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第4話 見える殿下
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意を決したようにとは、自分で考えていて大袈裟な言葉だなと思う。けれど、プライドの高さから下級貴族に謝罪したくないというのとはまた違うようだ。事実、言葉は短く目を合わさなかったが、謝罪の言葉を確かに口にしたし、あらためて謝罪の言葉を述べるとまで言っている。何か理由があってのことらしい。
殿下は逸らしていた視線を真っ正面に向けて私と視線を合わせた。
真剣な面持ちで見つめる二つの青い瞳はこちらの心臓を射貫く。
「ロザンヌ・ダングルベール子爵令嬢。昨日は大勢の人の前で無礼な態度を取って申し訳なかった。許してほしい」
「は、はい!」
思わず上ずった声を出す。
「許してくれるのか」
「はい。謝罪のお言葉、確かにお受け取りいたしました」
ありがとうとほっと息をつく所作は美しい。美しいが、殿下はまたすぐに視線を逸らした。
一瞬でも早く視界から消したいという、このけしからん行動はとても私に見惚れて照れから来るものとも思えないし、むしろ何だか顔色すら悪い気がする。何なのだ、一体。
「殿――」
「ロザンヌ令嬢。君にはあれが見えるか?」
「は。はい?」
殿下の視線の先を追ってみたけれど、そこは大きな窓の横にカーテンがまとめられているのみだ。
「えっと。どこでしょうか」
「あのカーテンの辺りだ」
殿下が指さすのでさらに目を凝らしてみるが、特にこれといったものは見当たらず。
戸惑う私に殿下は落胆のため息をついた。
「そうか。やはり君には見えないのか」
「殿下?」
私が殿下に視線を戻すと、丁度殿下も真っ正面を向いていたようで、慌てて視線を逸らしてきた。
だから何なのよう。一体!
思わずぷうと頬を膨らませてしまった私に殿下は少し笑った。
「そうだな。ここまで言ったのだから話そう。信じてもらえるかどうか分からないが、俺は幼少期から人ならざるものが見える質なんだ」
「人ならざるもの……。妖精とかですか?」
いつか聞いた話を思い出しながら、手の平サイズの背中に羽を生やした女の子を想像してみた。
彼女の周りには視界いっぱいに広がる彩り豊かな花畑があって、花の蜜を食べたり、遊んだり休んだりするのだ。
「そんな可愛らしいものならいいが。要は人間や動物のなれの果て、幽霊の類いだ。主に悪霊化した、何もかも飲み込みそうな漆黒の影に血走った目だけがぎょろりと見えるような」
ぎゃあああっ!?
パステルピンクのファンシーな雰囲気から急にどす赤黒ホラーになった!
「と、ということは、あそこにそのあれがいるんですか!?」
動揺した私は、もはや語彙力失って指示語ばかりの言葉になる。
「ああ」
うわあああっ! 怖いよー!
「お母様の次に怖いー!」
「……君の母君が聞いたら、烈火の如くお怒りになるだろうな。と言うか、君は見えないのに私の話を信じるのか?」
「はい? 殿下はわたくしをからかったのですか?」
それは酷い。ちょっと怒ってもいい案件だ。
「からかってはいないが。……嘘をついているとか、変な事を口走る頭がおかしい奴だとかそう思わないのかと」
「そんな事、思いつきもしませんでした。だってしがない子爵家の娘を呼び出してまで、嘘をついたり、頭がおかしいアピールなんてする必要はないわけですし」
そう答えると、殿下は私の顔を正面からまじまじと見つめた。かと思ったらまたすぐに視線を外した。
「そうか。……ありがとう」
「え?」
最後の言葉は消え入るようで聞こえなかった。けれど殿下はそれには答えず、こほんと咳払いをした。
「いや。こう言っては失礼だが、実は君にも憑いている」
「は、はい!? わ、わたくしにもですか!?」
「ああ。君の場合は人間と言うより、獣のようだが」
「獣!?」
明らかに人間とは違う猫のような四本足の影で、目は燃えるような真っ赤な色、大きさは私の肩に乗るぐらいの程度だけれど、幻妖な力自体は私の身を覆っているらしく威圧感が半端ないらしい。
「昨日は君に憑いた獣が私に触れようとしてきたので、思わず振り払ってしまった。影が私に取り憑いてくる時は酷く疲れたり、体調を崩してしまうからだ。今も君の獣は私のことを獲物を狙うかのような鋭い視線を向けてくる。悪いが、こちらを見ないように言ってもらえないか」
昨日の行為と私と目を合わせようとしないのはそれが原因なのね。……って、いや待って。君の獣とか、言ってもらえないかとか、まるで私が飼っているみたいな言い方こそ止めてくださいませんか!
「そもそもわたくしには見えませんし、そんなのできませんよ」
「そうか。残念だ……。ところで一つ試したいことがあるのだが、いいだろうか」
「え? あ、はい」
私が了承すると殿下は立ち上がり、憑いて来いと、違った、付いて来いと手を動かすので同様に立ち上がって歩み寄った。――が。私の気配に気付いた殿下は文字通り、飛び退くようにすぐさま社会的距離を十二分に取った。
あの。殿下の不可解な行動は理解したつもりですが、やっぱり気分が悪いものは悪いのですが……。
殿下は逸らしていた視線を真っ正面に向けて私と視線を合わせた。
真剣な面持ちで見つめる二つの青い瞳はこちらの心臓を射貫く。
「ロザンヌ・ダングルベール子爵令嬢。昨日は大勢の人の前で無礼な態度を取って申し訳なかった。許してほしい」
「は、はい!」
思わず上ずった声を出す。
「許してくれるのか」
「はい。謝罪のお言葉、確かにお受け取りいたしました」
ありがとうとほっと息をつく所作は美しい。美しいが、殿下はまたすぐに視線を逸らした。
一瞬でも早く視界から消したいという、このけしからん行動はとても私に見惚れて照れから来るものとも思えないし、むしろ何だか顔色すら悪い気がする。何なのだ、一体。
「殿――」
「ロザンヌ令嬢。君にはあれが見えるか?」
「は。はい?」
殿下の視線の先を追ってみたけれど、そこは大きな窓の横にカーテンがまとめられているのみだ。
「えっと。どこでしょうか」
「あのカーテンの辺りだ」
殿下が指さすのでさらに目を凝らしてみるが、特にこれといったものは見当たらず。
戸惑う私に殿下は落胆のため息をついた。
「そうか。やはり君には見えないのか」
「殿下?」
私が殿下に視線を戻すと、丁度殿下も真っ正面を向いていたようで、慌てて視線を逸らしてきた。
だから何なのよう。一体!
思わずぷうと頬を膨らませてしまった私に殿下は少し笑った。
「そうだな。ここまで言ったのだから話そう。信じてもらえるかどうか分からないが、俺は幼少期から人ならざるものが見える質なんだ」
「人ならざるもの……。妖精とかですか?」
いつか聞いた話を思い出しながら、手の平サイズの背中に羽を生やした女の子を想像してみた。
彼女の周りには視界いっぱいに広がる彩り豊かな花畑があって、花の蜜を食べたり、遊んだり休んだりするのだ。
「そんな可愛らしいものならいいが。要は人間や動物のなれの果て、幽霊の類いだ。主に悪霊化した、何もかも飲み込みそうな漆黒の影に血走った目だけがぎょろりと見えるような」
ぎゃあああっ!?
パステルピンクのファンシーな雰囲気から急にどす赤黒ホラーになった!
「と、ということは、あそこにそのあれがいるんですか!?」
動揺した私は、もはや語彙力失って指示語ばかりの言葉になる。
「ああ」
うわあああっ! 怖いよー!
「お母様の次に怖いー!」
「……君の母君が聞いたら、烈火の如くお怒りになるだろうな。と言うか、君は見えないのに私の話を信じるのか?」
「はい? 殿下はわたくしをからかったのですか?」
それは酷い。ちょっと怒ってもいい案件だ。
「からかってはいないが。……嘘をついているとか、変な事を口走る頭がおかしい奴だとかそう思わないのかと」
「そんな事、思いつきもしませんでした。だってしがない子爵家の娘を呼び出してまで、嘘をついたり、頭がおかしいアピールなんてする必要はないわけですし」
そう答えると、殿下は私の顔を正面からまじまじと見つめた。かと思ったらまたすぐに視線を外した。
「そうか。……ありがとう」
「え?」
最後の言葉は消え入るようで聞こえなかった。けれど殿下はそれには答えず、こほんと咳払いをした。
「いや。こう言っては失礼だが、実は君にも憑いている」
「は、はい!? わ、わたくしにもですか!?」
「ああ。君の場合は人間と言うより、獣のようだが」
「獣!?」
明らかに人間とは違う猫のような四本足の影で、目は燃えるような真っ赤な色、大きさは私の肩に乗るぐらいの程度だけれど、幻妖な力自体は私の身を覆っているらしく威圧感が半端ないらしい。
「昨日は君に憑いた獣が私に触れようとしてきたので、思わず振り払ってしまった。影が私に取り憑いてくる時は酷く疲れたり、体調を崩してしまうからだ。今も君の獣は私のことを獲物を狙うかのような鋭い視線を向けてくる。悪いが、こちらを見ないように言ってもらえないか」
昨日の行為と私と目を合わせようとしないのはそれが原因なのね。……って、いや待って。君の獣とか、言ってもらえないかとか、まるで私が飼っているみたいな言い方こそ止めてくださいませんか!
「そもそもわたくしには見えませんし、そんなのできませんよ」
「そうか。残念だ……。ところで一つ試したいことがあるのだが、いいだろうか」
「え? あ、はい」
私が了承すると殿下は立ち上がり、憑いて来いと、違った、付いて来いと手を動かすので同様に立ち上がって歩み寄った。――が。私の気配に気付いた殿下は文字通り、飛び退くようにすぐさま社会的距離を十二分に取った。
あの。殿下の不可解な行動は理解したつもりですが、やっぱり気分が悪いものは悪いのですが……。
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