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6話 最悪の提案
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公開処刑事件から数日。
俺の学園内での立場は、著しく変化していた。
すれ違う生徒たちは、俺を見てヒソヒソと囁き合う。
「見て、あの人よ。聖女様に『あーん』されてたっていう……」
「一体どういう関係なのかしら。ペット……?」
「いや、実は聖女様が平民時代に産んだ隠し子とか……」
噂は尾ひれどころか、翼とジェットエンジンまでつけて学園中を飛び回っていた。
ジュリアス様は遠巻きに「フン、面白い観察対象だ」とニヤニヤしているし、エマさんに至っては「あ、アランくん……その、大変だね……」と、どう接していいか分からない様子で、若干距離を置かれている。
俺の『ヒューマン・シールド作戦』は、俺を孤立させ、人間不信に陥らせるという、最悪の副作用をもたらしたのだ。
「……もう、これしかない」
小手先の作戦は、すべて裏目に出た。
残された道は一つ。逃げるのでも、守るのでもなく、問題の根源に直接、交渉を挑む。
一人の男として、あのヤバすぎる聖女様と真正面から向き合うのだ。
放課後、俺は王都の大教会へと向かった。
そして、受付でこう告げたのだ。
「人生相談をお願いします。担当はリリシア様で」
◇
「まあ、アランくん。あなたから会いに来てくれるなんて、嬉しいわ」
懺悔室を改造したかのような小さな個室。
向かい合ったリリシア様は、心底嬉しそうに微笑んでいる。
だが、今日の俺は屈しない。
俺はテーブルに両手をつき、頭を下げた。
「リリシア様、単刀直入にお願いします。もう……俺に関わるのをやめていただけないでしょうか!」
言った。ついに言ってやったぞ。
リリシア様の表情が一瞬だけ固まった。
「俺、普通の学園生活が送りたいんです。友達を作って、勉強して、たまには馬鹿なことをして笑い合って……。でも、今のままじゃ、それも全部できません。噂のせいで、誰も俺に近づこうとしないんです!」
俺は必死に訴える。情に訴えかけるのだ。
しかし、リリシア様は小首を傾げた。その表情には、一切の罪悪感も、理解も浮かんでいなかった。
「やめる? 何をですの、アランくん?」
「え……」
「私はただ愛するあなたに、私のありったけの愛情を注いでいるだけですわ。何か問題でも?」
ダメだ。話が通じない。
この人の中では、ストーキングも友人関係の破壊も公開処刑も、全てが「愛情表現」というカテゴリに分類されているのだ。
「問題だらけです! 俺は、あなたの愛情という名の迷惑行為で窒息寸前なんです!」
「まあ、私の愛で窒息できるなんて、幸せな方ね」
「幸せじゃねえ!」
思わず素のツッコミが飛び出してしまった。
「アランくん。あなたはまだお若いから、分からないのね」
リリシア様は諭すように慈愛に満ちた瞳で俺を見つめる。
「本当の愛の前では、友人などという不確かな繋がりは、無意味なのです。嫉妬や裏切りを運んでくるだけの、取るに足らない関係ですわ。あなたには、私だけいればいい。私が、あなたの友人であり、家族であり、恋人であり……あなたの世界の全てになってさしあげます」
怖い。
言ってることは滅茶苦茶なのに、その声と表情だけは、どこまでも神聖で説得力に満ちている。
俺は自分の常識がぐらぐらと揺さぶられるのを感じた。
「そ、そんなの、間違ってます……!」
「いいえ、間違っておりませんわ。あなたが苦しんでいるのは、学園という不純な環境が私たちの純粋な愛の邪魔をするから……」
リリシア様は何かを閃いたように、ぱっと顔を輝かせた。
そして、俺の人生を根底から覆す、最悪の提案を口にしたのだ。
「――わかりましたわ、アランくん。あなたがそこまで苦しんでいるのなら……」
「もう、学園など辞めてしまいましょう」
「…………はい?」
俺の思考が完全に停止した。
リリシア様は、うっとりとした表情で夢見るように続ける。
「そして、教会の私の私室で、二人きりで暮らすのです。私が、あなたの家庭教師になって、勉強は全て教えてさしあげます。食事も、お風呂も、そして、眠る時も……朝から晩まで、ずぅっと、ずぅぅぅっと、一緒ですわ」
その提案は、あまりにも甘美で完璧な地獄への招待状だった。
俺が求めたのは「日常からの解放」だったはずが、提示されたのは「完全なる監禁生活」。
交渉は決裂した。いや、そもそも交渉にすらなっていなかった。
俺の最後の作戦は、これまでのどれよりも盛大に、そして致命的に裏目に出たのだ。
「違う、そうじゃないぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
俺の悲痛な心の叫びは、聖女様の恍惚とした微笑みの前であまりにも無力だった。
俺の学園内での立場は、著しく変化していた。
すれ違う生徒たちは、俺を見てヒソヒソと囁き合う。
「見て、あの人よ。聖女様に『あーん』されてたっていう……」
「一体どういう関係なのかしら。ペット……?」
「いや、実は聖女様が平民時代に産んだ隠し子とか……」
噂は尾ひれどころか、翼とジェットエンジンまでつけて学園中を飛び回っていた。
ジュリアス様は遠巻きに「フン、面白い観察対象だ」とニヤニヤしているし、エマさんに至っては「あ、アランくん……その、大変だね……」と、どう接していいか分からない様子で、若干距離を置かれている。
俺の『ヒューマン・シールド作戦』は、俺を孤立させ、人間不信に陥らせるという、最悪の副作用をもたらしたのだ。
「……もう、これしかない」
小手先の作戦は、すべて裏目に出た。
残された道は一つ。逃げるのでも、守るのでもなく、問題の根源に直接、交渉を挑む。
一人の男として、あのヤバすぎる聖女様と真正面から向き合うのだ。
放課後、俺は王都の大教会へと向かった。
そして、受付でこう告げたのだ。
「人生相談をお願いします。担当はリリシア様で」
◇
「まあ、アランくん。あなたから会いに来てくれるなんて、嬉しいわ」
懺悔室を改造したかのような小さな個室。
向かい合ったリリシア様は、心底嬉しそうに微笑んでいる。
だが、今日の俺は屈しない。
俺はテーブルに両手をつき、頭を下げた。
「リリシア様、単刀直入にお願いします。もう……俺に関わるのをやめていただけないでしょうか!」
言った。ついに言ってやったぞ。
リリシア様の表情が一瞬だけ固まった。
「俺、普通の学園生活が送りたいんです。友達を作って、勉強して、たまには馬鹿なことをして笑い合って……。でも、今のままじゃ、それも全部できません。噂のせいで、誰も俺に近づこうとしないんです!」
俺は必死に訴える。情に訴えかけるのだ。
しかし、リリシア様は小首を傾げた。その表情には、一切の罪悪感も、理解も浮かんでいなかった。
「やめる? 何をですの、アランくん?」
「え……」
「私はただ愛するあなたに、私のありったけの愛情を注いでいるだけですわ。何か問題でも?」
ダメだ。話が通じない。
この人の中では、ストーキングも友人関係の破壊も公開処刑も、全てが「愛情表現」というカテゴリに分類されているのだ。
「問題だらけです! 俺は、あなたの愛情という名の迷惑行為で窒息寸前なんです!」
「まあ、私の愛で窒息できるなんて、幸せな方ね」
「幸せじゃねえ!」
思わず素のツッコミが飛び出してしまった。
「アランくん。あなたはまだお若いから、分からないのね」
リリシア様は諭すように慈愛に満ちた瞳で俺を見つめる。
「本当の愛の前では、友人などという不確かな繋がりは、無意味なのです。嫉妬や裏切りを運んでくるだけの、取るに足らない関係ですわ。あなたには、私だけいればいい。私が、あなたの友人であり、家族であり、恋人であり……あなたの世界の全てになってさしあげます」
怖い。
言ってることは滅茶苦茶なのに、その声と表情だけは、どこまでも神聖で説得力に満ちている。
俺は自分の常識がぐらぐらと揺さぶられるのを感じた。
「そ、そんなの、間違ってます……!」
「いいえ、間違っておりませんわ。あなたが苦しんでいるのは、学園という不純な環境が私たちの純粋な愛の邪魔をするから……」
リリシア様は何かを閃いたように、ぱっと顔を輝かせた。
そして、俺の人生を根底から覆す、最悪の提案を口にしたのだ。
「――わかりましたわ、アランくん。あなたがそこまで苦しんでいるのなら……」
「もう、学園など辞めてしまいましょう」
「…………はい?」
俺の思考が完全に停止した。
リリシア様は、うっとりとした表情で夢見るように続ける。
「そして、教会の私の私室で、二人きりで暮らすのです。私が、あなたの家庭教師になって、勉強は全て教えてさしあげます。食事も、お風呂も、そして、眠る時も……朝から晩まで、ずぅっと、ずぅぅぅっと、一緒ですわ」
その提案は、あまりにも甘美で完璧な地獄への招待状だった。
俺が求めたのは「日常からの解放」だったはずが、提示されたのは「完全なる監禁生活」。
交渉は決裂した。いや、そもそも交渉にすらなっていなかった。
俺の最後の作戦は、これまでのどれよりも盛大に、そして致命的に裏目に出たのだ。
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