96 / 237
第2章 宿敵の家の当主を妻に貰ってから
第96話 フォルス家剣術指南役、ギリアム・ストアド
しおりを挟む
「本日は、ありがとうございました」
「……ありがとうございました」
カイラスの兄上と一緒にその場を去る貴族の人のお見送りをする。あんなことが起こった後だったけど父上が今後の予定を話したからか、事情を聞いてくるような人はいなかった。
次々と帰っていく貴族の人達。彼ら全員に軽く頭を下げていると、視線を感じた。頭を上げると、じっと俺を見つめる黒髪の男性がいた。年齢的には俺と同じか、少し上だろうか。同じ髪色で白髪混じりな人に付き従っているから、貴族の次期当主だと思う。
黒髪の男性はじっと俺を見てはいたけど、結局何かを言うわけでもなくて、そのまま立ち去って行ってしまった。少しだけ不思議に思ったけど、その後も多くの貴族の人が去っていくから、いつの間にか頭から消えていった。
帰りの馬車に乗り込む貴族の人達をそれなりの時間見送った後にチラリと左隣を確認する。カイラスの兄上は少し疲れた表情で別邸の方を見つめていた。
今この場にシアとオーロラちゃんはいない。フォルス家の覇気とアークゲート家の魔力は反発する。さっき魔法で俺を助けてくれたこともあって流石のオーロラちゃんも少し気分が悪そうだったから、少し離れた別室を手配してもらった。
シアの魔法でオーロラちゃんへの覇気の影響力を弱めてもらっているから今頃は回復していることだろう。ちなみにシアはいつも通りけろっとした顔をしていた。
「……ギリアム師匠」
カイラスの兄上の言葉にそちらを向くと、フォルス家の指南役でもあるギリアムさんがこちらへと向かってきていた。彼が別邸に残った最後の人のようだ。
ギリアム・ストアドさん。剣の名家フォルス家の指南役で、彼が指導するのは剣術と覇気だ。フォルスの名前はないけど彼とフォルス家は遠い親戚のようなもので、彼も一応覇気が使える。鍛え上げた剣術と覇気の練度で、父上とも渡り合える強者。こと剣に関しては俺が知る中で一番強い人でもある。流石に総合力で言ったらシアは勿論の事、アークゲートの人には劣るかもしれないけど。
そんな彼の指導を俺は一度も受けたことがない。理由は簡単で、俺が覇気を使えないからだ。フォルス家にとって覇気が使えないことは出来損ないを意味するから、そんな俺にギリアムさんの時間を費やす必要もなかったということ。
思うところはあるけど、これに関しては納得している。でも、もし彼の指導を受けていればもっと強くなれていたと思うから、やっぱり納得していないかも。
「カイラス……今日は疲れただろう、ゆっくりと休みなさい」
「ありがとうございます」
カイラスの兄上と会話を交わした後、ギリアムさんは馬車へと向かう。俺と彼の間に会話はこれまでほとんどなかったから、今回も別れの挨拶だけ告げて終わりだろう。
「本日はお越しいただき、ありがとうございました」
そう言って頭を下げてギリアムさんが去るのを待つ。けど足音は急に止まって、俺の方を向いた。ゆっくりと顔を上げれば、ギリアムさんは何とも言えない顔で俺を見ていた。
「……ノヴァくん……君の剣は我流かい?」
「? はい、そうです。誰にも教わっていません。教わる相手もいませんでしたから」
正直に答えると、ギリアムさんは少しだけ顔を歪めたけど、すぐにいつもの表情に戻った。
「先ほどのゼロードとの戦いは見事だった。あそこまで磨き上げるのに考えもつかないほどの時間を費やしたのだろう。称賛に値する……見事だった」
「…………」
急にこれまでの剣の訓練を認められて、目を瞬かせてしまう。まさかギリアムさんにこんなことを言われる日が来るとは思ってもいなかった。もちろん嬉しい。シアと再会したり、オーロラちゃんと会って先に認められていなければ震えてしまったであろうくらいには。
「だからこそ、悔やまれる……私がノヴァくんの事を指導するようにトラヴィス様に強く言っていれば……」
「そう言って頂けるのはありがたいことですが……」
現実的に考えて、覇気の使えない俺をギリアムさんが指導する過去なんてものは存在しないだろうし。
そういった意味を込めて返答すると、ギリアムさんは目を伏せた。
「……そうだな。幼き頃のノヴァ君の才を見抜けなかった私が、至らなかっただけか。
それならノヴァ君、今からならどうだろうか? よければたまに、私と剣の訓練をしないか?」
「……え? いいんですか?」
思ってもみなかったギリアムさんの言葉に俺は跳びついた。彼は俺の中で一番強い剣士だ。そんな彼に教われるならこれほど嬉しいことはない。
「あぁ、むしろこちらからお願いしたい……とはいえ、することと言えば模擬戦くらいだが。長年をかけて形成された軸はそう簡単には変わらないし、そもそも変えるべきではないからな」
「ありがとうございます。是非ともお願いします」
「こちらこそ、よろしく頼む。近いうちに手紙をそちらの屋敷に送ろう。詳細は後日という事で」
「はい」
そう言うとギリアムさんは頭を下げて自分の馬車へと向かっていった。
その背中を見ながら、俺は口角が上がるのを感じた。彼との模擬戦が今から楽しみだ。
「……ノヴァ」
名前を呼ばれた。振り返れば、カイラスの兄上は無表情でじっと俺を見つめていた。
何か話したいことがあるのは、すぐに分かった。
「……ありがとうございました」
カイラスの兄上と一緒にその場を去る貴族の人のお見送りをする。あんなことが起こった後だったけど父上が今後の予定を話したからか、事情を聞いてくるような人はいなかった。
次々と帰っていく貴族の人達。彼ら全員に軽く頭を下げていると、視線を感じた。頭を上げると、じっと俺を見つめる黒髪の男性がいた。年齢的には俺と同じか、少し上だろうか。同じ髪色で白髪混じりな人に付き従っているから、貴族の次期当主だと思う。
黒髪の男性はじっと俺を見てはいたけど、結局何かを言うわけでもなくて、そのまま立ち去って行ってしまった。少しだけ不思議に思ったけど、その後も多くの貴族の人が去っていくから、いつの間にか頭から消えていった。
帰りの馬車に乗り込む貴族の人達をそれなりの時間見送った後にチラリと左隣を確認する。カイラスの兄上は少し疲れた表情で別邸の方を見つめていた。
今この場にシアとオーロラちゃんはいない。フォルス家の覇気とアークゲート家の魔力は反発する。さっき魔法で俺を助けてくれたこともあって流石のオーロラちゃんも少し気分が悪そうだったから、少し離れた別室を手配してもらった。
シアの魔法でオーロラちゃんへの覇気の影響力を弱めてもらっているから今頃は回復していることだろう。ちなみにシアはいつも通りけろっとした顔をしていた。
「……ギリアム師匠」
カイラスの兄上の言葉にそちらを向くと、フォルス家の指南役でもあるギリアムさんがこちらへと向かってきていた。彼が別邸に残った最後の人のようだ。
ギリアム・ストアドさん。剣の名家フォルス家の指南役で、彼が指導するのは剣術と覇気だ。フォルスの名前はないけど彼とフォルス家は遠い親戚のようなもので、彼も一応覇気が使える。鍛え上げた剣術と覇気の練度で、父上とも渡り合える強者。こと剣に関しては俺が知る中で一番強い人でもある。流石に総合力で言ったらシアは勿論の事、アークゲートの人には劣るかもしれないけど。
そんな彼の指導を俺は一度も受けたことがない。理由は簡単で、俺が覇気を使えないからだ。フォルス家にとって覇気が使えないことは出来損ないを意味するから、そんな俺にギリアムさんの時間を費やす必要もなかったということ。
思うところはあるけど、これに関しては納得している。でも、もし彼の指導を受けていればもっと強くなれていたと思うから、やっぱり納得していないかも。
「カイラス……今日は疲れただろう、ゆっくりと休みなさい」
「ありがとうございます」
カイラスの兄上と会話を交わした後、ギリアムさんは馬車へと向かう。俺と彼の間に会話はこれまでほとんどなかったから、今回も別れの挨拶だけ告げて終わりだろう。
「本日はお越しいただき、ありがとうございました」
そう言って頭を下げてギリアムさんが去るのを待つ。けど足音は急に止まって、俺の方を向いた。ゆっくりと顔を上げれば、ギリアムさんは何とも言えない顔で俺を見ていた。
「……ノヴァくん……君の剣は我流かい?」
「? はい、そうです。誰にも教わっていません。教わる相手もいませんでしたから」
正直に答えると、ギリアムさんは少しだけ顔を歪めたけど、すぐにいつもの表情に戻った。
「先ほどのゼロードとの戦いは見事だった。あそこまで磨き上げるのに考えもつかないほどの時間を費やしたのだろう。称賛に値する……見事だった」
「…………」
急にこれまでの剣の訓練を認められて、目を瞬かせてしまう。まさかギリアムさんにこんなことを言われる日が来るとは思ってもいなかった。もちろん嬉しい。シアと再会したり、オーロラちゃんと会って先に認められていなければ震えてしまったであろうくらいには。
「だからこそ、悔やまれる……私がノヴァくんの事を指導するようにトラヴィス様に強く言っていれば……」
「そう言って頂けるのはありがたいことですが……」
現実的に考えて、覇気の使えない俺をギリアムさんが指導する過去なんてものは存在しないだろうし。
そういった意味を込めて返答すると、ギリアムさんは目を伏せた。
「……そうだな。幼き頃のノヴァ君の才を見抜けなかった私が、至らなかっただけか。
それならノヴァ君、今からならどうだろうか? よければたまに、私と剣の訓練をしないか?」
「……え? いいんですか?」
思ってもみなかったギリアムさんの言葉に俺は跳びついた。彼は俺の中で一番強い剣士だ。そんな彼に教われるならこれほど嬉しいことはない。
「あぁ、むしろこちらからお願いしたい……とはいえ、することと言えば模擬戦くらいだが。長年をかけて形成された軸はそう簡単には変わらないし、そもそも変えるべきではないからな」
「ありがとうございます。是非ともお願いします」
「こちらこそ、よろしく頼む。近いうちに手紙をそちらの屋敷に送ろう。詳細は後日という事で」
「はい」
そう言うとギリアムさんは頭を下げて自分の馬車へと向かっていった。
その背中を見ながら、俺は口角が上がるのを感じた。彼との模擬戦が今から楽しみだ。
「……ノヴァ」
名前を呼ばれた。振り返れば、カイラスの兄上は無表情でじっと俺を見つめていた。
何か話したいことがあるのは、すぐに分かった。
68
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから――
※ 他サイトでも投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる