宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~

紗沙

文字の大きさ
116 / 237
第2章 宿敵の家の当主を妻に貰ってから

第116話 フォルスの屋敷に引っ越し

しおりを挟む
 引継ぎ作業が終わった後は早かった。父上はリーゼロッテの母様を連れて屋敷を出て行く準備もしていて、俺が屋敷に移住する前に離れた場所にある小さな別邸へと移っていった。

 ところで俺が普段使っていた小さな屋敷に関しては、今後は使用する機会が極端に減る。
 元々持っていた領地は小さいものだし、フォルス家の領地から切り取ったもの。それを戻すだけだからだ。

 それに生活の拠点を俺の屋敷から実家の屋敷に移すので、家具などを一式持っていく必要があった。つまりそれまで居た屋敷は閑散としたものになるわけで、「このタイミングで親睦会するしかないです!」というターニャの言葉に後押しされて、本当に小さい規模だけどパーティのようなものをやったりした。

 参加したのは俺の屋敷の使用人たちと、アークゲートからはオーロラちゃんやユティさん、それに使用人の方々だ。
 リサさんはメイド達の間に交じって楽しそうにしていたし、ラプラスさんには正式に挨拶をしたりした。全員が全員楽しそうで、大成功だった。
 準備がちょっと大変だったけど、皆が喜んでくれるなら今後もたまにのタイミングで実施してもいいかもしれない。

 そして引っ越しの当日、俺とシアは手を繋いだ状態でゲートを通って、実家へとやってくる。門を通り抜けた先には、ローエンさんが頭を深く下げて待っていてくれていた。

「お待ちしておりました、旦那様」

「こんにちはローエンさん、ジルさんは来てる?」

 引っ越すにあたって、ターニャを除くメイドや執事は後から合流することになっている。一方で俺の補佐を務めてくれるジルさんは少し早めに実家に足を運んでくれていた。
 ちなみにもう一人の補佐であるラプラスさんはアークゲート家から今日の早い時間にシアがゲートを使って連れて来てくれたので、俺の後ろにターニャと並んで立っている。

「はい、執務室に入って資料を確認しています。執務室までご案内しますので、こちらへどうぞ」

「あ、旦那様、私はここで別行動を……少し話をつける相手がいますので」

 ローエンさんに促されてすぐに、ターニャが俺に耳打ちしてくる。
 話をつける相手と言うのが誰なのかが分かり、俺は頷いた。頭を小さく下げた俺の専属侍女は、やや足早に厨房の方へと向かっていく。

 その背中を見送りながら俺はローエンさんの後に従って屋敷の中に入り、執務室を目指す。父上がいなくなったからか屋敷は変に静かで、見慣れている筈なのに違う屋敷のようにも感じられてしまった。

 道すがら誰にも会うことはなく、執務室へ。ローエンさんが扉を開けば、その奥には見慣れた執務机が目に入る。それと同時に、手前の長椅子に腰かけて紙に目を通しているジルさんもだ。

「おぉ、旦那様、ようこそおいでくださいました」

「ジル殿、ここは旦那様の執務室ですが」

「……おぉ、これはローエン殿に一本取られましたな」

「いいよローエンさん。ジルさんも元気そうで何より」

 ついこの前の親睦会ではお酒を浴びる程飲んでいたけど、今はケロッとしている。
 でもやっぱり裏表のない活発なジルさんと話すのは嬉しい気持ちになるな。

「ジルさん、これからよろしくお願いします」

「これはこれは再度ご丁寧に……ともに力を合わせ、旦那様を支えていきましょうぞ」

「はい、ぜひ」

 ラプラスさんとジルさんが微笑みあう。二人はこの前のパーティでも顔を合わせているけど、今回は再度の挨拶。相性が良いのか、雰囲気も悪くない。アークゲートとフォルスということでちょっと心配していたけど、杞憂だったようだ。

「旦那様、ラプラス殿とジル殿は別室を、ターニャ殿に関してはこの部屋の中に執務机を入れるという事でよろしかったですかな?」

「うん、それでお願い」

 ターニャは続投して俺に一番近い位置で支えてもらうように頼んだ。だからこの新しい環境でも、彼女はかつてと同じように俺の側にいてくれる。
 ちなみに頼んだ時には「仕方ないですね」と言っていたけど、口角が上がっていたことは記しておく。

「家具や荷物などの搬入はもう少ししたら行う予定です。すでに業者にも話をつけてありますし、私のゲートを使えばすぐでしょう」

「本当、力を貸してくれてありがとうね」

 俺の屋敷の荷物を片付けるときも、シアの魔法にはかなり世話になった。今回の引っ越しだって、ゲートの魔法がなければかなりの労力がかかっていた筈だ。
 お礼を言われたシアは穏やかに微笑んで、首を横に振る。

「いえ、こんなことは些細なことです。いくらでも私の力を当てにしてください。私も嬉しいですから」

「そっか……そうだね」

 二人して微笑みあっていると、伺うような形でローエンさんがゆっくりとこちらに近づいてきた。

「その……旦那様、ソニアについてなのですが……」

 ローエンさんの言葉に彼の方を向く。今まで彼が旦那様と呼んでいたのは父上だったから、ちょっと不思議な感じは抜けない。

「うん、彼女は元気だよ。もちろんこっちの屋敷に来てもらうつもりだけど、ちょっと経った後になるかな。今は休みを出して、実家に戻って貰ってる。向こうの屋敷では簡単な仕事をやって貰っていたから、こっちの屋敷でもそれは変わらずって感じ」

「彼女は素晴らしいですぞ。ターニャ嬢が、後継者にすると言ってましたからな」

「後継者……ですか?」

「ああ、いえ、言葉の綾みたいなものです。結構気にかけてくれているみたいで、将来的にはメイド長のような立場にまでしたいみたいで」

 気にかけているというよりも、少し弱い溺愛に近い。仕事はあまり量がないけど、終わった後にメイドとしての心得や業務内容などの授業をしている姿を良く見かける。
 ちなみにソニアちゃんも結構勉強熱心な子らしく、「ターニャ先生!」と元気に呼んでいた。あの調子なら将来は優秀なメイドさんになってくれるはずだ。

「そうですか……それは良かったです。本当に」

 彼女の地獄を知っているローエンさんは安堵のため息を吐く。昔は冷たい人のように思っていたけど、今は年相応のお爺ちゃんという感じに目を細めて微笑んでいた。

「さて、ちょっと執務室の中を色々見てみるよ」

 一応引き継ぎの際にここには来ていたけど、自分の勝手にできるという意味ではまだ場所があいまいな部分もある。とりあえず執務室を見て、その後は屋敷のいろんな場所を確認しようと、そう決めた。

「それでは、私はちょっと行くところがあるので、少し失礼しますね」

「行くところ?」

 シアの言葉に首を傾げる。彼女の予定に関してはターニャから聞いているけど、どこかに出かけるような予定はなかった気がしたけど。
 そう思っていると、シアはちょっと悪戯っぽい笑顔を浮かべた。オーロラちゃんの笑顔に似ているなと、ほんの一瞬思った。

「私の一番の仕事はノヴァさんの妻ですし、妻の仕事と言えば家の管理です。一足先に、私は屋敷を確認してきますね」

「ああ、そういうことね。うん、行ってらっしゃい」

「はい」

 そう言って、シアは執務室を後にする。扉が閉じるのを見届けた後に、俺は執務室の確認へ取り掛かった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

処理中です...