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第1章 宿敵の家の当主を妻に貰うまで
第31話 消えたシア
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金色の光の向こうは父上の屋敷で、時間帯が夕暮れ時なこともあって、そこには誰もいなかった。俺はシアの手を引いて屋敷の裏手に回る。人影なんてまるで感じられない、けど人の手は入ってる道を進めば、草木に囲まれた墓が一つ現れる。
「ノヴァさんが言っていた、会わせたい人って……」
「あぁ、俺の実の母親だよ」
墓石に掘られている名前は「セリア・フォルス」。幼い頃に病死した、俺の母だ。
墓前でしゃがんで俺は手を合わせる。隣にいるシアも、同じように手を合わせてくれた。
心の中で、母に話す。最近あったこと。急に縁談を申し込まれて驚いたけど、その相手がシアだったことや、彼女について色々なことを知ったということ。オーロラちゃんやユティさんのこと。
長く話したけど、そのほとんどがシアに関することばかりだった。
「…………」
墓前に心の中で語り掛ける俺の隣で、シアはただ黙っていてくれた。けれど穏やかに微笑んでいるのは見なくても分かっていた。
立ち上がり、シアの方に目を向ければ、彼女は思った通り微笑んでいた。
「ありがとう、シア。手を合わせてくれて」
「いえ……ノヴァさんのお母様、どんな人だったんですか?」
優しい母の姿を思い起こしながら、シアに話す。
「病弱でベッドにいることがほとんどだったけど、俺に色んな大切なことを教えてくれた。人の事を悪くは言わなかったし、本当に優しい人だったよ。
でも、争いのある世界だけは嫌いだってずっと言ってた。俺が覇気が全然使えなくて苦しんでいるのをずっと心配しててさ。それで覇気が必要になる争いや戦争なんてなくなれば良いって」
「……そうだったんですね」
「だからシアには感謝してる。母上が望んだ世界を、作ってくれたようなものだから」
今、この国を襲っていた戦争はなくなった。他ならぬ彼女のお陰で。もしも母上が生きていたらきっと喜んだだろう。
感謝を伝えるとシアは微笑んだ。けどその微笑みは、どこか寂しそうに見えた。
「ノヴァさんの事を思ってくれて……理想的なお母様だったんですね……本当、うちとは大違い」
最後の一言が、やけに頭に残った。シア、ユティさん、オーロラちゃん。三人の姉妹には会ったけど、彼女達の母親には会ったことが一度もない。
「その……シアの……お母さんって……」
そう尋ねてみれば、シアは大きく息を吐いた。
「アークゲート家先代当主、エリザベート・アークゲート。当時、拮抗しつつあった南北の情勢において、北側の権威を大きく上げて、王族の覚えもめでたくした稀代の魔法使い。コールレイク帝国に魔女とまで呼ばれた女傑。それが対外的な母の評価です」
でも、とシアは目を伏せる。
「あの人に家族愛なんてものはありません。全てはアークゲートが上に立つための捨て石。魔法の深淵を見るための生贄に過ぎません。そういった意味では恐ろしい魔女でした。姉妹も娘も夫も、誰もかれもが母を恐れていましたから」
思っていた通りの、いやそれ以上の母親像が出てきて俺は絶句した。
「何もかもを自分の思い通りにしていました。逆らうものがいれば、邪魔するものがいれば、容赦なく切り捨てていました。あの人にとって、自分というもの以外はどうでもよかったんです。それが許されるだけの強大な力が、母にはありました」
「……力が……全ての人だったんだね」
シアが語る母親像からは冷たさを感じた。同時にシアが味わってきた辛さや苦しさも、十分すぎるくらい伝わってきた。
「優先順位があったんだと思います。魔法が、アークゲート家が一番でそれ以外はどうでもいい。だから容赦なく暴君のように振舞って、そして最後……に……は……」
途切れていくシアの言葉に、俺はどうしたのかと彼女に目を向ける。直立した状態で目を合わせた筈だった。
けどシアの瞳は小刻みに揺れていて、その目は俺ではない何かを見ていた。
「あっ……」
何かに気づいたような声だと思うよりも早く、シアが口を開く。
「私も……同じ……」
「シア?」
呼びかければ、灰色の瞳が俺を見た。いつかの雪の日と同じように、迷って行き場をなくした瞳だった。
「っ!」
「シアっ!」
俺の制止の声を無視して、シアはゲートの魔法を使ったのかその中に駆けこんでいく。その後を追おうとしたけど、俺が足を踏み入れるよりも早くゲートは閉じてしまった。
夕日が落ちて暗くなりつつある空に、金色の光がただ消えていく。
「シア!? シア!」
名前を呼ぶけど、返ってくる言葉はない。急に、シアが消えた。俺の前からいなくなった。
「ノヴァさんが言っていた、会わせたい人って……」
「あぁ、俺の実の母親だよ」
墓石に掘られている名前は「セリア・フォルス」。幼い頃に病死した、俺の母だ。
墓前でしゃがんで俺は手を合わせる。隣にいるシアも、同じように手を合わせてくれた。
心の中で、母に話す。最近あったこと。急に縁談を申し込まれて驚いたけど、その相手がシアだったことや、彼女について色々なことを知ったということ。オーロラちゃんやユティさんのこと。
長く話したけど、そのほとんどがシアに関することばかりだった。
「…………」
墓前に心の中で語り掛ける俺の隣で、シアはただ黙っていてくれた。けれど穏やかに微笑んでいるのは見なくても分かっていた。
立ち上がり、シアの方に目を向ければ、彼女は思った通り微笑んでいた。
「ありがとう、シア。手を合わせてくれて」
「いえ……ノヴァさんのお母様、どんな人だったんですか?」
優しい母の姿を思い起こしながら、シアに話す。
「病弱でベッドにいることがほとんどだったけど、俺に色んな大切なことを教えてくれた。人の事を悪くは言わなかったし、本当に優しい人だったよ。
でも、争いのある世界だけは嫌いだってずっと言ってた。俺が覇気が全然使えなくて苦しんでいるのをずっと心配しててさ。それで覇気が必要になる争いや戦争なんてなくなれば良いって」
「……そうだったんですね」
「だからシアには感謝してる。母上が望んだ世界を、作ってくれたようなものだから」
今、この国を襲っていた戦争はなくなった。他ならぬ彼女のお陰で。もしも母上が生きていたらきっと喜んだだろう。
感謝を伝えるとシアは微笑んだ。けどその微笑みは、どこか寂しそうに見えた。
「ノヴァさんの事を思ってくれて……理想的なお母様だったんですね……本当、うちとは大違い」
最後の一言が、やけに頭に残った。シア、ユティさん、オーロラちゃん。三人の姉妹には会ったけど、彼女達の母親には会ったことが一度もない。
「その……シアの……お母さんって……」
そう尋ねてみれば、シアは大きく息を吐いた。
「アークゲート家先代当主、エリザベート・アークゲート。当時、拮抗しつつあった南北の情勢において、北側の権威を大きく上げて、王族の覚えもめでたくした稀代の魔法使い。コールレイク帝国に魔女とまで呼ばれた女傑。それが対外的な母の評価です」
でも、とシアは目を伏せる。
「あの人に家族愛なんてものはありません。全てはアークゲートが上に立つための捨て石。魔法の深淵を見るための生贄に過ぎません。そういった意味では恐ろしい魔女でした。姉妹も娘も夫も、誰もかれもが母を恐れていましたから」
思っていた通りの、いやそれ以上の母親像が出てきて俺は絶句した。
「何もかもを自分の思い通りにしていました。逆らうものがいれば、邪魔するものがいれば、容赦なく切り捨てていました。あの人にとって、自分というもの以外はどうでもよかったんです。それが許されるだけの強大な力が、母にはありました」
「……力が……全ての人だったんだね」
シアが語る母親像からは冷たさを感じた。同時にシアが味わってきた辛さや苦しさも、十分すぎるくらい伝わってきた。
「優先順位があったんだと思います。魔法が、アークゲート家が一番でそれ以外はどうでもいい。だから容赦なく暴君のように振舞って、そして最後……に……は……」
途切れていくシアの言葉に、俺はどうしたのかと彼女に目を向ける。直立した状態で目を合わせた筈だった。
けどシアの瞳は小刻みに揺れていて、その目は俺ではない何かを見ていた。
「あっ……」
何かに気づいたような声だと思うよりも早く、シアが口を開く。
「私も……同じ……」
「シア?」
呼びかければ、灰色の瞳が俺を見た。いつかの雪の日と同じように、迷って行き場をなくした瞳だった。
「っ!」
「シアっ!」
俺の制止の声を無視して、シアはゲートの魔法を使ったのかその中に駆けこんでいく。その後を追おうとしたけど、俺が足を踏み入れるよりも早くゲートは閉じてしまった。
夕日が落ちて暗くなりつつある空に、金色の光がただ消えていく。
「シア!? シア!」
名前を呼ぶけど、返ってくる言葉はない。急に、シアが消えた。俺の前からいなくなった。
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