宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~

紗沙

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第2章 宿敵の家の当主を妻に貰ってから

第47話 見慣れない人と、訓練所にて

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 廊下に入ると、シアの魔法による温かさを感じた。以前シア達に教えてもらった訓練所に向かうために角を曲がったとき、廊下の少し先にこちらに歩いてくる女性の姿があった。

「…………」

「…………」

 突然の事に驚いたけど、向こうが頭を下げてきたので俺もお辞儀をする。頭を上げたときに相手の姿を見て、おやと思った。
 短く切りそろえた黒い髪に整った顔立ちをした女性は、すれ違おうとこちらに歩いてくる。この屋敷のメイドの服とは違う装いに、客人かな? なんて思って横顔を見た。灰色の片目が俺の視線の少し下を通り抜けて。

 ――!?

 全身の毛が逆立つような感じを覚えて、その場に立ち尽くす。振り返った時には女性は俺が曲がってきた角を曲がり終わるところで、見ているとすぐに視界からいなくなってしまった。

 ――なんだ、あの人

 すれ違うまでは何ともなかったのに、すれ違った瞬間に言葉では言い表せない何かを感じた。覇気を纏ったゼロードの兄上と同じような、ただ者ではないあの感じ。

「…………」

 少しだけあの女性の姿を思い出す。年齢はシアより少し上のように思えた。ユティさんと同じくらいかもしれない。それにあの灰色の瞳……彼女もアークゲート家の人間なのだろうか。それにしてはユティさんやシアからは感じたこともない雰囲気を感じたけど。

 少し気になるものの、俺は踵を返して最初の目的地である訓練所に向かう。両開きの扉の片方に手をかけて開けば、以前紹介してもらったときと同じ景色が迎えてくれた。すぐそばで座っていた女性が立ち上がり、驚いた声を上げる。

「……だ、旦那様!?」

「あ、こ、こんにちは……剣の訓練をしたいんですけど、出来ますかね?」

 視界に入るのはよく分からない機器や、魔法の訓練に使うであろうものばかり。木刀すら置いてなかったので聞いてみたけど、女性は何回も頷いた。

「はい、しまってありますので持ってきますね。木刀の他にお使いになりたいものはありますか?」

「うーん、とりあえず木刀だけで大丈夫です」

 他にどんな設備があるのか分からないので、とりあえずは木刀だけ借りることにする。少なくともそれさえあれば時間は潰せるし。

 俺の言葉を聞いた女性は頭を下げて部屋の奥へと走っていく。どうやら隣に器具を置いた部屋があるらしい。少し待ってみれば、木刀が多く入った樽を引きずるように女性が姿を現した。

「あ、だ、大丈夫です!」

 慌てて近寄ると、女性は息を吐いて額を拭った。アークゲート家は魔法の名家だから木刀なんて置いてないかもしれないって思っていたのに、まさかこんなに沢山出てくるなんて思わなかった。かなり重そうだし、この場で選んでしまった方が戻すのも楽だろう

「ひとつお借りしますね……えっと……」

 どれにしようかと伸ばした手が止まる。見える範囲だけでも、どの木刀もそれなりに使われている形跡があったから。
 適当に一つを手に取って樽から抜くと、刃の部分がボロボロだった。

「えっと……どれにしようかな……」

 木刀を戻して、また取り出してを何回か繰り返す。どの木刀も程度の違いはあれ、使い込まれていた。中にはボロボロで交換した方が良いのでは? と思ったものもあったくらいだ。

「じゃあ、これにします」

 その中でも比較的使い込まれていない木刀を手に取る。少し刀身の部分が傷んでいるけど、問題はないだろう。

「この部屋のどこでもお使いください。何かあれば仰っていただければ対応いたします」

「ありがとうございます、助かります……あ、戻すの手伝いますよ」

 お辞儀をして樽を戻そうとする女性。流石に彼女一人に任せるわけにはいかないので、木刀を壁に立てかけた。

「え? で、ですが……」

「大丈夫です。力だけはあるんで」

 木刀が入っているとはいえ、そこまで樽は重くなかった。両手で持ち上げて、俺は女性が出てきた隣の部屋へと向かう。壁の向こうは倉庫のようになっていて、魔法はもちろんのこと、剣の訓練にも使えそうな備品も並べられていた。

「魔法だけでなく、剣を使う人もいるんですか?」

「いえ、今はあまり。ここにある剣に関連するものは昔使われていたものなんです。かつては剣と魔法で戦うことも多かったので」

「そうなんですね」

 魔法を剣に纏わせて戦うといったことが出来るのかもしれない。今度シアに聞いてみよう。

 木刀入りの樽を戻した俺と女性は再び訓練所に戻って、広い空間に。かなり広いスペースで、存分に剣を振っても何かに当たることは無さそうだ。

「ふぅ……やるか」

 剣を握る手に力を入れて、俺は型の復習から始めた。



 ×××



 剣の型の確認に、本から得た型の確認。そしてゼロードの兄上を想像することによる仮想敵との戦闘に、俺がこれまで会った中で一番強い人を想像しての模擬戦。
 それらを終えて、俺は木刀を下ろした。少し暖かい訓練所で剣を振り続けたためか、かなりの汗をかいている。

「……見事でした、旦那様」

 後ろから声をかけられて振り返れば、先ほどの女性が俺を見て拍手をしていた。突然の事に戸惑うけど、拍手をしてくれているので頭を軽く下げる。

「あ、ありがとうございます」

「木刀一本であそこまで出来るのを見たのは本当に久しぶりです。とても良いものを見せてもらいました」

「な、なんか照れますね……」

 いつも通りに訓練しただけなんだけど、まさかこんなに褒めてくれるなんて思わなくて頭を掻いてしまう。

「今日はこれで終わりですか?」

「はい、そのつもりです」

「了解しました。それでは湯浴びはいかがですか?」

「え? いいんですか?」

 ちょうど汗に濡れた服が気持ち悪いと思っていたところだったから助かる。あ、でも。

「着替え持ってきていないんですよね」

 アークゲート家で剣を振るうってことが分かっていたら着替えを持ってきたんだけど、というか、もう少し加減をして汗をかかない程度に訓練すればよかったな。

「大丈夫ですよ。ここはアークゲート家。汚れた服を綺麗にする魔法だって、お手の物です」

 そう言って微笑む女性。そんなのもあるなんて、魔法っていうのはやっぱり便利だな。

「では、こちらです」

 そういって女性が指し示したのは、入口とは違う扉だった。木刀の入っていた樽の置いてあった場所とは反対側だ。
 そこに女性と一緒に向かうものの、彼女は扉の前で「あ」と呟いて止まった。

「ごめんなさい、ちょっとだけ待ってもらってもいいですか? 久しぶりに起動するので、ちゃんと動くか心配で」

「え? ああ、はい」

「すみません……」

 女性は扉を開けて中へと入っていってしまう。さっきの彼女が言うには、剣を使う人は最近はいなかったみたいだから、汗をかくような人もあまりいなかったのかもしれない。魔法って激しい運動ではないし。

 それにしても、と俺は振り返って木刀の入った樽があった準備室の方を見る。あそこに置かれていたものは木刀含めてかなり使い込まれていた。それこそ、俺の実家であるフォルス家とそこまで変わらないくらいには。

 この近くの図書室にも、魔法の本が一番多かったけど剣術に関する本も結構あったりした。昔は、剣も魔法も両立していたっていうことなのかもしれない。
 そんな事を思っていると目の前の扉が開いた。

「お待たせしました。久しぶりに動かしましたけど、大丈夫みたいです。どうぞ」

 女性に言われて俺は部屋の中に入る。目の前に広がった脱衣所を抜けて、装置のある場所まで案内してくれた。
 横開きの扉を開いて、中を見せてくれる。意外にも広くて、手狭な感じはなかった。

 使い方を教えてもらい、女性は脱衣所を出て行く。その際に、服が乾くまで少し時間がかかるので、脱衣所で待っていてくださいって言われた。その間はこちらをお使いくださいと差し出された吸水性のローブを見て、俺は苦笑いする。思った以上に至れり尽くせりだ。

 湯を浴びて汗を流し、さっぱりとした。



 ×××



 アークゲート家の魔法っていうのは本当に凄くて、湯を浴び終わって専用のローブに身を包んで湯冷めするのを待っていたら、先ほどの女性が服を持ってきてくれた。
 汗を吸ったはずの服は洗い立てのようになっていて、すぐに着ることが出来た。

 身も服も綺麗にした俺は脱衣所を後にする。扉を開けば、先ほどの女性が扉のすぐ近くで待っていた。その隣にはさっきまでいなかったメイドさんもいる。

「あ、あの……旦那様!」

「え、えっと……?」

 今日初めて会う人だ。きっと俺が湯を浴びている間に来たんだと思うけど、何かあったのだろうか?

「すみません、リサからこちらにいると伺いまして……どうか、ユースティティアお嬢様の件でお力をお貸しいただけないでしょうか?」

「……ユティさん?」

「はい……実はお嬢様はずっと部屋に籠りっぱなしでして、私達も困っているんです。一応生活できるだけの設備は室内にありますし、お食事も召し上がっているのですが……」

 どうやら前回来た時以上に大変な事態になっているらしい。目じりを下げるメイドさんからは本当に心配しているという気持ちが伝わってきた。

「そうなんですか……力になれるかは分かりませんが、やってみます」

「はい! お願いします!」

 ぱぁっと花が咲いたように笑顔になるメイドさん。案内するという彼女に従って、訓練所の入り口まで。

「使わせていただいて、ありがとうございました」

「いえ、旦那様ならいつでも大歓迎です。私はここの管理人でして、基本的にここにいるので、いつでもお越しください」

「そうでしたか、ありがとうございます」

 やっぱり思った通り、彼女はこの訓練所の管理人だったみたいだ。彼女に頭を下げて、俺はメイドさんと一緒にユティさんの部屋へと向かった。
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