偽聖女と追放された私は、辺境で定食屋をはじめます~こっそり生活魔法で味付けしていたら、氷の騎士団長様が毎日通ってくるんですけど!?~

咲月ねむと

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第34話 波止場の修理

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​「さて、と……。大物は片付きましたけど、これじゃ船を呼べませんね」

​ 私は気絶して浮いている巨大クラーケンとエメラルドブルーに輝く海を見渡した。海は綺麗になった。だが、肝心の港がボロボロだ。
 波止場は崩れ、倉庫は半壊。これでは荷物の積み下ろしができない。

​「セバスチャン、修復にはどれくらいかかる?」

​ クラウス様が眉間にシワを寄せる。

​「……最短でも石工を動員して半年はかかりましょう。冬が来る前には終わりませんな」

​「半年……。そんなに待てません!」

​ 私は二人の前に進み出た。

​「こういうのは、土木工事じゃありません。『お片付け』の延長です!」

​「え?」 

​ 私は瓦礫の山に向かって両手をかざした。

「【一括修復オール・リペア】!」

​ガガガガガッ!

 海に沈んだ瓦礫がひとりでに浮き上がり、パズルのピースのように元の位置へとはまっていく。
 崩れた倉庫の壁が組み上がり、割れた窓ガラスが再生し、傾いていたクレーンが真っ直ぐに立ち上がる。

​「なっ……!?」

「波止場が……直っていくぞ……!」

​ 騎士たちが呆然とする中、ほんの数分で港は三十年前の活気ある姿を取り戻していた。

​「ふぅ、スッキリしました。これでいつ商船が来ても大丈夫ですね!」

​「……エリーナ。お前はもう、何でもありだな」

​ クラウス様が呆れたように笑った、その時だった。

​「閣下! 沖合に船影! ……三隻! 旗は……『黒髑髏くろどくろ』! 海賊です!」

​ 見張りの騎士が絶叫した。
 見ると、水平線の向こうから、黒い帆を掲げた三隻の大型帆船がこちらに向かってきていた。
 おそらく、先ほどの浄化魔法の巨大な光を見て異変を察知してやってきたのだろう。

​「チッ、嗅ぎつけやがったか!」

​ クラウス様が舌打ちし、騎士たちが臨戦態勢に入る。

​「エリーナは下がっていろ! 奴らは海のゴロツキだ。交渉の余地はない!」

​「待ってください、クラウス様!」

​ 私は戦おうとする彼の手を掴んだ。

​「交渉の余地がないなら、作ればいいんです!」

​「何を……!?」

​「彼ら海賊ですよね? 海の男たちですよね? きっと船の上でロクなご飯、食べてませんよ!」

​ 私は名案が浮かんだとばかりに指を立てた。

​「ガストンさん! 騎士の皆さん! あのイカ、急いで解体してください! 私、最高の『まかない』を作ります!」

​「は、はぁ!?」

​ 戸惑うガストンたちをよそに、私は修復したばかりの波止場に、臨時の厨房を設置した。

 生活魔法で魔道コンロを設置し、巨大な鉄板を出す。
 ガストンたちが引き揚げたばかりのクラーケンの足を手早くぶつ切りにしていく。

​「鉄板に火! ニンニクとバターを!」

​ジュワワワワワワッッッ!!!

​ 熱した鉄板にバターが溶け、刻んだニンニクの香りが爆発する。そこへ、ぶつ切りのイカを豪快に投入! 仕上げに醤油を回しかけた。

​「【香り増幅アロマ・ブースト】!!」

​ 私が魔法をかけると、暴力的なまでの「イカとニンニクバター醤油の香り」が海風に乗って沖合の海賊船へと拡散していった。

​ ***

​ 一方、海賊船『ブラック・スカル号』。

 船長の隻眼の男が望遠鏡を覗いていた。

​「……船長。あの呪われた港、光ってやがったし、なんか波止場が綺麗になってませんかね?」

​「ああ? 気のせいだろ。それより、あの騎士団が何を企んでやがるか……」

​ その時、ふわりと風向きが変わった。
 海賊たちの鼻腔を未知の香りがくすぐった。

​「……ひっく」

​ 船長が鼻を鳴らす。

​「……なんだ、この匂いは」

​ それは、彼らがここ数年嗅いだことのない極上の「メシ」の匂いだった。

​「……お、おい、船長。港の方から、すげぇ美味そうな匂いが……」

​「馬鹿野郎! あれは北の騎士団の罠だ! 幻術だ!」

​ そう怒鳴りながらも船長の喉がゴクリと鳴る。

​「……だが、もし」

「これが本物だとしたら……」

​「……全船、停船! ……様子を見る」

​ 海賊たちは、武器を構えるのも忘れ、ただひたすら陸から漂ってくる「飯テロ」の香りに腹を鳴らしながら立ち尽くすのだった。
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