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第1章 宿敵の家の当主を妻に貰うまで
第36話 それからと、フォルス家への挨拶
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それからすぐに、俺達は結婚して夫婦になった。シアはシア・アークゲートからシア・フォルス・アークゲートという名前に変わった。こんな風に3つの名前を持つのはとても珍しいことだけど、シアの場合は仕方がない事らしい。
それなら俺がアークゲート家に婿入りしてもいいって言ったんだけど、強く拒絶されてしまった。だから俺の名前は依然としてノヴァ・フォルスのままだ。
シアと夫婦になったことは、国中に広がっていた。縁談話ならともかく、北のアークゲート家と南のフォルス家の間での結婚は歴史上初。噂になるのも当然だろう。
ただ、外に出てもその噂を耳にすることや、直接何かを聞かれることはない。ターニャ曰く、国内の最大武力派閥の2つに関することを声高に噂するわけないでしょう、とのこと。そういうものらしい。
ところで、ユティさんやオーロラちゃんには籍を入れたことを報告した。ユティさんは表情を変えなかったものの祝福の言葉をかけてくれたし、オーロラちゃんは飛び上がって喜んでくれたのは嬉しかったかな。
俺の屋敷を見上げて、小さく息を吐く。夫婦になったことで、シアはこの屋敷に住むことになった。アークゲート家と比べるとまるで犬小屋のような小さな屋敷で本当に申し訳ないけど、シアは喜んでくれていた。
部屋の準備に時間がかかるかと思ったけど、物を動かすのに適した魔法があるらしく、シアはそれを使ってどんどん部屋の模様替えをしていた。手伝いに来た使用人たちが手持無沙汰で困っていたくらいだ。
屋敷の中から準備を終えたシアが出てくる。これから俺達は、父上の屋敷に向かう。
アークゲート家には入籍を報告したけど、他にも報告しないといけない人たちがいる。俺の父上や兄上達だ。父上には事前に話をして、父上の屋敷に兄上達は集まってもらっている。流石にシアの前で何かをしてくることはないと思うけど、少しだけ不安ではある。
「お待たせしました。ではノヴァさんのお父様やお兄様に報告しに行きますか」
微笑むシアに緊張しながら頷き返して、俺は彼女の手を取る。こうしなくてもゲートは渡れるけど、手を繋ぐのが俺たちの中での暗黙の決まりになっていた。でも毎回シアはピクリとだけ反応するから、少しおかしく感じる。
そうして俺達は二人並んで、金色の光の中へ足を踏み入れた。
×××
屋敷の入り口にはローエンさんが待っていた。彼の後には屋敷に続く道の左右にメイド達が控えている。ローエンさんは深く深く頭を下げて、俺達を迎え入れてくれた。
「お待ちしておりました、ノヴァ様、レティシア様。旦那様とゼロード様、カイラス様は応接間でお待ちです」
「ありがとう、ローエンさん」
俺の言葉を聞いてローエンさんは手で屋敷を指し示しながら歩き始める。俺達が歩くに従って、道の脇に控えたメイド達が緊張した面持ちで頭を下げていく。今まで俺を出来損ないだと裏で蔑んでいた使用人たちがそういった反応をするのに、ほんの少しだけど心がすっきりとした。
そしてそんなメイド達の列の一番奥に小さな少女の姿があった。灰色の髪をしたオーロラちゃんくらいのメイドの子、ソニアちゃんだ。
彼女は深くお辞儀をしたものの頭をあげ、俺をキラキラとした目で見た。
「あ、あの……ノヴァ様……ですよね?」
「こらソニア、なんて失礼な――」
「いや、大丈夫」
ローエンさんの声を制止して、俺は膝をついてソニアちゃんと目線を合わせる。彼女と会うのは二回目だけど、初めて会ったときはすぐに街に行ってしまった。だからこうして顔を合わせて話すのは初めてだ。ソニアちゃんの蒼い瞳が、まっすぐに輝いて俺を見つめていた。
「あの……ありがとうございました! ローエンさんからお話を聞いて、ノヴァさんが助けてくれたと……」
「……ローエンさん」
チラリと目線を向けると、白髪交じりの執事は困ったように苦笑いした。
「しつこく聞かれまして……つい……」
ローエンさんは父上の事しか頭にない厳格な執事だと思っていたけれど、ひょっとしたらソニアちゃんのような小さな子には弱いのかもしれない。
「元気そうでよかったよ。仕事、大変だと思うけど、頑張ってね」
そう声をかけると、ソニアちゃんは両手の拳を強く握りしめた。
「はい!」
「ノヴァ様……そろそろ……」
ローエンに促されて、キラキラとした目で俺を見るソニアちゃんに微笑みかけて俺達は屋敷の中へ入っていく。後ろに続くシアも笑顔でソニアちゃんに手を振っているのが見えた。
俺達はそのまま、屋敷の応接間へと案内される。扉の脇に控えたローエンさんにもう一度感謝の言葉を伝えて、俺は扉を開いた。
客人を迎える応接間に、父上たちはいた。けど彼らは椅子に座ることなく、立っていた。シアの影響なのか三人とも顔色はあまり良くない。
「こ、このたびは結婚おめでとうノヴァ……レ、レティシア様、あなたのような素晴らしい方がフォルス家の一員となることを、当主として、とても喜ばしく思います……」
「父上、ありがとうございます」
「ありがとうございます、トラヴィス様」
内心はどう思っているか分からないが、父上は祝福してくれた。けどゼロードの兄上は俺の事を睨みつけているし、カイラスの兄上はシアのことを警戒する目でじっと観察している。
彼らが俺とシアの結婚を心から祝福していないのがよく分かった。でも、それがどうしたというんだ。俺は家のためにシアと結婚したわけじゃない。シアと一緒に穏やかな日々を送りたいから、彼女を支えたいから、そうしたんだ。
俺は拳を強く握って、剣で戦ったときと同じようにゼロードの兄上を睨み返した。
それなら俺がアークゲート家に婿入りしてもいいって言ったんだけど、強く拒絶されてしまった。だから俺の名前は依然としてノヴァ・フォルスのままだ。
シアと夫婦になったことは、国中に広がっていた。縁談話ならともかく、北のアークゲート家と南のフォルス家の間での結婚は歴史上初。噂になるのも当然だろう。
ただ、外に出てもその噂を耳にすることや、直接何かを聞かれることはない。ターニャ曰く、国内の最大武力派閥の2つに関することを声高に噂するわけないでしょう、とのこと。そういうものらしい。
ところで、ユティさんやオーロラちゃんには籍を入れたことを報告した。ユティさんは表情を変えなかったものの祝福の言葉をかけてくれたし、オーロラちゃんは飛び上がって喜んでくれたのは嬉しかったかな。
俺の屋敷を見上げて、小さく息を吐く。夫婦になったことで、シアはこの屋敷に住むことになった。アークゲート家と比べるとまるで犬小屋のような小さな屋敷で本当に申し訳ないけど、シアは喜んでくれていた。
部屋の準備に時間がかかるかと思ったけど、物を動かすのに適した魔法があるらしく、シアはそれを使ってどんどん部屋の模様替えをしていた。手伝いに来た使用人たちが手持無沙汰で困っていたくらいだ。
屋敷の中から準備を終えたシアが出てくる。これから俺達は、父上の屋敷に向かう。
アークゲート家には入籍を報告したけど、他にも報告しないといけない人たちがいる。俺の父上や兄上達だ。父上には事前に話をして、父上の屋敷に兄上達は集まってもらっている。流石にシアの前で何かをしてくることはないと思うけど、少しだけ不安ではある。
「お待たせしました。ではノヴァさんのお父様やお兄様に報告しに行きますか」
微笑むシアに緊張しながら頷き返して、俺は彼女の手を取る。こうしなくてもゲートは渡れるけど、手を繋ぐのが俺たちの中での暗黙の決まりになっていた。でも毎回シアはピクリとだけ反応するから、少しおかしく感じる。
そうして俺達は二人並んで、金色の光の中へ足を踏み入れた。
×××
屋敷の入り口にはローエンさんが待っていた。彼の後には屋敷に続く道の左右にメイド達が控えている。ローエンさんは深く深く頭を下げて、俺達を迎え入れてくれた。
「お待ちしておりました、ノヴァ様、レティシア様。旦那様とゼロード様、カイラス様は応接間でお待ちです」
「ありがとう、ローエンさん」
俺の言葉を聞いてローエンさんは手で屋敷を指し示しながら歩き始める。俺達が歩くに従って、道の脇に控えたメイド達が緊張した面持ちで頭を下げていく。今まで俺を出来損ないだと裏で蔑んでいた使用人たちがそういった反応をするのに、ほんの少しだけど心がすっきりとした。
そしてそんなメイド達の列の一番奥に小さな少女の姿があった。灰色の髪をしたオーロラちゃんくらいのメイドの子、ソニアちゃんだ。
彼女は深くお辞儀をしたものの頭をあげ、俺をキラキラとした目で見た。
「あ、あの……ノヴァ様……ですよね?」
「こらソニア、なんて失礼な――」
「いや、大丈夫」
ローエンさんの声を制止して、俺は膝をついてソニアちゃんと目線を合わせる。彼女と会うのは二回目だけど、初めて会ったときはすぐに街に行ってしまった。だからこうして顔を合わせて話すのは初めてだ。ソニアちゃんの蒼い瞳が、まっすぐに輝いて俺を見つめていた。
「あの……ありがとうございました! ローエンさんからお話を聞いて、ノヴァさんが助けてくれたと……」
「……ローエンさん」
チラリと目線を向けると、白髪交じりの執事は困ったように苦笑いした。
「しつこく聞かれまして……つい……」
ローエンさんは父上の事しか頭にない厳格な執事だと思っていたけれど、ひょっとしたらソニアちゃんのような小さな子には弱いのかもしれない。
「元気そうでよかったよ。仕事、大変だと思うけど、頑張ってね」
そう声をかけると、ソニアちゃんは両手の拳を強く握りしめた。
「はい!」
「ノヴァ様……そろそろ……」
ローエンに促されて、キラキラとした目で俺を見るソニアちゃんに微笑みかけて俺達は屋敷の中へ入っていく。後ろに続くシアも笑顔でソニアちゃんに手を振っているのが見えた。
俺達はそのまま、屋敷の応接間へと案内される。扉の脇に控えたローエンさんにもう一度感謝の言葉を伝えて、俺は扉を開いた。
客人を迎える応接間に、父上たちはいた。けど彼らは椅子に座ることなく、立っていた。シアの影響なのか三人とも顔色はあまり良くない。
「こ、このたびは結婚おめでとうノヴァ……レ、レティシア様、あなたのような素晴らしい方がフォルス家の一員となることを、当主として、とても喜ばしく思います……」
「父上、ありがとうございます」
「ありがとうございます、トラヴィス様」
内心はどう思っているか分からないが、父上は祝福してくれた。けどゼロードの兄上は俺の事を睨みつけているし、カイラスの兄上はシアのことを警戒する目でじっと観察している。
彼らが俺とシアの結婚を心から祝福していないのがよく分かった。でも、それがどうしたというんだ。俺は家のためにシアと結婚したわけじゃない。シアと一緒に穏やかな日々を送りたいから、彼女を支えたいから、そうしたんだ。
俺は拳を強く握って、剣で戦ったときと同じようにゼロードの兄上を睨み返した。
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