21 / 21
おまけ
しおりを挟むあれから十年。
マルセルはスミット領で羊と戯れていた。
まだ領地に着いたばかりの頃、作物が育ちにくいスミット領をどうやって進展させていくかマルセルは悩んでいた。
そんな時風の噂で聞いたガンダラード商会。何やら保存食を作る機械なる物があるらしい。
何か糸口になるのではと、早速商会へ手紙を出した。
手紙を受け取り、スミット領に赴いたのは次男のケビンだった。
この十年で彼もかなりの仕事を任せて貰っているらしい。
相談を受けたケビンは暫し考え一つの案を出した。
それが“羊”だった。
毛織物は大変高価で他国からの輸入に頼っていたこの国で羊毛を作る。
そして機械織りの技術を高め、同時に雇用も増やそうというわけである。
それからマルセルは領民に掛け合い、協力者を募った。
結果は直ぐには出なかったが、三年経ち一部の貴族の間でスミット領の絨毯が人気になったのをきっかけにみるみる業績を上げていった。
今ではドレスの上に羽織ると丁度いいと、羊毛で出来たボレロが大人気だ。
羊の毛を刈りながらマルセルはこの十年を振り返る。今年やっと婚姻した弟のバルカル。
相手は公爵令嬢で大層仲が良いらしい。
「マルセル様~!」
後ろから声をかけられ振り向くと、そこにいたのは嘗ての側近だった。
父上である国王からの遣いなのだろう。
マルセルの頑張りを認めてくれたからなのか、王城で使用されている毛織物はスミット領産が多い。
「今回は相談があって参りました」
「相談?」
「えぇ、ここの毛織物は素晴らしい。是非他国に輸出してみないかと陛下が」
思ってもいない提案にマルセルは驚くが、それ以上に嬉しさが勝った。
マルセルは確かに間違いを犯したかもしれない。
しかし協力をしてくれる領民や、気遣ってくれる家族たち。
ーー王太子になるだけが幸せではないと今なら心から言えるな。
マルセルと同じように嬉しそうに笑う嘗ての側近と共に、話を進めるため屋敷へと向かった。
その頃ナタリアはーーー
十年の月日でやっと現実を受け入れたのか、ここ最近は大人しくしている。が、相変わらず見目が良い男性に秋波を送ることはやめていない。
【後書き】
コメントを頂き、急遽マルセル救済(?)回を追加しました!
初めての連載で取りこぼしがたくさんあったにも関わらず、HOT一位という信じられない結果を頂きました。
皆さんには感謝しかないですm(_ _)m
読了、ありがとうございました♡
619
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
【完結】妹が欲しがるならなんでもあげて令嬢生活を満喫します。それが婚約者の王子でもいいですよ。だって…
西東友一
恋愛
私の妹は昔から私の物をなんでも欲しがった。
最初は私もムカつきました。
でも、この頃私は、なんでもあげるんです。
だって・・・ね
熱烈な恋がしたいなら、勝手にしてください。私は、堅実に生きさせてもらいますので。
木山楽斗
恋愛
侯爵令嬢であるアルネアには、婚約者がいた。
しかし、ある日その彼から婚約破棄を告げられてしまう。なんでも、アルネアの妹と婚約したいらしいのだ。
「熱烈な恋がしたいなら、勝手にしてください」
身勝手な恋愛をする二人に対して、アルネアは呆れていた。
堅実に生きたい彼女にとって、二人の行いは信じられないものだったのである。
数日後、アルネアの元にある知らせが届いた。
妹と元婚約者の間で、何か事件が起こったらしいのだ。
王太子様には優秀な妹の方がお似合いですから、いつまでも私にこだわる必要なんてありませんよ?
木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるラルリアは、優秀な妹に比べて平凡な人間であった。
これといって秀でた点がない彼女は、いつも妹と比較されて、時には罵倒されていたのである。
しかしそんなラルリアはある時、王太子の婚約者に選ばれた。
それに誰よりも驚いたのは、彼女自身である。仮に公爵家と王家の婚約がなされるとしても、その対象となるのは妹だと思っていたからだ。
事実として、社交界ではその婚約は非難されていた。
妹の方を王家に嫁がせる方が有益であると、有力者達は考えていたのだ。
故にラルリアも、婚約者である王太子アドルヴに婚約を変更するように進言した。しかし彼は、頑なにラルリアとの婚約を望んでいた。どうやらこの婚約自体、彼が提案したものであるようなのだ。
【完結】「お姉様は出かけています。」そう言っていたら、お姉様の婚約者と結婚する事になりました。
まりぃべる
恋愛
「お姉様は…出かけています。」
お姉様の婚約者は、お姉様に会いに屋敷へ来て下さるのですけれど、お姉様は不在なのです。
ある時、お姉様が帰ってきたと思ったら…!?
☆★
全8話です。もう完成していますので、随時更新していきます。
読んでいただけると嬉しいです。
平凡令嬢は婚約者を完璧な妹に譲ることにした
カレイ
恋愛
「平凡なお前ではなくカレンが姉だったらどんなに良かったか」
それが両親の口癖でした。
ええ、ええ、確かに私は容姿も学力も裁縫もダンスも全て人並み程度のただの凡人です。体は弱いが何でも器用にこなす美しい妹と比べるとその差は歴然。
ただ少しばかり先に生まれただけなのに、王太子の婚約者にもなってしまうし。彼も妹の方が良かったといつも嘆いております。
ですから私決めました!
王太子の婚約者という席を妹に譲ることを。
【完】婚約してから十年、私に興味が無さそうなので婚約の解消を申し出たら殿下に泣かれてしまいました
さこの
恋愛
婚約者の侯爵令嬢セリーナが好きすぎて話しかけることができなくさらに近くに寄れないジェフェリー。
そんなジェフェリーに嫌われていると思って婚約をなかった事にして、自由にしてあげたいセリーナ。
それをまた勘違いして何故か自分が選ばれると思っている平民ジュリアナ。
あくまで架空のゆる設定です。
ホットランキング入りしました。ありがとうございます!!
2021/08/29
*全三十話です。執筆済みです
妹の婚約者自慢がウザいので、私の婚約者を紹介したいと思います~妹はただ私から大切な人を奪っただけ~
マルローネ
恋愛
侯爵令嬢のアメリア・リンバークは妹のカリファに婚約者のラニッツ・ポドールイ公爵を奪われた。
だが、アメリアはその後に第一王子殿下のゼラスト・ファーブセンと婚約することになる。
しかし、その事実を知らなかったカリファはアメリアに対して、ラニッツを自慢するようになり──。
妹のために犠牲になることを姉だから仕方ないで片付けないでください。
木山楽斗
恋愛
妹のリオーラは、幼い頃は病弱であった。両親はそんな妹を心配して、いつも甘やかしていた。
それはリオーラが健康体になってからも、続いていた。お医者様の言葉も聞かず、リオーラは病弱であると思い込んでいるのだ。
リオーラは、姉である私のことを侮っていた。
彼女は両親にわがままを言い、犠牲になるのはいつも私だった。妹はいつしか、私を苦しめることに重きを置くようになっていたのだ。
ある時私は、妹のわがままによって舞踏会に無理な日程で参加することになった。
そこで私は、クロード殿下と出会う。彼との出会いは、私の現状を変えていくことになるのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる