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第2章 宿敵の家の当主を妻に貰ってから
第48話 ユティさんの部屋を片付ける
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「お嬢様! エマです! お嬢様ー!」
彼女の名前はどうやらエマさんというらしい。アークゲート家の使用人である彼女はユティさんの部屋の扉をノックするけど、返事はない。
やがて諦めたように彼女はため息をついて、俺に縋るような目を向けた。
「こんな感じで、呼びかけても反応がないんです。心配で心配で……」
「確かにそうですね……」
エマさんに場所を譲ってもらって、俺も扉をノックする。控えめなコンコンっという音を響かせて、部屋の中にいるユティさんに呼びかけた。
「ユティさん? 俺です、ノヴァです。いらっしゃいますか?」
『……ノヴァさん?』
しばらくしてからユティさんの声が聞こえて、俺はエマさんの方を見た。彼女は驚いたように目を見開いていたけど、ユティさんが反応してくれたことに少し安堵していた。
と思ったのも束の間、部屋の中から大きな音が響く。何かが倒れるような音だった。
「ユティさん? 大丈夫ですか?」
扉に声をかけたけど反応はない。けど少し待つとカチャリという鍵が開く音が聞こえて、扉が少しだけ開いた。
隙間から顔を出したのは、不思議そうな顔をしているユティさんだった。
「……ノヴァさん……どうして」
「それよりも大丈夫ですか? 大きな音が聞こえましたけど……」
「あ……積んでいた本にぶつかって倒してしまいまして」
「え!? 怪我は大丈夫ですか!?」
「あ、はい、どこも怪我していません」
ユティさんに怪我がなくて、とりあえずは一安心。俺は息を吐く。
「それなら良かったです……でもたまには部屋から出ないとだめですよ?
こちらのエマさんも心配していたんですから」
「…………」
少しだけ扉を開いて、俺の隣にいるエマさんを確認するユティさん。しかしすぐに、また扉の隙間を元に戻してしまった。
「すみません……」
「次からは気を付けてくださいね……あ、そうだ、本、今回も片付けるの手伝いましょうか?」
さっきユティさんが扉を少しだけ開けたときに部屋の中が見えたけど、前回片付けたときと同じ、いやそれ以上に本が乱雑に置かれていた。
忙しいのかなって思って提案すると、彼女は少しだけ目じりを下げた。
「ご迷惑じゃなければぜひお願いしたいのですが……良いでしょうか?」
「はい、大丈夫ですよ。部屋が綺麗になるの、結構好きなので」
昔から時間だけは有り余っていた。剣の稽古以外にすることと言えば部屋の掃除くらいで、そんな生活を送ってきたから掃除も好きになってしまった。
ユティさんは扉を開けて俺が入るためのスペースを作ってくれる。部屋に入ろうとしたところで、エマさんが声をかけてきた。
「旦那様、私は応援を呼んできますので、前回のようにある程度本を集めたら呼んでください。部屋の外で待機しています」
「了解しました」
そういえば前回も使用人の人たちは部屋に入ってこなかったことを思い出した。
廊下を小走りで駆けていくエマさんの背中を見送って部屋へと入る。中はなかなかに酷いありさまだった。
「……随分本が増えましたね」
開いたままの本があちらこちらにある。本の内容は色々だけど、歴史に関するものが多いかな。
「ちょっと調べることが多くてですね」
「……そんなに大変なんですか? なんなら、俺の方からシアに言いましょうか?」
ちょっと根を詰めすぎじゃないかと思ったけど、ユティさんは首を横に振った。
「いえ、好きでやっていることで当主様に命令されてではありません。なので……その……これからは少し気を付けます」
「分かりました」
心から申し訳なさそうなユティさんに言われれば、俺もそう返すしかない。前も思ったことだけど、ユティさんは集中すると周りが見えなくなるみたいだ。
「それじゃあ本のタイトルを言っていくので、ユティさんは引き続き仕事していてください」
「すみません、助かります」
そういって机に向かうユティさんを横目に、俺は本の整理を始める。今回は閉じている本と開いている本があるから、開いている本はそのページのまま裏返してタイトルを読み上げる。
必要ならそのページのまま戻して、不要なら畳んで小脇に。
そんな風に多くの本を前回と同じように必要なものと不要なものに分類していく。ある程度溜まったところで部屋の脇に持っていこうとしたら、派手に散らばった本の山を見つけた。
あぁ、きっとここを崩したんだなって思って、次はその山を分けていく。ユティさんと要るか要らないかのやりとりだけをしながら、不要な本の山が3つほど出来た。
「……エマさん、いらっしゃいますか?」
扉越しに声をかけると、外から控えめな声で「いますよー」という声が聞こえた。扉を開けて確認すると、前回ほどではないにせよ、多くの使用人の人達が集まってくれていた。
数の多さに少し驚いたけど、部屋の中から彼らに不要な本の山を渡していく。
部屋に戻って本を分類して、部屋の外にいるエマさん達に本の山を渡してを数回繰り返せば、散らばっていた部屋は見違えるほど綺麗になっていく。前回よりも多いかと思ったけど、実際には開いている本が多いからそう思っただけで、この前片付けたから数は少し減っていた。
全ての本の分類を終えて、最後の本の山をエマさんに渡す。
これで最後ですと告げると、彼女はすまなそうに頭を下げた。
「本当にすみません……前回に引き続き今回も旦那様にこのようなことをやらせてしまって……」
「いえ、片付けるの好きなので大丈夫ですよ」
それもあるし、頑張っているユティさんの助けになれているのが嬉しかった。
伝えると、エマさんはにっこりと微笑んで頭を下げた。
「もしよろしければ、時間があるときで構わないので今回のように本の整理を手伝って頂けると私達も助かりますし、お嬢様も喜ぶと思います」
「はい、こんなことでよければ、いくらでも」
「本当にありがとうございます」
エマさんとの会話も適当なところで切り上げて、俺は部屋の中にいるユティさんに声をかける。
「ユティさん、本の整理終わりましたよ。俺はそろそろ行きますね」
ピクリと反応したユティさんは振り返って俺を見て、そして部屋を見て目を見開いた。
「こんなに綺麗になるまで……ノヴァさん、本当にありがとうございます。これからは自分でも片付けられるように頑張ってみます……頑張って、はい」
「忙しいでしょうし、無理はしないでくださいね。こんなことでよければ、いくらでもお手伝いしますので」
「…………」
ユティさんの返事を待つけど、彼女はじっと俺を見つめてくるだけで言葉を発しない。
「……その、今度お互い時間があるときにゆっくりお話ししませんか? 私と話してもあまり面白くはないかもしれませんが……」
「そんなことないですよ。ぜひ……楽しみにしてます」
「……はい」
ユティさんの返事は静かだったけど、口角はほんの少しだけ上がっていて、喜んでくれているみたいだった。
「でも、無理は禁物ですからね。それに一日一回は部屋から出るようにしましょう」
「……善処……いえ、頑張ります」
「じゃあ、俺はこれで」
困ったように笑うユティさんに笑いかけて、俺は彼女の部屋を後にした。
彼女の名前はどうやらエマさんというらしい。アークゲート家の使用人である彼女はユティさんの部屋の扉をノックするけど、返事はない。
やがて諦めたように彼女はため息をついて、俺に縋るような目を向けた。
「こんな感じで、呼びかけても反応がないんです。心配で心配で……」
「確かにそうですね……」
エマさんに場所を譲ってもらって、俺も扉をノックする。控えめなコンコンっという音を響かせて、部屋の中にいるユティさんに呼びかけた。
「ユティさん? 俺です、ノヴァです。いらっしゃいますか?」
『……ノヴァさん?』
しばらくしてからユティさんの声が聞こえて、俺はエマさんの方を見た。彼女は驚いたように目を見開いていたけど、ユティさんが反応してくれたことに少し安堵していた。
と思ったのも束の間、部屋の中から大きな音が響く。何かが倒れるような音だった。
「ユティさん? 大丈夫ですか?」
扉に声をかけたけど反応はない。けど少し待つとカチャリという鍵が開く音が聞こえて、扉が少しだけ開いた。
隙間から顔を出したのは、不思議そうな顔をしているユティさんだった。
「……ノヴァさん……どうして」
「それよりも大丈夫ですか? 大きな音が聞こえましたけど……」
「あ……積んでいた本にぶつかって倒してしまいまして」
「え!? 怪我は大丈夫ですか!?」
「あ、はい、どこも怪我していません」
ユティさんに怪我がなくて、とりあえずは一安心。俺は息を吐く。
「それなら良かったです……でもたまには部屋から出ないとだめですよ?
こちらのエマさんも心配していたんですから」
「…………」
少しだけ扉を開いて、俺の隣にいるエマさんを確認するユティさん。しかしすぐに、また扉の隙間を元に戻してしまった。
「すみません……」
「次からは気を付けてくださいね……あ、そうだ、本、今回も片付けるの手伝いましょうか?」
さっきユティさんが扉を少しだけ開けたときに部屋の中が見えたけど、前回片付けたときと同じ、いやそれ以上に本が乱雑に置かれていた。
忙しいのかなって思って提案すると、彼女は少しだけ目じりを下げた。
「ご迷惑じゃなければぜひお願いしたいのですが……良いでしょうか?」
「はい、大丈夫ですよ。部屋が綺麗になるの、結構好きなので」
昔から時間だけは有り余っていた。剣の稽古以外にすることと言えば部屋の掃除くらいで、そんな生活を送ってきたから掃除も好きになってしまった。
ユティさんは扉を開けて俺が入るためのスペースを作ってくれる。部屋に入ろうとしたところで、エマさんが声をかけてきた。
「旦那様、私は応援を呼んできますので、前回のようにある程度本を集めたら呼んでください。部屋の外で待機しています」
「了解しました」
そういえば前回も使用人の人たちは部屋に入ってこなかったことを思い出した。
廊下を小走りで駆けていくエマさんの背中を見送って部屋へと入る。中はなかなかに酷いありさまだった。
「……随分本が増えましたね」
開いたままの本があちらこちらにある。本の内容は色々だけど、歴史に関するものが多いかな。
「ちょっと調べることが多くてですね」
「……そんなに大変なんですか? なんなら、俺の方からシアに言いましょうか?」
ちょっと根を詰めすぎじゃないかと思ったけど、ユティさんは首を横に振った。
「いえ、好きでやっていることで当主様に命令されてではありません。なので……その……これからは少し気を付けます」
「分かりました」
心から申し訳なさそうなユティさんに言われれば、俺もそう返すしかない。前も思ったことだけど、ユティさんは集中すると周りが見えなくなるみたいだ。
「それじゃあ本のタイトルを言っていくので、ユティさんは引き続き仕事していてください」
「すみません、助かります」
そういって机に向かうユティさんを横目に、俺は本の整理を始める。今回は閉じている本と開いている本があるから、開いている本はそのページのまま裏返してタイトルを読み上げる。
必要ならそのページのまま戻して、不要なら畳んで小脇に。
そんな風に多くの本を前回と同じように必要なものと不要なものに分類していく。ある程度溜まったところで部屋の脇に持っていこうとしたら、派手に散らばった本の山を見つけた。
あぁ、きっとここを崩したんだなって思って、次はその山を分けていく。ユティさんと要るか要らないかのやりとりだけをしながら、不要な本の山が3つほど出来た。
「……エマさん、いらっしゃいますか?」
扉越しに声をかけると、外から控えめな声で「いますよー」という声が聞こえた。扉を開けて確認すると、前回ほどではないにせよ、多くの使用人の人達が集まってくれていた。
数の多さに少し驚いたけど、部屋の中から彼らに不要な本の山を渡していく。
部屋に戻って本を分類して、部屋の外にいるエマさん達に本の山を渡してを数回繰り返せば、散らばっていた部屋は見違えるほど綺麗になっていく。前回よりも多いかと思ったけど、実際には開いている本が多いからそう思っただけで、この前片付けたから数は少し減っていた。
全ての本の分類を終えて、最後の本の山をエマさんに渡す。
これで最後ですと告げると、彼女はすまなそうに頭を下げた。
「本当にすみません……前回に引き続き今回も旦那様にこのようなことをやらせてしまって……」
「いえ、片付けるの好きなので大丈夫ですよ」
それもあるし、頑張っているユティさんの助けになれているのが嬉しかった。
伝えると、エマさんはにっこりと微笑んで頭を下げた。
「もしよろしければ、時間があるときで構わないので今回のように本の整理を手伝って頂けると私達も助かりますし、お嬢様も喜ぶと思います」
「はい、こんなことでよければ、いくらでも」
「本当にありがとうございます」
エマさんとの会話も適当なところで切り上げて、俺は部屋の中にいるユティさんに声をかける。
「ユティさん、本の整理終わりましたよ。俺はそろそろ行きますね」
ピクリと反応したユティさんは振り返って俺を見て、そして部屋を見て目を見開いた。
「こんなに綺麗になるまで……ノヴァさん、本当にありがとうございます。これからは自分でも片付けられるように頑張ってみます……頑張って、はい」
「忙しいでしょうし、無理はしないでくださいね。こんなことでよければ、いくらでもお手伝いしますので」
「…………」
ユティさんの返事を待つけど、彼女はじっと俺を見つめてくるだけで言葉を発しない。
「……その、今度お互い時間があるときにゆっくりお話ししませんか? 私と話してもあまり面白くはないかもしれませんが……」
「そんなことないですよ。ぜひ……楽しみにしてます」
「……はい」
ユティさんの返事は静かだったけど、口角はほんの少しだけ上がっていて、喜んでくれているみたいだった。
「でも、無理は禁物ですからね。それに一日一回は部屋から出るようにしましょう」
「……善処……いえ、頑張ります」
「じゃあ、俺はこれで」
困ったように笑うユティさんに笑いかけて、俺は彼女の部屋を後にした。
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