妹と再婚約?殿下ありがとうございます!

八つ刻

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新たな婚約者候補

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ナタリアが屋敷を出ていってから二ヶ月程経った頃、サーシャは大量の釣書に目を白黒させていた。
マルセルは知らなかったのだが、サーシャを狙っていた令息はかなり多い。

王城に務める大臣を父に持ち、その家は侯爵でしかも長女。身分だけでも大人気だが、その本人は困っている人を見過ごせない心優しい性格に可憐な見た目。おまけに妃教育も終えている。
第一王子の婚約者でなくなった今、国内で一番熱い令嬢であることは間違いないだろう。

「お父様、わたくし暫くは婚約はいいと思っていたのですが・・・」
「サーシャの気持ちはわかるけどね。見ての通り毎日届くんだ。無理矢理婚約を結ばせることはないけれど、サーシャの今の考えを聞かせてくれないか?」
「考えですか?」
「あぁそうだ。以前はサーシャが王族に嫁ぐと思っていたから養子を取る予定だっただろう?だが今は状況が違う」

侯爵家の正当な後継者はサーシャしかいなかった。この国では女性でも爵位を継げるため、サーシャが望めば女侯爵にもなれる。

サーシャがマルセルと婚姻予定だった時はあのナタリアが女侯爵になれるはずもないので、遠縁の者に以前から領地経営の教育をさせていて近々養子として引き取る予定だったのだ。

「サーシャが侯爵を継ぎたいのか、他家に嫁に行くのか。それで相手は大きく変わるだろう?だから釣書を見て、良さそうな人がいたら是非一度会って話してみるといい」
「お父様は継げとは仰らないのですね」
「サーシャが継いでくれたらこれ以上嬉しいことはないよ。だけど私は今まで頑張ってきた分サーシャには幸せになって欲しいんだ。家のことは考えず、素敵な人を見つけなさい」

そう言って侯爵はサーシャの頭を優しく撫で、穏やかに笑った。



大量の釣書を侯爵から受け取り、サーシャはパラパラと捲る。
中には隣国の王子という大物もいて、ギョッと目を見開いた。

ーーもう王子は懲り懲りですわ・・・

ふとマルセルのことが頭に浮かぶ。
ナタリアの教育は上手くいっているのだろうか。侯爵家では誰が何を言っても駄目だったが、愛する人が言うことなら聞き入れているかもしれない。

サーシャは決してナタリアを嫌ってはいなかった。
妹というには随分大きくなってから会ったためしっくりこないが、幸せになって欲しい気持ちは本物だった。
きっと侯爵も侯爵夫人も同じ気持ちだろう。
だからこそ、マルセルには頑張ってもらいたい。丸投げしたことは重々承知だが。

大量の釣書の分別が終わるのはその日かなり遅い時間だった。


✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼


結局サーシャが選んだのは五人。

隣国の第二王子、公爵家嫡男の二人は爵位が上で断り辛いので自動的に選ばれた。
侯爵家三男、伯爵家次男は女侯爵になる場合を考え選んだ人選だ。
残りの一人は個人的な興味で商会の次男。下手な貴族より裕福な商会だが平民。しかも次男とはなかなか強気である。是非一度会ってみたかった。

残念ながら選ばれなかった人たちにはサーシャ自ら丁寧な手紙を認めた。



五人のうちの一人公爵家嫡男、リチャードとの顔合わせの日。
夜会等で何度か軽口を交わした程度の間柄なため、リチャードのことはほぼ知らない。
二人は侯爵家の中庭でゆったりとハーブティを楽しんでいた。

「リチャード様はお休みの日は何をされているんですか?」
「休みの日?う~ん、そうだね。本を読んだり、部屋でゆっくりしたりもするけど・・・狩りにも行くね」
「まぁ狩りですか」
「あぁ領地で悪さをする猪とかをね。そしてその日のディナーで美味しく頂くんだ」

パチリと片目を瞑るリチャード。
リチャードは女慣れしていると社交では専らの噂だったが、噂は本当らしい。
ただお茶をしているだけなのに話が上手いのか、話題が尽きることがなかった。
そして見目も麗しいので女性がほっとくわけがない。

「ふふ。リチャード様ほど素敵な方でしたら他にもいい女性ひとはたくさんいらっしゃるのでは?」
「とんでもない。俺はね、地位目当ての女性は勘弁して欲しいんだよ」
「わたくしが地位目当てとは思わないのですか?」
「サーシャ嬢は違うだろう?わざわざ俺と婚姻しなくても女侯爵になればいいだけだ。それに妹に妃を譲るような令嬢が地位目当てとはとても思えない」

譲るというより押し付けた、の方が正しい気もするがサーシャはこの時リチャードは女慣れはしていても、女好きではないのかなと感じた。


その後も話は弾み、また会うことを約束しその日はお開きになった。
領地のこと、領民のことをしっかり考えているリチャードには正直好感しか持てなかった。だがリチャードと婚姻するのなら女侯爵という道は捨てなければいけない。
まだ決心がついていないサーシャは正直な気持ちを侯爵に報告し、その日は眠りについた。
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