宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~

紗沙

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第3章 宿敵の家と宿敵でなくなってから

第226話 カイラスVSライラック

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 間合いに入ると同時に覇気を発動し、剣を振り上げる。ライラックもまた同じように覇気を纏い、全く同じ角度で振り上げた。当然の事だ。私とライラックは同じ剣の流派の使い手。以前のノヴァとの戦いのように鏡写しのような戦いになるのは目に見えている。

 同時に振り下ろされた剣は互いに激突し、甲高い音を響かせる。ここまではノヴァの時の戦いと同じ。しかし、明確な違いもある。

 ノヴァの剣は受け止めるのにギリギリだった一方で、ライラックの剣は余裕をもって受け止めることが出来た。ライラックと剣を交えたのもかなり昔の事になる。その頃よりは私も成長しているということだろう。

 だが、今余裕を持て受け止められたのは私のこれまでの訓練のみではなく、むしろこの前のノヴァとの戦いが大きいように思えた。ライラックは確かにフォルスの剣技の使い手で、フォルス家でも有数の強者だ。

 けれど、ノヴァよりも洗練された剣だとは感じられなかった。

「っ!?」

 そしてライラックにはない武器が私側にはある。

 アークゲート家出身であろうシスティ殿が、私を跳び越えるような形で剣を合わせたライラックに上空から急襲する。突然の脅威に対して、ライラックは後ろへと跳ぶことでその一撃を避けた。

 今の私はライラックに実力的にそこまで劣っているとは思えない。加えて2対1という状況は勝敗を決する程の有利を生み出していた。

「っ……アークゲートと手を取り合う……だと?」

 心底忌々しそうに言ったライラックは奥歯を噛みしめている。

「忌々しい薬めっ」

「先ほどから過去に対する恨み言しか言っていないなライラック。先ではなく今すら見えないのは目が曇っている証拠だぞ」

「黙れっ!」

 少し挑発してみれば、すぐに乗ってくる。ゼロードの兄上も感情が爆発しやすい傾向にあったが、今のライラックはそれ以上だ。いや、エリザベートの誘惑によって堕とされ、目を曇らされ、土壇場で私が裏切ったのだから周りが見えなくなるほど怒りに囚われるのも無理はない、ということか。

「……システィ殿、今のライラックは怒りで冷静な判断が出来ないようです。けれど怒りは覇気を強くする。決して油断しないでください」

「なるほど、心得ました。我を失った獣ほど、何をするか分からないものはありませんからね」

 システィ殿に声をかけると、意外なことに返事を返してくれた。私に対して良い感情を持っていないのではないかと思っていたが、共に戦うと決めた以上この場においては仲間と見てくれている、ということだろう。

 非常に心強い味方が出来たことが自信に変わる。ライラックの覇気の強さはあの父上ほどでないにせよ私よりは上。しかし剣技に関してはノヴァと打ち合ったことでさらに高みへと昇った私の方が上。

「俺を前にしてやけに余裕ではないか……カイラスっ!」

「余裕を感じているからそれを態度に出しているだけだが?」

「貴様ぁ!!」

 青筋を浮かべたライラックが地面を蹴り、一直線に私に向かってくる。また同じように剣を受けてシスティ殿の援護に頼ろうと考え、目を凝らし剣筋を見極めようとしたとき。

「やはりか」

 その剣に宿る白い覇気が、増幅した気がした。迫る刃の剣筋を見極め、力を入れる。先ほどよりも重い一撃が来ると直感的に感じて身を包む覇気に力を注いだ。

 振り下ろされた一撃を、水平に構えた剣で受ける。想像通り先の一撃よりも重い。剣が砕けることも受けきれないこともなかったが、足をついている地面にヒビが入る程の力。やはり怒りは覇気を強くするのかと思ったとき。

 横からシスティ殿が目にも止まらぬ速度でライラックに斬りかかる。ライラックはそれに気づいてすぐに横に跳んだ。

「見えている――ぐっ!?」

 システィ殿の短剣の降り下ろしは避けたが、彼女の短剣が地面に刺さった瞬間に地中から氷の刃が突き出し、ライラックの体を掠める。それを見て私も地面を蹴った。痛みに顔をしかめるライラックの隙を逃すわけにはいかない。

 一気に肉薄して右手を振り上げて斬りかかろうとして。

「!」

 咄嗟に振り上げの角度を右ではなく真上に変更。目を見開くライラック目がけて振り下ろすも、これはライラックの剣に防がれる。向こうに損害は一切なし。

「くそっ」

 しかし、悔しい声を上げたのはライラックの方だった。私の剣を防ぎつつ彼は見た筈だ。自分の懐に入り込むシスティ殿の姿を。私が剣を振り上げる方向を変えたことで攻め込む場所を得た彼女が突き出した短剣を。

 何者にも防がれることなく、システィ殿の短剣がライラックの体に突き刺さる。魔法で強化された短剣は切れ味が増しているのだろう、易々とライラックの体に突き刺さり、吹き飛ばした。

 衝撃のままに後ろに流れ、地面を靴で抉るライラック。剣を持っていない左の手で突かれたわき腹を押さえていて、その手から少量の血が滴り落ちた。短剣が刺さったにしては出血の量が少ないが、あの瞬間システィ殿の短剣に白い光が集まるのが見えた。

 威力的にはライラックの体に深々と刺さる筈だったが、それを覇気で防いだという事だろう。それでも覇気の防御が遅れたことで浅くはあれど体には届いたようだ。

「ふぅーっ!」

 息を大きく吐き、ライラックはわき腹から手を離す。血で滲んではいるが、戦闘不能になる程ではないのは明白。事実ライラックの目は血走っていて、怒りで痛みに対する感覚を麻痺させているようだ。

 その姿が、いつかのゼロードの兄上と被った。

 ライラックが前に出る。目線はまっすぐに私を見て、一直線に向かってくる。怒りによるものか、さらに覇気は濃度が増しているように見える。

「斬らせてもらう」

 その場で剣を構え、ライラックの動きを少しでも見逃すことがないように目を凝らしたとき。
 彼の体がぶれて、私を射抜くほど強い視線が急に消えた。

「なっ!?」

 私にまっすぐに向かってきていたライラックは進行方向を切り替え、さらに加速。目指した先は、システィ殿の方だった。気づいたのが遅く、咄嗟に地面を蹴ったが、今からでは間に合わない。ライラックは既に剣を構えていて突きを繰り出そうとする最中だ。システィ殿も防ごうとしているが、嫌な予感がした。

 覇気で纏われた強力な突きが、システィ殿が交差させた短剣に突き刺さる。鈍い金属音を轟かせる中、確かに見た。システィ殿の交差させた短剣の内、ライラックの剣が触れた方にヒビが入るのを、見た。

「しっ!!」

 ライラックの声と共にシスティ殿が吹き飛ばされる。まるで重力を感じさせない程の力で飛ばされ、そのさなかで短剣が砕けるのが見えた。得物を失う絶体絶命の状況。その中でもシスティ殿はライラックを睨みつけ続けていた。

「ここっ!!」

 叫び、システィ殿は自分に残された最後の短剣を投げる。さまざまな魔法が掛けられているのが見て取れたが。

「無駄だぁ!」

 システィ殿の渾身の一撃はあっさりとライラックの剣に弾かれ、地面へと落ちる。短剣が地面に刺さるのと、太い幹の木にシスティ殿が激突して聞いたことのない鈍く重い音が響くのは同時だった。

「っ! ライラックっ!」

「次はお前だっ! カイラスっ!」

 ライラックは体を横へと向かせながら右手での薙ぎ払い。それが咄嗟に彼に近づいた私の剣と激突するのは明白だった。降り下ろしと薙ぎ払いの剣の軌道が交わり、威力を殺しきれずに弾かれる。腕の痺れを感じながら、私は内心で舌打ちをした。

 我を失うほどの怒りは、覇気をここまで強くするものなのか。

 その場に立つライラックに何度も斬りかかるものの、その全てを防がれ、返ってくる刃はもう受けきることは叶わない。軌道を逸らすので精いっぱいだ。ノヴァとの一戦が無ければ、今この瞬間にライラックに対応できずに斬り殺されていただろう。

 だが状況は変わらない。人数の有利は崩され、今もなお力を増していく覇気により勝負はライラックが優位に立ちつつある。このままでは、負ける。

「っ!?」

「!!??」

 ジリッ、という音が聞こえると同時にライラックの動きが鈍る。咄嗟に目線を向けてみれば、地面に刺さったシスティ殿の短剣が雷を帯びていた。地面を伝わったそれはライラックの足にも伝わっていて、その動きを少しだけ遅くする。

 けれどそれだけだ。ライラックの動きが僅かに遅くなっただけでは状況は好転しない。加えてそれはあくまでも一瞬の話で、なんの影響も。

 頭の中から焦りという感情が一気に消失する。全てが消え、回し続けていた脳が一つの答えを出す。それが正しいのか、間違っているのか、応じるのか、応じないのか、そんな細かい事を考えるよりも早く、体は反応した。

 両手に力を入れて、渾身の力で降り下ろしを行う。これでライラックの息の根を止める程の一撃を繰り出す。間違いなく今この状況で出すべきではない一撃を、あえて出す。

「血迷ったかぁ!」

 ライラックは当然それを見逃さない。力を入れた一撃なら反らすことは不可能と判断しての振り上げ。

 全力の降り下ろしと、怒りで増幅された覇気に強化された振り上げが激突し。

 当然のごとく、ライラックの剣が私の剣に勝る。結果、私は剣を持っている事すら叶わずに手から感触が消えた。

「終わりだぁ!!」

 後は簡単なこと。ライラックが剣を振り下ろして私を斬るだけ。けれど、その瞬間から私は決して目を離さない。ここが勝負どころだからだ。

 軌道を読んで、私はその場に崩れるように膝の力を抜く。落ちるような体の落下に、上半身をなるべく倒していたために後頭部をライラックの剣が通過するのを感じた。致命傷の一撃は避けた。けれど私には武器が無く、避ける態勢はここからは取れない。

 絶体絶命。その中で、私はこれでいいと強く思った。完璧だとさえ考えた。

 自分の手の中には、私のではない武器がある。それで十分だった。地面から引き抜き、その武器に覇気を伝わらせる。刃があればそれで覇気を上手く使うことが出来る。無論剣の方が良いのは間違いないが、それは短剣でも問題ない。

 そう、彼女の――システィ殿の短剣が武器に出来る。

 当然触れるのは初めて。しかしなぜか手に馴染む。覇気も流しやすく、アークゲートの魔力も邪魔しない。そうなるようにノヴァとレティシア様が薬を開発してくれたからこそできること。

 そうして、降り下ろしでがら空きになったライラックの胴体を短剣で深く、深く斬りつけた。

 アークゲートの魔力と覇気の両方の力が作用した短剣はライラックの覇気の防御を容易く破り、彼の動きを鈍らせる。そしてライラックの鈍った剣が返ってくるよりも早く。

 その心臓に、短剣を突き刺した。
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