36 / 45
第36話 王都、震撼す
しおりを挟む
あれから一ヶ月。
ノースガルドの港は、信じられないほどの活気を取り戻していた。
かつてはヘドロと魔物の巣窟だった湾はエメラルドブルーに輝き、修復された波止場には、あの『黒髑髏海賊団』改め『ヴィンターヴァルト公認輸送船団』の旗が誇らしげにはためいている。
彼らはまさに「海のプロ」だった。
私の【生活魔法】で浄化・修復された船は、王都の海軍の追跡すら振り切り、あっという間に南の大陸との交易路を確立してしまった。
そして今日。
海賊船団が南の大陸との初の交易を終え、港に帰ってきたのだ。
「姐御! ただいま戻ったぜ!」
波止場に飛び降りてきた船長のドレイクは、私を見るなり熊のように屈強な体で駆け寄ってきた。
その顔は興奮で真っ赤だ。
「ど、どうでしたか? 売れました?」
私が恐る恐る尋ねると、ドレイクはニカッと笑い背後の船を指差した。
「売れたどころじゃねえ! 『爆売れ』だ!」
船員たちが次々と運び出してくるのは、ズシリと重い麻袋の山。
中身はすべて南の大陸の金貨や宝石だ。
「南の貴族どもが、あの『魔獣缶詰』を見て目を剥きやがった! 『こんな美味いものは王都の宮殿でも食ったことがない』ってよ! 持っていった分、全部売り切れたぜ!」
ドレイクは麻袋の一つを逆さにし、金貨の雨をジャラジャラと降らせてみせた。
王都に頼らず、北の国は自力で莫大な外貨を獲得したのだ。
「す、すごい……」
「これだけじゃねえ!」
ドレイクが合図すると、船員たちが今度は慎重に木箱を運んできた。
「姐御の好みがわからなかったから、とりあえず『美味そうなもん』を全部買ってきたぜ!」
蓋が開けられると、私の目が輝いた。
「こ、これは……! 南国産の完熟トマト! オリーブオイル! それに、こんなに立派な香辛料まで!」
「食料を止められて困ってるってんなら、こっちから『高級食材』を輸入してやればいいんだろ?」
ドレイクは得意げに笑った。
「ドレイク船長……! 天才ですか!」
「へへん。姐御のメシのためなら、竜の巣からでも奪ってきてやるよ」
私とドレイクがハイタッチを交わしていると、様子を見に来ていたクラウス様が静かながらも興奮した声で私に告げた。
「……やったな、エリーナ。 王都の兵糧攻めは、これで完全に破綻した」
「はい! 反撃開始ですね!」
***
一方、その頃の王都。
国王の執務室では、アレクセイの失態を庇った宰相が北からの降伏の知らせを今か今かと待っていた。
「ふん。そろそろヴィンターヴァルド辺境伯から『食料を恵んでくれ』と泣きついてくる頃だろう」
「それが……妙なのです」
「なんだ?」
「北からの物資の流入は完全に止まっております。ですが、北の民が飢えているという報告が一切……。それどころか王都の貴族たちの間で南の大陸から輸入されたという『謎の高級缶詰』が大流行しておりまして……」
「……は?」
「南の大陸の商人たちが、こぞって『北の缶詰』なるものを買い漁っている、と。そのせいで、王都が南から仕入れるはずだった香辛料や果物の価格が高騰しております……!」
「馬鹿な! 北がなぜ南と取引できる! 海はどうした、海は!」
王都の為政者たちが知らないうちに北の国は彼らの手を離れ、独自の経済圏を確立し始めていた。彼らの「制裁」は、逆に自らの首を絞めるブーメランとなっていたのである。
ノースガルドの港は、信じられないほどの活気を取り戻していた。
かつてはヘドロと魔物の巣窟だった湾はエメラルドブルーに輝き、修復された波止場には、あの『黒髑髏海賊団』改め『ヴィンターヴァルト公認輸送船団』の旗が誇らしげにはためいている。
彼らはまさに「海のプロ」だった。
私の【生活魔法】で浄化・修復された船は、王都の海軍の追跡すら振り切り、あっという間に南の大陸との交易路を確立してしまった。
そして今日。
海賊船団が南の大陸との初の交易を終え、港に帰ってきたのだ。
「姐御! ただいま戻ったぜ!」
波止場に飛び降りてきた船長のドレイクは、私を見るなり熊のように屈強な体で駆け寄ってきた。
その顔は興奮で真っ赤だ。
「ど、どうでしたか? 売れました?」
私が恐る恐る尋ねると、ドレイクはニカッと笑い背後の船を指差した。
「売れたどころじゃねえ! 『爆売れ』だ!」
船員たちが次々と運び出してくるのは、ズシリと重い麻袋の山。
中身はすべて南の大陸の金貨や宝石だ。
「南の貴族どもが、あの『魔獣缶詰』を見て目を剥きやがった! 『こんな美味いものは王都の宮殿でも食ったことがない』ってよ! 持っていった分、全部売り切れたぜ!」
ドレイクは麻袋の一つを逆さにし、金貨の雨をジャラジャラと降らせてみせた。
王都に頼らず、北の国は自力で莫大な外貨を獲得したのだ。
「す、すごい……」
「これだけじゃねえ!」
ドレイクが合図すると、船員たちが今度は慎重に木箱を運んできた。
「姐御の好みがわからなかったから、とりあえず『美味そうなもん』を全部買ってきたぜ!」
蓋が開けられると、私の目が輝いた。
「こ、これは……! 南国産の完熟トマト! オリーブオイル! それに、こんなに立派な香辛料まで!」
「食料を止められて困ってるってんなら、こっちから『高級食材』を輸入してやればいいんだろ?」
ドレイクは得意げに笑った。
「ドレイク船長……! 天才ですか!」
「へへん。姐御のメシのためなら、竜の巣からでも奪ってきてやるよ」
私とドレイクがハイタッチを交わしていると、様子を見に来ていたクラウス様が静かながらも興奮した声で私に告げた。
「……やったな、エリーナ。 王都の兵糧攻めは、これで完全に破綻した」
「はい! 反撃開始ですね!」
***
一方、その頃の王都。
国王の執務室では、アレクセイの失態を庇った宰相が北からの降伏の知らせを今か今かと待っていた。
「ふん。そろそろヴィンターヴァルド辺境伯から『食料を恵んでくれ』と泣きついてくる頃だろう」
「それが……妙なのです」
「なんだ?」
「北からの物資の流入は完全に止まっております。ですが、北の民が飢えているという報告が一切……。それどころか王都の貴族たちの間で南の大陸から輸入されたという『謎の高級缶詰』が大流行しておりまして……」
「……は?」
「南の大陸の商人たちが、こぞって『北の缶詰』なるものを買い漁っている、と。そのせいで、王都が南から仕入れるはずだった香辛料や果物の価格が高騰しております……!」
「馬鹿な! 北がなぜ南と取引できる! 海はどうした、海は!」
王都の為政者たちが知らないうちに北の国は彼らの手を離れ、独自の経済圏を確立し始めていた。彼らの「制裁」は、逆に自らの首を絞めるブーメランとなっていたのである。
1,089
あなたにおすすめの小説
【完結】女嫌いの公爵様に嫁いだら前妻の幼子と家族になりました
香坂 凛音
恋愛
ここはステイプルドン王国。
エッジ男爵家は領民に寄り添う堅実で温かな一族であり、家族仲も良好でした。長女ジャネットは、貴族学園を優秀な成績で卒業し、妹や弟の面倒も見る、評判のよい令嬢です。
一方、アンドレアス・キーリー公爵は、深紅の髪と瞳を持つ美貌の騎士団長。
火属性の魔法を自在に操り、かつて四万の敵をひとりで蹴散らした伝説の英雄です。
しかし、女性に心を閉ざしており、一度は結婚したものの離婚した過去を持ちます。
そんな彼が、翌年に控える隣国マルケイヒー帝国の皇帝夫妻の公式訪問に備え、「形式だけでいいから再婚せよ」と王に命じられました。
選ばれたのは、令嬢ジャネット。ジャネットは初夜に冷たい言葉を突きつけられます。
「君を妻として愛するつもりはない」
「跡継ぎなら、すでにいる。……だから子供も必要ない」
これは、そんなお飾りの妻として迎えられたジャネットが、前妻の子を真心から愛し、公爵とも次第に心を通わせていく、波乱と愛の物語です。
前妻による陰湿な嫌がらせ、職人養成学校の設立、魔導圧縮バッグの開発など、ジャネットの有能さが光る場面も見どころ。
さらに、伝説の子竜の登場や、聖女を利用した愚王の陰謀など、ファンタジー要素も盛りだくさん。前向きな有能令嬢の恋の物語です。最後には心あたたまるハッピーエンドが待っています。
※こちらの作品は、カクヨム・小説家になろうでは「青空一夏」名義で投稿しております。
アルファポリスでは作風を分けるため、別アカウントを使用しています。
本作は「ほのぼの中心+きつすぎないざまぁ」で構成されています。
スカッとする場面だけでなく、読み終わったあとに幸福感が残る物語です。
ちょっぴり痛快、でも優しい読後感を大切にしています。
※カクヨム恋愛ランキング11位(6/24時点)
全54話、完結保証つき。
毎日4話更新:朝7:00/昼12:00/夕17:00/夜20:00→3回更新に変えました。
どうぞ、最後までお付き合いくださいませ。
転生幼女は追放先で総愛され生活を満喫中。前世で私を虐げていた姉が異世界から召喚されたので、聖女見習いは不要のようです。
桜城恋詠
ファンタジー
聖女見習いのロルティ(6)は、五月雨瑠衣としての前世の記憶を思い出す。
異世界から召喚された聖女が、自身を虐げてきた前世の姉だと気づいたからだ。
彼女は神官に聖女は2人もいらないと教会から追放。
迷いの森に捨てられるが――そこで重傷のアンゴラウサギと生き別れた実父に出会う。
「絶対、誰にも渡さない」
「君を深く愛している」
「あなたは私の、最愛の娘よ」
公爵家の娘になった幼子は腹違いの兄と血の繋がった父と母、2匹のもふもふにたくさんの愛を注がれて暮らす。
そんな中、養父や前世の姉から命を奪われそうになって……?
命乞いをしたって、もう遅い。
あなたたちは絶対に、許さないんだから!
☆ ☆ ☆
★ベリーズカフェ(別タイトル)・小説家になろう(同タイトル)掲載した作品を加筆修正したものになります。
こちらはトゥルーエンドとなり、内容が異なります。
※9/28 誤字修正
前世の記憶を取り戻した元クズ令嬢は毎日が楽しくてたまりません
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のソフィーナは、非常に我が儘で傲慢で、どしうようもないクズ令嬢だった。そんなソフィーナだったが、事故の影響で前世の記憶をとり戻す。
前世では体が弱く、やりたい事も何もできずに短い生涯を終えた彼女は、過去の自分の行いを恥、真面目に生きるとともに前世でできなかったと事を目いっぱい楽しもうと、新たな人生を歩み始めた。
外を出て美味しい空気を吸う、綺麗な花々を見る、些細な事でも幸せを感じるソフィーナは、険悪だった兄との関係もあっという間に改善させた。
もちろん、本人にはそんな自覚はない。ただ、今までの行いを詫びただけだ。そう、なぜか彼女には、人を魅了させる力を持っていたのだ。
そんな中、この国の王太子でもあるファラオ殿下の15歳のお誕生日パーティに参加する事になったソフィーナは…
どうしようもないクズだった令嬢が、前世の記憶を取り戻し、次々と周りを虜にしながら本当の幸せを掴むまでのお話しです。
カクヨムでも同時連載してます。
よろしくお願いします。
「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い
腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。
お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。
当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。
彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……
タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~
空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」
氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。
「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」
ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。
成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる