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第1章 宿敵の家の当主を妻に貰うまで
第7話 乗り気なターニャ
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「息苦しい話し合いと食事、大変お疲れさまでした」
話し合いと昼食を終え、自室へと戻った俺は一緒に帰ってきたターニャにそう言われる。彼女はさっきの話し合いを受けて、不機嫌なようだった。
「でもちょっとだけ気が楽だったよ」
「あのアークゲート家の当主が縁談を申し込んでいるという事で、大旦那様達もノヴァ様を無視はできなくなりましたからね。まあ、あいつに関しては相変わらずノヴァ様を馬鹿にしていて、はらわたが煮えくり返りそうでしたが」
「あ、あはは……」
ターニャの言うあいつがゼロードの兄上を指していることは明白だったけど、指摘はしないことにした。今以上に不機嫌になりそうだからだ。
だから話題を変えようとしたものの、先手をターニャに打たれる。
「……ノヴァ様、大旦那様から縁談の話を聞いてからずっと考えているようですが」
「……分かるよね」
ここ数日、この屋敷でターニャと過ごしていたけど、彼女はシアに関する話は一切しなかった。意図的にその話題を避けてくれているのは、感じていた。
けどずっと悩み続けている俺を、見ていられなくなったんだろう。そんなターニャに甘えて、俺は心の内を吐露する。
「いきなり縁談って言われてもね……しかも相手は今やアークゲート家の当主、父上に聞いたけど、北どころかこの国でもっとも有力な貴族らしいよ……かたや同じ貴族とはいえ、俺はただの三男坊だ」
10年前のあの日は何も知らなかった。けれど10年という月日で、俺とシアの距離はだいぶ離れてしまったように感じる。そんな俺がシアの縁談を受け入れるのは、むしろ彼女のためにならないのではないか。そう考えてしまう。
「……ノヴァ様は、シアさんのことが今もお好きなのですよね?」
アークゲート家の当主ではなく、シアさん。俺の昔話を聞いてターニャが呼ぶようになった呼び方だ。彼女はじっと、俺を見ている。昔は揶揄っていたのに、今では真剣な表情を浮かべていた。
「え? そりゃあ……」
言葉に詰まるものの、答えはもう出ている。10年もの間、夢に見るまで想っていた少女だ。そして再会したときには、心が弾んだ。
けど口に出すのはどこか恥ずかしくて黙っていると、ターニャは大きくため息をついた。
「なら、他の事など些細なことです。身分がなんですか、家がなんですか。いいですかノヴァ様、恋愛の前にはそんなもの無意味です」
「お、おう……なんかすごい説得力あるな」
「身近で見てきましたからね」
知り合いに身分違いで結婚した人でもいるのだろうか。逆に紹介してもらいたい気持ちにもなる。
「ですのでノヴァ様は難しいことは考えるのを辞めて、再会したシアさんと一緒の時間を過ごすべきです。そして気持ちが大きくなったら縁談を考えればいいんですから」
「うん、それはシアにも言われたし、俺もそうするつもりだよ」
返答すると、ターニャはかっと目を見開いた。
「では、具体的に何をするかはお決まりで?」
「え? そうだなぁ、シアの予定を聞いてからになるけど、一緒にどこかに出かけるのはどうかな? サリアの街なら俺もある程度詳しいし、ノーザンプション出身のシアを案内できると思うんだ」
実家に居場所がなかった俺にとって、サリアの街はよく屋敷を抜け出して遊びに行っていた、いわば庭のようなものだ。そこをシアと一緒に歩くのも悪くないのではないかと思ったのだけど。
「…………」
ターニャは黙ってしまった。ひょっとして、あまり良くなかっただろうか。あるいはおすすめの場所があったりして。
「素晴らしいです!」
「うわ、びっくりした」
「これはつまり、デートですね!」
「そ、そうなる……のか?」
改めて言われると少し恥ずかしいが、ターニャの勢いは止まらなかった。
「それでしたら、シアさんには私の方から伝えてもよろしいですか? ノヴァ様がシアさんをデートに誘いたがっていると! おそらくシアさんのことですから、明日には一緒にサリアの街でデートができますよ!」
「あ、ああ……お願いするよ……」
あまりの迫力と熱量に、俺は気圧されながら返事をした。なぜか主人以上に燃えているターニャは「では早速!」と言って部屋から飛び出していってしまう。音を立てて閉まる扉を見て、急に元気になったな、と思ったりした。
一人になった部屋で、考える。
「難しいことは考えるのを辞めて、再会したシアさんと一緒の時間を過ごす、か」
ターニャの言葉は俺の胸にすっと入ってきた。彼女に話してよかったと思う。確かにそうだ。身分や家柄、今のシアも大事だけど、一番大事なのはシアの心だろう。そう納得する。
それに明日、もしシアと……その……デートが出来るなら楽しみだ。
そんな風に今日の事を思い返していると、あれ?と思った。
ターニャ、なんでシアの連絡先知っているんだ?
不思議に思ったものの、ローエンさん辺りが伝えたのだろうと考えて納得した。
話し合いと昼食を終え、自室へと戻った俺は一緒に帰ってきたターニャにそう言われる。彼女はさっきの話し合いを受けて、不機嫌なようだった。
「でもちょっとだけ気が楽だったよ」
「あのアークゲート家の当主が縁談を申し込んでいるという事で、大旦那様達もノヴァ様を無視はできなくなりましたからね。まあ、あいつに関しては相変わらずノヴァ様を馬鹿にしていて、はらわたが煮えくり返りそうでしたが」
「あ、あはは……」
ターニャの言うあいつがゼロードの兄上を指していることは明白だったけど、指摘はしないことにした。今以上に不機嫌になりそうだからだ。
だから話題を変えようとしたものの、先手をターニャに打たれる。
「……ノヴァ様、大旦那様から縁談の話を聞いてからずっと考えているようですが」
「……分かるよね」
ここ数日、この屋敷でターニャと過ごしていたけど、彼女はシアに関する話は一切しなかった。意図的にその話題を避けてくれているのは、感じていた。
けどずっと悩み続けている俺を、見ていられなくなったんだろう。そんなターニャに甘えて、俺は心の内を吐露する。
「いきなり縁談って言われてもね……しかも相手は今やアークゲート家の当主、父上に聞いたけど、北どころかこの国でもっとも有力な貴族らしいよ……かたや同じ貴族とはいえ、俺はただの三男坊だ」
10年前のあの日は何も知らなかった。けれど10年という月日で、俺とシアの距離はだいぶ離れてしまったように感じる。そんな俺がシアの縁談を受け入れるのは、むしろ彼女のためにならないのではないか。そう考えてしまう。
「……ノヴァ様は、シアさんのことが今もお好きなのですよね?」
アークゲート家の当主ではなく、シアさん。俺の昔話を聞いてターニャが呼ぶようになった呼び方だ。彼女はじっと、俺を見ている。昔は揶揄っていたのに、今では真剣な表情を浮かべていた。
「え? そりゃあ……」
言葉に詰まるものの、答えはもう出ている。10年もの間、夢に見るまで想っていた少女だ。そして再会したときには、心が弾んだ。
けど口に出すのはどこか恥ずかしくて黙っていると、ターニャは大きくため息をついた。
「なら、他の事など些細なことです。身分がなんですか、家がなんですか。いいですかノヴァ様、恋愛の前にはそんなもの無意味です」
「お、おう……なんかすごい説得力あるな」
「身近で見てきましたからね」
知り合いに身分違いで結婚した人でもいるのだろうか。逆に紹介してもらいたい気持ちにもなる。
「ですのでノヴァ様は難しいことは考えるのを辞めて、再会したシアさんと一緒の時間を過ごすべきです。そして気持ちが大きくなったら縁談を考えればいいんですから」
「うん、それはシアにも言われたし、俺もそうするつもりだよ」
返答すると、ターニャはかっと目を見開いた。
「では、具体的に何をするかはお決まりで?」
「え? そうだなぁ、シアの予定を聞いてからになるけど、一緒にどこかに出かけるのはどうかな? サリアの街なら俺もある程度詳しいし、ノーザンプション出身のシアを案内できると思うんだ」
実家に居場所がなかった俺にとって、サリアの街はよく屋敷を抜け出して遊びに行っていた、いわば庭のようなものだ。そこをシアと一緒に歩くのも悪くないのではないかと思ったのだけど。
「…………」
ターニャは黙ってしまった。ひょっとして、あまり良くなかっただろうか。あるいはおすすめの場所があったりして。
「素晴らしいです!」
「うわ、びっくりした」
「これはつまり、デートですね!」
「そ、そうなる……のか?」
改めて言われると少し恥ずかしいが、ターニャの勢いは止まらなかった。
「それでしたら、シアさんには私の方から伝えてもよろしいですか? ノヴァ様がシアさんをデートに誘いたがっていると! おそらくシアさんのことですから、明日には一緒にサリアの街でデートができますよ!」
「あ、ああ……お願いするよ……」
あまりの迫力と熱量に、俺は気圧されながら返事をした。なぜか主人以上に燃えているターニャは「では早速!」と言って部屋から飛び出していってしまう。音を立てて閉まる扉を見て、急に元気になったな、と思ったりした。
一人になった部屋で、考える。
「難しいことは考えるのを辞めて、再会したシアさんと一緒の時間を過ごす、か」
ターニャの言葉は俺の胸にすっと入ってきた。彼女に話してよかったと思う。確かにそうだ。身分や家柄、今のシアも大事だけど、一番大事なのはシアの心だろう。そう納得する。
それに明日、もしシアと……その……デートが出来るなら楽しみだ。
そんな風に今日の事を思い返していると、あれ?と思った。
ターニャ、なんでシアの連絡先知っているんだ?
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