宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~

紗沙

文字の大きさ
46 / 237
第2章 宿敵の家の当主を妻に貰ってから

第46話 案ずる人

しおりを挟む
 部屋の主がいなくなった以上、俺がオーロラちゃんの部屋にいつまでもいるのは変だ。そう思ったのはリサさんも同じようで、俺と彼女は共に一階の屋敷入り口まで戻って来ていた。

「お嬢様の勉強が終わるまで待っているとのことでしたが、どこに行くんですか?」

「うーん、あんまり考えていなかったですね。剣を振れる場所があると良いんですが。もちろん木刀とかで構わないんですけど……流石にアークゲート家にはないですかね?」

「いえ、ありますよ」

 アークゲート家は魔法の名門だから剣の訓練所はないかと思ってたけど、リサさんはそれを否定した。左手を伸ばして、方向を指し示す。

「訓練所は分かりますか? そこに管理している人がいるので、言えば色々用意してくれるはずです。剣の訓練が出来る環境も整っているので」

「あ、そうなんですね。じゃあせっかくですし、行ってみます。場所は分かるので、大丈夫ですよ!」

「はい、楽しんでください! 私は少し仕事が残っているので、これで」

 ぺこりと頭を下げて、リサさんは小走りで走り去ってしまった。その背中を見送りながら、俺は振り返って訓練所を目指す。以前屋敷は案内してもらったから、場所はばっちりだ。

 ふと、向かう途中で前回シアとオーロラちゃんと過ごした中庭に目がいった。日も暮れ始めていて、夕日の明かりが窓から廊下に射しこんでいる。

「……あれ?」

 中庭を見ていると、備え付けられたベンチに座っている人影を見つけた。白髪交じりの女性のようだけど、さっき見たグレイスさんとは雰囲気が大きく違っている。
 俺はなんとなくそれが気になって、中庭への扉を開く。すると扉の音を聞いて、ベンチに座った女性はこちらを見た。眼鏡をかけた、ユティさんに似た雰囲気の人だった。

「あら……貴方はもしかすると、旦那様ですか?」

「えっと……はい、そうです」

 どうも旦那様と呼ばれるのはまだ慣れない。ターニャに言われるのは慣れたけど、アークゲート家の人に言われるのはなんというか、ちょっと畏れ多いものがあるというか。

「どうぞ……風が気持ち良いですよ」

「……あ、どうも」

 彼女に言われて俺は歩き、ベンチの隣に腰かける。風が気持ちいと言っていたけど、それは本当だった。強すぎない風に心地良さを感じる。

「初めまして、私はラプラス・キーパーと申します……長らくこのアークゲート家に勤めていましたが、今は隠居の身です」

「はぁ……」

 隠居と言ったけど、彼女はそこまで年老いているようには見えなかった。下手したら俺の屋敷にいるジルさんよりも若いのではないだろうか。
 そう思っていると顔に出ていたのか、ラプラスさんは微笑んだ。

「昔は当主の補佐をやっていたのですが、今のレティシア様は補佐など必要ありませんから」

 当主の補佐という言葉が頭の中で巡る。つまり彼女は、シアの母親に近い位置にいた人ということで。

「……そう……ですか」

 少しだけ心が陰ったけど、よくよく考えれば父上に仕えるローエンさんのような立ち位置ってことだ。彼女が幼いシアを傷つけたわけではないだろう。
 そう思って気持ちを落ち着かせていると、ラプラスさんは目じりを下げた。

「やはり、レティシア様からエリザベート様の事は聞いていますよね。すみません」

「……あなたが謝ることでは」

 実際、大貴族の当主と専属の使用人じゃ立場は大きく違う。例えば、ローエンさんが父上に対して意見を言うようなものだ。俺はともかく、ゼロードの兄上に対してでさえ、彼は強くは出れないだろう。
 ならきっと、アークゲート家のラプラスさんだって同じはずだ。

 いや、シアの話だとシアの母親はアークゲート家では恐れられていた存在だっていう話だし、今のフォルス家以上に上下関係も厳格だったのではないだろうか。
 だから、シアの母ならともかくラプラスさんが謝ることではないだろう。

「……昔の事を詳しく語るようなことは私には到底できません。ですが、お礼を述べさせてください。アークゲート家に来ていただいて、ありがとうございます」

「……いえ」

 けど、出てきた言葉は昼間も聞いたアークゲート家だった。結局この人も、昼間会ったティアラと同じなのかと思ったとき。

「旦那様が来たことで、レティシア様もユースティティア様も、オーロラ様も楽しそうです。本当にありがとうございます」

「……え?」

 ラプラスさんは俺の予想外の事を言ってきた。てっきり俺をアークゲートに来てくれた男として見てお礼を言っているだけだと思ったけど、どうやら違ったらしい。

「……オーロラ様は少し寂しがり屋で、まだまだ幼さが抜けません。ですが、旦那様の事を強く好いています。どうか、いっぱい褒めてあげてください」

「…………」

「ユースティティア様は感情が表に出にくいですし、部屋に籠りがちですが、旦那様には心を開いているように思えます。たまにでもいいので、一緒の時間を過ごしてあげてください」

「……ラプラスさん」

 彼女の話を聞いているうちに、この人は今日会ったティアラとは少し違うと思った。少なくとも、アークゲートという一括りでシア達を見ていないし、俺をアークゲート家の男だなんて言ったりはしない。

「……レティシア様は……時折酷い誤解を受ける方です。ですが、彼女は――」

「はい、分かっています。シアがどんな人なのかは、とても」

「そう……ですね……旦那様ほどレティシア様を良く知っている方もいないですね」

 なんだろうか。今日初めて会うのに、ラプラスさんの気持ちが不思議と分かる。彼女はシア達の事を案じているようだった。その姿は母親のようにも思えた。当然ではあるけど、シアから聞いた彼女の母親像とは全然違う。
 こんな人がシア達の母親なら、もっと良かったんだろうな。

 俺が見ていることに気づいたのか、ラプラスさんは微笑む。
 その微笑みは少しだけ寂しそうだ。

「……いけませんね。小さいころから三人を知っているので、どうしてもこんな話を。旦那様……これからも、よければアークゲート家に顔を出してください。レティシア様は勿論の事、ユースティティア様やオーロラ様も喜ぶはずです」

「……はい。結構頻繁に来ると思います」

「ありがとうございます」

 そう言って微笑むと、ラプラスさんは深く深く頭を下げた。
 しばらくしてから彼女は顔を上げる。同時に、少しだけ強い風が吹いた。

「寒くなってきましたね。ではそろそろここら辺で」

「はい……」

 そう言うと、ラプラスさんはもう一度俺に深く頭を下げて廊下の方へと歩いていってしまった。
 一介の使用人に過ぎないラプラスさんが、先代の当主や今の当主であるシア達に関することを話すことは出来ないだろう。

 でも今の彼女はシア達の事を深く気にかけているようだった。その姿からみるに、今日の昼に会ったティアラよりは年上だろう。長くアークゲート家に関わっているのに、ティアラと違ってシア達をちゃんと見てくれているのが嬉しかった。

 小さくなる背中を見送れば、日が落ち切る寸前まで来ていた。ノーザンプションは北の国だから冷える。俺も訓練所に近い方の扉へと歩き始めた。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

処理中です...