を見るその眼差しには、確かな優しさと、そして時折、熱っぽい何かが宿るようになった。
二人きりの朝食は、すっかり私たちの習慣になっていた。
厨房の小さなテーブルで他愛もない話をしながら食事をする。時には、彼が領地のことで悩んでいることをぽつりとこぼし、私が「これを食べて、元気を出してください」と特別な一品を出すこともあった。
それは、まるで夫婦のような穏やかで満ち足りた時間だった。
そんなある日のこと。
朝食の後、私がフェンリルへのご飯を持って森へ向かおうとすると、ヴィンセント様が「俺も行こう」とついてきた。
森の入り口で、フェンリルはいつものように巨大な尻尾を振って私を迎えてくれたが、私の隣にヴィンセント様がいることに気づくと、少しだけ警戒するように動きを止めた。
「グルル……」
どうやら、私を取られると思って、やきもちを焼いているらしい。
「大丈夫よ、フェンリル。ヴィンセント様は、私の大切な人ですから」
私がそう言って優しく頭を撫でると、フェンリルは納得したように、ふん、と一つ鼻を鳴らした。そして、ヴィンセント様の方をじっと見つめ、威厳のある黄金色の瞳で圧力をかける。
その様子がおかしくて、私とヴィンセント様は、思わず顔を見合わせて笑ってしまった。
城に戻る道すがら、ヴィンセント様がふと、足を止めた。
視線の先は、城の裏手にある、小さな菜園だった。そこでは城で働くメイドや下働きの子供たちが、土いじりをしながらささやかな野菜を育てている。
「……あそこの収穫が、あまり良くないと聞く」
彼の呟きに、私は菜園に目を向けた。
確かに、野菜の育ちはあまり良くなく、子供たちの表情も少し元気がないように見える。
「ヴィンセント様、少しよろしいでしょうか」
私は彼の許可を得ると、菜園で作業をしていた人々に声をかけ、土の状態や日当たりについて、いくつか質問をした。
前世で、祖母の家庭菜園を手伝っていた記憶が、こんなところで役に立つなんて。
そして、私は一つの提案をした。
「皆さん、もしよかったら、明日のお昼、私にお弁当を作らせてもらえませんか? みんなで、この菜園でピクニックをするんです」
私の突然の申し出に、皆きょとんとしていた。けれど、私の隣に立つヴィンセント様が穏やかに頷くのを見て、やがてその顔に、ぱあっと明るい笑顔が広がった。
公爵様のためでもなく、聖獣のためでも、騎士団のためでもない。
この城で働く、名もなき人々のための、新しいお弁当。
そのことを考えると、私の心は、また新しい喜びで満たされていくのを感じていた。
あれだけ張り詰めていた空気はすっかりと消え、騎士たちの訓練の声も、どこか明るい響きを取り戻している。
そして、私とヴィンセント様の間にも、新しい関係が芽生え始めていた。
彼は相変わらず口数が少なく、表情もあまり変わらない。けれど、私を見るその眼差しには、確かな優しさと、そして時折、熱っぽい何かが宿るようになった。
二人きりの朝食は、すっかり私たちの習慣になっていた。
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それは、まるで夫婦のような穏やかで満ち足りた時間だった。
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朝食の後、私がフェンリルへのご飯を持って森へ向かおうとすると、ヴィンセント様が「俺も行こう」とついてきた。
森の入り口で、フェンリルはいつものように巨大な尻尾を振って私を迎えてくれたが、私の隣にヴィンセント様がいることに気づくと、少しだけ警戒するように動きを止めた。
「グルル……」
どうやら、私を取られると思って、やきもちを焼いているらしい。
「大丈夫よ、フェンリル。ヴィンセント様は、私の大切な人ですから」
私がそう言って優しく頭を撫でると、フェンリルは納得したように、ふん、と一つ鼻を鳴らした。そして、ヴィンセント様の方をじっと見つめ、威厳のある黄金色の瞳で圧力をかける。
その様子がおかしくて、私とヴィンセント様は、思わず顔を見合わせて笑ってしまった。
城に戻る道すがら、ヴィンセント様がふと、足を止めた。
視線の先は、城の裏手にある、小さな菜園だった。そこでは城で働くメイドや下働きの子供たちが、土いじりをしながらささやかな野菜を育てている。
「……あそこの収穫が、あまり良くないと聞く」
彼の呟きに、私は菜園に目を向けた。
確かに、野菜の育ちはあまり良くなく、子供たちの表情も少し元気がないように見える。
「ヴィンセント様、少しよろしいでしょうか」
私は彼の許可を得ると、菜園で作業をしていた人々に声をかけ、土の状態や日当たりについて、いくつか質問をした。
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そして、私は一つの提案をした。
「皆さん、もしよかったら、明日のお昼、私にお弁当を作らせてもらえませんか? みんなで、この菜園でピクニックをするんです」
私の突然の申し出に、皆きょとんとしていた。けれど、私の隣に立つヴィンセント様が穏やかに頷くのを見て、やがてその顔に、ぱあっと明るい笑顔が広がった。
公爵様のためでもなく、聖獣のためでも、騎士団のためでもない。
この城で働く、名もなき人々のための、新しいお弁当。
そのことを考えると、私の心は、また新しい喜びで満たされていくのを感じていた。
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