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第1章 宿敵の家の当主を妻に貰うまで
第15話 北の街、ノーザンプション
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生まれて初めての北への馬車旅は新鮮だった。これまで南側の街しか知らなかった俺にとって、見える景色全てが目新しいものだったからだ。途中の街で泊まりつつのとても長い旅路だった。
馬車は国の中央にある王都すら越えて、北にあるノーザンプションの街へ。到着して馬車を降りたときに真っ先に思ったことは、サリアに比べて少し肌寒いということだった。
馬車の御者に片道分の料金を渡し、どうしようかと考える。サリアの街とは違い、ノーザンプションの街は昼にも関わらず寒い。ここに来るまでにいくつもの街に寄ってきた中で購入した厚着がなければ震えていたことだろう。
昼食をまだ取っていたなかったので、とりあえずは腹ごしらえか、と思い、近くの飲食店に入る。これまでも街で美味しい料理を食べてきたけれど、今回の昼食もなかなか美味しいなと、思った。
そうして飲食店から出て、邪魔にならないように店の出口から少し避けた場所で大通りに目を向ける。父上の領地であるサリアの街も賑わっていたけど、ここの活気はそれ以上に思えた。こんなに寒い地域なのに人々は賑わっているから、余計にそう思えるのかもしれない。
「……あ、武器屋がある」
剣のマークの看板を見つけ、気づけば俺はそこへ向かっていた。扉を開けて中に入れば、数多くの陳列された剣や槍が出迎えてくれる。その一番奥で座っていたのは片目に傷を負った白髪混じりの男性だった。
彼は俺が入ってきたことに気づくなり、じっと見てくる。見極めるかのような、そんな目だ。
「いらっしゃい。好きに見ていきな」
そんな挨拶のような言葉を投げかけた後、彼は視線を外してしまった。店主の視線から解放されたので、俺は店に置かれた剣に目を向ける。いくつかの武器に目を通していけば、はっきりと分かることがあった。
南の街よりも品ぞろえが良い。陳列されている武器の一つ一つが南のものよりも質が一段階上、ものによっては二段階上のものもある。店出しの商品でこれなのだから、裏には名剣と称されるようなものさえあるかもしれない。
他国と小競り合いが続いている南側に対して、北側はつい最近戦争が終わったばかり。それでもここまで良質なものが揃っているのは、街としての基盤が南側よりも上ということかもしれない。
正直、店出しの商品を見ているだけでも楽しい。良品に出会ったときはじっくり見るのだが、こうも良品ばかりだと新しいものを視界に入れようと躍起になってしまい、流し見のようになってしまう。
そうして店主の近くまで来た時に、彼は口を開いた。
「兄ちゃん、遠くから来たのかい?」
「え? あ、はい、そうです。南のサリアの街から来ました」
「サリア? へえ、そりゃあわざわざ遠くからお疲れさん。で、どうだいウチの品ぞろえは? 他とは比べ物にならないほど質が高いのが売りなんだが」
店主の言うことは紛れもない事実だし、俺が思っていた事なのではっきりと頷く。
「正直驚きました。ここまで良いなんて」
俺の言葉に、ニヤリと笑った店主の顔が印象的だった。
「戦争が終わってから領民の暮らし向きは良くなっているからな。昔は辛い時期もあったんだが、最近はどこも羽振りがいいから楽しめると思うぜ」
「そうなんですね、ありがとうございます。そういえば代替わりされた当主様が戦争を終わらせたんでしたっけ?」
これもいい機会かと思い、シアの事を尋ねてみることにした。この街に来て少ししか経っていないが、見ているだけで活気づいているので否定的な意見が出ないことは分かっていたけど。
「あぁ、レティシア様のお陰だぜ。正直、かなり長い事戦争をしていたから皆飽き飽きしていたんだ。俺の店なんかは儲かるけど、それで人が傷ついたり、最悪死んだりするって言うのは少し気分悪いからな……」
「なるほど……そうなんですね」
「戦争が終わったあとは税も少しだけ安くなったし、レティシア様、様様だよ、本当」
シアは南だけでなく、北でも好感を持たれていた。そのことに少しだけ誇らしい気持ちになり、自然と笑顔になる。それにしても普段俺はシアと呼ぶために、こうしてレティシア様と聞くのはなんだか新鮮だ。同じ人なのに違う人のように思えてしまうのがちょっとだけ可笑しかった。
武器屋の店主とはその後も少しだけ話をした。最近の街の様子やこの街の有名なお土産など世間話が主だったが、サリアの街の人と同じく付き合いやすい人だった。
何も買わなかったものの笑顔で見送ってくれた武器屋を後にして、俺はノーザンプションの街を観光した。別の店の店主やたまたま隣に来た家族連れと話をしても皆が笑顔だった。そしてシアについて話を聞けば、皆が皆彼女を称賛していた。
ある程度、街の観光を終える頃には「本当に凄いな。シアは」という思いでいっぱいだった。
ふと、そういえばターニャからお土産をせびられていたっけ、と思い出した。
どうせノーザンプションの街に行くなら、お土産を買ってきてくれると嬉しいんですけどー、とチラチラと視線を向けてくる彼女の様子を思い返す。武器屋のおっちゃんからもミルキーウェイの菓子が有名だということを聞いていたので、それを買って帰るとしよう。
俺がシアについて聞いて回っている間に、俺の屋敷に帰って仕事をしてくれている彼女へのご褒美にもなるだろうし。
確か大通りの曲がり角って言っていたから、きっとここら辺にあるはず、と思って歩けば、ちょうど角を曲がったところで店入り口の扉から伸びる列に行きついた。噂の通り大人気なお店らしく、多くの人が並んでいるようだ。
長い列に並ぶのは憚られたものの特に用事があるわけでもないので、列に並ぶことにした。
馬車は国の中央にある王都すら越えて、北にあるノーザンプションの街へ。到着して馬車を降りたときに真っ先に思ったことは、サリアに比べて少し肌寒いということだった。
馬車の御者に片道分の料金を渡し、どうしようかと考える。サリアの街とは違い、ノーザンプションの街は昼にも関わらず寒い。ここに来るまでにいくつもの街に寄ってきた中で購入した厚着がなければ震えていたことだろう。
昼食をまだ取っていたなかったので、とりあえずは腹ごしらえか、と思い、近くの飲食店に入る。これまでも街で美味しい料理を食べてきたけれど、今回の昼食もなかなか美味しいなと、思った。
そうして飲食店から出て、邪魔にならないように店の出口から少し避けた場所で大通りに目を向ける。父上の領地であるサリアの街も賑わっていたけど、ここの活気はそれ以上に思えた。こんなに寒い地域なのに人々は賑わっているから、余計にそう思えるのかもしれない。
「……あ、武器屋がある」
剣のマークの看板を見つけ、気づけば俺はそこへ向かっていた。扉を開けて中に入れば、数多くの陳列された剣や槍が出迎えてくれる。その一番奥で座っていたのは片目に傷を負った白髪混じりの男性だった。
彼は俺が入ってきたことに気づくなり、じっと見てくる。見極めるかのような、そんな目だ。
「いらっしゃい。好きに見ていきな」
そんな挨拶のような言葉を投げかけた後、彼は視線を外してしまった。店主の視線から解放されたので、俺は店に置かれた剣に目を向ける。いくつかの武器に目を通していけば、はっきりと分かることがあった。
南の街よりも品ぞろえが良い。陳列されている武器の一つ一つが南のものよりも質が一段階上、ものによっては二段階上のものもある。店出しの商品でこれなのだから、裏には名剣と称されるようなものさえあるかもしれない。
他国と小競り合いが続いている南側に対して、北側はつい最近戦争が終わったばかり。それでもここまで良質なものが揃っているのは、街としての基盤が南側よりも上ということかもしれない。
正直、店出しの商品を見ているだけでも楽しい。良品に出会ったときはじっくり見るのだが、こうも良品ばかりだと新しいものを視界に入れようと躍起になってしまい、流し見のようになってしまう。
そうして店主の近くまで来た時に、彼は口を開いた。
「兄ちゃん、遠くから来たのかい?」
「え? あ、はい、そうです。南のサリアの街から来ました」
「サリア? へえ、そりゃあわざわざ遠くからお疲れさん。で、どうだいウチの品ぞろえは? 他とは比べ物にならないほど質が高いのが売りなんだが」
店主の言うことは紛れもない事実だし、俺が思っていた事なのではっきりと頷く。
「正直驚きました。ここまで良いなんて」
俺の言葉に、ニヤリと笑った店主の顔が印象的だった。
「戦争が終わってから領民の暮らし向きは良くなっているからな。昔は辛い時期もあったんだが、最近はどこも羽振りがいいから楽しめると思うぜ」
「そうなんですね、ありがとうございます。そういえば代替わりされた当主様が戦争を終わらせたんでしたっけ?」
これもいい機会かと思い、シアの事を尋ねてみることにした。この街に来て少ししか経っていないが、見ているだけで活気づいているので否定的な意見が出ないことは分かっていたけど。
「あぁ、レティシア様のお陰だぜ。正直、かなり長い事戦争をしていたから皆飽き飽きしていたんだ。俺の店なんかは儲かるけど、それで人が傷ついたり、最悪死んだりするって言うのは少し気分悪いからな……」
「なるほど……そうなんですね」
「戦争が終わったあとは税も少しだけ安くなったし、レティシア様、様様だよ、本当」
シアは南だけでなく、北でも好感を持たれていた。そのことに少しだけ誇らしい気持ちになり、自然と笑顔になる。それにしても普段俺はシアと呼ぶために、こうしてレティシア様と聞くのはなんだか新鮮だ。同じ人なのに違う人のように思えてしまうのがちょっとだけ可笑しかった。
武器屋の店主とはその後も少しだけ話をした。最近の街の様子やこの街の有名なお土産など世間話が主だったが、サリアの街の人と同じく付き合いやすい人だった。
何も買わなかったものの笑顔で見送ってくれた武器屋を後にして、俺はノーザンプションの街を観光した。別の店の店主やたまたま隣に来た家族連れと話をしても皆が笑顔だった。そしてシアについて話を聞けば、皆が皆彼女を称賛していた。
ある程度、街の観光を終える頃には「本当に凄いな。シアは」という思いでいっぱいだった。
ふと、そういえばターニャからお土産をせびられていたっけ、と思い出した。
どうせノーザンプションの街に行くなら、お土産を買ってきてくれると嬉しいんですけどー、とチラチラと視線を向けてくる彼女の様子を思い返す。武器屋のおっちゃんからもミルキーウェイの菓子が有名だということを聞いていたので、それを買って帰るとしよう。
俺がシアについて聞いて回っている間に、俺の屋敷に帰って仕事をしてくれている彼女へのご褒美にもなるだろうし。
確か大通りの曲がり角って言っていたから、きっとここら辺にあるはず、と思って歩けば、ちょうど角を曲がったところで店入り口の扉から伸びる列に行きついた。噂の通り大人気なお店らしく、多くの人が並んでいるようだ。
長い列に並ぶのは憚られたものの特に用事があるわけでもないので、列に並ぶことにした。
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