宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~

紗沙

文字の大きさ
209 / 237
第3章 宿敵の家と宿敵でなくなってから

第209話 カイラスは未だに迷いの中に居る

しおりを挟む
 時が進んでも私は迷っていた。否、自分では答えなどもう出せないことにうっすらと気づいていた。ノヴァの言うアークゲートとフォルスの融合、その一方で私が言い聞かされてきたフォルスを守るという事。

 そのどちらを優先すればいいのかなど、どれだけ考えても出る筈がない。片方を良しと思えば、もう片方の観点で、しかし、という意見が出てくる。悩みが消えることはなかった。

 しかしだからと言って他にどうこうできる手段がないのも確か。他所の家庭ならば妻に聞くのかもしれないが、ローズとは前にこの話をして強く言ってしまったばかりで話をしにくい。

 そこで仕方なく、私はとある人たちを尋ねることにした。

「……ついたか」

 馬車から外を見てポツリと呟く。私は今、馬車に乗って自分の領地からは遠く離れた場所へと来ていた。こんな長時間の移動をするたびに、ノヴァのゲートの機器とやらが羨ましく感じた。とはいえ無いものを強請っても意味はない。私は馬車の扉を開けて、降りた。

 訪れた先は、それなりな大きさの屋敷だった。とはいえ領地を持っているような貴族の屋敷ではない。正確には、もう持っていない、だが。

 事前に今日訪れることは連絡していたので、年配の執事が出迎えてくれた。見覚えのある執事だったので頭を下げると、向こうも覚えてくれていたようで懐かしむような顔を向けてくれた。彼に案内されて屋敷の中へ。

 廊下を歩いていると、前の方で扉が開き、中から出てきた人物と目が合った。

「……カイラス!」

 リーゼロッテの母上は私に気づくや否や、こちらへと駆けてくる。心底嬉しそうな母上の表情に、私も思わず笑みが漏れた。

「待ちわびましたカイラス! 久しぶりですね」

「はい、母上もお元気そうでなによりです」

 リーゼロッテの母上とあいさつを交わせば、母上は私の手を取って近くの部屋へと招き入れてくれた。やや強引な行動ではあるが、今回会いに来た目的の一人でもあるので問題はない。部屋の中のテーブルに案内され、そこに併せて設置された椅子に座った。

 執事に飲み物を持ってくるように命じる母上。確認を取られたのでそれで構いませんと告げ、執事が部屋を出た後に母上は口を開いた。

「それにしても急に会って話がしたいと言われた時は嬉しかったですが、大丈夫かなとも思いましたが……元気なようでなによりです」

 母上の言葉に、私は頷いた。

「それは私の言葉です。お元気そうで……本当に……」

「あっ……そ、そうですよね。もう母は大丈夫です……」

 思い出したかのように寂しく笑う母上。私が最後に母上を見たのは実家の屋敷を出るときだ。その時の母上はゼロードの兄上を失ったことで悲しみに暮れていた。正直、ゼロードの兄上は馬鹿者だと思うが、中でも母上を悲しませたことは一番の悪行だと考えている。母上が感じた悲しみはどれだけか、私には計り知れないが、とても大きいに決まっていただろう。

「そ、それでカイラス……その……話というのは?」

「…………」

 今見ているだけで少しだけ不安定な母上にこのことを話して良いのか迷う。けれどここで話さなければ来た意味はない。私は覚悟を決めて、口を開いた。

「ノヴァからある提案を持ちかけられています。フォルス家とアークゲート家を一つにして、新たな一族にするという案です」

「…………」

 絶句、まさにそんな言葉が的確な反応だった。きっとノヴァに言われたときの私も同じような反応をしていたのだろうと思う。

「実は以前、フォルスの覇気とアークゲートの魔力の反発……いわゆる呪いを無効化する薬をアークゲート家とフォルス家が共同で開発しました。その効果で、今は呪いが発動しなくなっています。そこからさらに一歩踏み込んでの提案だと、私は思っています」

「……そう……ですか……」

 少し説明するだけで、母上には言ったことを理解して頂けた。彼女は目を伏せて、何かを考えているようだった。しかし少し待っていると、こちらを窺うように私をチラリと見て尋ねた。

「それで……話したいことというのは?」

「……私はこれに対して賛成すべきか反対すべきか迷っています。二つの家を一つにするのを受け入れるべきか、それともフォルス家を守るために受け入れないべきか」

「……受け……入れない?」

 母上に聞き返されて、私はゆっくりと頷いた。

「私はフォルス家を守るように教えられてきました。当主はゼロードの兄上がなる。だからそれを支え、守るのが、つまり縁の下の力持ちになるのが私の役目であり使命だと。それはノヴァが当主になった今でも変わらないと思っています。ですがノヴァが守るべき、支えるべきフォルス家を消そうとしているのなら、それは諫めるべきではないのかとも思います」

「それは……」

「はい、己の身を顧みず忠言をするのも大事なことではないかと――」

「やめてっ!」

 大きな叫び声に私の意見はかき消される。驚く私を他所に、母上は今にも泣きそうな顔で立ち上がったかと思うと、私の所に駆けてきて私を強く強く抱きしめた。

「は、母上……?」

「お願いです……やめてください……ノヴァさんに歯向かうのだけは……やめて」

「な、何を……」

 戸惑う私を他所に母上は抱きしめる力を強める。その力はあまりにも強く、決して離さないようにしているようだった。

「あなたまで居なくなったら……母は……母はっ……」

「母……上……」

 その言葉で私は思い知った。母上は怖いのだ。ゼロードの兄上はやり方が悪かった。悪かったからこそノヴァとレティシア様を真正面から害そうとして、そして彼らによって完膚なきまでに叩きのめされた。重罪人となり、今はもうこの世にはいない。

 つまりリーゼロッテの母上にとってもう実の息子は私しかいないのだ。それを失うのが怖くて、彼女は震えている。気持ちは痛いほど分かる。分かるけれど。

「母上、落ち着いてください。いくらノヴァでも反対しただけで私を処断したりは――」

「いいではないですかっ……ノヴァさんの意見を受け入れれば……そうすればあなたは死ななくて済む……お願いです……お願いです考え直してくださいカイラス……」

「私はまだ反対すると決めたわけでは」

「では……では今決めてください。決してノヴァさんには逆らわないと。お願いします。私から最後の大事な息子を奪わないで……」

「母……上……」

 胸が痛い。ここまで思われているのには母上の愛を深く感じる。それは素直に嬉しい事だし、これ以上母上を悲しませたくないとは思う。だから、私は。

「分かりました。ノヴァとは私も仲良くやっていきたい。唯一残った二人だけの兄弟なのです」

「本当ですね?……決して……決して逆らいませんね?」

「…………」

 私は笑みを浮かべて、母上を安心させた。しばらく止まる時間。けれど私の笑顔を見て、母上は心の底から安心した表情を浮かべた。

「母上、今日は突然の訪問に、心に負担をかけるようなことを言ってしまいましたね。もう休んだ方が良いかもしれません。私はこの後父上とも話をしようと思いますので、とりあえず部屋に送ります」

「ありがとう……お願いします」

 安心したからか、母上は小さく笑って頷いた。



 ×××



 母上を部屋まで送り届けた後、執事に聞いて私は父上の元へ向かう。その途中で、先ほどの母上の事を考えた。

「決して逆らわないで……か」

 母上の気持ちは痛いほど分かる。彼女が私を失いたくないほど大切に思っていることも分かるし、そのために必死だったのも分かる。ゼロードの兄上という前例の事もあるだろう。リーゼロッテの母上の中では、ノヴァもレティシア様もある意味で恐怖の象徴なのだ。

 おそらく、母上はこの世の誰よりも彼らを恐ろしく思っている。

「…………」

 歩きながら頭を押さえる。母上の言いたいことは分かる。分かるけれど、受け入れることは出来なかった。

 母上の言葉の中には、私の意見はない。

 ただノヴァに反対しないで欲しい。敵対しないで欲しい。母として子を思う気持ちを向けてくれるのは嬉しいけれど、欲しい言葉はそうではなかった。私とて命を失いたいわけではないけれど、何も考えずに盲目的に従うのは違うのではないかと考えた。

「……結局、解決はしないか」

 自分で考えても、母上に話しても自分の中の迷いは一向に消えない。むしろ母上の言葉でさらに迷うようになったくらいだ。

「どうすれば……いいのだろうな……」

 迷って迷って……迷い続けて。私は言われた場所へとたどり着く。扉を開けば、この先に父上が居る。
 この迷いが解消されるかは分からないけれど。
 私は扉を開けて、中へと入った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。  なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!  冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。  ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。  そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。

親友に恋人を奪われた俺は、姉の様に思っていた親友の父親の後妻を貰う事にしました。傷ついた二人の恋愛物語

石のやっさん
恋愛
同世代の輪から浮いていた和也は、村の権力者の息子正一より、とうとう、その輪のなから外されてしまった。幼馴染もかっての婚約者芽瑠も全員正一の物ので、そこに居場所が無いと悟った和也はそれを受け入れる事にした。 本来なら絶望的な状況の筈だが……和也の顔は笑っていた。 『勇者からの追放物』を書く時にに集めた資料を基に異世界でなくどこかの日本にありそうな架空な場所での物語を書いてみました。 「25周年アニバーサリーカップ」出展にあたり 主人公の年齢を25歳 ヒロインの年齢を30歳にしました。 カクヨムでカクヨムコン10に応募して中間突破した作品を加筆修正した作品です。 大きく物語は変わりませんが、所々、加筆修正が入ります。

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

私の手からこぼれ落ちるもの

アズやっこ
恋愛
5歳の時、お父様が亡くなった。 優しくて私やお母様を愛してくれたお父様。私達は仲の良い家族だった。 でもそれは偽りだった。 お父様の書斎にあった手記を見た時、お父様の優しさも愛も、それはただの罪滅ぼしだった。 お父様が亡くなり侯爵家は叔父様に奪われた。侯爵家を追い出されたお母様は心を病んだ。 心を病んだお母様を助けたのは私ではなかった。 私の手からこぼれていくもの、そして最後は私もこぼれていく。 こぼれた私を救ってくれる人はいるのかしら… ❈ 作者独自の世界観です。 ❈ 作者独自の設定です。 ❈ ざまぁはありません。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

処理中です...