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第1章 宿敵の家の当主を妻に貰うまで
第16話 貴族の少女との出会い
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少し時間をかけてようやく目当ての菓子を買うことが出来た。街の人はかなりこの菓子をおススメしていたし、帰ったらターニャと一緒に楽しむとしよう。あまりサリアの街では見ないお菓子とのことなので、どんな味なのか楽しみだ。
「ありがとうございましたー!」
愛想のよい店員に見送られて俺は店を後にする。どうせなら俺の分とターニャの分で二つ買えばよかったな、なんて思ったときだった。
「ねえ、悪いんだけど列を譲ってくれないかしら」
「だ、ダメですよお嬢様!」
店の入り口付近の列から声がした。振り返ると、少女が列の女性に話しかけていた。高貴な家の出身なのだろうか。上質な衣服を着て、輝くような金髪をサイドテールにしている。顔は見えないが、声は透き通っていて同時に鋭さを感じた。後ろであわあわと諫めているのは彼女の使用人だろう。
「こ、この前もうしないって言いましたよね!?」
「で、でもどうしても今食べたくて……」
二人は小声で言葉を交わすけど、風の流れからか俺の耳にも聞こえてしまった。そんな二人のやり取りを少し離れた場所で見ていると、列に並んでいた女性が目を見開いた。
「ど、どうぞ!」
相手が高貴そうな姿をしていたから気圧されたのか、列を譲ることにしたらしい。その言葉を聞いて、少女は上機嫌になった。
「あら? ありがとう」
「お嬢様!」
しかし使用人の女性の方は少女を諫めている。これは見ていられないなと思って、俺は彼女達に背後から近づいた。
「こんにちは。この列に並んでいるのはこの人だけじゃないですし、列にはちゃんと並ぶべきですよ」
後ろから声をかければ、少女は振り返った。
「……なによあんた」
整った顔立ちに、シミ一つないきれいな肌。将来は美人になることが確約された少女が不機嫌そうにしていた。
「そ、そうですよお嬢様!」
使用人が同調してくれるが、先ほどから気弱な様子なので、あまり抑止力にはなっていないようだ。俺を訝しげに見ていた少女は視線を動かして、何を思ったのか眉を吊り上げた。あ、まずい、菓子を手に持ったままだった。
「部外者は黙っていてもらえるかしら。私は列に入って良いか聞いて、この人はそれに賛同してくれたわ」
せめて菓子を隠すべきだったかと思うも、もう遅く、少女はやや不機嫌に言い張る。
「いや、そもそもそれはキミが尋ねたからだろ。この店の予約でもしているのか?」
「……してないけど」
「なら、列に割り込んじゃダメだろ。一番後ろに並ぶべきだ」
「…………」
目の前で少女の機嫌がどんどん悪くなるのは気づいていたが、止められなかった。決まりは決まりである。俺はこの街の人ではないが、シアが治めている街でそれを破ることはして欲しくなかった。
それに、このくらいの子が列に割り込むのは南の街でもよくあることだ。その度に叱られているのを見ていたので、口出しをしてしまったというのもある。結果、お互いに引けなくなった。
「あ、あんたね! 私は貴族なのよ! それに、無理やり割って入ったわけじゃないんだからいいじゃない!」
「貴族だとか関係ないだろ。決まりは決まりだ。……っていうか。権力を振り回している段階で無理やりのようなものじゃないか」
俺と少女のやり取りはヒートアップしていく。列を譲った女性も、使用人の女性も、ハラハラしながら俺達のやりとりを見守っていた。
「そもそもあんた、この街の人じゃないでしょ! いい!? 私の名前は――」
「ダメだ!!」
大きな声で、少女の言葉を遮った。この少女がどこの貴族の誰なのかは分からないけど、こんな大通りで自分の名前を言わせるのはまずいと思った。ちょっとした言い合いになっている段階で、もうダメかもしれないけど。
俺の大きな声に驚いたのか、少女は目を見開いていた。じっくり数秒間、彼女は俺の目をじっと見ていて、やがて目線を外して自身の手のひらを見ていた。その様子に不思議に思ったものの、諭すならここしかないと思い、目線を合わせて言葉を重ねる。
「……キミがお菓子を欲しがるのも分かる。ここのは美味しいらしいからね。でもそれは列に並んでいる誰もが同じことだ。なら、それを蔑ろにしちゃいけない。予約をするとか、事前に取っておいてもらうとか、あるいはそこの女の人に頼んで買ってきてもらうとか、やり方は色々ある筈だよ。でもこんなやり方は……ダメだろ?」
貴族らしくない、と言いそうになったが、俺自身貴族らしくないのでその言葉は飲み込んだ。俺の言葉が通じたのか、黙って聞いていた少女はゆっくりと口を開く。
「……そう……ね」
彼女はゆっくりと振り向き、列を譲ってくれた女性に頭を下げた。
「ごめんなさい、さっきのは忘れて。この人の言う通り、列の最後に並ぶことにするわ」
「は、はい……」
「お嬢様……リサ、感動です」
少女の言葉に列を譲った女性は頷いて返し、リサという名前らしい使用人は手を組んで涙を流していた。少女は振り返って、けど視線は外したままで口を開く。
「こ、これでいいんでしょ?」
「ああ、偉いぞ!」
キチンと決まりを守った少女に対して、俺は満面の笑みで答えた。チラリと俺の様子を確認した少女はフイッと顔を背け、列の最後尾へと向かってしまう。リサと自分を呼んだ使用人は、俺に頭を下げて少女の後を追いかけていった。
悪い子ではないのだろうと、少女の背中を見ながら俺は思った。列に割りこもうとしたことはいけないことだが、それを認めてからは早かった。少なくともあの様子なら彼女がこの一件で嫌われるというのはほぼないだろう。
そんな事を思いながら、俺は大通りを後にした。
「ありがとうございましたー!」
愛想のよい店員に見送られて俺は店を後にする。どうせなら俺の分とターニャの分で二つ買えばよかったな、なんて思ったときだった。
「ねえ、悪いんだけど列を譲ってくれないかしら」
「だ、ダメですよお嬢様!」
店の入り口付近の列から声がした。振り返ると、少女が列の女性に話しかけていた。高貴な家の出身なのだろうか。上質な衣服を着て、輝くような金髪をサイドテールにしている。顔は見えないが、声は透き通っていて同時に鋭さを感じた。後ろであわあわと諫めているのは彼女の使用人だろう。
「こ、この前もうしないって言いましたよね!?」
「で、でもどうしても今食べたくて……」
二人は小声で言葉を交わすけど、風の流れからか俺の耳にも聞こえてしまった。そんな二人のやり取りを少し離れた場所で見ていると、列に並んでいた女性が目を見開いた。
「ど、どうぞ!」
相手が高貴そうな姿をしていたから気圧されたのか、列を譲ることにしたらしい。その言葉を聞いて、少女は上機嫌になった。
「あら? ありがとう」
「お嬢様!」
しかし使用人の女性の方は少女を諫めている。これは見ていられないなと思って、俺は彼女達に背後から近づいた。
「こんにちは。この列に並んでいるのはこの人だけじゃないですし、列にはちゃんと並ぶべきですよ」
後ろから声をかければ、少女は振り返った。
「……なによあんた」
整った顔立ちに、シミ一つないきれいな肌。将来は美人になることが確約された少女が不機嫌そうにしていた。
「そ、そうですよお嬢様!」
使用人が同調してくれるが、先ほどから気弱な様子なので、あまり抑止力にはなっていないようだ。俺を訝しげに見ていた少女は視線を動かして、何を思ったのか眉を吊り上げた。あ、まずい、菓子を手に持ったままだった。
「部外者は黙っていてもらえるかしら。私は列に入って良いか聞いて、この人はそれに賛同してくれたわ」
せめて菓子を隠すべきだったかと思うも、もう遅く、少女はやや不機嫌に言い張る。
「いや、そもそもそれはキミが尋ねたからだろ。この店の予約でもしているのか?」
「……してないけど」
「なら、列に割り込んじゃダメだろ。一番後ろに並ぶべきだ」
「…………」
目の前で少女の機嫌がどんどん悪くなるのは気づいていたが、止められなかった。決まりは決まりである。俺はこの街の人ではないが、シアが治めている街でそれを破ることはして欲しくなかった。
それに、このくらいの子が列に割り込むのは南の街でもよくあることだ。その度に叱られているのを見ていたので、口出しをしてしまったというのもある。結果、お互いに引けなくなった。
「あ、あんたね! 私は貴族なのよ! それに、無理やり割って入ったわけじゃないんだからいいじゃない!」
「貴族だとか関係ないだろ。決まりは決まりだ。……っていうか。権力を振り回している段階で無理やりのようなものじゃないか」
俺と少女のやり取りはヒートアップしていく。列を譲った女性も、使用人の女性も、ハラハラしながら俺達のやりとりを見守っていた。
「そもそもあんた、この街の人じゃないでしょ! いい!? 私の名前は――」
「ダメだ!!」
大きな声で、少女の言葉を遮った。この少女がどこの貴族の誰なのかは分からないけど、こんな大通りで自分の名前を言わせるのはまずいと思った。ちょっとした言い合いになっている段階で、もうダメかもしれないけど。
俺の大きな声に驚いたのか、少女は目を見開いていた。じっくり数秒間、彼女は俺の目をじっと見ていて、やがて目線を外して自身の手のひらを見ていた。その様子に不思議に思ったものの、諭すならここしかないと思い、目線を合わせて言葉を重ねる。
「……キミがお菓子を欲しがるのも分かる。ここのは美味しいらしいからね。でもそれは列に並んでいる誰もが同じことだ。なら、それを蔑ろにしちゃいけない。予約をするとか、事前に取っておいてもらうとか、あるいはそこの女の人に頼んで買ってきてもらうとか、やり方は色々ある筈だよ。でもこんなやり方は……ダメだろ?」
貴族らしくない、と言いそうになったが、俺自身貴族らしくないのでその言葉は飲み込んだ。俺の言葉が通じたのか、黙って聞いていた少女はゆっくりと口を開く。
「……そう……ね」
彼女はゆっくりと振り向き、列を譲ってくれた女性に頭を下げた。
「ごめんなさい、さっきのは忘れて。この人の言う通り、列の最後に並ぶことにするわ」
「は、はい……」
「お嬢様……リサ、感動です」
少女の言葉に列を譲った女性は頷いて返し、リサという名前らしい使用人は手を組んで涙を流していた。少女は振り返って、けど視線は外したままで口を開く。
「こ、これでいいんでしょ?」
「ああ、偉いぞ!」
キチンと決まりを守った少女に対して、俺は満面の笑みで答えた。チラリと俺の様子を確認した少女はフイッと顔を背け、列の最後尾へと向かってしまう。リサと自分を呼んだ使用人は、俺に頭を下げて少女の後を追いかけていった。
悪い子ではないのだろうと、少女の背中を見ながら俺は思った。列に割りこもうとしたことはいけないことだが、それを認めてからは早かった。少なくともあの様子なら彼女がこの一件で嫌われるというのはほぼないだろう。
そんな事を思いながら、俺は大通りを後にした。
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