宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~

紗沙

文字の大きさ
173 / 237
第3章 宿敵の家と宿敵でなくなってから

第173話 お調子者ハインズさんの一番苦手な人

しおりを挟む
 時は流れて親睦会当日、俺は別邸の控室に居た。準備はもう完了していて、あとは南側の貴族達が来るのを待つだけだ。

「予想よりも早く準備が終わりましたね」

「ターニャのお陰だよ。流石は最古参の侍女長様は仕事もお早いことで」

「なんか、褒められているのか揶揄われているのか困る反応ですね。ですが素直に褒めてくださっていると受け取っておきます」

 ふふんっ、と胸を張るのは俺の専属侍女にして、屋敷の侍女長でもあるターニャだ。今回の親睦会における準備の統括的な役割を担ってくれた存在でもある。本番である今日は念のために裏で控えてもらう予定だ。

 前に決めた通り、この親睦会にアークゲート家の人は呼んでいない。ユティさん、オーロラちゃんは勿論の事、妻であるシアもここには居ない。
 ラプラスさん、ローエンさん、ジルさんは俺の屋敷に残ってもらったから、今この場で一番親しいのは隣に居るターニャだったりする。

 ちなみに当のターニャは、俺とどこかに出かけるのがかなり久しぶりだから楽しんでいるようだった。

「別邸だけあって流石に規模は本邸より小さいですし、この一回限りですからね。準備に協力してくれた方達も優秀で、とても助かりました」

「特に大きな問題もなさそうで安心したよ。あとは確認した手順通りに進めて、成功で終わらせるだけだね」

 親睦会は大きな行事ではあるけれど、俺はそこまで緊張していなかった。自分で開催するのは初とは言え親睦会自体は二回目。それにもっと大きな式典にも出席したこともある。
 加えて参加者全員と面識がある、というのも大きな理由だった。

 ノックの音が部屋に響き渡る。扉に返事をすると音を立てて開き、入ってきたのはアランさんだった。

「お久しぶりですノヴァさん。今日は招待いただき、ありがとうございます」

「アランさん、久しぶり。……セシリアさんは?」

 彼以外の姿が見えないので聞いてみると、どうやら会場の方に先に向かわせたらしい。アランさんはアランさんで俺に挨拶がしたくて一人で来たんだとか。律義な人だなと思ったけど、アランさんらしいなとも思った。

「それにしても懐かしいですね。一年以上前になりますか……ここでノヴァさんを見たのは」

「ああ、そういえばそうだね。あの時はちょっと大変だったから……まあその後も大変で次の開催が遅れちゃったんだけどね」

「当主が交代したという事ならば仕方ない事かと。むしろこの期間で開催できるなら早い、と個人的には思います」

「アランさんにそう言ってもらえるとありがたいかな」

 二人して微笑みあっていると、再びノックの音が響く。また別の貴族が挨拶をしに来たのかなと思って声をかけると、アランさんの時と同じように扉が開いて一人、部屋の中に入ってきた。

「やあノヴァ殿、本日は招待ありがとう」

「ハインズさん、お久しぶりです」

 入ってきたのはナタさんとセシリアさんの父であるハインズさんだった。ワイルダー家も当然今回の招待客の中に入っている。
 彼はアランさんが居ることは予想外だったらしく、少しだけ驚いた様子を見せた。

「おや、アラン殿も居たのか。邪魔したかな?」

「いえ、そんなことは」

「そもそも義理とはいえ親子関係なんですから、三人で話せばいいのでは?」

 思ったことを口にしてみると、ハインズさんはポンッと握りこぶしで自分の手のひらを叩き、確かに、と呟いた。前から思っていたけれど、この人動作の一つ一つが軽いというか、気前が良いというか……父上と年齢はそんなに変わらない筈だけど、なんか若く見えるんだよなぁ。

「ところでアラン殿、セシリアとの関係は良好かい? 入籍してから結構経つけど、上手く行っているといいんだが」

「はい、自分は屋敷の管理などはあまり得意ではなかったのですが、彼女のお陰で少し屋敷が明るくなったように感じます。使用人たちとの仲も良好ですし、勿体ないくらいの人です」

 ハインズさんとアランさんのやり取りを聞いて、あれ? と思った。少しアランさんの回答がズレているような……。そう思っていると、ハインズさんは笑いながら、いやいや、と言った。

「そうじゃなくてアラン殿とセシリアの関係の方さ。入籍報告の時も言ったけれど、あの子はこれまで婚約者からは愛してもらえず、その後は噂で心を傷つけられてきたからね。ちゃんと愛していると伝えているかい? 言葉でも態度でも行動でも、大切にしてやってくれよ?」

「……は、はい」

 やっぱり思った通りズレていたようで、ハインズさんは訂正してきた。その時の彼の言葉には少し圧があって、あのアランさんが気圧されていたくらいだ。というか、アランさんがあんな風にタジタジになっているのは初めて見た気がする。

「もしセシリアを泣かせた場合は、ワイルダー家はサイモン家に宣戦布告するからね。フォルス家とアークゲート家にも手伝ってもらうよ」

「え、自分もですか?」

 急に俺の所にも話が回ってきて、驚いて返す。というかワイルダー家にフォルス家にアークゲート家って、それ下手したらサイモン家塵一つ残らないんじゃ……。冗談に対してなんとなく戦力を考えていると、アランさんが不敵に笑った。

「そこはご心配なく。私はセシリアを心から愛していますし、彼女を絶対に幸せにします」

 え、アランさんカッコいい。そう思うと同時、ハインズさんは満面の笑みで、そうかそうか、と少しだけ大きな声を出した。

「ふむふむ、この様子なら二人は安泰だ。孫の顔も近いうちに見られるかもしれないな」

「ま、孫ですか……」

「うんうん、なるべく早く頼むよアラン殿。私も老い先短いかもしれないからね」

 うわぁ……という目でハインズさんを見る。あなたの老い先が短いわけないだろ、と心の中で叫んだ。むしろ孫どころかひ孫まで笑顔で見る気さえする。
 もう三人の会話は完全にハインズさんのペースだった。翻弄するような話しの切り口に、特にアランさんはやられっぱなしだったのは言うまでもない。

「やっぱりハインズさんと話すときは保険としてセシリアさんかナタさんに同席してもらうのが良いのかもしれないね」

「いやいや、娘たちを出すのは止めてくれよノヴァ殿。特にナタに関しては無言で抓られてしまうさ」

 以前の事を思い出しているのか、苦笑いで答えるハインズさん。彼にとってみれば、ナタさんが一番頭が上がらない相手なのかもしれない。
 そんな事を思っていると、アランさんはポツリと呟いた。

「いや、むしろノヴァさんの場合は奥様に同席してもらえばいいのでは? 流石にアークゲートの長の前ではお義父様もこのような振る舞いは出来ないでしょう」

 さっきまでハインズさんの言葉に翻弄されたことを根に持っているのか、アランさんは少しだけしたり顔でそう言う。そういえばシアとハインズさんの関係性はどうなんだろうか。面識はあると思うが、俺の知っている限り二人が話しているところは見たことがないな、と思ったとき。

「ノヴァ殿、奥方にナタがいつもお世話になっています、とお伝えください」

 急に畏まった口調でハインズさんはそう言って貴族特有の礼をする。あまりの変わりように唖然としていると、礼を解いたハインズさんは今日一番困った顔をした。

「なのでレティシア様の同席だけはどうか。緊張と重圧で息が少し苦しくなってしまいます……」

「は、はは……分かりました。これまで通りで行きましょう」

「本当かい! いやぁ、助かるよ!」

 急に調子が戻るハインズさん。前言撤回、どうやら彼の一番苦手な人はナタさんではなくシアだったらしい。確かにハインズさんのいつもの調子が通じなさそうな相手、というのは間違いなさそうだ。俺は向けられたことはないけれど、見たことはあるちょっと怖い笑みで冷や汗を流しているハインズさんの姿が思い浮かぶし。

 その後、三人である程度話して満足したのか、ハインズさんはアランさんを連れて部屋を出ていった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。  なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!  冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。  ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。  そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。

親友に恋人を奪われた俺は、姉の様に思っていた親友の父親の後妻を貰う事にしました。傷ついた二人の恋愛物語

石のやっさん
恋愛
同世代の輪から浮いていた和也は、村の権力者の息子正一より、とうとう、その輪のなから外されてしまった。幼馴染もかっての婚約者芽瑠も全員正一の物ので、そこに居場所が無いと悟った和也はそれを受け入れる事にした。 本来なら絶望的な状況の筈だが……和也の顔は笑っていた。 『勇者からの追放物』を書く時にに集めた資料を基に異世界でなくどこかの日本にありそうな架空な場所での物語を書いてみました。 「25周年アニバーサリーカップ」出展にあたり 主人公の年齢を25歳 ヒロインの年齢を30歳にしました。 カクヨムでカクヨムコン10に応募して中間突破した作品を加筆修正した作品です。 大きく物語は変わりませんが、所々、加筆修正が入ります。

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

私の手からこぼれ落ちるもの

アズやっこ
恋愛
5歳の時、お父様が亡くなった。 優しくて私やお母様を愛してくれたお父様。私達は仲の良い家族だった。 でもそれは偽りだった。 お父様の書斎にあった手記を見た時、お父様の優しさも愛も、それはただの罪滅ぼしだった。 お父様が亡くなり侯爵家は叔父様に奪われた。侯爵家を追い出されたお母様は心を病んだ。 心を病んだお母様を助けたのは私ではなかった。 私の手からこぼれていくもの、そして最後は私もこぼれていく。 こぼれた私を救ってくれる人はいるのかしら… ❈ 作者独自の世界観です。 ❈ 作者独自の設定です。 ❈ ざまぁはありません。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

処理中です...