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第2章 宿敵の家の当主を妻に貰ってから
第49話 アークゲート夕食会
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エマさんと一緒に階段を下りながら、屋敷の一階に向かう。
「ありがとうございました。お嬢様はあまり他人には心を開かなくて、使用人は誰も部屋に入れてくれないのです。ですが旦那様には心を開いているようで、本当に助かりました」
「そうなんですね……自分でもなんでそうなっているのか分かりませんが……」
ユティさんにしたことと言えば、本を運んでいるのを手伝っただけだ。別に特別なことはしていないと思うんだけど。
少しだけ不思議に思いながら階段を下りきったとき。
「ノヴァお兄様!」
聞き慣れた声にそっちを向けば、オーロラちゃんが向こうの廊下から駆けてきていた。その後ろにはグレイスさんの姿もある。
オーロラちゃんは俺の元まで一直線に走ってきて、嬉しそうに微笑む。
「待たせちゃったわね、ようやく終わったわ!」
「そっか、お疲れ様、オーロラちゃん」
「お嬢様、廊下を走ってはいけませんよ」
後から追いついてきたグレイスさんの注意に、オーロラちゃんは「はーい」と軽い調子で返事をした。
結構手がかかるのか、グレイスさんは呆れたように溜息をついている。
「あぁ、そうでした旦那様、もう日も暮れていますし、良ければ今日はこちらで夕食はいかがでしょうか? アークゲート家が最高の料理をお出しいたします」
「グレイス、それいいわね!」
グレイスさんの言葉にチラリと窓の外を見れば、当たり前だけど真っ暗になっている。時間的にもそうだし、訓練をしたのもあって腹が減ってきたのもあるし、オーロラちゃんも喜んでいる。受け入れようと思ったけど、専属侍女の顔が頭を過ぎった。
「あー……俺は構わないんですが、屋敷の者に伝えておかないと」
ターニャはああ見えてありがたいことにかなり忠義深い侍女だ。きっと連絡がなければ、いつまでも俺の事を待っているだろう。
そう言うと、オーロラちゃんは勢いよく手を上げた。
「じゃあ私の方から便箋でターニャさんには連絡しておくわ。この前ノヴァお兄様の屋敷に行ったときに渡しておいたの」
「そうだったのか。じゃあお願いしても良いかな?」
「ええ! じゃあちょっと部屋に行ってくるわね!」
子供らしく軽い身のこなしで階段を上がっていくオーロラちゃん。その様子を見ながら、俺はエマさんに視線を向けた。
「ユティさんも呼んでみますか? きっと一緒の方が楽しいでしょうし」
「素晴らしいお考えです!」
手を組んで、感激しましたとばかりに頷くエマさん。グレイスさんも微笑んでいるのが視界の隅に映った。
「じゃあ、ユティさんの部屋に行きましょうか。さっきの感じだと、何回か声をかけないと気づかなさそうですし」
「はい! 行きましょう!」
さっき下りてきたばかりの階段をまた上って、もう一度ユティさんの部屋に向かった。
×××
数十分後、俺はアークゲート家の食堂で夕食を食べ終わっていた。俺の他にもオーロラちゃん、ユティさん、それにグレイスさんもいる。
ユティさんに声をかけに行ったところ、今回はすぐに気付いてくれて、快く夕食を一緒にするのを受け入れてくれた。ちなみにエマさんは隣で感動していたけど、流石に大げさじゃないかなって思う。
「どうノヴァお兄様? 南の料理とは少し違うと思うけど、ノーザンプションの料理は美味しかったでしょ?」
「うん、本当に美味しくてびっくりしたよ。作ってくれた人に感謝だね」
「伝えておきましょう。シェフも喜ぶと思います」
優雅な佇まいのグレイスさんはそう言って、食後の紅茶に口を付けた。
一口飲んでカップをソーサーに置いたグレイスさんは、「ところで」と話を切り出す。
「旦那様、当主様の魔法が使えると聞いたのですが?」
「えっと……」
誰から聞いたのかなって一瞬思ったけど、きっとオーロラちゃんだろうって思い至った。
「使えるというわけではなくて、なんて言えばいいんですかね? 強化してくれる感じなんです」
「強化?」
「はい、体の奥底から力が溢れてくるというか、そんな感じです」
「ふむ……」
顎に拳を持っていって考えるグレイスさん。
「魔法を放つのではなくて、身体能力を強化するということですか。どんな魔法でもそうなるのですか?」
「シアが使えるいくつかの魔法で試したので、おそらくは」
俺の屋敷で実験と称して色々な魔法を本当に軽くシアに使ってもらったけど、そのどれもが同じように力を溢れさせた。火の魔法なら体がちょっと熱くなったり、雷の魔法なら体の表面に電流が走ったりと、体に現れるものは違いがあったけど、それで何かが変わるわけじゃない、っていうのがシアの結論だ。
「属性には関係なく、しかも魔法として使えるわけではない、と」
「でもノヴァお兄様から魔力はもらえるから、確かにお姉様の魔法よ」
「おそらくなのですが、ノヴァさんが使えるのは魔力であって魔法ではないのではないでしょうか」
さっきから静かに話を見守っていたユティさんが持論を述べる。
果実酒か何かを一口口にして、彼女は静かに語り始めた。
「知っての通り、魔力から魔法は生まれます。ノヴァさんは魔法は使えませんが、魔力に関しては誰よりも使えるのかもしれません。あ、いえ、当主様の魔力に関しては、ですね」
「……なるほど」
グレイスさんは納得したように頷いた。
「そういうことですか。もしも旦那様が当主様の魔法が使えるということならば、このグレイス、全てをかけて魔法の神髄をご教授いたしましたのに」
「良かったねノヴァお兄様、鬼教師のグレイスに教わらなくて」
「オーロラお嬢様?」
グレイスさんから絶対零度の視線を向けられたオーロラちゃんは、慌てて視線を逸らして食後のココアに口を付けていた。隣に座っているから分かるけど、オーロラちゃんは飲むふりをしているだけだったりする。演技派だ。
「でも、魔法も使ってはみたかったですね。色々と便利そうですから」
この屋敷の温かさやゲートなど、覇気とは違って色々なところに応用が効きそうなのは身を持って体験している。だから魔法というのにも興味はあった。
「ゲートの魔法を機器で再現するんだから、他の魔法も使えるんじゃない?」
「? どういうことですか?」
目の前でオーロラちゃんの言葉に首を傾げるユティさん。そういえば言ってなかったな、と思い返した。
「今日、シアとオーロラちゃんと王都の研究所に行ったんです。そこでナタさ……ナターシャさんという方がゲートの魔法を発動できるようになる機器を作ってくれることになって。シアの魔力を貯められる機器があるんですけど、それが使えるから、あとはゲートの魔法の使い方?を機器で代用するだけでいいと」
「…………」
「ユティさん?」
「あぁ、すみません。ですがそうすると、いくつかの魔法ならともかく、多くの魔法を使うのは難しいかもしれません。機器一つにつき魔法一つになるはずですので、持ち歩くだけでも大変かと」
「あー、なるほど」
ユティさんの言う通りだ。それにシアの魔力を使うためのガラス管の機器も持っていないといけない。魔法を使うのに大荷物になっちゃうし、機器を作るナタさんだって大変だろう。
「当主様もそれは分かっていると思いますので、使いやすい魔法の機器を渡してくれると思います。ですがそれだけでも、魔法の面白さが分かると思いますよ」
「そうですね、楽しみにしています」
ユティさんとの話が一段落着いたところで、ニヤリと笑ったのはオーロラちゃんだった。
「でもでも……それが出来るのがノヴァお兄様だけっていうのがなんかいいよね。
こうなんか、運命の二人って感じが……」
「ちょっと照れ臭いな」
オーロラちゃんはちょうどそういったことが気になる年頃なのか、俺とシアの事をこんな風に言ってくる。けど心から祝福してくれている感じがするから、悪い気は全くしなかった。
「そういえばーー」
ふと思い出してティアラの事を言いそうになったけど、すぐにオーロラちゃんとの約束を思い出して言うのを辞める。言葉が途切れてしまったから、代わりの話題を探して、行きついたのは夕暮れ時の中庭だった。
「そういえば……ラプラスさんに会いました」
彼女に関しても言っていいのか一瞬迷ったけど、口に出したところでその場の空気が凍る、というようなことはなかった。
「あぁ、そうなんですね。何か言っていましたか?」
「えっと……オーロラちゃんとユティさんについて……少し……」
「……色々と思うところがあるんでしょうね、彼女も」
凍りはしなかったけど、ユティさんはどこか寂しげにそう呟いた。
「ラプラスさんは、代々当主の補助をしてきた人なの。
でも今の当主はあのお姉様でしょ? お姉様が補佐なんて必要なわけがないから、時間を持て余しているみたい」
「……なるほど」
これまでの関わりの中で、シアが魔法使いとしてだけじゃなく当主としても有能だってことは分かっていた。でもその結果、ラプラスさんのようにすることがなくなった人もいるのか。
「あ、でも時折話すけど、ラプラスさんは本当に良い人よ。色々魔法の事とか、世間話とかしてくれるし」
「確かに色々知ってそうな雰囲気だったよ。ユティさんみたいに、頭良さそうだった」
「……ありがとうございます」
正直に感想を告げると、ユティさんはふいっと顔を背けてしまった。実際、グレイスさんは武人のような雰囲気で、ラプラスさんは参謀のような雰囲気だなって思ったくらいだ。
ラプラスさんと会った後の事も思い出して、それも話してみることにする。
「そういえばその後に訓練所に行ったんだけど、その途中で短い黒髪の女の人に会ったよ。ただ者じゃない雰囲気だったけど・・・」
「メイド達とは違う服装でしたか?」
「え? はい」
急に真顔を向けてきたユティさんに戸惑いながらも、正直にそう答える。
「それならシスティですね。彼女は私の従妹です」
「従妹?」
ってことは、あのティアラの?
「システィ・アークゲート」
そう思ったけど、隣に座るオーロラちゃんが言った。彼女はココアを今度はきちんと一口飲んで、置く。
「母親はノクターン・アークゲートで、ユティお姉様の憧れの人なんだよ」
「そうですね、先生からは色々なことを教わりました。尊敬している方です」
「ノクターン……」
どうやらティアラ以外にも血縁者が居たみたいだ。オーロラちゃんの様子を見るに、ノクターンという人とはそこまで確執があるわけじゃなさそうだ。ユティさんが尊敬している人だって言っているし。
「システィさんはユティお姉様の補佐をしているの。だからきっと、ユティお姉様に報告しに来たんじゃないかな。あんまり普段は屋敷にいないから」
「そうですね。ちょうど同じくらいの時間に報告を受けていました。
とても優秀な人で、仕事でも助かっていますよ」
「そうだったんですね」
それにしても補佐を受けて仕事をするなんて、ユティさんはまるで貴族の当主みたいだなって思った。それに加えてあれだけ多くの本や仕事と向き合っているんだから、本当にユティさんはすごい人なんだって再確認する。自分の体調には気を付けて欲しいけど。
「ところで、ノヴァさんはこの後オーラに協力してもらって、ゲートの魔法で自分の屋敷に帰るんですよね? その様子を見せてもらってもいいですか?」
「はい、もちろん構いません」
断る理由もないから了承すると、オーロラちゃんがおもむろに口を開いた。
「うーん、でもどうせなら、泊っていけばいいんじゃない?」
「お嬢様、部屋がありませんよ。いえ、正確には部屋はあるのですが、泊るのには準備が必要です」
「あら、なら私の部屋でいいわよ」
突然投下された爆弾に、俺もユティさんもグレイスさんも、時が止まったように硬直する。
なんて反応を返せばいいのか困る。
「……お嬢様、いくらなんでもお戯れが過ぎるかと」
「当主様に報告しましょうか」
「待って! 嘘嘘! 嘘だから!」
シアの事を引き合いに出されて、流石のオーロラちゃんも慌てて冗談だと言う。その様子がおかしくて、笑ってしまう。
「はははっ、オーロラちゃん、寂しいかもしれないけど、また来るよ」
「お姉様に言わないでね? あ、で、でもノヴァお兄様と一緒にいたいっていうのは本当よ?
でもその、お姉様はちょっと別というか」
「分かっているよ……それにシアに言わないことについては、俺、ちゃんと約束守ってるでしょ?」
ティアラの事を暗示すれば、オーロラちゃんは少しだけ目を瞬かせた。けどそこは賢いオーロラちゃん。すぐに思い至ったらしく、笑顔で頷いた。
「ありがとうございました。お嬢様はあまり他人には心を開かなくて、使用人は誰も部屋に入れてくれないのです。ですが旦那様には心を開いているようで、本当に助かりました」
「そうなんですね……自分でもなんでそうなっているのか分かりませんが……」
ユティさんにしたことと言えば、本を運んでいるのを手伝っただけだ。別に特別なことはしていないと思うんだけど。
少しだけ不思議に思いながら階段を下りきったとき。
「ノヴァお兄様!」
聞き慣れた声にそっちを向けば、オーロラちゃんが向こうの廊下から駆けてきていた。その後ろにはグレイスさんの姿もある。
オーロラちゃんは俺の元まで一直線に走ってきて、嬉しそうに微笑む。
「待たせちゃったわね、ようやく終わったわ!」
「そっか、お疲れ様、オーロラちゃん」
「お嬢様、廊下を走ってはいけませんよ」
後から追いついてきたグレイスさんの注意に、オーロラちゃんは「はーい」と軽い調子で返事をした。
結構手がかかるのか、グレイスさんは呆れたように溜息をついている。
「あぁ、そうでした旦那様、もう日も暮れていますし、良ければ今日はこちらで夕食はいかがでしょうか? アークゲート家が最高の料理をお出しいたします」
「グレイス、それいいわね!」
グレイスさんの言葉にチラリと窓の外を見れば、当たり前だけど真っ暗になっている。時間的にもそうだし、訓練をしたのもあって腹が減ってきたのもあるし、オーロラちゃんも喜んでいる。受け入れようと思ったけど、専属侍女の顔が頭を過ぎった。
「あー……俺は構わないんですが、屋敷の者に伝えておかないと」
ターニャはああ見えてありがたいことにかなり忠義深い侍女だ。きっと連絡がなければ、いつまでも俺の事を待っているだろう。
そう言うと、オーロラちゃんは勢いよく手を上げた。
「じゃあ私の方から便箋でターニャさんには連絡しておくわ。この前ノヴァお兄様の屋敷に行ったときに渡しておいたの」
「そうだったのか。じゃあお願いしても良いかな?」
「ええ! じゃあちょっと部屋に行ってくるわね!」
子供らしく軽い身のこなしで階段を上がっていくオーロラちゃん。その様子を見ながら、俺はエマさんに視線を向けた。
「ユティさんも呼んでみますか? きっと一緒の方が楽しいでしょうし」
「素晴らしいお考えです!」
手を組んで、感激しましたとばかりに頷くエマさん。グレイスさんも微笑んでいるのが視界の隅に映った。
「じゃあ、ユティさんの部屋に行きましょうか。さっきの感じだと、何回か声をかけないと気づかなさそうですし」
「はい! 行きましょう!」
さっき下りてきたばかりの階段をまた上って、もう一度ユティさんの部屋に向かった。
×××
数十分後、俺はアークゲート家の食堂で夕食を食べ終わっていた。俺の他にもオーロラちゃん、ユティさん、それにグレイスさんもいる。
ユティさんに声をかけに行ったところ、今回はすぐに気付いてくれて、快く夕食を一緒にするのを受け入れてくれた。ちなみにエマさんは隣で感動していたけど、流石に大げさじゃないかなって思う。
「どうノヴァお兄様? 南の料理とは少し違うと思うけど、ノーザンプションの料理は美味しかったでしょ?」
「うん、本当に美味しくてびっくりしたよ。作ってくれた人に感謝だね」
「伝えておきましょう。シェフも喜ぶと思います」
優雅な佇まいのグレイスさんはそう言って、食後の紅茶に口を付けた。
一口飲んでカップをソーサーに置いたグレイスさんは、「ところで」と話を切り出す。
「旦那様、当主様の魔法が使えると聞いたのですが?」
「えっと……」
誰から聞いたのかなって一瞬思ったけど、きっとオーロラちゃんだろうって思い至った。
「使えるというわけではなくて、なんて言えばいいんですかね? 強化してくれる感じなんです」
「強化?」
「はい、体の奥底から力が溢れてくるというか、そんな感じです」
「ふむ……」
顎に拳を持っていって考えるグレイスさん。
「魔法を放つのではなくて、身体能力を強化するということですか。どんな魔法でもそうなるのですか?」
「シアが使えるいくつかの魔法で試したので、おそらくは」
俺の屋敷で実験と称して色々な魔法を本当に軽くシアに使ってもらったけど、そのどれもが同じように力を溢れさせた。火の魔法なら体がちょっと熱くなったり、雷の魔法なら体の表面に電流が走ったりと、体に現れるものは違いがあったけど、それで何かが変わるわけじゃない、っていうのがシアの結論だ。
「属性には関係なく、しかも魔法として使えるわけではない、と」
「でもノヴァお兄様から魔力はもらえるから、確かにお姉様の魔法よ」
「おそらくなのですが、ノヴァさんが使えるのは魔力であって魔法ではないのではないでしょうか」
さっきから静かに話を見守っていたユティさんが持論を述べる。
果実酒か何かを一口口にして、彼女は静かに語り始めた。
「知っての通り、魔力から魔法は生まれます。ノヴァさんは魔法は使えませんが、魔力に関しては誰よりも使えるのかもしれません。あ、いえ、当主様の魔力に関しては、ですね」
「……なるほど」
グレイスさんは納得したように頷いた。
「そういうことですか。もしも旦那様が当主様の魔法が使えるということならば、このグレイス、全てをかけて魔法の神髄をご教授いたしましたのに」
「良かったねノヴァお兄様、鬼教師のグレイスに教わらなくて」
「オーロラお嬢様?」
グレイスさんから絶対零度の視線を向けられたオーロラちゃんは、慌てて視線を逸らして食後のココアに口を付けていた。隣に座っているから分かるけど、オーロラちゃんは飲むふりをしているだけだったりする。演技派だ。
「でも、魔法も使ってはみたかったですね。色々と便利そうですから」
この屋敷の温かさやゲートなど、覇気とは違って色々なところに応用が効きそうなのは身を持って体験している。だから魔法というのにも興味はあった。
「ゲートの魔法を機器で再現するんだから、他の魔法も使えるんじゃない?」
「? どういうことですか?」
目の前でオーロラちゃんの言葉に首を傾げるユティさん。そういえば言ってなかったな、と思い返した。
「今日、シアとオーロラちゃんと王都の研究所に行ったんです。そこでナタさ……ナターシャさんという方がゲートの魔法を発動できるようになる機器を作ってくれることになって。シアの魔力を貯められる機器があるんですけど、それが使えるから、あとはゲートの魔法の使い方?を機器で代用するだけでいいと」
「…………」
「ユティさん?」
「あぁ、すみません。ですがそうすると、いくつかの魔法ならともかく、多くの魔法を使うのは難しいかもしれません。機器一つにつき魔法一つになるはずですので、持ち歩くだけでも大変かと」
「あー、なるほど」
ユティさんの言う通りだ。それにシアの魔力を使うためのガラス管の機器も持っていないといけない。魔法を使うのに大荷物になっちゃうし、機器を作るナタさんだって大変だろう。
「当主様もそれは分かっていると思いますので、使いやすい魔法の機器を渡してくれると思います。ですがそれだけでも、魔法の面白さが分かると思いますよ」
「そうですね、楽しみにしています」
ユティさんとの話が一段落着いたところで、ニヤリと笑ったのはオーロラちゃんだった。
「でもでも……それが出来るのがノヴァお兄様だけっていうのがなんかいいよね。
こうなんか、運命の二人って感じが……」
「ちょっと照れ臭いな」
オーロラちゃんはちょうどそういったことが気になる年頃なのか、俺とシアの事をこんな風に言ってくる。けど心から祝福してくれている感じがするから、悪い気は全くしなかった。
「そういえばーー」
ふと思い出してティアラの事を言いそうになったけど、すぐにオーロラちゃんとの約束を思い出して言うのを辞める。言葉が途切れてしまったから、代わりの話題を探して、行きついたのは夕暮れ時の中庭だった。
「そういえば……ラプラスさんに会いました」
彼女に関しても言っていいのか一瞬迷ったけど、口に出したところでその場の空気が凍る、というようなことはなかった。
「あぁ、そうなんですね。何か言っていましたか?」
「えっと……オーロラちゃんとユティさんについて……少し……」
「……色々と思うところがあるんでしょうね、彼女も」
凍りはしなかったけど、ユティさんはどこか寂しげにそう呟いた。
「ラプラスさんは、代々当主の補助をしてきた人なの。
でも今の当主はあのお姉様でしょ? お姉様が補佐なんて必要なわけがないから、時間を持て余しているみたい」
「……なるほど」
これまでの関わりの中で、シアが魔法使いとしてだけじゃなく当主としても有能だってことは分かっていた。でもその結果、ラプラスさんのようにすることがなくなった人もいるのか。
「あ、でも時折話すけど、ラプラスさんは本当に良い人よ。色々魔法の事とか、世間話とかしてくれるし」
「確かに色々知ってそうな雰囲気だったよ。ユティさんみたいに、頭良さそうだった」
「……ありがとうございます」
正直に感想を告げると、ユティさんはふいっと顔を背けてしまった。実際、グレイスさんは武人のような雰囲気で、ラプラスさんは参謀のような雰囲気だなって思ったくらいだ。
ラプラスさんと会った後の事も思い出して、それも話してみることにする。
「そういえばその後に訓練所に行ったんだけど、その途中で短い黒髪の女の人に会ったよ。ただ者じゃない雰囲気だったけど・・・」
「メイド達とは違う服装でしたか?」
「え? はい」
急に真顔を向けてきたユティさんに戸惑いながらも、正直にそう答える。
「それならシスティですね。彼女は私の従妹です」
「従妹?」
ってことは、あのティアラの?
「システィ・アークゲート」
そう思ったけど、隣に座るオーロラちゃんが言った。彼女はココアを今度はきちんと一口飲んで、置く。
「母親はノクターン・アークゲートで、ユティお姉様の憧れの人なんだよ」
「そうですね、先生からは色々なことを教わりました。尊敬している方です」
「ノクターン……」
どうやらティアラ以外にも血縁者が居たみたいだ。オーロラちゃんの様子を見るに、ノクターンという人とはそこまで確執があるわけじゃなさそうだ。ユティさんが尊敬している人だって言っているし。
「システィさんはユティお姉様の補佐をしているの。だからきっと、ユティお姉様に報告しに来たんじゃないかな。あんまり普段は屋敷にいないから」
「そうですね。ちょうど同じくらいの時間に報告を受けていました。
とても優秀な人で、仕事でも助かっていますよ」
「そうだったんですね」
それにしても補佐を受けて仕事をするなんて、ユティさんはまるで貴族の当主みたいだなって思った。それに加えてあれだけ多くの本や仕事と向き合っているんだから、本当にユティさんはすごい人なんだって再確認する。自分の体調には気を付けて欲しいけど。
「ところで、ノヴァさんはこの後オーラに協力してもらって、ゲートの魔法で自分の屋敷に帰るんですよね? その様子を見せてもらってもいいですか?」
「はい、もちろん構いません」
断る理由もないから了承すると、オーロラちゃんがおもむろに口を開いた。
「うーん、でもどうせなら、泊っていけばいいんじゃない?」
「お嬢様、部屋がありませんよ。いえ、正確には部屋はあるのですが、泊るのには準備が必要です」
「あら、なら私の部屋でいいわよ」
突然投下された爆弾に、俺もユティさんもグレイスさんも、時が止まったように硬直する。
なんて反応を返せばいいのか困る。
「……お嬢様、いくらなんでもお戯れが過ぎるかと」
「当主様に報告しましょうか」
「待って! 嘘嘘! 嘘だから!」
シアの事を引き合いに出されて、流石のオーロラちゃんも慌てて冗談だと言う。その様子がおかしくて、笑ってしまう。
「はははっ、オーロラちゃん、寂しいかもしれないけど、また来るよ」
「お姉様に言わないでね? あ、で、でもノヴァお兄様と一緒にいたいっていうのは本当よ?
でもその、お姉様はちょっと別というか」
「分かっているよ……それにシアに言わないことについては、俺、ちゃんと約束守ってるでしょ?」
ティアラの事を暗示すれば、オーロラちゃんは少しだけ目を瞬かせた。けどそこは賢いオーロラちゃん。すぐに思い至ったらしく、笑顔で頷いた。
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