宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~

紗沙

文字の大きさ
204 / 237
第3章 宿敵の家と宿敵でなくなってから

第204話 段々と近づく幸せな瞬間

しおりを挟む
 シアの妊娠が発覚してから少しの時間が流れた。シアのお腹も少しずつ大きくなってきて、新しい命が生まれようとしているんだと思うことも多くなった。

 それに伴い、シアの普段の業務は本格的にユティさんを初めとするアークゲート家の人に一時的に引き継がれつつある。シアはまだまだ出来るって言っていたけど、これまで頑張ってきたんだから今はゆっくりして欲しい、っていうのは屋敷の人の総意だ。

 今ではユティさんのみならず、手伝える時はオーロラちゃんもアークゲートの屋敷に来て手伝ってくれたりしている。もちろん俺も、手伝える時は手伝っている。

 ゲートの機器を利用して、アークゲートの屋敷へと移動する。繋いだ先は入口で、ゲートを通れば見覚えのある大きな階段が目に入った。

「ノヴァさん、ちょうどいらしたんですね。ようこそアークゲート家へ」

 声が聞こえて右の方を見ると、ちょうどユティさんが通りかかったようで、いくつかの書類を持っていた。

「こんにちは、ユティさん」

 彼女に向かって軽く頭を下げると、ユティさんはやや早足で俺に並ぶ。

「せっかくですので、一緒に当主様の部屋に行きましょうか」

「はい、行きましょう」

 ユティさんと並んで歩きだし、階段を上る。ユティさんの部屋のある右側ではなく、左側へ伸びる階段に続いて足を掛けた。そのまま扉を開けて屋敷左側の廊下へ。オーロラちゃんの部屋を左手に通り過ぎ、一番奥のシアの執務室に到着する。

 扉を開けて中に入るユティさんを追いかけて、俺も中に入った。

「ユティ、ありがとうございます……あら? ノヴァさんも来てくださったんですね」

 部屋の中には仕事をするシアの姿があって、彼女は俺を見つけると笑顔になってくれた。それを見て俺も自然に笑顔になる。彼女と顔を合わせるのは朝以来だけど、久しぶりだと錯覚しそうになったくらいだ。

「ノヴァさんも手伝ってくれるそうですよ……とはいえ、もう今日の仕事はほとんど終わっているのですが……あ、ノヴァさん、こちらお願いします」

 自分の執務用の机に近づいたユティさんは、机の上の書類を漁り、そのいくつかを俺に差し出した。それを受け取って、俺は長椅子とテーブルに向かう。
 シアの執務室の中はそこまで変わらないけど、ユティさんが作業する用の机が入れられた。一緒に仕事をするのも目的の一つだけど、シアにもしものことがあったときに備えるためだ。

 長椅子に腰かけて、置かれているペンを使用して仕事を進める。ペンを動かしていると、ユティさんが声をかけてきた。

「そういえばノヴァさん、今年の親睦会は特に問題なかったようですね」

「うん、つつがなく終わったかな」

「この親睦会に関しても、その内南と北合同で行うようなことを考えているんですか?」

 ユティさんの質問に、俺は考え込む。

「うーん、それが理想的だけど、かなり規模が大きくなるよね。それこそ親睦を深めるっていう目的だけなら王都でレイさん達も巻き込んでやった方が良いかもしれない……とかかな?」

 親睦会と名前がついているけど、どちらかというと南側の貴族だけで結束を強める会という方が昔は正しかった。北と南の壁を無くすなら、これに関しても南だけ、北だけという区分けではなくて、国として、を考える必要があるだろう。

 そうなるとオズワルド陛下やレイさんに依頼した方が良いのではないかと思うけれど。

「どっちにせよ、今はちょっと忙しくてあまり考えられないかな」

「そうですね。両家を一つにする詳細案と同じく、少し保留にしましょう」

 いずれにせよ今すぐ決められることじゃない。そうユティさんと合意を取ると、シアが申し訳なさそうに目じりを下げた。

「申し訳ありません、私のせいで……」

 その原因だと考えているからか、声は沈んでいる。
 そんなシアの言葉を、俺はすぐに否定した。

「何言っているのさ。シア以上に優先することなんてあるわけないでしょ。シアのせいだなんて思ったこと、一回もないよ」

「ノヴァさん……」

「そうですよ。当主様は子供が出来たぞー、よろこべー、と言う事はあっても、申し訳なく思う必要はありません」

「……ふふっ、なんですかそれ」

 俺とユティさんの言葉にシアは笑顔になる。そう、ユティさんの言う通り申し訳なく思う必要は全然ない。色々なことが後回しになっているのはシアが理由っていうのはあるけど、それは決して悪い事じゃない。

 むしろ他の事に比べて圧倒的にシアの優先順位が高いだけだ。だから気にしないで良いんだよと、穏やかな表情で彼女を見た。シアは俺の視線に気づき、同じように穏やかな表情を浮かべて自分の少し膨らんだ腹部に手を添えた。

「来年の今頃は、私とノヴァさんの間に新しい命が居るんですね……触れることも、撫でることも、口づけを落とすことも出来る……そう考えると感慨深いものがあります」

「そうだよ。だから無理しちゃダメだからね。お腹の中の子のためにも、シアのためにも」

「お医者さんの先生はこれまでの人類史で一番心配しなくていいと言っていましたが、かといってこれまで通りとはいかないでしょうからね」

「分かってます。ちゃんと安静にしていますよ」

 困ったようにため息を吐くシア。彼女はユティさんをチラリと見て、次に俺に視線を向けてきた。

「もうこれ、毎日なんです。聞きすぎて耳にたこが出来ちゃいます」

「……ユティさんもシアの事が心配なんだよ」

 ユティさんの気持ちも分からなくもないのでそう言うと、ユティさんは椅子に座ったまま腕を組んで得意げに答えた。

「その通りです。姉として大好きな妹を心配するのは当然の事。これぞお姉さん特権ですね」

 その言葉を聞いて、シアは小さくため息を吐いた。

「こういうときだけお姉さんぶるのはズルいと言いますか、何と言いますか……でもまあ、お姉さんの気遣いを受け取っておきますよ。ありがとうございます、ユティお姉様」

 珍しいと思った。というかシアと再会してからかなり時間が経つけど、彼女がユティさんの事を「ユティお姉様」と呼ぶのは初めてではないだろうか。これはこれでユティさんも嬉しいだろうなと思って彼女の方を見たけれど。

「むっ……むむっ……」

 ユティさんは困惑するというか、違和感を覚えているというか、何とも言えない表情をしていた。

「……なんでしょう、昔は呼ばれていた筈なのに、今の当主様からそう呼ばれると何故か背中がむず痒くなると言いますか……そうじゃない感が強いと言いますか」

「あら? どうしましたか? ユティお姉様?」

 揶揄うようなシアの言葉に、ユティさんは困って頭を掻いた。

「……当主様、いつも通り、ユティでお願いします」

「仕方ないですね、分かりました、ユティ」

「……うん、これですね」

 遠くから見ているだけだとなにがこれなのか分からないけれど、ふざけ合っているときの二人も、いつもの二人もどちらもとても仲が良く見えた。
 こんな風にこれからもユティさんとシアは仲良くなってくれればなと、思う。

 その中にもちろんオーロラちゃんも入っていて、三姉妹全員が仲良く笑っている今がこれから先もずっと続けばいいなと、そう思った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。  なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!  冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。  ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。  そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。

親友に恋人を奪われた俺は、姉の様に思っていた親友の父親の後妻を貰う事にしました。傷ついた二人の恋愛物語

石のやっさん
恋愛
同世代の輪から浮いていた和也は、村の権力者の息子正一より、とうとう、その輪のなから外されてしまった。幼馴染もかっての婚約者芽瑠も全員正一の物ので、そこに居場所が無いと悟った和也はそれを受け入れる事にした。 本来なら絶望的な状況の筈だが……和也の顔は笑っていた。 『勇者からの追放物』を書く時にに集めた資料を基に異世界でなくどこかの日本にありそうな架空な場所での物語を書いてみました。 「25周年アニバーサリーカップ」出展にあたり 主人公の年齢を25歳 ヒロインの年齢を30歳にしました。 カクヨムでカクヨムコン10に応募して中間突破した作品を加筆修正した作品です。 大きく物語は変わりませんが、所々、加筆修正が入ります。

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

私の手からこぼれ落ちるもの

アズやっこ
恋愛
5歳の時、お父様が亡くなった。 優しくて私やお母様を愛してくれたお父様。私達は仲の良い家族だった。 でもそれは偽りだった。 お父様の書斎にあった手記を見た時、お父様の優しさも愛も、それはただの罪滅ぼしだった。 お父様が亡くなり侯爵家は叔父様に奪われた。侯爵家を追い出されたお母様は心を病んだ。 心を病んだお母様を助けたのは私ではなかった。 私の手からこぼれていくもの、そして最後は私もこぼれていく。 こぼれた私を救ってくれる人はいるのかしら… ❈ 作者独自の世界観です。 ❈ 作者独自の設定です。 ❈ ざまぁはありません。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

処理中です...