宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~

紗沙

文字の大きさ
91 / 237
第2章 宿敵の家の当主を妻に貰ってから

第91話 狂気の果ての凶行

しおりを挟む
 危なかった、結構ギリギリだった。
 ゼロードの振り下ろされた剣を受け止めながら、内心で安堵のため息を吐く。

『親睦会の会場についたら、しばらくは姿を隠して中の様子を見ましょう。私達の時間だけずらしたという事は、到着したタイミングでなにか事を起こすつもりかもしれません』

 馬車の中でシアにそう言われていたから予定よりも早く到着した後は、隠れて会場の様子を観察していた。本当に俺達が到着するよりも親睦会が早く始まったことにも驚きだったけど、もっと驚いたのは俺達が到着したと思わせたときのゼロードの行動だ。
 途中で第三者と交代していることをシアから言われるまで、そうだと気づかなかった。

 会場を抜け出したゼロードが向かったのは俺達が本来いる筈の裏口、ではあるのだが、実際に用があったのは父上の方だったらしい。こともあろうに別邸の中で剣を抜いて父上に斬りかかったときは、正気なのかと疑ったくらいだ。

 突然の事態に父上は驚いていたけど、そこはフォルス家の現当主。ゼロードの凶行に対して、的確に反応して防いでいた。
 あまりの出来事に焦って二人の間に割って入ろうとしたところを止めてくれたシアには感謝している。もしも二人が斬り合っている中に割って入ったら、いくらシアから魔法を受けていても無傷では済まないだろう。

 最終的には儀礼用の剣ではとても防ぎきれないために父上が剣を手放してから、ようやく割って入れたって感じだった。

「っ!? ゼロード! お前、何をしている!?」

「あぁ!? なんで出来損ないがここに居やがる!? どうなってやがる!?」

 叫び声に対して、焦ったように吠えるゼロード。後ろに飛んで距離を置いたゼロードは忌々しいという気持ちを隠すこともなく舌打ちし、俺を睨みつける。しかしすぐに視線が俺から外れ、別の誰かを見て激昂した。

「またてめぇか! 女ぁ!!」

 シアに対して怒号を発したゼロード。それに対して、正反対に静かな返答が廊下に響いた。

「……まさかこのようなことを企てるとは。なるほど、トラヴィス・フォルスを今ここで暗殺して、次期当主の件をうやむやにしようとしたんですね。その罪をノヴァさんになすりつけるために親睦会の時間をずらした……と」

「……嘘……だろ?」

 シアの言葉を聞いて、信じられない気持ちになる。今ここでゼロードが殺そうとしているのは奴にとっても実の父親だ。それを、殺す? いったい何を考えているのかよく分からなくてゼロードを見るけど、怒りに染まった表情に血走った目はとても正気には見えなかった。

「そうだ! 俺は全てを元に戻す! だからそこをどけ、出来損ないがぁ!」

「っ、退くわけがないだろ!」

 なぜゼロードがこんなことをしているのかは理解した。全く共感は出来ないけど、今この場において止めなければならないというのはよく分かった。だから。

 一歩。地面を蹴って前に出る。シアから事前に強化は貰っている。だからこの前と同じように。

 ゼロードを斬れる範囲に来て、剣をほんの少し回転させて刃ではなく腹で撃ちつける。実家の中庭での次期当主を決める戦いの時と同じように、直撃するのを感じたが。

 直後に、全身の毛が逆立った。

 その場からすぐに退けたのはシアの力のお陰に違いない。もし彼女の力がなければ、俺は今頃大けがを負っていただろう。なぜなら、ついさっきまで俺がいた位置をゼロードの剣が薙いだから。

「うそ……だろっ!?」

 木刀よりも強度がある真剣での一撃。戦闘不能にするには十分だったはずだ。けど今のゼロードからはあの時とは比べ物にならないほどの覇気が出ているし、怒りで痛覚が麻痺しているようにも見えた。
 なにがゼロードをここまで怒らせているのかは分からない。けどその怒りはゼロードに新たな段階を踏ませている。

「っ……」

 マズイ。シアの力を貰っている今なら、ゼロードに勝つことは出来る。けど今持っているのは木刀ではなく、刃のある本物の剣だ。これで力任せに戦ったら、ゼロードを斬ることになる。
 いや、ゼロードはここまでの事をした。父上の事も殺そうとした。なら、俺が殺される前に例え……例えゼロードが死ぬことになっても斬るべきだ。

 それは分かっている筈なのに、体がどことなく重い。思ったように動くし、調子も悪くない。けれどどこか歯車の一つがかみ合わないような、そんな違和感が体の中に確かにある。

「くくくっ……はははははっ!」

 不意にゼロードは剣から左手を放して顔を覆い、大きく笑い始めた。あまり良い思い出はないけど、ゼロードが嗤っているところは見たことがある。
 けど今の笑いはそのどれとも違う、まるで別人のような笑い声だった。

「……もうどうにもならないことを悟って、狂いましたか」

 冷静にそうシアが呟いた瞬間。ゼロードの大笑いが不気味なほどにピタリと止んだ。
 手を離し、狂ったような笑みをシアに向けるゼロードに少しの恐怖すら感じた。

「あぁ、そうだなぁ……こうなった以上もう終わりだ……だがなぁ!? てめぇだけは絶対に許さねえ! 調子に乗ってる出来損ないも! その出来損ないを次期当主にするとかいうふざけたことを抜かすトラヴィスもムカつくが、てめえには劣る! 女ぁ! てめぇが来てから、全ては狂った! 狂わせやがったなぁ! その罪、死を持って償えぇ!!」

 笑い声と荒い呼吸を織り交ぜた狂ったゼロードは左手を即座に動かして、ポケットから何かを取り出した。遠くて良く見えなかったけど、銀色の箱のようなもの。
 一体何をするつもりなのか、そう思ったとき。

「本当は後で使うつもりだったが、てめぇが死ぬならそれでいい! 今ここで、殺してやるよ女ぁ!!」

 何かよく分からないことを言って、ゼロードはその箱を事もあろうにシアに向かって投げた。
 宙を舞う箱を見て、俺の中で酷く嫌な予感がした。だからその銀の箱がシアの頭上に行く前に、剣で斬り落とそうとした。

 普段の俺なら突然の事に対処できなかったと思うけど、今の俺なら多少遅れた今でも対処できる。宙を舞う銀の箱をシアの頭上に到達する前に叩き落とせる。そうして軌道を読んで素早く剣を振るった。

 空を、斬った。

「なっ!?」

 読みは完璧だったけど剣は何も弾かなかった。銀の箱は俺の剣が届くより前に制止して、黒い光を斜め下方向に射出。
 シアの全身を飲み込んだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

処理中です...