つかれやすい殿下のために掃除婦として就くことになりました

樹里

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第9話 不本意だけれども

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「わたくしの身に危険が? 学園生活のことでしたら自分で何とか致します」

 学園を卒業してしまった以上、殿下といえども簡単に手出しすることはできないだろうし。
 と思った矢先。

「いや。学園生活のことではないんだ」

 即座に否定した殿下に対して。
 少しはそっちの方も心配しなさいよ!
 などと、天下の第一王子サマ相手に、夢にも考えておりません。

「では一体……」
「これから経過を見てみないと確かな事は言えないが、今日初めて君に会った時よりも窓際の影を祓ってからの方が、若干、君の獣が大きくなった気がするんだ。獣が影のエネルギーを自身に取り込むからではないかと思う」

 反射的に振り返った。もちろん背後には何も見えなかったけれど。
 仕方なく私はまた殿下に視線を戻す。

「あくまでも仮定として聞いてほしい。今後、君が影を祓う度に獣が巨大化していくとしたら、やがて獣が君に牙を剥くようになるかもしれない」
「え!?」
「その時、君の身に危険が迫っていると知ることができるのは私だけだ」

 知ることができるというのがポイントだ。助けられる・・・・・とは言っていない。

「わたくしが殿下の影を消す度に、わたくしの身に危険が及ぶ可能性が増すかもしれないというのはちゃんとご理解いただいております?」
「ああ。しかし、君が無意識に誰かの影を消していくとしたら、獣が巨大化したとしても見えない君には危険が迫っていることすら気付けない」
「――っ」

 確かに殿下の言う通りだ。日々接している人がもしかしたら影に取り憑かれているかもしれない。それを気付かない内に消し、私の獣が勢力を増していっているのかもしれない。しかし、見えない私にはその異変に気付くことはできないのだ。

「すまない。脅かしすぎたようだ」

 黙り込んでしまった私に殿下は穏やかに声をかけてきた。
 いつの間にか視線が落ちていた私は顔を上げると、気遣うような殿下の視線と目が合った。

「あくまでも可能性の問題で必ずそうなるとは限らないし、そもそも私の見違えかもしれない。食後・・で腹が満たされているから大きく見えるのかもしれない。経過を見ないと正確な事は言えないんだ。それに私もただ黙って君の身を危険にさらすような真似はしない。いざという時には呪術師を招集するし、合間を縫って文献などから情報を集めるつもりだ」
「……分かりました。分かりましたとお受けするしか、他はないのですね」

 うら若き乙女がなぜ殿下付きの掃除婦にならなければならないのか。
 不本意だけれども。すごくすごく不本意だけれども。
 言葉と態度で示すと、殿下は苦笑いする。

「分かった分かった。私が悪かった。学校にいる間は呼び出すことはしないし、体面上、私付きの侍女とはするが、学業重視で君には極力不便のないよう配慮させていただく。……あと、好きなだけ菓子も用意させよう」

 テーブルの上の空っぽになったお皿を見ながら特別待遇を追加した殿下に、私はぜひお願いしますと澄まし顔をした。

「ところで、このお話はわたくしの両親にも内密にしておいた方がよろしいのですよね」
「そうしてくれると助かる。これから父上、陛下に君のことを話して、君の学校の休みが明けるまでには王命を出してもらう段取りをつける」
「国王陛下や王妃殿下はご存知なのですか?」

 殿下は少し目を細めると小さく頷いた。

「ああ。年端もいかぬ幼少期からの事だからな。それに王家には代々、私のような者が現れるそうだ。門外不出の王家の歴史書にも度々記載されている。私も色々文献を紐解いている最中だが、どうも呪いの類いらしい」

 殿下はそう言うと、少し袖をまくって左の手首の内側を私に見せた。小さいけれど、くっきりとした星の形のような黒い痣がある。

「呪いを受けた者はこの星紋が出るとも書かれていた」
「俗に言う、末代まで祟ってやるという呪いでしょうか」

 恨みか何かは知らないが、子々孫々までとはお門違いだろう。恨みを晴らすのならば、本人だけにしなさいな。本人だけに。

「そうだな。これまで何代にも渡っても呪いを解く鍵さえ得られていなかったが、君との出会いは何かの巡り合わせかもしれない。私に力を貸してほしい」

 天下人の第一王子様が真剣な瞳をして、下級貴族で小娘の私に助けを請う。
 不本意だけれども。すごくすごく不本意だけれども。

「はい。承知いたしました」

 言葉と態度で示すと、殿下はまた苦笑いした。
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