宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~

紗沙

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第2章 宿敵の家の当主を妻に貰ってから

第96話 フォルス家剣術指南役、ギリアム・ストアド

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「本日は、ありがとうございました」

「……ありがとうございました」

 カイラスの兄上と一緒にその場を去る貴族の人のお見送りをする。あんなことが起こった後だったけど父上が今後の予定を話したからか、事情を聞いてくるような人はいなかった。

 次々と帰っていく貴族の人達。彼ら全員に軽く頭を下げていると、視線を感じた。頭を上げると、じっと俺を見つめる黒髪の男性がいた。年齢的には俺と同じか、少し上だろうか。同じ髪色で白髪混じりな人に付き従っているから、貴族の次期当主だと思う。

 黒髪の男性はじっと俺を見てはいたけど、結局何かを言うわけでもなくて、そのまま立ち去って行ってしまった。少しだけ不思議に思ったけど、その後も多くの貴族の人が去っていくから、いつの間にか頭から消えていった。

 帰りの馬車に乗り込む貴族の人達をそれなりの時間見送った後にチラリと左隣を確認する。カイラスの兄上は少し疲れた表情で別邸の方を見つめていた。
 今この場にシアとオーロラちゃんはいない。フォルス家の覇気とアークゲート家の魔力は反発する。さっき魔法で俺を助けてくれたこともあって流石のオーロラちゃんも少し気分が悪そうだったから、少し離れた別室を手配してもらった。

 シアの魔法でオーロラちゃんへの覇気の影響力を弱めてもらっているから今頃は回復していることだろう。ちなみにシアはいつも通りけろっとした顔をしていた。

「……ギリアム師匠」

 カイラスの兄上の言葉にそちらを向くと、フォルス家の指南役でもあるギリアムさんがこちらへと向かってきていた。彼が別邸に残った最後の人のようだ。

 ギリアム・ストアドさん。剣の名家フォルス家の指南役で、彼が指導するのは剣術と覇気だ。フォルスの名前はないけど彼とフォルス家は遠い親戚のようなもので、彼も一応覇気が使える。鍛え上げた剣術と覇気の練度で、父上とも渡り合える強者。こと剣に関しては俺が知る中で一番強い人でもある。流石に総合力で言ったらシアは勿論の事、アークゲートの人には劣るかもしれないけど。

 そんな彼の指導を俺は一度も受けたことがない。理由は簡単で、俺が覇気を使えないからだ。フォルス家にとって覇気が使えないことは出来損ないを意味するから、そんな俺にギリアムさんの時間を費やす必要もなかったということ。
 思うところはあるけど、これに関しては納得している。でも、もし彼の指導を受けていればもっと強くなれていたと思うから、やっぱり納得していないかも。

「カイラス……今日は疲れただろう、ゆっくりと休みなさい」

「ありがとうございます」

 カイラスの兄上と会話を交わした後、ギリアムさんは馬車へと向かう。俺と彼の間に会話はこれまでほとんどなかったから、今回も別れの挨拶だけ告げて終わりだろう。

「本日はお越しいただき、ありがとうございました」

 そう言って頭を下げてギリアムさんが去るのを待つ。けど足音は急に止まって、俺の方を向いた。ゆっくりと顔を上げれば、ギリアムさんは何とも言えない顔で俺を見ていた。

「……ノヴァくん……君の剣は我流かい?」

「? はい、そうです。誰にも教わっていません。教わる相手もいませんでしたから」

 正直に答えると、ギリアムさんは少しだけ顔を歪めたけど、すぐにいつもの表情に戻った。

「先ほどのゼロードとの戦いは見事だった。あそこまで磨き上げるのに考えもつかないほどの時間を費やしたのだろう。称賛に値する……見事だった」

「…………」

 急にこれまでの剣の訓練を認められて、目を瞬かせてしまう。まさかギリアムさんにこんなことを言われる日が来るとは思ってもいなかった。もちろん嬉しい。シアと再会したり、オーロラちゃんと会って先に認められていなければ震えてしまったであろうくらいには。

「だからこそ、悔やまれる……私がノヴァくんの事を指導するようにトラヴィス様に強く言っていれば……」

「そう言って頂けるのはありがたいことですが……」

 現実的に考えて、覇気の使えない俺をギリアムさんが指導する過去なんてものは存在しないだろうし。
 そういった意味を込めて返答すると、ギリアムさんは目を伏せた。

「……そうだな。幼き頃のノヴァ君の才を見抜けなかった私が、至らなかっただけか。
 それならノヴァ君、今からならどうだろうか? よければたまに、私と剣の訓練をしないか?」

「……え? いいんですか?」

 思ってもみなかったギリアムさんの言葉に俺は跳びついた。彼は俺の中で一番強い剣士だ。そんな彼に教われるならこれほど嬉しいことはない。

「あぁ、むしろこちらからお願いしたい……とはいえ、することと言えば模擬戦くらいだが。長年をかけて形成された軸はそう簡単には変わらないし、そもそも変えるべきではないからな」

「ありがとうございます。是非ともお願いします」

「こちらこそ、よろしく頼む。近いうちに手紙をそちらの屋敷に送ろう。詳細は後日という事で」

「はい」

 そう言うとギリアムさんは頭を下げて自分の馬車へと向かっていった。
 その背中を見ながら、俺は口角が上がるのを感じた。彼との模擬戦が今から楽しみだ。

「……ノヴァ」

 名前を呼ばれた。振り返れば、カイラスの兄上は無表情でじっと俺を見つめていた。
 何か話したいことがあるのは、すぐに分かった。
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