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5話 第二次撃退作戦
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作戦は失敗に終わった。
いや、失敗というより自爆に近い。
俺の『作戦コード:シャドウ』は、リリシア様の監視体制をより強固なものにしてしまった。
「くそっ……どうすれば……」
寮の自室で、俺は頭を抱えていた。
逃げられない。隠れられない。あの聖女様は、神出鬼没という言葉を具現化した存在だ。
ならば、発想を転換するしかない。
一人でダメなら、仲間を増やせばいい。
そうだ。要は、リリシア様が俺にまとわりつく「二人きりの状況」を作らなければいいのだ。
常に誰かと一緒にいれば、聖女様といえども、あのヤバい言動は控えざるを得ないはずだ。
名付けて、『作戦コード:|ヒューマン・シールド|《人間の盾》』!
我ながら、友人を盾扱いするとは最低なネーミングだが、背に腹は代えられない。
ターゲットは、もちろんジュリアス様とエマさんだ。
一度は聖なる牽制によって撃退された二人だが根は良い人たちのはず。俺はわらにもすがる思いで、翌日、二人に接触を試みた。
「――というわけで、その……先日は、本当に申し訳ありませんでした!」
まずは、中庭で花壇の世話をしていたエマさんに頭を下げた。
「えっ、アランくん? どうしたの急に」
「リリシア様は、その……昔から俺の面倒を見てくれてて、ちょっと過保護なだけなんです! 決してエマさんに悪意があったわけでは……!」
俺の必死の形相にエマさんはきょとんとした後、ぷっと吹き出した。
「なーんだ、そんなこと! 気にしてないよ! 聖女様にあれだけ心配されるなんて、アランくんって実はすごい人なんじゃないの?って思ってたくらいだし!」
「そ、そうでしょうか……」
「そうだよ! だから、気にしないで! これからも普通に話しかけてよね!」
女神……! ここに本物の女神がいた!
俺はエマさんの優しさに涙しそうになりながら、次のターゲット、ジュリアス様がよく利用している図書室の閲覧室へと向かった。
「ジュリアス様。先日は大変失礼いたしました」
「……ああ、君か。一体何の用かな」
優雅に本を読んでいたジュリ様は、ちらりと俺に視線をよこす。
俺はエマさんにしたのと同じように、必死で弁解した。リリシア様はただの過保護なだけであり、高貴なジュリアス様に迷惑をかけたことを心から詫びている、と。
すると、ジュリアス様は読んでいた本をパタンと閉じ、面白そうに口の端を上げた。
「フン。聖女殿の過剰なご寵愛、か。実に興味深い。よかろう、ウォルトンくん。君という男を、この僕が少し観察してやることにしよう。これも、次期公爵たる僕の務めだからね」
なんか上から目線だが、許す。
こうして俺は、二人の強力な「盾」を確保することに成功したのだ。
◇
そして、運命の昼休み。
俺は学食のテーブルで、ジュリアス様とエマさんと共にいた。右に王子、左に快活美少女。
どう見てもリア充の食卓である。
「ははは、それでその魔法薬学の先生が……」
「もう、ジュリ様ったら、先生の話はダメですよー!」
――完璧だ。
この布陣なら、リリシア様も簡単には近づけまい。
俺が勝利を確信した、その時だった。
「あら、皆様。とても楽しそうですわね」
背後から涼やかな声がした。
リリシア様が、あの三段重箱を手に完璧な笑みで立っていた。
しかし、今日の俺は違う。俺には盾がいる。
「リリシア先生! こんにちは!」
エマが元気に挨拶する。
ジュリアス様も軽く会釈した。
リリシア様は、俺の隣に当然のように椅子を持ってきて座った。ここまでは想定内だ。
だが、彼女の次の行動は、俺の浅はかな想定を遥かに超えていた。
「皆様、アランくんと仲良くしてくださって、本当にありがとう。この子、昔から少し人見知りなところがありまして……」
リリシア様は、ジュリアス様とエマさんににこやかに話しかける。
あれ? 今日は攻撃してこないぞ?
もしかして作戦成功か……?
そう思った俺が甘かった。
リリシア様は次の瞬間、俺の方に向き直り、重箱を開けた。
「さあ、アランくん、あーん。皆様の前で恥ずかしいかしら? でも、私たちの仲ですものね。遠慮することなんてないわ」
「ぶっ!?」
俺は吹き出しそうになった。
な、なにを……何を言ってるんだこの人は!?
ジュリアス様とエマさんの動きがピタリと固まる。
「そ、そんなこと、できませんよ!」
「まあ、照れてしまって。可愛らしい。そういえば、アランくんが小さい頃は、よく私のお膝の上でこうやってご飯を食べていたわよね。懐かしいわ」
「いつの話ですか!? というかそんな事実はありません!」
「アランくんは、昔から甘えん坊で、夜中に一人でトイレに行けないと、よく私の部屋のドアを叩いて……」
「やめろぉぉぉぉぉ!!!」
俺はついに叫んだ。
ジュリアス様は紅茶を飲んだまま硬直し、エマさんは口に含んだパンを落としそうになっている。二人の顔には「え、何この状況……?」と、戸惑いとドン引きがありありと浮かんでいた。
そうだ、リリシア様は作戦を変えてきたのだ。
盾を攻撃するのではなく、盾に守られている俺自身を内側から破壊しにきたんだ。
友人たちの目の前で俺との異常な親密さをアピールすることで、この場の空気を凍りつかせ、俺を社会的に抹殺する作戦……。
公開処刑だ。
これは、まごうことなき公開処刑だ。
俺の『ヒューマン・シールド作戦』は、俺をプライバシーの欠片もない晒し者にするという、最悪の結末を迎えた。
「この作戦もダメだぁぁぁ! むしろ悪化してる!」
友人たちの生暖かい視線に耐えながら、俺は心の中で泣き叫んだ。
聖女様、恐るべし。
いや、失敗というより自爆に近い。
俺の『作戦コード:シャドウ』は、リリシア様の監視体制をより強固なものにしてしまった。
「くそっ……どうすれば……」
寮の自室で、俺は頭を抱えていた。
逃げられない。隠れられない。あの聖女様は、神出鬼没という言葉を具現化した存在だ。
ならば、発想を転換するしかない。
一人でダメなら、仲間を増やせばいい。
そうだ。要は、リリシア様が俺にまとわりつく「二人きりの状況」を作らなければいいのだ。
常に誰かと一緒にいれば、聖女様といえども、あのヤバい言動は控えざるを得ないはずだ。
名付けて、『作戦コード:|ヒューマン・シールド|《人間の盾》』!
我ながら、友人を盾扱いするとは最低なネーミングだが、背に腹は代えられない。
ターゲットは、もちろんジュリアス様とエマさんだ。
一度は聖なる牽制によって撃退された二人だが根は良い人たちのはず。俺はわらにもすがる思いで、翌日、二人に接触を試みた。
「――というわけで、その……先日は、本当に申し訳ありませんでした!」
まずは、中庭で花壇の世話をしていたエマさんに頭を下げた。
「えっ、アランくん? どうしたの急に」
「リリシア様は、その……昔から俺の面倒を見てくれてて、ちょっと過保護なだけなんです! 決してエマさんに悪意があったわけでは……!」
俺の必死の形相にエマさんはきょとんとした後、ぷっと吹き出した。
「なーんだ、そんなこと! 気にしてないよ! 聖女様にあれだけ心配されるなんて、アランくんって実はすごい人なんじゃないの?って思ってたくらいだし!」
「そ、そうでしょうか……」
「そうだよ! だから、気にしないで! これからも普通に話しかけてよね!」
女神……! ここに本物の女神がいた!
俺はエマさんの優しさに涙しそうになりながら、次のターゲット、ジュリアス様がよく利用している図書室の閲覧室へと向かった。
「ジュリアス様。先日は大変失礼いたしました」
「……ああ、君か。一体何の用かな」
優雅に本を読んでいたジュリ様は、ちらりと俺に視線をよこす。
俺はエマさんにしたのと同じように、必死で弁解した。リリシア様はただの過保護なだけであり、高貴なジュリアス様に迷惑をかけたことを心から詫びている、と。
すると、ジュリアス様は読んでいた本をパタンと閉じ、面白そうに口の端を上げた。
「フン。聖女殿の過剰なご寵愛、か。実に興味深い。よかろう、ウォルトンくん。君という男を、この僕が少し観察してやることにしよう。これも、次期公爵たる僕の務めだからね」
なんか上から目線だが、許す。
こうして俺は、二人の強力な「盾」を確保することに成功したのだ。
◇
そして、運命の昼休み。
俺は学食のテーブルで、ジュリアス様とエマさんと共にいた。右に王子、左に快活美少女。
どう見てもリア充の食卓である。
「ははは、それでその魔法薬学の先生が……」
「もう、ジュリ様ったら、先生の話はダメですよー!」
――完璧だ。
この布陣なら、リリシア様も簡単には近づけまい。
俺が勝利を確信した、その時だった。
「あら、皆様。とても楽しそうですわね」
背後から涼やかな声がした。
リリシア様が、あの三段重箱を手に完璧な笑みで立っていた。
しかし、今日の俺は違う。俺には盾がいる。
「リリシア先生! こんにちは!」
エマが元気に挨拶する。
ジュリアス様も軽く会釈した。
リリシア様は、俺の隣に当然のように椅子を持ってきて座った。ここまでは想定内だ。
だが、彼女の次の行動は、俺の浅はかな想定を遥かに超えていた。
「皆様、アランくんと仲良くしてくださって、本当にありがとう。この子、昔から少し人見知りなところがありまして……」
リリシア様は、ジュリアス様とエマさんににこやかに話しかける。
あれ? 今日は攻撃してこないぞ?
もしかして作戦成功か……?
そう思った俺が甘かった。
リリシア様は次の瞬間、俺の方に向き直り、重箱を開けた。
「さあ、アランくん、あーん。皆様の前で恥ずかしいかしら? でも、私たちの仲ですものね。遠慮することなんてないわ」
「ぶっ!?」
俺は吹き出しそうになった。
な、なにを……何を言ってるんだこの人は!?
ジュリアス様とエマさんの動きがピタリと固まる。
「そ、そんなこと、できませんよ!」
「まあ、照れてしまって。可愛らしい。そういえば、アランくんが小さい頃は、よく私のお膝の上でこうやってご飯を食べていたわよね。懐かしいわ」
「いつの話ですか!? というかそんな事実はありません!」
「アランくんは、昔から甘えん坊で、夜中に一人でトイレに行けないと、よく私の部屋のドアを叩いて……」
「やめろぉぉぉぉぉ!!!」
俺はついに叫んだ。
ジュリアス様は紅茶を飲んだまま硬直し、エマさんは口に含んだパンを落としそうになっている。二人の顔には「え、何この状況……?」と、戸惑いとドン引きがありありと浮かんでいた。
そうだ、リリシア様は作戦を変えてきたのだ。
盾を攻撃するのではなく、盾に守られている俺自身を内側から破壊しにきたんだ。
友人たちの目の前で俺との異常な親密さをアピールすることで、この場の空気を凍りつかせ、俺を社会的に抹殺する作戦……。
公開処刑だ。
これは、まごうことなき公開処刑だ。
俺の『ヒューマン・シールド作戦』は、俺をプライバシーの欠片もない晒し者にするという、最悪の結末を迎えた。
「この作戦もダメだぁぁぁ! むしろ悪化してる!」
友人たちの生暖かい視線に耐えながら、俺は心の中で泣き叫んだ。
聖女様、恐るべし。
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