37 / 237
第1章 宿敵の家の当主を妻に貰うまで
第37話 宿敵の家の当主を妻に貰いました
しおりを挟む
トラヴィス・フォルス、ゼロード・フォルス、カイラス・フォルス。
目の前に並ぶのは三人の愚か者。ちらりと視線を向ければ、その中でも最も愚かなゼロードに果敢に睨み返すノヴァさん。
ノヴァさんと籍を入れた後、フォルス家への報告のために屋敷を訪れましたが、ノヴァさんを睨みつけるし、私を警戒する目で見るし、本当に救いようがない人達です。
カイラスのように警戒するなら相手にバレないようにしなくてはなりませんし、ゼロードのように相手を睨みつけるなんて論外も良いところ。
そもそも私が魔力を意図的に抑えなければ、彼らはこの場で立っていることすら叶わないのに。
「……おめでとう、ノヴァ」
「……めでたいな、ノヴァ」
先ほどのトラヴィスの祝福の言葉に続いてゼロードとカイラスの二人が祝福の言葉をかけますが、彼らの表情は祝福とは程遠いです。本当、ノヴァさんはよくこんな劣悪な環境で過ごせたなと思います。
正直、偽りの笑顔を浮かべているのにも疲れてきました。本当にくだらないですし、全てが取るに足りません。
下のものには強く当たり、上のものには媚びへつらうトラヴィスも、弱者を蹂躙することに悦びを覚えているゼロードも、慎重すぎて何の面白味もないカイラスも、皆が皆ノヴァさんを下に見ています。
でも、今は嘲り笑っていればいい。取るに足らない存在だと思っていればいい。
いつかきっと、ノヴァさんは今の平和が続いた先にある平穏な世界を手にします。フォルス家の当主の座も、アークゲート家も、全てノヴァさんのものになるのですから。
他ならぬ私がそうするのですから。
×××
「それにしても、幼き日に出会った少女と再会し、その少女と結ばれるというのはなんとも運命的ですね」
「ターニャって、結構そういうの好きだよね」
「恋愛小説のような恋愛をされると、見ている側としても楽しめました」
俺の屋敷の執務室でコーヒーを淹れてもらいながら、ターニャとそんな何気ない話をする。執務室と言っても相変わらず仕事の量は片手で数えるほどしかなくて、ただ座っている時間の方が多いけど。要は暇なんです。
「レティシア様……いえ、奥様には色々と助けられました。特にゼロードの言葉には常々うんざりしていましたから」
シアと籍を入れてから、ターニャはシアの事を奥様と呼び始めた。ちなみに俺の事はノヴァ様から旦那様に呼び方が変わっていた。これまで通りノヴァで良いって言ったんだけど、断固として聞き入れなかった。
いえ、ここら辺はきっちりしないと……いえ、したいんです! と強く言われたので、断ることも出来なかった。ただ呼び方が変わっても、次の日にはターニャは慣れたように俺を旦那様と呼んでいた。変わったのは呼び方だけで関係は変わらないから、どっちでもいいかと思った。
「ああ、ターニャの後ろ盾みたいな感じになってくれてたんだよね。シアには頭が上がらないなぁ……っていうか、俺の前ではいいけどゼロードの兄上の前では気を付けてよ」
心から忌々しそうにそう呟くターニャを見て、以前実家の中庭でゼロードの兄上と会ったときのことを思い出した。稽古と評して俺を痛めつけていたこともあるけど、あのときのターニャは取り付く島もない感じだったからなぁ。
これまでに比べれば良い変化だとは思うけど。
「むしろ名前を呼んでいるだけでもありがたいと思ってほしいくらいです。あの猿――失礼、ゼロードの事は大嫌いですので」
「言うなぁ……」
ついに人間として認めなくなったけど、俺の前でくらいは素で話せるようになったのは良いことかもしれない。昔はそれすらできなかったから。
そう考えると、シアには感謝しかない。
「本当……俺にはもったいないくらい良い人だよ……シアは」
「……まあ、あの方が凄いのは言うまでもありませんが」
「そうだよなぁ……可憐で儚くて……」
夜を映すような黒髪に、低い身長。そして折れそうなほど細い体。姿を思い浮かべるだけで、愛情が芽生えてくる。
「可憐で……儚い?」
「優しいし、賢いし」
サリアの街で子供達に笑いかけていた時や、オーロラちゃんと話しているとき、それに色々と俺の事も考えてくれて、本当に優しい性格だと思う。賢いのは言うまでもないだろう。きっと俺なんかよりも色々なことを知ってそうだ。
「賢いは分かりますけど……優しい?」
外見も内面も、非の打ちどころがない。それにあの路地裏での出来事も思い返して、幸福で思わず微笑んでしまう。
「可愛いし……最高の嫁さんってことだなぁ」
俺にはもったいないくらいの人を貰ったと、心からそう思う。
「…………」
しかしターニャは黙ってしまった。彼女の方を見てみると、口をキュッと結んで、何かを言いたげに俺を見ていた。
「旦那様……奥様のそれは、旦那様に対してだけです」
「いや、そんなことないでしょ」
どうも俺の専属従者はシアの事を勘違いしているらしい。けどシアもこの屋敷に住むことになるし、ターニャとの接点も増えるだろう。彼女が勘違いに気づくのも時間の問題だなと思った。
目の前に並ぶのは三人の愚か者。ちらりと視線を向ければ、その中でも最も愚かなゼロードに果敢に睨み返すノヴァさん。
ノヴァさんと籍を入れた後、フォルス家への報告のために屋敷を訪れましたが、ノヴァさんを睨みつけるし、私を警戒する目で見るし、本当に救いようがない人達です。
カイラスのように警戒するなら相手にバレないようにしなくてはなりませんし、ゼロードのように相手を睨みつけるなんて論外も良いところ。
そもそも私が魔力を意図的に抑えなければ、彼らはこの場で立っていることすら叶わないのに。
「……おめでとう、ノヴァ」
「……めでたいな、ノヴァ」
先ほどのトラヴィスの祝福の言葉に続いてゼロードとカイラスの二人が祝福の言葉をかけますが、彼らの表情は祝福とは程遠いです。本当、ノヴァさんはよくこんな劣悪な環境で過ごせたなと思います。
正直、偽りの笑顔を浮かべているのにも疲れてきました。本当にくだらないですし、全てが取るに足りません。
下のものには強く当たり、上のものには媚びへつらうトラヴィスも、弱者を蹂躙することに悦びを覚えているゼロードも、慎重すぎて何の面白味もないカイラスも、皆が皆ノヴァさんを下に見ています。
でも、今は嘲り笑っていればいい。取るに足らない存在だと思っていればいい。
いつかきっと、ノヴァさんは今の平和が続いた先にある平穏な世界を手にします。フォルス家の当主の座も、アークゲート家も、全てノヴァさんのものになるのですから。
他ならぬ私がそうするのですから。
×××
「それにしても、幼き日に出会った少女と再会し、その少女と結ばれるというのはなんとも運命的ですね」
「ターニャって、結構そういうの好きだよね」
「恋愛小説のような恋愛をされると、見ている側としても楽しめました」
俺の屋敷の執務室でコーヒーを淹れてもらいながら、ターニャとそんな何気ない話をする。執務室と言っても相変わらず仕事の量は片手で数えるほどしかなくて、ただ座っている時間の方が多いけど。要は暇なんです。
「レティシア様……いえ、奥様には色々と助けられました。特にゼロードの言葉には常々うんざりしていましたから」
シアと籍を入れてから、ターニャはシアの事を奥様と呼び始めた。ちなみに俺の事はノヴァ様から旦那様に呼び方が変わっていた。これまで通りノヴァで良いって言ったんだけど、断固として聞き入れなかった。
いえ、ここら辺はきっちりしないと……いえ、したいんです! と強く言われたので、断ることも出来なかった。ただ呼び方が変わっても、次の日にはターニャは慣れたように俺を旦那様と呼んでいた。変わったのは呼び方だけで関係は変わらないから、どっちでもいいかと思った。
「ああ、ターニャの後ろ盾みたいな感じになってくれてたんだよね。シアには頭が上がらないなぁ……っていうか、俺の前ではいいけどゼロードの兄上の前では気を付けてよ」
心から忌々しそうにそう呟くターニャを見て、以前実家の中庭でゼロードの兄上と会ったときのことを思い出した。稽古と評して俺を痛めつけていたこともあるけど、あのときのターニャは取り付く島もない感じだったからなぁ。
これまでに比べれば良い変化だとは思うけど。
「むしろ名前を呼んでいるだけでもありがたいと思ってほしいくらいです。あの猿――失礼、ゼロードの事は大嫌いですので」
「言うなぁ……」
ついに人間として認めなくなったけど、俺の前でくらいは素で話せるようになったのは良いことかもしれない。昔はそれすらできなかったから。
そう考えると、シアには感謝しかない。
「本当……俺にはもったいないくらい良い人だよ……シアは」
「……まあ、あの方が凄いのは言うまでもありませんが」
「そうだよなぁ……可憐で儚くて……」
夜を映すような黒髪に、低い身長。そして折れそうなほど細い体。姿を思い浮かべるだけで、愛情が芽生えてくる。
「可憐で……儚い?」
「優しいし、賢いし」
サリアの街で子供達に笑いかけていた時や、オーロラちゃんと話しているとき、それに色々と俺の事も考えてくれて、本当に優しい性格だと思う。賢いのは言うまでもないだろう。きっと俺なんかよりも色々なことを知ってそうだ。
「賢いは分かりますけど……優しい?」
外見も内面も、非の打ちどころがない。それにあの路地裏での出来事も思い返して、幸福で思わず微笑んでしまう。
「可愛いし……最高の嫁さんってことだなぁ」
俺にはもったいないくらいの人を貰ったと、心からそう思う。
「…………」
しかしターニャは黙ってしまった。彼女の方を見てみると、口をキュッと結んで、何かを言いたげに俺を見ていた。
「旦那様……奥様のそれは、旦那様に対してだけです」
「いや、そんなことないでしょ」
どうも俺の専属従者はシアの事を勘違いしているらしい。けどシアもこの屋敷に住むことになるし、ターニャとの接点も増えるだろう。彼女が勘違いに気づくのも時間の問題だなと思った。
218
あなたにおすすめの小説
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります
すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。
なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!
冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。
ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。
そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。
婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました
Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。
順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。
特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。
そんなアメリアに対し、オスカーは…
とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。
【完結】勘当されたい悪役は自由に生きる
雨野
恋愛
難病に罹り、15歳で人生を終えた私。
だが気がつくと、生前読んだ漫画の貴族で悪役に転生していた!?タイトルは忘れてしまったし、ラストまで読むことは出来なかったけど…確かこのキャラは、家を勘当され追放されたんじゃなかったっけ?
でも…手足は自由に動くし、ご飯は美味しく食べられる。すうっと深呼吸することだって出来る!!追放ったって殺される訳でもなし、貴族じゃなくなっても問題ないよね?むしろ私、庶民の生活のほうが大歓迎!!
ただ…私が転生したこのキャラ、セレスタン・ラサーニュ。悪役令息、男だったよね?どこからどう見ても女の身体なんですが。上に無いはずのモノがあり、下にあるはずのアレが無いんですが!?どうなってんのよ!!?
1話目はシリアスな感じですが、最終的にはほのぼの目指します。
ずっと病弱だったが故に、目に映る全てのものが輝いて見えるセレスタン。自分が変われば世界も変わる、私は…自由だ!!!
主人公は最初のうちは卑屈だったりしますが、次第に前向きに成長します。それまで見守っていただければと!
愛され主人公のつもりですが、逆ハーレムはありません。逆ハー風味はある。男装主人公なので、側から見るとBLカップルです。
予告なく痛々しい、残酷な描写あり。
サブタイトルに◼️が付いている話はシリアスになりがち。
小説家になろうさんでも掲載しております。そっちのほうが先行公開中。後書きなんかで、ちょいちょいネタ挟んでます。よろしければご覧ください。
こちらでは僅かに加筆&話が増えてたりします。
本編完結。番外編を順次公開していきます。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!
私の手からこぼれ落ちるもの
アズやっこ
恋愛
5歳の時、お父様が亡くなった。
優しくて私やお母様を愛してくれたお父様。私達は仲の良い家族だった。
でもそれは偽りだった。
お父様の書斎にあった手記を見た時、お父様の優しさも愛も、それはただの罪滅ぼしだった。
お父様が亡くなり侯爵家は叔父様に奪われた。侯爵家を追い出されたお母様は心を病んだ。
心を病んだお母様を助けたのは私ではなかった。
私の手からこぼれていくもの、そして最後は私もこぼれていく。
こぼれた私を救ってくれる人はいるのかしら…
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 作者独自の設定です。
❈ ざまぁはありません。
異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。
親友に恋人を奪われた俺は、姉の様に思っていた親友の父親の後妻を貰う事にしました。傷ついた二人の恋愛物語
石のやっさん
恋愛
同世代の輪から浮いていた和也は、村の権力者の息子正一より、とうとう、その輪のなから外されてしまった。幼馴染もかっての婚約者芽瑠も全員正一の物ので、そこに居場所が無いと悟った和也はそれを受け入れる事にした。
本来なら絶望的な状況の筈だが……和也の顔は笑っていた。
『勇者からの追放物』を書く時にに集めた資料を基に異世界でなくどこかの日本にありそうな架空な場所での物語を書いてみました。
「25周年アニバーサリーカップ」出展にあたり 主人公の年齢を25歳 ヒロインの年齢を30歳にしました。
カクヨムでカクヨムコン10に応募して中間突破した作品を加筆修正した作品です。
大きく物語は変わりませんが、所々、加筆修正が入ります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる