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第31話 陸がダメなら、海があるじゃない
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「さて、商品はできました」
ヴィンターヴァルト城の作戦会議室。
私は積み上げられた高級缶詰の山を背に、クラウス様と幹部たちに向き直った。
「問題は、これをどうやって『金貨』に変えるか、です」
シン、と会議室が静まり返る。
この場にいる全員が、それが一番の難問だと分かっていたからだ。
「……現状は、厳しい」
クラウス様が重々しく口を開いた。
「王都は、ノースガルドに通じる全ての街道を封鎖した。関所を通る商人は、北へ向かうことを禁じられている。陸路は完全に死んだ」
「つまり、我々は『宝の山』を抱えたまま、干し上がるのを待つしかないと……そういうことでございますか」
セバスチャンが悔しそうに呟く。
王都の狙いは、まさにそれだ。北にどれだけ良い物があろうと、流通を止めれば価値はゼロになる。経済的に孤立させ、内部から崩壊させるのが狙いだ。
「普通なら、そうでしょうね」
私が言うと、全員の視線が私に集まった。
「エリーナ。何か策が?」
「策というほど大袈裟なものではありません。……皆様、北の地図を思い出してください。陸がダメなら、何を使いますか?」
私は窓の外、街の向こうに広がる鉛色の海を指差した。
「……海、か」
クラウス様が目を見開く。
「そうだ! ノースガルドには港があるぞ!」
「陸路がダメでも、海路で他国に直接売ればいいのか!」
騎士たちが色めき立つ。
しかし、セバスチャンがその興奮を冷ますように静かに首を振った。
「エリーナ様の慧眼、恐れ入ります。ですが、それもまた難しい相談でございます」
「どうしてですか?」
「北の海は『呪われた海』と呼ばれております。一つは、天候が荒れやすく、巨大な海の魔物が頻繁に出没すること。もう一つは――」
彼は言葉を切った。
「『海賊』の存在です。王家の支配が及ばぬ海を根城にする、ならず者ども。彼らが交易船を襲うため、まともな商船はもう何十年もこの港に立ち寄っておりません」
「魔物と海賊……。陸も海も、厄介事が山積みですね」
私はため息をついた。
だが、落ち込んではいない。むしろ、やるべきことが明確になって燃えてきた。
「クラウス様。その二つの問題、私に解決させていただけませんか?」
「エリーナ?」
「海の魔物が出るなら、それを討伐……いえ、美味しく調理して『海鮮缶詰』にしてしまいましょう。港が綺麗になれば、船も寄ってきやすくなります」
「ま、魔物を調理……? 海の魔物は瘴気が強くて食えんぞ!?」
「私の専門分野です」
私はニッコリと笑った。
瘴気=汚れを落とすのはお手の物だ。
「問題は海賊ですね……。でも、彼らだって『商人』の側面があるはずです。利益になるなら、ケンカより取引を選ぶのでは?」
私は前世の知識を総動員して提案した。
「王都が閉鎖した今、私たちが『北の海の安全』を確保し、独自の交易ルートを開拓するんです。王都を通さず、他国と直接、この缶詰や魔法農園の野菜を取引する。……そうなれば、王都は北を『制裁』するどころか、私たちに『売ってください』と頭を下げることになりますよ」
「…………」
クラウス様は黙って私を見つめていたが、やがて、その口元に獰猛な笑みが浮かんだ。
「……気に入った。最高に痛快な反撃だ」
彼は立ち上がり、私の肩に手を置いた。その瞳には絶対的な信頼が宿っている。
「陸は俺の領分だ。だが、海は未知の世界だった。……エリーナ、お前と共に『海』も制圧するぞ。まずはその『呪われた港』とやらを視察しに行く。案内しろ、セバスチャン!」
「かしこまりました!」
王都の兵糧攻めは、期せずして北の国に「海洋進出」という新たな道を開かせるキッカケとなった。
私たちの反撃は、ここからが本番だ。
ヴィンターヴァルト城の作戦会議室。
私は積み上げられた高級缶詰の山を背に、クラウス様と幹部たちに向き直った。
「問題は、これをどうやって『金貨』に変えるか、です」
シン、と会議室が静まり返る。
この場にいる全員が、それが一番の難問だと分かっていたからだ。
「……現状は、厳しい」
クラウス様が重々しく口を開いた。
「王都は、ノースガルドに通じる全ての街道を封鎖した。関所を通る商人は、北へ向かうことを禁じられている。陸路は完全に死んだ」
「つまり、我々は『宝の山』を抱えたまま、干し上がるのを待つしかないと……そういうことでございますか」
セバスチャンが悔しそうに呟く。
王都の狙いは、まさにそれだ。北にどれだけ良い物があろうと、流通を止めれば価値はゼロになる。経済的に孤立させ、内部から崩壊させるのが狙いだ。
「普通なら、そうでしょうね」
私が言うと、全員の視線が私に集まった。
「エリーナ。何か策が?」
「策というほど大袈裟なものではありません。……皆様、北の地図を思い出してください。陸がダメなら、何を使いますか?」
私は窓の外、街の向こうに広がる鉛色の海を指差した。
「……海、か」
クラウス様が目を見開く。
「そうだ! ノースガルドには港があるぞ!」
「陸路がダメでも、海路で他国に直接売ればいいのか!」
騎士たちが色めき立つ。
しかし、セバスチャンがその興奮を冷ますように静かに首を振った。
「エリーナ様の慧眼、恐れ入ります。ですが、それもまた難しい相談でございます」
「どうしてですか?」
「北の海は『呪われた海』と呼ばれております。一つは、天候が荒れやすく、巨大な海の魔物が頻繁に出没すること。もう一つは――」
彼は言葉を切った。
「『海賊』の存在です。王家の支配が及ばぬ海を根城にする、ならず者ども。彼らが交易船を襲うため、まともな商船はもう何十年もこの港に立ち寄っておりません」
「魔物と海賊……。陸も海も、厄介事が山積みですね」
私はため息をついた。
だが、落ち込んではいない。むしろ、やるべきことが明確になって燃えてきた。
「クラウス様。その二つの問題、私に解決させていただけませんか?」
「エリーナ?」
「海の魔物が出るなら、それを討伐……いえ、美味しく調理して『海鮮缶詰』にしてしまいましょう。港が綺麗になれば、船も寄ってきやすくなります」
「ま、魔物を調理……? 海の魔物は瘴気が強くて食えんぞ!?」
「私の専門分野です」
私はニッコリと笑った。
瘴気=汚れを落とすのはお手の物だ。
「問題は海賊ですね……。でも、彼らだって『商人』の側面があるはずです。利益になるなら、ケンカより取引を選ぶのでは?」
私は前世の知識を総動員して提案した。
「王都が閉鎖した今、私たちが『北の海の安全』を確保し、独自の交易ルートを開拓するんです。王都を通さず、他国と直接、この缶詰や魔法農園の野菜を取引する。……そうなれば、王都は北を『制裁』するどころか、私たちに『売ってください』と頭を下げることになりますよ」
「…………」
クラウス様は黙って私を見つめていたが、やがて、その口元に獰猛な笑みが浮かんだ。
「……気に入った。最高に痛快な反撃だ」
彼は立ち上がり、私の肩に手を置いた。その瞳には絶対的な信頼が宿っている。
「陸は俺の領分だ。だが、海は未知の世界だった。……エリーナ、お前と共に『海』も制圧するぞ。まずはその『呪われた港』とやらを視察しに行く。案内しろ、セバスチャン!」
「かしこまりました!」
王都の兵糧攻めは、期せずして北の国に「海洋進出」という新たな道を開かせるキッカケとなった。
私たちの反撃は、ここからが本番だ。
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