宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~

紗沙

文字の大きさ
74 / 237
第2章 宿敵の家の当主を妻に貰ってから

第74話 圧倒的すぎる勝利

しおりを挟む
 実家の中庭にはあまりいい思い出がない。剣の修行で使った場所と言えば聞こえはいいけど、浮かんでくるのはゼロードの兄上に痛めつけられた記憶だけだからだ。

 そんな苦い思い出の場所に、今立っている。
 見届けてくれるのはシアで、観戦するのが父上とリーゼロッテの母様にカイラスの兄上。
 そして対峙するのが、ゼロードの兄上だ。

「おいノヴァ、これは次期当主を決める戦いだ。当然、真剣での戦いだよなぁ?」

 そう言って鞘から剣を抜き放つゼロードの兄上。
 本気だ。兄上は本気で俺をこの場で今、殺すつもりなんだろう。

 けど、すぐに父上からの待ったの声が響いた。

「ゼロード、それは許可できない。やるなら木刀だ。
 もし真剣を使うなら、この勝負の結果がどうであれ私はどちらも認めん。おい、二人に木刀を」

「ちっ!」

 舌打ちをして、兄上は抜身の剣を鞘に納めた。
 走って届けに来たメイドに剣を預けて、代わりに木刀を受け取って、勢いよく振るっている。
 俺もシアに剣を預けて、メイドから木刀を受け取った。

 ――おいおい

 受け取ってすぐに俺は気づいた。手にした得物は年季が入っていてボロボロだ。一方でゼロードの兄上の木刀に目を向けてみれば新品同然。耐久力の差は歴然だった。
 そこまでして俺に負けて欲しいのかとメイドを睨みつけたけど、彼女は何も言わずに立ち去った。
 仕方がない。これでやるしかなさそうだ。

「思い出させてやるよ出来損ない。なんでてめぇが出来損ないなのかをなぁ!」

 叫び、木刀を振るい、白い覇気を身に纏う兄上。肌で感じる威圧感に重々しい雰囲気。今まで俺をなんども折ってきた暴力をもって、兄上が本気を出した。
 けど怖くはない。ゼロードの兄上には覇気がある。けど俺には頼れる人がいるから。

 木刀を片手に構える。覇気も何もない、今までの戦いなら一瞬で決着がつく状態。
 けど俺の体を風が貫いた。攻撃力のない魔力の風。シアがくれた、彼女の力。それを受けて体の奥底から力が次第に湧き上がってくる。最初は弱く、けど堰を切ったかのように急激に強く。

 泉どころか間欠泉のごとく沸き上がった力は俺の内部に収まらずに外部にも表れる。シアの象徴たる金色の光。その光が俺の力の証。
 神秘的な輝きと色の光は神が授けた力のようにも見えるかもしれない。実際、俺にとっては神様なんかよりも頼りになる人からの援護なわけだけど。

 力は十分。この力、いや彼女の力は覇気すらも寄せ付けない。ゼロードの兄上が放出する覇気をあざ笑うほどに、暴力的なまでに眩い光が俺の体から放出されていた。

「……なるほどなぁ」

 父上やリーゼロッテの母様が驚く一方で、ゼロードの兄上は少しだけ顔色を悪くしながらも、納得がいったように呟いた。

「……急にやる気になったから何かあるとは思っていたが、その女に支援魔法をかけてもらう知恵を付けたってわけだ。
 だがよぉ? 支援魔法は自分の力を向上させるだけで、劇的には強くしねえってことを知らねえみたいだな」

「…………」

 兄上が何かを言っているけど、俺は気にせずに睨み返す。言っていることは間違いだ。
 これはシアと俺だけが使えるもので、支援魔法じゃない。けど、わざわざ間違いを訂正する必要だってないだろう。

「いいぜぇ? 覇気を使った俺とその女から支援魔法を受けたお前、どっちが強いのか」

 言っていることは少し違っても内容には共感できた。俺と兄上で、互いの剣の腕がどれだけ差があるのか、正確には分からない。
 けどこれはきっと、俺が借りたシアの魔法と、ゼロードの兄上の覇気の戦いだ。

 ゼロードの兄上の表情が変わる。覇気をもって、そして気力をもって、不調を無視したようだった。

「雑魚の力をどんだけ引き出したところで意味はねえ。それに関係もねえ。正面から叩き潰せばいいだけだ。
 やってやるよ。忌々しい呪いの力ごと、お前をぶった斬ってやる!
 出来損ないがどれだけ力を得ようとも、元が出来損ないだってことを思い知らせてやるよ!」

「ゼロード、お前は本当に凄い覇気使いだと思う。けどお前がフォルス家を背負うことだけは絶対に許さない」

「吠えてろ! 行くぞぉおおお!!!!」

 咆哮し、ゼロードの兄上は前へ出る。いつもの俺では追えないほどの速さ。けどそれを冷静に観察できているのはシアの力のお陰だ。
 見える。いつもはギリギリだったゼロードの兄上の動きが、剣筋が、見えすぎるくらいに。

 空を斬る白の軌跡。ただそれを防ぐように剣を沿えればいいって、本能が教えてくれる。

「っ!」

 材質は木……の筈だ。にもかかわらず、木と木がぶつかったとは思えない鈍い音を立てて、ゼロードの兄上の全力の一撃を防いだ。
 初めて防いだ覇気の一撃。けど俺の心にあったのは喜びじゃなくて、別の感情。

 ――こんなもの、なのか?

 あまりにも今までと違う重さに俺は唖然とする。いや、こんなの重いんじゃなくて、軽いって言えちゃうくらいだ。

 弾く。

 何の問題もないように、子供がふざけて振るってきた木刀を返すように、片手で軽く押し出すだけで、兄上は片手を上げる。上げさせられる。

 ――すごい

 シアの力が凄いのもある。けど分かる。俺の体がシアの力と溶け合っているような感覚。まるで自分の力だと勘違いしそうなほどに馴染んだ感覚がある。従えるとか、制御するとか、そんなんじゃない。
 ただ思ったように、いや思うまでもなく無意識に体を動かせば、全部ついてくる。
 想像が、現実になる。

 足を一歩だけ踏み出して、兄上の脇を駆け抜ける。瞬間、木刀を水平に薙いだ。動きとしてはやや複雑なものだけど、それをゼロードの兄上が剣を弾かれたまま何もできない間にやれた。
 まるで世界が遅くて、その中で俺だけが普通に動けるかのようだった。

 全てが終わった時には、目の前に誰もいない。

「ぐっ……」

 声を聞いて振り返れば、胴体を片手で押さえて蹲るゼロードの兄上がいた。それを見て、咄嗟に急所を外すような打ち方を無意識にしたんだと分かった。

「なんだぁ……こりゃぁ……」

 木刀を地面に置いた兄上が、地面の土を強く握った。

「認め……られるか……こんなもんが強化魔法の筈があるか!」

 よろよろとした動きで立ち上がり、俺に木刀を向けるゼロードの兄上。その闘志は、まるで消えていなかった。

 兄上の言うことは正しい。これは強化魔法なんかじゃない。
 もっとすごい……いや、凄すぎる力だ。

 先ほどの自分の動きを自覚して熱くなっていた頭が急速に冷めていく。
 ふと、これまでのゼロードの兄上との木刀でのやり取りを振り返れば、どこか引っ掛かりを覚えた。それがなんなのかは、分からなかったけど。

「てめぇ……一体どんな手品を使いやがった!」

「…………」

 自分の違和感が気になるものの、少なくとも兄上の言葉に答えるつもりなんて最初からない。
 だから冷たく、蹲るゼロードの兄上を見下ろした。

「こんなんで勝ちなわけねえだろ! そうですよね父上ぇ!! こんな、こんな一撃……で……」

 大声を上げて振り返ったゼロードの兄上は、父上に視線を向けて固まった。
 視線の先を追ってみれば、父上は頭を押さえて俯いていた。兄上の声が一切響いていないのは明らかだった。

 父上だけじゃない。リーゼロッテの母様もカイラスの兄上も、目を見開いてゼロードの兄上を見つめている。

 勝敗の宣言はまだされていない。でも決着がついていると、場の雰囲気が物語っていた。それをゼロードの兄上も悟ったんだろう。

「っ! 認められるか、こんなもん!」

 木刀を地面に叩きつけて、奥歯を噛みしめたままで去っていくゼロードの兄上。兄上はそのまま屋敷の中へと消えていってしまった。

「…………」

 木刀を下ろして空を見上げる。青空は雲一つなく晴れ渡っていた。

 ――勝ったん……だな

 いまいち実感が沸かない。これまで勝てるはずがないと思っていたゼロードの兄上に勝った。シアの力を借りたとはいえ、勝ったんだ。
 嬉しくはある。喜びもある。これでゼロードの兄上が当主にならないんだから、達成感だってある。

 けど、素直には何故か喜べなかった。勝ったのに、これで良いのは間違いないのに。それがどうしてなのか、やっぱりよく分からない。
 そんな俺のことを、目じりを下げてシアが見つめていることには最後まで気づかなかった。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。  なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!  冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。  ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。  そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。

親友に恋人を奪われた俺は、姉の様に思っていた親友の父親の後妻を貰う事にしました。傷ついた二人の恋愛物語

石のやっさん
恋愛
同世代の輪から浮いていた和也は、村の権力者の息子正一より、とうとう、その輪のなから外されてしまった。幼馴染もかっての婚約者芽瑠も全員正一の物ので、そこに居場所が無いと悟った和也はそれを受け入れる事にした。 本来なら絶望的な状況の筈だが……和也の顔は笑っていた。 『勇者からの追放物』を書く時にに集めた資料を基に異世界でなくどこかの日本にありそうな架空な場所での物語を書いてみました。 「25周年アニバーサリーカップ」出展にあたり 主人公の年齢を25歳 ヒロインの年齢を30歳にしました。 カクヨムでカクヨムコン10に応募して中間突破した作品を加筆修正した作品です。 大きく物語は変わりませんが、所々、加筆修正が入ります。

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

私の手からこぼれ落ちるもの

アズやっこ
恋愛
5歳の時、お父様が亡くなった。 優しくて私やお母様を愛してくれたお父様。私達は仲の良い家族だった。 でもそれは偽りだった。 お父様の書斎にあった手記を見た時、お父様の優しさも愛も、それはただの罪滅ぼしだった。 お父様が亡くなり侯爵家は叔父様に奪われた。侯爵家を追い出されたお母様は心を病んだ。 心を病んだお母様を助けたのは私ではなかった。 私の手からこぼれていくもの、そして最後は私もこぼれていく。 こぼれた私を救ってくれる人はいるのかしら… ❈ 作者独自の世界観です。 ❈ 作者独自の設定です。 ❈ ざまぁはありません。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

処理中です...