宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~

紗沙

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第2章 宿敵の家の当主を妻に貰ってから

第111話 国王への謁見、挨拶

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 その日、俺は父上と一緒に王都の王城に来ていた。今日は国王陛下への謁見の日。俺達の前には豪華な扉があって、偉い人に挨拶をするという事でかなり緊張していた。
 視線を向けてみれば、既に顔見知りであるはずの父上も少しだけ緊張しているように思えた。

「……ノヴァ、自然体で構わん。失礼なことはしないと思うが、無理に畏まりすぎる必要もない」

「かしこまりました」

 父上からの言葉を聞くと同時に、両脇の兵士が扉を開いた。足を進めて中へと入れば、中には数人が待っていて、その一番奥には玉座に腰を下ろした厳格な雰囲気の国王陛下がいる。
 この国の長、オズワルド国王だ。短く切りそろえた紫色の髪に、青い瞳が鋭く俺を射抜いている。

 彼に目を合わせながら素早く前進し、御前へ。そして事前に父上から聞かされていた通りに膝をついた。隣では父上も同じように膝をついている。

「久しいな、トラヴィス。今日を楽しみにしていたぞ」

「はっ……もったいなきお言葉。わざわざ時間を取って頂き――」

「よいよい、堅苦しい挨拶は必要ない。面を上げよ」

 父上が立ち上がる音を聞いて、俺も慌てて立ち上がり姿勢を正した。オズワルド国王に目線を向けてみれば、まっすぐな視線と絡み合った。

「それで……君がフォルス家の次期当主、ノヴァだな」

「はい、ノヴァ・フォルスです」

「ふむ……このくらい柔らかい方が好ましい。話は聞いているよ。三男だが力、器量、共に優れていると。トラヴィスが選んだのなら問題はあるまい。
 これからも、南側を栄えさせてくれ」

「はっ、尽力する所存です」

「ふむ……」

 そう言った国王はじっと俺を見つめる。何かを言うわけでもなく、観察しているような視線だ。

「トラヴィスから聞いた限りでは、フォルス家をさらに良いものにしたい、とのことだったが、それに間違いはないか?」

「はい、ありません」

「君の妻は北の大貴族、アークゲート家の当主だ。君がフォルス家の当主になった以上、君が栄えるという事は北のアークゲート家もまた栄えるという事」

 そう言う国王の瞳からは見透かそうという気持ちを感じ取った。けど俺から、一体何を見透かそうって言うのか。

「従来、北のアークゲートと南のフォルスは険悪であった。中央にある我らは両者のバランスを調整することで国をまとめてきたつもりだ。それが実際に出来たかどうかは別としてな。
 だが最近は圧倒的に北側のアークゲートが有利。そして今、二つの家の当主が結ばれるという、かつてないことも起きている」

「…………」

「まあ、元々籍を入れていて後から当主になったのだから順番は少し違うが、結果は同じだ」

 やっぱりこれは、国王としてアークゲートとフォルスが手を取り合うと力を持ちすぎると警戒しているのか。
 そう思ったけど、国王陛下は小さく笑った。

「これまで絶妙な調整をしてきたが、両者が力を得て北も南も栄えるのが、国としては一番なのかもしれんな。もちろん、我らにとって変わられると困るのだが」

「……いえ、そのような考えは決して」

 国王陛下の言うようなことは本当に少しも考えたことはない。つまりシアと協力してこの国のトップに立つってことでしょ? そんな器じゃないし野心だってない。そもそもそれはシアのお陰で穏やかな日常を迎えられるこの国に混乱をもたらすと思う。
 つまりシアの頑張りを無に帰す行為で、他ならぬ俺は絶対にやらない。

「失礼、父上は心配性なのだ。アークゲート家当主もそのようなつもりはないと言っているのに」

 横から声を聞いてそちらを見る。そこに立っていた人物を見て、俺は絶句した。
 この部屋に入ってきたときからずっと国王陛下だけを見ていたから、彼の事に気づかなかったみたいだ。

「私も分かっているのだレイモンド、ただな……ああいや、すまない、紹介しよう。
 彼はレイモンド。私の息子でこの国の王子だ」

「レイモンド・フォン・ファルケンハインだ。よろしく、ノヴァ・フォルス殿」

「は、はい……よろしくお願いします」

 返事がたどたどしくなるのも仕方がないと思う。当の本人は悪戯に成功したかのようににやりと笑みを浮かべているし。
 この国の王子をこれまで見たことはないから、姿は知らなかった。

 けど王子として見たことはなくても、彼とは会ったことがある。
 レイモンド王子は俺が王都でこの前会ったシアの協力者、レイさんだった。

「レイモンドの言う通りだ、不安にさせるようなことを言ってしまったな。少し話題を変えよう。
 ……ふむ、夫婦仲は良好かね?」

「え? は、はい……シア……いえ、妻とは特に問題はありません」

「そうかそうか。夫婦仲睦まじいのは良いことだ」

 国王陛下の言葉に返しつつも、視界の隅にいるレイさんが気になって仕方がない。
 え、シアの協力者ってこの国の王子なの? そういえばレイさんは協力者っていう言葉が対等に思えるから辞めて欲しいって言っていたけど、そういう事か。

 確かに北の大貴族の当主と国の王子じゃ、立場が少し違うもんな。
 将来的には王子の方が確実に上になるだろうし。

 それと同時にユティさんが言っていた心配する必要がないという言葉や、シアのいつも通りで良いっていう言葉についても納得した。
 この場にはレイさんがいるから安心して欲しいってことだろう。それをユティさんは知っていたのか。

 確かに知っている人が王子という立場だったっていうのはかなり助かる状況だ。
 ただ、あまりにも驚いてそれどころじゃなくなっている気もするけど。

「ふむ……ところでノヴァ、レティシア以外に仲の良い女子はいるのか?」

「……仲が良い女性、ですか?」

 なんでそんなことを聞くのかと思ったけど、別に隠すことでもないので正直に打ち明ける。

「アークゲート家の人とは仲良くしています。それ以外ですと、研究の関連でワイルダー家のナターシャさんくらいでしょうか」

 他にもターニャとか居るけど、流石にここで名前を出すのは貴族だけで良いだろうと思って黙っておいた。ナタさんに関しては仲が良いって言えるのかどうか疑問ではあるけど。

「ふむふむ、なるほど……ところでなノヴァ、物は相談なのだが側室――」

「父上、風の噂に過ぎませんが、ノヴァ殿とその奥方であるレティシア殿は『大変仲睦まじい』ご様子です。夫婦の事をより詳しく聞くのもいかがなものかと」

 レイさんがやけに一部を強調して国王陛下に告げた。
 っていうか、そこまで俺とシアの事について聞かれていたっけ?と思ったけど、国王陛下はわざとらしく咳ばらいをする。

「そうだな。我らが北のレティシアと南のノヴァが仲睦まじいのが一番だ。
 ふむ……ノヴァよ、今日はご苦労であった。これからの活躍にとても期待している」

「ありがたきお言葉」

 立ったままで深く頭を下げる。頭を上げて退出するときにチラリとレイさんの方を一瞥すれば、彼が周りには気づかれないように、本当に小さく笑ったように見えた。

 こうして、あれほど緊張した国王陛下への挨拶は特に何かがあるわけでもなくあっさりと終わった。
 特にレイさんには感謝だ。彼がここに居てくれたことで、ちょっと気持ちが楽になった。
 ……まあ、もっと早く王子なんだって教えて欲しかったけどね。
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