宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~

紗沙

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第3章 宿敵の家と宿敵でなくなってから

第215話 ここまでついてきてくれた彼女に、感謝を

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 ゲートを使用してターニャと共にアークゲート家の屋敷へとやってくる。繋いだ先は屋敷の入り口で、ゲートを通り抜けた瞬間に少しの温かさと人の気配を感じた。少し歩いてみれば、ゲートの左右にアークゲート家のメイドさん達が立って待ってくれていた。

「お、おお……」

 知らされていなかった事なので驚いてしまう。立ち止まっていると、奥の階段の方からユティさんがこちらへと歩いてきた。

「ようこそノヴァさん、アークゲート家へ」

「ユティさん……驚きましたよ。こんなに盛大に出迎えてくれて、ありがとうございます」

「ふふっ、一度やってみたかったんですよね。……こちらへどうぞ。お部屋の方に案内します」

 悪戯な笑みを浮かべたユティさんは流れるように体を動かし、腕で奥の階段を示してくれた。彼女についていけばよい、という事だろう。ありがとうございますと告げて、俺はターニャを伴ってユティさんと共に歩き始めた。

「ユティさん……そろそろなんですか?」

 恐る恐る尋ねてみると、彼女は微笑んだままで頷いた。

「はい、お医者さんの先生が言うには一週間後が予定日です。……そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。アークゲート家には出産のための機器が多数ありますし、腕利きのお医者さんも駐在します。当主様に万一の事はありません」

「そう……ですよね……」

 ほっと息を吐く俺を、ユティさんは優しい目で見つめてくれた。それが少し気恥しくて、視線を外す。たまたまだけど、外した視線の先はオーロラちゃんの部屋の扉だった。

「オーロラちゃんは……まだ?」

「……すみません、そろそろだから来るように、とは伝えてあるのですが……」

 目線を伏せてユティさんが答えてくれる。オーロラちゃんの告白以来、彼女は俺達の前に姿を現さなくなっていた。シアの負担を減らすために仕事をする中で連絡を取り合うこともあるけど、便箋での文章も形式的なものに変わっているし、頻度も少なくなった。
 昔は頻繁に補充しないといけなかった桃色の便箋は、ここしばらく減っていない。

「甥っ子の顔を見ないつもりか、とキツめに書こうかなと思ったのですが……あまり追い詰めたくはないので、やめておきました」

「……ありがとうございます。きっと、それが正解かなと思います」

 少し変わってしまった関係性を不安には思うけど、それを俺の方からオーロラちゃんに強制することは出来なかった。それをユティさんも汲んでくれたようで、彼女は少し寂しそうな表情で俺を見ていた。

「つきましたね。こちらになります」

「ありがとうございます」

 扉を開けて中に入る。生活するのには十分すぎるくらいの家具が置かれた部屋が出迎えてくれた。俺の屋敷から事前に移してもらった家具もちらほらとある。

「いかがでしょうか? 数日の滞在で最高級のもてなしが出来るようにしましたが、なにか足りないものなどはありますか?」

「……いえ、十分すぎるくらいです。本当にありがとうございます」

「当主様のお側にいてくださるという事ですから、これくらいは当然です」

 シアの補佐としての表情を見せたユティさんは凛々しい表情で頭を下げる。そしてターニャにも視線を向けた。

「ターニャさんも、もし不足しているものがありましたら遠慮なく仰ってください」

 その言葉にターニャは部屋を見渡した。

「いえ、今すぐには思いつかないほどに揃っていると思います。本当にありがとうございます。これならフォルス家の屋敷と同じ、いえ、それ以上に旦那様のお世話が出来ます」

「それを聞いて安心しました」

 微笑みあうユティさんとターニャを見て、問題はないなと悟った。

「ユティさん、シアに会いたいんですが、執務室ですか?」

「はい、そちらに居ますよ。長椅子でゆったりとお過ごしの筈です。仕事はしなくていい、と常々言っているのですが……」

 困ったように頭を押さえるユティさんに苦笑いする。

「分かりました、ありがとうございます」

 そう言って、俺は宛がわれた部屋を後にした。



 ×××



 その日の夜、アークゲート家の皆と夕食を食べた俺は自室に戻っていた。これまではシアと共同の寝室を使っていたけど、出産が近づいてきたことと就寝場所をアークゲート家に移したことで分けてもらった。

 とはいえすぐ隣の部屋だから、いつでも会いには行けるんだけど。

「そういえば、初日だったけどターニャはどうだった?」

「まるで今までやってきたかのようにやりやすい仕事場でしたね。……まあ、アークゲート家のメイドの方々とは旧知の仲なのが大きいと思います」

 俺が当主になって今のフォルス家の屋敷に移ったとき、ターニャはシアの協力を得て大幅な人員の転換を行った。その際に屋敷の管理の手伝いをしてくれたのがこのアークゲート家の屋敷に居るメイドさん達だ。

 メイドさん達はシアの命令でターニャを上司として見ていたし、ターニャはターニャで大勢からの敬愛のまなざしに逆に居心地が悪くなっていたのでよく覚えている。その頃から彼女達は仲が良い、という事だろう。

「でも……フォルスの屋敷の方は大丈夫かな?」

「問題ないと思います。あの子達も、もう仕事には慣れ切っているでしょうし。……ただソニアに関しては私が居ない分頑張るんだ! と気合が入っていましたが」

「良い事じゃないか」

 小さく笑ってそう返すと、ターニャはため息を吐いて首を横に振った。

「あの子、基本的に優秀なのですが、前のめり過ぎると失敗することがあるんですよね。能力的には今ではもうかなり上の方なのに……あれでは私の座を受け渡すにはまだ未熟です」

「ターニャ様の侍女長の座は遥か高みにある?」

「それはもう……何と言いましても歴代最高最強の当主、ノヴァ・フォルス様の代の侍女長ですからね。雲の上くらいまでありますとも」

 ふふん、と得意げな態度を取るターニャを見て、俺は噴き出してしまう。色々な人と付き合いがあるけど、こんな風にふざけあって話が出来るのはターニャだけだ。彼女が俺の専属侍女で、本当に良かった。

「……ありがとうターニャ」

「…………」

 素直に感謝の気持ちを告げると、ターニャは気恥ずかしそうに目線を外す。でもそれを気にすることなく、俺は続きを告げた。

「これからもよろしく……最高の侍女さん?」

「……仕方ありませんね。こうなったら旦那様も、旦那様の子の世代も、孫の世代もずっと世話させていただきますからね!」

「それは心強いことだ」

 二人して、笑顔を向け合う。ターニャは俺から視線を外すと、感慨深いという雰囲気を隠さずに部屋を見渡した。

「幼き日の……ノヴァ様の担当になってからいろいろなことがありました。ゼロードの猿の暴力やかつてのメイド達の陰口などに心を痛められたこともあったでしょう。ですがノヴァ様はレティシア様と再会し、それがきっかけでどんどん変わっていきました。もちろんレティシア様の力は大きいでしょう……ですが私は、そこにはノヴァ様の頑張りがあったと思います」

「……ターニャ」

「ノヴァ様を取り巻く環境は変わりました。でもそれ以上にノヴァ様が変わったんです。昔のノヴァ様を知っている私だからこそ分かります。今のノヴァ様を幼き日のノヴァ様が見たらびっくりするでしょうね」

「……そんなに変わったかな」

 自分では、当の本人だからよく分からないけど。

「変わりましたよ。それはもうご立派になられました。昔からある優しさはそのままに、強く、逞しく」

 長い付き合いのあるターニャが言うから、そうなんだろう。

「……ありがとう」

「いえ……」

「…………」

「…………」

 真正面から褒められた俺と、真正面から褒めたターニャは互いにどこか背中がむず痒くなり、言葉を失った。

「……で、ではそろそろ私は失礼しますね。良い夜をお過ごしください、旦那様」

「うん……ありがとうターニャ」

「では!」

 恥ずかしさを隠すように部屋を出ていってしまうターニャ。彼女が閉じた扉を見つめて、俺は小さく呟いた。

「……本当に、ありがとう」

 ずっとついてきてくれた、支えてくれた専属侍女に感謝をした。
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