6 / 237
第1章 宿敵の家の当主を妻に貰うまで
第6話 緊急家族会議
しおりを挟む
ゼロードの兄上とカイラスの兄上が来るまでの間、俺達は実家にお世話になることになった。とはいえ衣食住を提供してくれるだけで、世話を積極的に行ってくれるのはいつも通りターニャだけだ。屋敷の他のメイドは基本的に俺と目を合わせようともしない。
正直、暇の一言に尽きた。剣の訓練の時間以外にすることがない。本にも飽きてしまうし、ターニャと会話もするけれど、毎日一緒に居るのだから話題にも限界がある。一拍程度なら問題ないけれど、二泊三泊と重ねていくと話すことも無くなってくる。
結果、どうしたかというと自室を物色しながら懐かしいものを見つけたりして時間を潰した。中には今は亡き母との思い出の品もあって、しんみりとした気持ちになったりもした。
リーゼロッテ母様は俺の実の母ではない。彼女はゼロードの兄上とカイラスの兄上の母親で、俺の義母だ。俺の実の母上、セリア・フォルスは、俺が小さい頃に病死している。いつもベッドで横になっていたけど、優しい母だった。
この屋敷でターニャと母しか、俺の味方はいなかった。母は出来損ないの俺に、それでいいと言ってくれた。いつかきっと俺の覇気じゃなくて、俺自身を見てくれる人が現れるからって。
俺はその言葉がどれだけありがたいものなのか納得できなくて、今以上に自分を蔑んだこともあった。覇気が使えない俺なんていなくなればいいって言って、その時には母上に厳しく怒られた。母は誰の事も否定しなかったけど、戦争に関してだけはよく無くなれば良いって言っていた。それが無くなれば、俺が苦しむこともなくなるからって。
ちなみに食事は食堂でする気にはなれなかったから、ターニャに部屋に持ってきてもらって、二人で食べた。昔はよくやっていたことを思い出して、二人して笑い合ったりした。
「……ノヴァ様、旦那様がお呼びです。ゼロード様とカイラス様がそろそろ到着するとのことで、大広間にお越しください」
そうしてある日の昼前、館のメイドに扉の外から声をかけられた。俺は返事をしてターニャと一緒に部屋を出て、目も合わせない彼女に連れられて大広間へと向かう。
これから向かう大広間は食事の用途以外にも、こういった話し合いの場にも使われる。けど俺がここにいたときは食事の時にたまに行くだけで、話し合いの場には呼ばれたことがなかった。
大広間にはすでに父上とリーゼロッテ母様が着席していて、俺も空いている自分の席に向かった。腰を下ろせば、ターニャは俺の背後の少し離れた位置に背筋をピンと伸ばして立っていた。
椅子に着席してしばらく待つ。するとやや大きな足音を響かせた後に、扉が開いた。
「父上、この短い間で呼び出しとは。用事があるなら前回訪れたときに書置きを残してくれればよかったものを」
「すまない、急用だったのでな」
父上に対してそう言うのはゼロードの兄上だ。数日前にこの屋敷に来ていたので、ほぼとんぼ返りのような形で本邸に足を運んだことを恨めしく思っているらしい。俺は父上に対してそんなことは決して言えないが、兄上は次期当主の座を約束されたようなもの。多少の言葉遣いはお咎めなしだし、家では父上の次に偉い。その証拠に彼は席に座るなりに、メイドに「水」と冷たく要求していた。
「あん? ノヴァじゃねえか。お前まだ居たのかよ」
「数日ぶりです、ゼロードの兄上」
鼻で笑うゼロードの兄上に対して、俺は静かに頭を下げる。彼の乱暴な言葉遣いに対しても、父上もリーゼロッテ母様も何も言わない。
メイドが運んできた水がテーブルに置かれる。それに対して「おせえよ」と傍若無人に文句を言ったゼロードの兄上は水を呷る。
同時、耳が足音を聞いた。ゼロード兄上のものとは違う静かな足音。やがて扉が開き、男性が中へと入ってきた。
「遅れて申し訳ありません、父上」
「カイラス、久しぶりだな。さあ、座るがいい」
ミディアムの金髪を後ろでまとめた美しい顔立ちの美青年。俺のもう一人の兄、カイラスの兄上だ。細身ながらも佇まいは凛としていて、ただ者ではない風格を漂わせている。彼もまた、フォルス家直伝の覇気を使いこなせる武人の一人だ。
カイラスの兄上は席に向かい、途中で俺と目が合った。彼は少しだけ目を見開いたので、頭を下げる。
「お久しぶりです、カイラスの兄上」
「ああ」
ゼロードの兄上と違い、簡潔な一言。返事を返してくれるだけまだましだが、言葉には冷たさがあるし、視線は絶対零度のようだ。
彼もまた、出来損ないの俺を嫌う人物の一人。ゼロードの兄上のように大きく行動に移さないのでまだ助かっているが。
「てめぇ、兄よりも遅く来るとはどういうわけだ?」
「私の領地は遠いのです。申し訳なく思いますが、ご容赦願いたい」
バチバチと俺の目の前で火花を散らす二人の兄上達。まさに暴君という言葉が似合うゼロードの兄上と、冷たいナイフのようなカイラスの兄上の仲は最悪だ。ただ二人でいがみ合っているときは俺に被害が出ないので、少し助かったりするのだけど。
「……全員揃ったな。今回話したいのはノヴァの婚約についてだ」
喧嘩する二人を横目に、父上は本題を話し始めた。
「わざわざ全員を呼ばなくても、書面で通知すれば良かったのでは?」
間髪を入れずにカイラスの兄上が聞き返した。ゼロードの兄上は婚約者がいるし、カイラスの兄上は結婚している。けれど、このように家族全員を呼び出すのは初めてなのかもしれない。
「同感ですね」
やや苛ついた様子でゼロードの兄上も返答する。けど父上は、首をはっきりと横に振った。
「そういうわけにはいかない。ノヴァの婚約者はアークゲート家の当主だからだ」
「……は?」
「まさか……」
父上の言葉に目を見開く二人の兄上達。しかし、すぐにカイラスの兄上は思うところがあるのか、納得したように頷いた。
「なるほど、流石は父上。今や飛ぶ鳥を落とす勢いのアークゲート家にノヴァを婿養子に出すことで、関係がこじれるのを少しでも防ごうということですか」
「なんだ? じゃあこいつは生贄としてアークゲートの家に行くってことかよ」
ニヤニヤといやらしく微笑むゼロードの兄上。俺はそれに対して何も言うことなく黙っているだけだ。それに気を良くしたのか、ゼロードの兄上は続けて口を開く。
「良かったなぁ、ノヴァ。お前、フォルス家の役に立てるってよ。お前みたいな出来――」
「いや、向こうの当主様はこちらに嫁入りすると言っている」
「「は?」」
ゼロードの兄上の言葉にかぶせるように、父上が言った。というか、シアが嫁入りするってなに? 俺聞いてないんだけど? そう思って父上を見るが、彼は一瞬だけ俺に目を向けただけで、答えるつもりはないらしい。
「どういうことだよ……意味わかんねえぞ」
顔を歪めるゼロードの兄上。一方で、カイラスの兄上は訝しげな顔をする。
「お待ちください。アークゲート家はどうするのですか? 当主なのですよね? 代理でも立てるのですか?」
「いや、必要ないそうだ。当主様は決まった二点間を瞬間的に移動できる魔法を行使できる。その力を用いれば問題ないとのことだ。縁談話でノヴァとお会いになられたときも、その魔法でここへお越しになっていたからな」
「「…………」」
父上の説明に、二人の兄上は驚いて黙ってしまった。改めて考えると、シアの力というのはとても凄い。シア以外にそうした移動が出来る人を俺は知らなかった。内心で誇らしく思っていると、カイラスの兄上がポツリと呟く。
「敵に侵入地点をあっさりと作られているではないですか……」
その言葉を頭の中で反芻し、すごい力だと再認識する。例え籠城をしていても、シアが魔法を使えば城の中に兵士を送り込めるということか。シア、すごいな。
「別に俺はこの屋敷にはいないからいいですけど、父上はいいんですか? 相手はあのアークゲート家でしょう?」
父上に声をかけたのは、ゼロードの兄上だった。
「しかも今のアークゲートの当主は化け物だと聞きます。残虐で、冷徹、人の心が無いと評される――」
「ゼロード! 口を慎め!」
シアを非難するゼロードの兄上の言葉に少しだけイライラしていると、思わぬところから声が飛んだ。これまで黙って説明していた父上が声を張り上げたのだ。ここまで声を荒げた父上は初めて見た。言われたゼロードの兄上も、カイラスの兄上も目を見開いている。
「外ではもちろんの事、家の中でも二度とそのようなことを言うな!」
ゼロードの兄上は父上の跡を継ぐことが実質決まっているようなもの。だからこそ、これまでも彼は自由が与えられていたし、ある程度ならば父上に歯向かうことだって許されていた。けど、父上はそんなゼロードの兄上を一蹴した。
驚いていたゼロードの兄上は、しかし父上が怒っていることを理解して頭を下げる。
「申し訳……ありませんでした」
「すまない、言い過ぎた。だが、十分に気を付けるのだ」
「……はい」
覇気を使っての親子喧嘩にはならなかったようで、とりあえずは一安心だ。ゼロードの兄上は俺の方を睨みつけるように見ていたが。どうやら、今日はなるべく兄上を避けた方が良さそうだ。
「ノヴァ、お前はそれでいいのか?」
カイラスの兄上に珍しく声をかけられる。シアを婚約者にするということに関しては個人的には問題ないを通り越して、むしろ俺でいいのかという気持ちだし、家として考えても良いことだろう。
「はい、一度お会いしましたが、素敵な方だと思いました」
「……呪いが怖くないのか?」
「呪い?」
聞き慣れない言葉に聞き返すと、今度はゼロードの兄上が鼻で笑った。
「こいつに覇気がないから大丈夫なんだろ。感じ取れる力すらねえのさ」
「…………」
一体何の話をしているのか分からなくて顔を顰めていると、父上が説明してくれた。
「ノヴァには話していなかったが、アークゲート家と我らフォルス家の長年の禍根は、過去の出来事だけではないのだ。フォルス家の扱う覇気とアークゲート家の魔力は相性が悪く、反発しあう。……先ほども、当主様が屋敷にいるだけで私も気分が悪くなったくらいだ。そのことを、先祖代々呪いと呼んでいる」
「お前には覇気がないから、アークゲート家の魔力と反発しねえんだよ」
「そ、そうだったのですね……」
父上とゼロードの兄上の説明で納得する。アークゲート家とは宿敵のような間柄だとは聞いていたが、まさかそんな理由もあったとは知らなかった。けど、お陰でシアと婚約関係になることが出来る。生まれて初めて覇気を使えなくて感謝した。
「なんにせよ向こうの思惑はよく分からないが、到底無下にすることはできない。ノヴァにもくれぐれも失礼がないように、と言い聞かせているからな。直接会う機会は少ないと思うが、お前達も気を付けてくれ。下手をすれば家が滅ぶと心得よ」
「……そうですね。我がフォルス家を潰すつもりなのか、それとも何か別の目的があるのか分かりませんが、下手は打たない方が良いでしょう」
「呪いが発動する一族に関わるなんざ、こっちからごめんだけどな」
父上、カイラスの兄上、ゼロードの兄上が口々に今後の対応を決めていく。シアはフォルス家を潰すつもりななんてなくて、単に幼い頃の恩を返しに来てくれているだけなんだけど、俺から何かを話すつもりはなかった。聞かれてもないし。
「よし、では話も終わったところで昼食にでもにしよう」
父上の一言で、食事が次々と運ばれてくる。実家にいる時は兄上達や父上との食事が苦痛で仕方がなかったけど、今日はそこまで苦でもなかった。
正直、暇の一言に尽きた。剣の訓練の時間以外にすることがない。本にも飽きてしまうし、ターニャと会話もするけれど、毎日一緒に居るのだから話題にも限界がある。一拍程度なら問題ないけれど、二泊三泊と重ねていくと話すことも無くなってくる。
結果、どうしたかというと自室を物色しながら懐かしいものを見つけたりして時間を潰した。中には今は亡き母との思い出の品もあって、しんみりとした気持ちになったりもした。
リーゼロッテ母様は俺の実の母ではない。彼女はゼロードの兄上とカイラスの兄上の母親で、俺の義母だ。俺の実の母上、セリア・フォルスは、俺が小さい頃に病死している。いつもベッドで横になっていたけど、優しい母だった。
この屋敷でターニャと母しか、俺の味方はいなかった。母は出来損ないの俺に、それでいいと言ってくれた。いつかきっと俺の覇気じゃなくて、俺自身を見てくれる人が現れるからって。
俺はその言葉がどれだけありがたいものなのか納得できなくて、今以上に自分を蔑んだこともあった。覇気が使えない俺なんていなくなればいいって言って、その時には母上に厳しく怒られた。母は誰の事も否定しなかったけど、戦争に関してだけはよく無くなれば良いって言っていた。それが無くなれば、俺が苦しむこともなくなるからって。
ちなみに食事は食堂でする気にはなれなかったから、ターニャに部屋に持ってきてもらって、二人で食べた。昔はよくやっていたことを思い出して、二人して笑い合ったりした。
「……ノヴァ様、旦那様がお呼びです。ゼロード様とカイラス様がそろそろ到着するとのことで、大広間にお越しください」
そうしてある日の昼前、館のメイドに扉の外から声をかけられた。俺は返事をしてターニャと一緒に部屋を出て、目も合わせない彼女に連れられて大広間へと向かう。
これから向かう大広間は食事の用途以外にも、こういった話し合いの場にも使われる。けど俺がここにいたときは食事の時にたまに行くだけで、話し合いの場には呼ばれたことがなかった。
大広間にはすでに父上とリーゼロッテ母様が着席していて、俺も空いている自分の席に向かった。腰を下ろせば、ターニャは俺の背後の少し離れた位置に背筋をピンと伸ばして立っていた。
椅子に着席してしばらく待つ。するとやや大きな足音を響かせた後に、扉が開いた。
「父上、この短い間で呼び出しとは。用事があるなら前回訪れたときに書置きを残してくれればよかったものを」
「すまない、急用だったのでな」
父上に対してそう言うのはゼロードの兄上だ。数日前にこの屋敷に来ていたので、ほぼとんぼ返りのような形で本邸に足を運んだことを恨めしく思っているらしい。俺は父上に対してそんなことは決して言えないが、兄上は次期当主の座を約束されたようなもの。多少の言葉遣いはお咎めなしだし、家では父上の次に偉い。その証拠に彼は席に座るなりに、メイドに「水」と冷たく要求していた。
「あん? ノヴァじゃねえか。お前まだ居たのかよ」
「数日ぶりです、ゼロードの兄上」
鼻で笑うゼロードの兄上に対して、俺は静かに頭を下げる。彼の乱暴な言葉遣いに対しても、父上もリーゼロッテ母様も何も言わない。
メイドが運んできた水がテーブルに置かれる。それに対して「おせえよ」と傍若無人に文句を言ったゼロードの兄上は水を呷る。
同時、耳が足音を聞いた。ゼロード兄上のものとは違う静かな足音。やがて扉が開き、男性が中へと入ってきた。
「遅れて申し訳ありません、父上」
「カイラス、久しぶりだな。さあ、座るがいい」
ミディアムの金髪を後ろでまとめた美しい顔立ちの美青年。俺のもう一人の兄、カイラスの兄上だ。細身ながらも佇まいは凛としていて、ただ者ではない風格を漂わせている。彼もまた、フォルス家直伝の覇気を使いこなせる武人の一人だ。
カイラスの兄上は席に向かい、途中で俺と目が合った。彼は少しだけ目を見開いたので、頭を下げる。
「お久しぶりです、カイラスの兄上」
「ああ」
ゼロードの兄上と違い、簡潔な一言。返事を返してくれるだけまだましだが、言葉には冷たさがあるし、視線は絶対零度のようだ。
彼もまた、出来損ないの俺を嫌う人物の一人。ゼロードの兄上のように大きく行動に移さないのでまだ助かっているが。
「てめぇ、兄よりも遅く来るとはどういうわけだ?」
「私の領地は遠いのです。申し訳なく思いますが、ご容赦願いたい」
バチバチと俺の目の前で火花を散らす二人の兄上達。まさに暴君という言葉が似合うゼロードの兄上と、冷たいナイフのようなカイラスの兄上の仲は最悪だ。ただ二人でいがみ合っているときは俺に被害が出ないので、少し助かったりするのだけど。
「……全員揃ったな。今回話したいのはノヴァの婚約についてだ」
喧嘩する二人を横目に、父上は本題を話し始めた。
「わざわざ全員を呼ばなくても、書面で通知すれば良かったのでは?」
間髪を入れずにカイラスの兄上が聞き返した。ゼロードの兄上は婚約者がいるし、カイラスの兄上は結婚している。けれど、このように家族全員を呼び出すのは初めてなのかもしれない。
「同感ですね」
やや苛ついた様子でゼロードの兄上も返答する。けど父上は、首をはっきりと横に振った。
「そういうわけにはいかない。ノヴァの婚約者はアークゲート家の当主だからだ」
「……は?」
「まさか……」
父上の言葉に目を見開く二人の兄上達。しかし、すぐにカイラスの兄上は思うところがあるのか、納得したように頷いた。
「なるほど、流石は父上。今や飛ぶ鳥を落とす勢いのアークゲート家にノヴァを婿養子に出すことで、関係がこじれるのを少しでも防ごうということですか」
「なんだ? じゃあこいつは生贄としてアークゲートの家に行くってことかよ」
ニヤニヤといやらしく微笑むゼロードの兄上。俺はそれに対して何も言うことなく黙っているだけだ。それに気を良くしたのか、ゼロードの兄上は続けて口を開く。
「良かったなぁ、ノヴァ。お前、フォルス家の役に立てるってよ。お前みたいな出来――」
「いや、向こうの当主様はこちらに嫁入りすると言っている」
「「は?」」
ゼロードの兄上の言葉にかぶせるように、父上が言った。というか、シアが嫁入りするってなに? 俺聞いてないんだけど? そう思って父上を見るが、彼は一瞬だけ俺に目を向けただけで、答えるつもりはないらしい。
「どういうことだよ……意味わかんねえぞ」
顔を歪めるゼロードの兄上。一方で、カイラスの兄上は訝しげな顔をする。
「お待ちください。アークゲート家はどうするのですか? 当主なのですよね? 代理でも立てるのですか?」
「いや、必要ないそうだ。当主様は決まった二点間を瞬間的に移動できる魔法を行使できる。その力を用いれば問題ないとのことだ。縁談話でノヴァとお会いになられたときも、その魔法でここへお越しになっていたからな」
「「…………」」
父上の説明に、二人の兄上は驚いて黙ってしまった。改めて考えると、シアの力というのはとても凄い。シア以外にそうした移動が出来る人を俺は知らなかった。内心で誇らしく思っていると、カイラスの兄上がポツリと呟く。
「敵に侵入地点をあっさりと作られているではないですか……」
その言葉を頭の中で反芻し、すごい力だと再認識する。例え籠城をしていても、シアが魔法を使えば城の中に兵士を送り込めるということか。シア、すごいな。
「別に俺はこの屋敷にはいないからいいですけど、父上はいいんですか? 相手はあのアークゲート家でしょう?」
父上に声をかけたのは、ゼロードの兄上だった。
「しかも今のアークゲートの当主は化け物だと聞きます。残虐で、冷徹、人の心が無いと評される――」
「ゼロード! 口を慎め!」
シアを非難するゼロードの兄上の言葉に少しだけイライラしていると、思わぬところから声が飛んだ。これまで黙って説明していた父上が声を張り上げたのだ。ここまで声を荒げた父上は初めて見た。言われたゼロードの兄上も、カイラスの兄上も目を見開いている。
「外ではもちろんの事、家の中でも二度とそのようなことを言うな!」
ゼロードの兄上は父上の跡を継ぐことが実質決まっているようなもの。だからこそ、これまでも彼は自由が与えられていたし、ある程度ならば父上に歯向かうことだって許されていた。けど、父上はそんなゼロードの兄上を一蹴した。
驚いていたゼロードの兄上は、しかし父上が怒っていることを理解して頭を下げる。
「申し訳……ありませんでした」
「すまない、言い過ぎた。だが、十分に気を付けるのだ」
「……はい」
覇気を使っての親子喧嘩にはならなかったようで、とりあえずは一安心だ。ゼロードの兄上は俺の方を睨みつけるように見ていたが。どうやら、今日はなるべく兄上を避けた方が良さそうだ。
「ノヴァ、お前はそれでいいのか?」
カイラスの兄上に珍しく声をかけられる。シアを婚約者にするということに関しては個人的には問題ないを通り越して、むしろ俺でいいのかという気持ちだし、家として考えても良いことだろう。
「はい、一度お会いしましたが、素敵な方だと思いました」
「……呪いが怖くないのか?」
「呪い?」
聞き慣れない言葉に聞き返すと、今度はゼロードの兄上が鼻で笑った。
「こいつに覇気がないから大丈夫なんだろ。感じ取れる力すらねえのさ」
「…………」
一体何の話をしているのか分からなくて顔を顰めていると、父上が説明してくれた。
「ノヴァには話していなかったが、アークゲート家と我らフォルス家の長年の禍根は、過去の出来事だけではないのだ。フォルス家の扱う覇気とアークゲート家の魔力は相性が悪く、反発しあう。……先ほども、当主様が屋敷にいるだけで私も気分が悪くなったくらいだ。そのことを、先祖代々呪いと呼んでいる」
「お前には覇気がないから、アークゲート家の魔力と反発しねえんだよ」
「そ、そうだったのですね……」
父上とゼロードの兄上の説明で納得する。アークゲート家とは宿敵のような間柄だとは聞いていたが、まさかそんな理由もあったとは知らなかった。けど、お陰でシアと婚約関係になることが出来る。生まれて初めて覇気を使えなくて感謝した。
「なんにせよ向こうの思惑はよく分からないが、到底無下にすることはできない。ノヴァにもくれぐれも失礼がないように、と言い聞かせているからな。直接会う機会は少ないと思うが、お前達も気を付けてくれ。下手をすれば家が滅ぶと心得よ」
「……そうですね。我がフォルス家を潰すつもりなのか、それとも何か別の目的があるのか分かりませんが、下手は打たない方が良いでしょう」
「呪いが発動する一族に関わるなんざ、こっちからごめんだけどな」
父上、カイラスの兄上、ゼロードの兄上が口々に今後の対応を決めていく。シアはフォルス家を潰すつもりななんてなくて、単に幼い頃の恩を返しに来てくれているだけなんだけど、俺から何かを話すつもりはなかった。聞かれてもないし。
「よし、では話も終わったところで昼食にでもにしよう」
父上の一言で、食事が次々と運ばれてくる。実家にいる時は兄上達や父上との食事が苦痛で仕方がなかったけど、今日はそこまで苦でもなかった。
171
あなたにおすすめの小説
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
親友に恋人を奪われた俺は、姉の様に思っていた親友の父親の後妻を貰う事にしました。傷ついた二人の恋愛物語
石のやっさん
恋愛
同世代の輪から浮いていた和也は、村の権力者の息子正一より、とうとう、その輪のなから外されてしまった。幼馴染もかっての婚約者芽瑠も全員正一の物ので、そこに居場所が無いと悟った和也はそれを受け入れる事にした。
本来なら絶望的な状況の筈だが……和也の顔は笑っていた。
『勇者からの追放物』を書く時にに集めた資料を基に異世界でなくどこかの日本にありそうな架空な場所での物語を書いてみました。
「25周年アニバーサリーカップ」出展にあたり 主人公の年齢を25歳 ヒロインの年齢を30歳にしました。
カクヨムでカクヨムコン10に応募して中間突破した作品を加筆修正した作品です。
大きく物語は変わりませんが、所々、加筆修正が入ります。
【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります
すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。
なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!
冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。
ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。
そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。
婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました
Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。
順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。
特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。
そんなアメリアに対し、オスカーは…
とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。
【完結】勘当されたい悪役は自由に生きる
雨野
恋愛
難病に罹り、15歳で人生を終えた私。
だが気がつくと、生前読んだ漫画の貴族で悪役に転生していた!?タイトルは忘れてしまったし、ラストまで読むことは出来なかったけど…確かこのキャラは、家を勘当され追放されたんじゃなかったっけ?
でも…手足は自由に動くし、ご飯は美味しく食べられる。すうっと深呼吸することだって出来る!!追放ったって殺される訳でもなし、貴族じゃなくなっても問題ないよね?むしろ私、庶民の生活のほうが大歓迎!!
ただ…私が転生したこのキャラ、セレスタン・ラサーニュ。悪役令息、男だったよね?どこからどう見ても女の身体なんですが。上に無いはずのモノがあり、下にあるはずのアレが無いんですが!?どうなってんのよ!!?
1話目はシリアスな感じですが、最終的にはほのぼの目指します。
ずっと病弱だったが故に、目に映る全てのものが輝いて見えるセレスタン。自分が変われば世界も変わる、私は…自由だ!!!
主人公は最初のうちは卑屈だったりしますが、次第に前向きに成長します。それまで見守っていただければと!
愛され主人公のつもりですが、逆ハーレムはありません。逆ハー風味はある。男装主人公なので、側から見るとBLカップルです。
予告なく痛々しい、残酷な描写あり。
サブタイトルに◼️が付いている話はシリアスになりがち。
小説家になろうさんでも掲載しております。そっちのほうが先行公開中。後書きなんかで、ちょいちょいネタ挟んでます。よろしければご覧ください。
こちらでは僅かに加筆&話が増えてたりします。
本編完結。番外編を順次公開していきます。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!
私の手からこぼれ落ちるもの
アズやっこ
恋愛
5歳の時、お父様が亡くなった。
優しくて私やお母様を愛してくれたお父様。私達は仲の良い家族だった。
でもそれは偽りだった。
お父様の書斎にあった手記を見た時、お父様の優しさも愛も、それはただの罪滅ぼしだった。
お父様が亡くなり侯爵家は叔父様に奪われた。侯爵家を追い出されたお母様は心を病んだ。
心を病んだお母様を助けたのは私ではなかった。
私の手からこぼれていくもの、そして最後は私もこぼれていく。
こぼれた私を救ってくれる人はいるのかしら…
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 作者独自の設定です。
❈ ざまぁはありません。
0歳児に戻った私。今度は少し口を出したいと思います。
アズやっこ
恋愛
❈ 追記 長編に変更します。
16歳の時、私は第一王子と婚姻した。
いとこの第一王子の事は好き。でもこの好きはお兄様を思う好きと同じ。だから第二王子の事も好き。
私の好きは家族愛として。
第一王子と婚約し婚姻し家族愛とはいえ愛はある。だから何とかなる、そう思った。
でも人の心は何とかならなかった。
この国はもう終わる…
兄弟の対立、公爵の裏切り、まるでボタンの掛け違い。
だから歪み取り返しのつかない事になった。
そして私は暗殺され…
次に目が覚めた時0歳児に戻っていた。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 作者独自の設定です。こういう設定だとご了承頂けると幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる