宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~

紗沙

文字の大きさ
97 / 237
第2章 宿敵の家の当主を妻に貰ってから

第97話 もう一人の兄上

しおりを挟む
 ゼロードと違ってカイラスの兄上の事は嫌いではない。けどよく分からないっていうのが本音だ。
 物心ついた頃から今まで、カイラスの兄上と言葉を交わしたことがほとんどないから。

 もちろん、会えば挨拶くらいはする。けどそれ以外の会話をした記憶は皆無で、カイラスの兄上にとって俺は意識を割くほどの存在でもないんだろうってずっと思っていた。
 だから、今この場で声をかけられたことに大きく驚いた。

「……大変な親睦会だったな」

「……はい」

 二人並んで言葉を交わすけど、俺達はお互いを見ようとはしない。俺もカイラスの兄上も、何もない方をただじっと見ているだけ。貴族の人達の見送りは終わったのにその場を離れもしない。歪な態度だけど、会話をするという意志は俺達にあった。

「あそこまで……人は変わってしまうものなのだな……」

「…………」

 何て返せばいいのか分からなくて黙っていると、カイラスの兄上はなにかを勘違いしたのか、小さく息を吐いた。

「いや、すまない。ノヴァを責めているわけじゃない。悪いのはどう考えてもゼロードの兄上だ。
 お前は兄上と戦い、勝利しただけだからな」

 それに関しては心の底から同意する。確かにきっかけは俺だったかもしれない。シアだったかもしれない。けど何があろうともこの事件を引き起こしたのはゼロードで、それは許されることじゃないんだから。

 会話が一段落着いて少しの間沈黙が流れる。けどカイラスの兄上は去る様子を見せない。
 だからどうせなら、と前から少し気になっていたことを尋ねてみることにした。

「……実家でゼロードと俺は次期当主の座をかけて争うと互いに宣言しました。ですがその時にカイラスの兄上だけは争うことから降りた。あれはなぜですか?」

「……お前が言うのか」

 顔を歪めたカイラスの兄上は、息を吐いて口を開く。

「……私が参加しても結果が何一つ変わらないと感じたからだ。アークゲート家の当主が力を貸すのだからな。
 私は戦うよりも前に敗北する未来を見た……もし兄上も同じものを見ていれば、こんなことにはならなかったのかもしれないな」

「……仮に見ていたとしても、あの人は止まらなかったと思いますよ」

 少なくとも俺の知るゼロードは、そういう人間だ。

「……そうだな」

 明後日の方向を向いていたカイラスの兄上は首を動かして星空を見上げた。

「あの時も言ったが、次期当主……おめでとうノヴァ」

「……ありがとう、ございます」

「聞かせて欲しいことがある」

 すっと、カイラスの兄上が視線を俺に向けたのに気づいた。俺も首を動かして兄上と視線を合わせる。

「お前は、フォルス家をどうするつもりだ? 近いうちにお前は当主になるだろう。なら、お前が目指すフォルス家とはなんだ?」

「…………」

 カイラスの兄上の言葉に深く考え込む。これが兄上から俺への問いかけだと、よく考えて返答しなくてはいけないと、そう思った。

「……皆が穏やかに過ごせる……それが俺の考える目指したいフォルス家です」

「…………」

 絶句。そして訝しげな視線でカイラスの兄上はじっと俺を見る。

「甘すぎるぞノヴァ。フォルス家は南の大貴族にして剣の名家。つまりは武家だ。
 そんなフォルス家の目指すものが、穏やかな日々だと?」

「……カイラスの兄上、もう北側の戦争は終わり、この国はコールレイク帝国との和平も結んで国交も開かれています。ナインロッド国との戦争だってしばらくやっていない。
 だから、この平和を少しでも長く保ちたい。これが俺の夢です」

「……ばかげている。我らは今まで剣の力のみで上に立ってきた一族だ。それが、平和だと?」

 そう言ったカイラスの兄上をじっと見つめ返す。

「……なら兄上は、平和でない方が良いと?」

「そういう話をしているのではない。私達がこれまで護り、受け継いできたフォルス家を壊すなと言っているんだ」

 困ったように少しだけ目じりを下げるカイラスの兄上。
 でも返事の中で、「私達がこれまで護り、受け継いできたフォルス家」という言葉だけは聞き逃せなかった。

「覇気を使えないという理由があったとしても人を蔑ろにするような家が、これまでのままで良いと?」

「……私が言っているのがそういった意味ではないことは分かっているだろう?」

「いや」と言って、カイラスの兄上はまっすぐに俺を見返した。

「お前は、恨んでいるのだな……当然か」

「…………」

 フォルス家を恨む気持ちはもちろんある。
 一方で、今話をしているカイラスの兄上を恨んでいるか。

 これは正直、分からないっていう気持ちの方が大きい。カイラスの兄上から何かをされた記憶はない。それは悪い事も、良い事も。冷たい視線を向けられたことや言葉に冷たさを感じたことはあるけど、ゼロードのように暴力を振られたことはないしメイドのように陰口を叩かれたこともない。
 少なくともカイラスの兄上に、出来損ないと呼ばれた記憶はなかった。

 けどシアのように救ってくれたわけじゃ絶対にない。助けを求めたこともないけど、彼の視界には俺は映っていなかったように思える。

 俺の人生において、カイラスの兄上はほとんどの場面で登場しない。

 だから少し思うところはあるけど、恨んではいないんだと思う。
 今だから思うけど、少し年上というだけのカイラスの兄上にどうにかできたとも思えないし。

「別に……今更の話です」

 そう言って無理やり話を終わらせる。本当は今更だからって割り切れる事じゃない。
 でも、それをカイラスの兄上に言うのも少し違う気もする。なによりも一番恨んでいた相手であるゼロードはもういないんだから。

「…………」

 カイラスの兄上は何も言わなかった。きっとなにを言っていいのか彼自身分からないんじゃないかと、そう思った。

「……いずれにせよ、兄上になにを言われても俺は俺のやり方を貫きます。この平和を維持することを」

 カイラスの兄上が言いたい武家としてのフォルス家。けどこれに関しても、今までのフォルス家じゃダメだと感じている。
 シアが死力を尽くして平和を勝ち取ってくれたからこそ、俺はこの平和な時間を少しでも長く保ちたい。それならフォルス家だって、そんな流れに従っていくべきだろう。

 はっきり言えば、フォルス家は遅れているとさえ感じているから

 けどそれはこれまでのフォルス家の在り方から全く恩恵を得られずに、それが間違っていると信じている、いや信じてきた俺だからだ。
 カイラスの兄上のような人からすれば、受け入れられないのも当然か。

 拳を強く握った兄上は、再び俺の方に視線を向ける。

「……そんなことが、出来るのだろうか」

「…………」

 呟かれた一言に驚けば、カイラスの兄上はすぐに視線を外す。

「……いや、それよりもノヴァ。私は真っ先に大罪人のゼロードを捕まえるべきだと思うが」

「……え、ええ……それに関しては賛成です。俺の方からも人を出します」

「あぁ、私も協力しよう」

 踵を返して別邸の方へと戻っていくカイラスの兄上。その背中を見て、さっきの兄上の事を思い出す。

『……そんなことが、出来るのだろうか?』

 あの言葉にはどんな意味が込められていたのだろう。表情があまり変わらないカイラスの兄上の真意は分からなかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

親友に恋人を奪われた俺は、姉の様に思っていた親友の父親の後妻を貰う事にしました。傷ついた二人の恋愛物語

石のやっさん
恋愛
同世代の輪から浮いていた和也は、村の権力者の息子正一より、とうとう、その輪のなから外されてしまった。幼馴染もかっての婚約者芽瑠も全員正一の物ので、そこに居場所が無いと悟った和也はそれを受け入れる事にした。 本来なら絶望的な状況の筈だが……和也の顔は笑っていた。 『勇者からの追放物』を書く時にに集めた資料を基に異世界でなくどこかの日本にありそうな架空な場所での物語を書いてみました。 「25周年アニバーサリーカップ」出展にあたり 主人公の年齢を25歳 ヒロインの年齢を30歳にしました。 カクヨムでカクヨムコン10に応募して中間突破した作品を加筆修正した作品です。 大きく物語は変わりませんが、所々、加筆修正が入ります。

【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!

雨宮羽那
恋愛
 いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。 ◇◇◇◇  私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。  元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!  気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?  元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!  だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。 ◇◇◇◇ ※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。 ※アルファポリス先行公開。 ※表紙はAIにより作成したものです。

【完結】勘当されたい悪役は自由に生きる

雨野
恋愛
 難病に罹り、15歳で人生を終えた私。  だが気がつくと、生前読んだ漫画の貴族で悪役に転生していた!?タイトルは忘れてしまったし、ラストまで読むことは出来なかったけど…確かこのキャラは、家を勘当され追放されたんじゃなかったっけ?  でも…手足は自由に動くし、ご飯は美味しく食べられる。すうっと深呼吸することだって出来る!!追放ったって殺される訳でもなし、貴族じゃなくなっても問題ないよね?むしろ私、庶民の生活のほうが大歓迎!!  ただ…私が転生したこのキャラ、セレスタン・ラサーニュ。悪役令息、男だったよね?どこからどう見ても女の身体なんですが。上に無いはずのモノがあり、下にあるはずのアレが無いんですが!?どうなってんのよ!!?  1話目はシリアスな感じですが、最終的にはほのぼの目指します。  ずっと病弱だったが故に、目に映る全てのものが輝いて見えるセレスタン。自分が変われば世界も変わる、私は…自由だ!!!  主人公は最初のうちは卑屈だったりしますが、次第に前向きに成長します。それまで見守っていただければと!  愛され主人公のつもりですが、逆ハーレムはありません。逆ハー風味はある。男装主人公なので、側から見るとBLカップルです。  予告なく痛々しい、残酷な描写あり。  サブタイトルに◼️が付いている話はシリアスになりがち。  小説家になろうさんでも掲載しております。そっちのほうが先行公開中。後書きなんかで、ちょいちょいネタ挟んでます。よろしければご覧ください。  こちらでは僅かに加筆&話が増えてたりします。  本編完結。番外編を順次公開していきます。  最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!

私の手からこぼれ落ちるもの

アズやっこ
恋愛
5歳の時、お父様が亡くなった。 優しくて私やお母様を愛してくれたお父様。私達は仲の良い家族だった。 でもそれは偽りだった。 お父様の書斎にあった手記を見た時、お父様の優しさも愛も、それはただの罪滅ぼしだった。 お父様が亡くなり侯爵家は叔父様に奪われた。侯爵家を追い出されたお母様は心を病んだ。 心を病んだお母様を助けたのは私ではなかった。 私の手からこぼれていくもの、そして最後は私もこぼれていく。 こぼれた私を救ってくれる人はいるのかしら… ❈ 作者独自の世界観です。 ❈ 作者独自の設定です。 ❈ ざまぁはありません。

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

俺を凡の生産職だからと追放したS級パーティ、魔王が滅んで需要激減したけど大丈夫そ?〜誰でもダンジョン時代にクラフトスキルがバカ売れしてます~

風見 源一郎
ファンタジー
勇者が魔王を倒したことにより、強力な魔物が消滅。ダンジョン踏破の難易度が下がり、強力な武具さえあれば、誰でも魔石集めをしながら最奥のアイテムを取りに行けるようになった。かつてのS級パーティたちも護衛としての需要はあるもの、単価が高すぎて雇ってもらえず、値下げ合戦をせざるを得ない。そんな中、特殊能力や強い魔力を帯びた武具を作り出せる主人公のクラフトスキルは、誰からも求められるようになった。その後勇者がどうなったのかって? さぁ…

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...