227 / 237
第3章 宿敵の家と宿敵でなくなってから
第227話 カイラスの人生で一番大きな戦いは終わる
しおりを挟む
「ぐっ……」
覇気の防御を破り、深く深く突き刺さる短剣。フォルスの覇気とアークゲートの魔力が、ライラックの体を確実に破壊するのを感じた。苦悶の声を絞り出したライラックは体を僅かに振るわせ、そして私の耳は剣が地面に落ちる音を聞いた。私の剣は既に弾かれているから、それがライラックのものであることはすぐに分かった。
短剣から手を離し、私はゆっくりとライラックから離れる。
ライラックは、未だに信じられないと言った表情で目を見開いていた。
「馬鹿な……そんな……馬鹿な……」
自分に突き刺さる短剣を見て唖然と呟く。自身が終わろうとしていることをライラックは理解し、ゆっくりと体を傾けて仰向けに倒れた。やけに重々しい音が、短い時間だけ聞こえた。
「はっ……はっ……」
短い呼吸を繰り返すライラック。その命が、消えようとしている。
「トラ……ヴィス……俺は……」
彼に何が見えているのかは彼にしか分からない。けれどライラックは空にある太陽に手を伸ばして。
「俺は……フォルスを……」
伸ばした手は、力なく地面へと落ちた。短剣の刺さった傷口からは流れる血が止まることはなく、大地を染めていく。広がる赤の中で、太陽の日差しの下で、ライラック・フォルスはついに動かなくなった。
「……ああ」
膝を突き、地面に両手をついて肩で息をする。思ったよりもギリギリの戦いで、疲労困憊だった。
「勝った……のですね……」
声を聞いて首だけを向ければ、システィ殿がこちらへと歩いてきていた。しかし右手で左腕を押さえていて、足取りはおぼつかない。彼女もまたボロボロの状態なのは間違いなかった。しかしその口元は柔らかい。
「咄嗟に思いついてやりましたが、使って頂けるとは思いませんでした」
「私もどうして思いついたのか疑問なくらいです。ですが助かりました。ありがとうございました」
あの瞬間、私は頭よりも先に体が動いた。あれはきっと、フォルス家で剣を学んできた体が選んだのだろう。アークゲートの力を借りてもライラックを倒すことを。
「フォルスの直系が……アークゲートの力を借りる……か」
「気に入りませんか?」
悪戯っぽく尋ねてくるシスティ殿に、私は首を横に振った。
「いや……悪くはありませんでした」
正直に感想を述べれば、システィ殿はそうですか、と告げる。彼女は振り返り、この場を去ろうとした。
「行くのですか?」
「はい……お嬢様が心配ですので。武器は砕かれてしまいましたが、何かできることがあるでしょう……あなたは……いえ、なんでもありません」
「…………」
システィ殿は、では、と言い残して場を去っていった。きっと続きを口にしなかったのは私への思いやりだろう。ライラックの体から短剣を回収しなかったことも、きっとそうだ。
伯父という親族を失った、私に対して気遣いをさせてしまったようだ。
ライラックの伯父上へと近づき、その開いた瞼をゆっくりと閉じる。伯父上の最期の表情は微笑んでいるようにも見えた。今まで見たことのないものだった。
「……伯父上」
こうするしかなかった。彼を殺めることでしか止められなかった。あの戦いで彼を生かしたまま無力化など出来るわけもなかった。だがこの手には、確かに伯父を殺めた感覚が残っている。
幼い頃から剣を教えてくれた伯父を、良くしてくれた伯父を、手にかけた。最後はもうどうしようもないところまで堕ちていたが、それでも私のたった一人の伯父だった。フォルス家を守ると共に心に決めた同志でもあったはずだ。その結末が……これか。
「もしもエリザベートに会わなければ……いつかはノヴァと心を通わせることだって、出来たのかもしれないのに」
仮定の話をしても仕方がない。しかもそれが実現する可能性が無い仮定ならば、意味などないだろう。それでも、そう呟かざるを得なかった。そんな最良な未来が、いつかは訪れたのではないかと思ってしまった。
伯父の側に座り、空を見上げる。先ほどの戦いの時は集中しすぎて見ている暇などなかった。もう一人、ティアラの方は大丈夫だろうか。それにエリザベートもいる。彼らは、脅威を退けることが出来るだろうか。
「……いずれにせよ、私はもう満足に戦える状態ではないか」
そう呟き、いつもと変わらぬ雲のある青空をじっと見る。私に出来ることは全てやった。あとは事前に情報を伝えたノヴァとレティシア様がなんとかするだろうと、そう信じて。
再び伯父上に視線を向ける。その安らかな表情を見て、語り掛けた。
「……これから迎える未来は、伯父上にとっては受け入れられなかった未来かもしれません。ですがそれでも私達は進んでいきます。そして必ず、より良いものへとしていきます」
死闘を行った。反逆者として粛清した。けれど私の中には彼をまだ伯父と慕うだけの気持ちもあって、死した彼に対して恨み言を言うことはどうしてもできなかった。
だから、その屍を越えていくことを彼に誓って。
こうして私の人生における一つの大きな戦いは、終わりを告げた。肉親の死を受けて少し胸が痛みつつも終わったのである。
覇気の防御を破り、深く深く突き刺さる短剣。フォルスの覇気とアークゲートの魔力が、ライラックの体を確実に破壊するのを感じた。苦悶の声を絞り出したライラックは体を僅かに振るわせ、そして私の耳は剣が地面に落ちる音を聞いた。私の剣は既に弾かれているから、それがライラックのものであることはすぐに分かった。
短剣から手を離し、私はゆっくりとライラックから離れる。
ライラックは、未だに信じられないと言った表情で目を見開いていた。
「馬鹿な……そんな……馬鹿な……」
自分に突き刺さる短剣を見て唖然と呟く。自身が終わろうとしていることをライラックは理解し、ゆっくりと体を傾けて仰向けに倒れた。やけに重々しい音が、短い時間だけ聞こえた。
「はっ……はっ……」
短い呼吸を繰り返すライラック。その命が、消えようとしている。
「トラ……ヴィス……俺は……」
彼に何が見えているのかは彼にしか分からない。けれどライラックは空にある太陽に手を伸ばして。
「俺は……フォルスを……」
伸ばした手は、力なく地面へと落ちた。短剣の刺さった傷口からは流れる血が止まることはなく、大地を染めていく。広がる赤の中で、太陽の日差しの下で、ライラック・フォルスはついに動かなくなった。
「……ああ」
膝を突き、地面に両手をついて肩で息をする。思ったよりもギリギリの戦いで、疲労困憊だった。
「勝った……のですね……」
声を聞いて首だけを向ければ、システィ殿がこちらへと歩いてきていた。しかし右手で左腕を押さえていて、足取りはおぼつかない。彼女もまたボロボロの状態なのは間違いなかった。しかしその口元は柔らかい。
「咄嗟に思いついてやりましたが、使って頂けるとは思いませんでした」
「私もどうして思いついたのか疑問なくらいです。ですが助かりました。ありがとうございました」
あの瞬間、私は頭よりも先に体が動いた。あれはきっと、フォルス家で剣を学んできた体が選んだのだろう。アークゲートの力を借りてもライラックを倒すことを。
「フォルスの直系が……アークゲートの力を借りる……か」
「気に入りませんか?」
悪戯っぽく尋ねてくるシスティ殿に、私は首を横に振った。
「いや……悪くはありませんでした」
正直に感想を述べれば、システィ殿はそうですか、と告げる。彼女は振り返り、この場を去ろうとした。
「行くのですか?」
「はい……お嬢様が心配ですので。武器は砕かれてしまいましたが、何かできることがあるでしょう……あなたは……いえ、なんでもありません」
「…………」
システィ殿は、では、と言い残して場を去っていった。きっと続きを口にしなかったのは私への思いやりだろう。ライラックの体から短剣を回収しなかったことも、きっとそうだ。
伯父という親族を失った、私に対して気遣いをさせてしまったようだ。
ライラックの伯父上へと近づき、その開いた瞼をゆっくりと閉じる。伯父上の最期の表情は微笑んでいるようにも見えた。今まで見たことのないものだった。
「……伯父上」
こうするしかなかった。彼を殺めることでしか止められなかった。あの戦いで彼を生かしたまま無力化など出来るわけもなかった。だがこの手には、確かに伯父を殺めた感覚が残っている。
幼い頃から剣を教えてくれた伯父を、良くしてくれた伯父を、手にかけた。最後はもうどうしようもないところまで堕ちていたが、それでも私のたった一人の伯父だった。フォルス家を守ると共に心に決めた同志でもあったはずだ。その結末が……これか。
「もしもエリザベートに会わなければ……いつかはノヴァと心を通わせることだって、出来たのかもしれないのに」
仮定の話をしても仕方がない。しかもそれが実現する可能性が無い仮定ならば、意味などないだろう。それでも、そう呟かざるを得なかった。そんな最良な未来が、いつかは訪れたのではないかと思ってしまった。
伯父の側に座り、空を見上げる。先ほどの戦いの時は集中しすぎて見ている暇などなかった。もう一人、ティアラの方は大丈夫だろうか。それにエリザベートもいる。彼らは、脅威を退けることが出来るだろうか。
「……いずれにせよ、私はもう満足に戦える状態ではないか」
そう呟き、いつもと変わらぬ雲のある青空をじっと見る。私に出来ることは全てやった。あとは事前に情報を伝えたノヴァとレティシア様がなんとかするだろうと、そう信じて。
再び伯父上に視線を向ける。その安らかな表情を見て、語り掛けた。
「……これから迎える未来は、伯父上にとっては受け入れられなかった未来かもしれません。ですがそれでも私達は進んでいきます。そして必ず、より良いものへとしていきます」
死闘を行った。反逆者として粛清した。けれど私の中には彼をまだ伯父と慕うだけの気持ちもあって、死した彼に対して恨み言を言うことはどうしてもできなかった。
だから、その屍を越えていくことを彼に誓って。
こうして私の人生における一つの大きな戦いは、終わりを告げた。肉親の死を受けて少し胸が痛みつつも終わったのである。
3
あなたにおすすめの小説
【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります
すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。
なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!
冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。
ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。
そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。
私の手からこぼれ落ちるもの
アズやっこ
恋愛
5歳の時、お父様が亡くなった。
優しくて私やお母様を愛してくれたお父様。私達は仲の良い家族だった。
でもそれは偽りだった。
お父様の書斎にあった手記を見た時、お父様の優しさも愛も、それはただの罪滅ぼしだった。
お父様が亡くなり侯爵家は叔父様に奪われた。侯爵家を追い出されたお母様は心を病んだ。
心を病んだお母様を助けたのは私ではなかった。
私の手からこぼれていくもの、そして最後は私もこぼれていく。
こぼれた私を救ってくれる人はいるのかしら…
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 作者独自の設定です。
❈ ざまぁはありません。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた辺境伯様と一緒に田舎でのんびりスローライ
さら
恋愛
美人な同僚の“おまけ”として異世界に召喚された私。けれど、無能だと笑われ王城から追い出されてしまう――。
絶望していた私を拾ってくれたのは、冷徹と噂される辺境伯様でした。
荒れ果てた村で彼の隣に立ちながら、料理を作り、子供たちに針仕事を教え、少しずつ居場所を見つけていく私。
優しい言葉をかけてくれる領民たち、そして、時折見せる辺境伯様の微笑みに、胸がときめいていく……。
華やかな王都で「無能」と追放された女が、辺境で自分の価値を見つけ、誰よりも大切に愛される――。
【完結】勘当されたい悪役は自由に生きる
雨野
恋愛
難病に罹り、15歳で人生を終えた私。
だが気がつくと、生前読んだ漫画の貴族で悪役に転生していた!?タイトルは忘れてしまったし、ラストまで読むことは出来なかったけど…確かこのキャラは、家を勘当され追放されたんじゃなかったっけ?
でも…手足は自由に動くし、ご飯は美味しく食べられる。すうっと深呼吸することだって出来る!!追放ったって殺される訳でもなし、貴族じゃなくなっても問題ないよね?むしろ私、庶民の生活のほうが大歓迎!!
ただ…私が転生したこのキャラ、セレスタン・ラサーニュ。悪役令息、男だったよね?どこからどう見ても女の身体なんですが。上に無いはずのモノがあり、下にあるはずのアレが無いんですが!?どうなってんのよ!!?
1話目はシリアスな感じですが、最終的にはほのぼの目指します。
ずっと病弱だったが故に、目に映る全てのものが輝いて見えるセレスタン。自分が変われば世界も変わる、私は…自由だ!!!
主人公は最初のうちは卑屈だったりしますが、次第に前向きに成長します。それまで見守っていただければと!
愛され主人公のつもりですが、逆ハーレムはありません。逆ハー風味はある。男装主人公なので、側から見るとBLカップルです。
予告なく痛々しい、残酷な描写あり。
サブタイトルに◼️が付いている話はシリアスになりがち。
小説家になろうさんでも掲載しております。そっちのほうが先行公開中。後書きなんかで、ちょいちょいネタ挟んでます。よろしければご覧ください。
こちらでは僅かに加筆&話が増えてたりします。
本編完結。番外編を順次公開していきます。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!
【完結】番である私の旦那様
桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族!
黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。
バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。
オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。
気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。
でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!)
大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです!
神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。
前半は転移する前の私生活から始まります。
牢で死ぬはずだった公爵令嬢
鈴元 香奈
恋愛
婚約していた王子に裏切られ無実の罪で牢に入れられてしまった公爵令嬢リーゼは、牢番に助け出されて見知らぬ男に託された。
表紙女性イラストはしろ様(SKIMA)、背景はくらうど職人様(イラストAC)、馬上の人物はシルエットACさんよりお借りしています。
小説家になろうさんにも投稿しています。
A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる
国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。
持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。
これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる