つかれやすい殿下のために掃除婦として就くことになりました

樹里

文字の大きさ
19 / 315

第19話 至れり尽くせりすぎな待遇

しおりを挟む
「このお部屋ですか!?」

 目の前に広がる部屋の大きさに目を丸くする。もちろん驚くべきことは広さだけではなく、内装は一見したところ派手さは無いが、普段は目にすることも、手にすることもない高級品質で整えられているのは明らかだ。

 来客にもきちんと対応しており、居心地の良さそうなソファーやテーブルもちゃんと設置されている。浴室も常備されているそうで、入浴の時間を気にする必要がないのも嬉しい。

 また奥にある寝室は朝日が優しく入ってくる設計になっているそうで、朝起きが苦手な私はますます寝過ごすことは間違いない。……いえ、お母様。王宮にて、のうのうと寝過ごしている場合ではもちろんありません。
 脳裏に浮かんだ母に釈明をする。

「本当にこのお部屋でよろしいのですか!?」
「ああ。すぐ駆けつけてもらえるよう、私の隣の部屋に入ってもらうことにした。客間でなくて悪いが」
「い、いえ、それは」

 この部屋は私が来るまでは何の部屋だったのだろう。自分の家も田舎町で土地だけはあるから大きな屋敷だと思っていたけれど、ここは一つの部屋が大きすぎる。

 いや、王宮の大きさから考えて、当然ではあるのだけれども、たかが一介の下級貴族の娘相手にここまでの部屋を用意してくれるとは。
 それだけ私の職務は重要な任務ととも取れる。

「部屋の雰囲気が気に入らなければ好きなように変えてくれてもいいし、何か足りない物があれば君の侍女に頼んでくれればいい。菓子も好きなだけ用意してもらってくれ」
「え!? それはすごい至れり尽くせりですね!」

 思わず目が輝いたけれど、小さな子供を微笑ましく見るような殿下の瞳に、すぐ気を取り直すためにこほんと咳払いした。

「あ、いえ。そんなとんでもなく……ん? え? わたくしの侍女というのはどういう意味でしょうか」

 私は殿下付きの侍女になるために召し上げられたわけで、私に侍女が付くのは道理に合わない気がするのですが。

「侍女にするとは言ったが、君に一般の侍女の仕事をしてもらうつもりはない。何かあれば頼むことがあるかもしれないが、基本は学業を本業としてくれればいい。だから部屋も使用人の部屋ではなく、私の隣にした」
「それで大丈夫なのですか?」

 私としては殿下のお世話係の心構えで来たから、戸惑ってしまう。もちろん一般侍女になる方が足手まといの上に、もっと戸惑ってしまうでしょうが。

「ああ。でも私が呼んだらすぐに駆けつけられる場所にはいてもらうことにはなるが。特に人と会う時にはすぐ側で待機していてもらいたい」

 自由のようで制限がありますね。まあ、当然と言えば当然か。殿下はいつ取り憑かれるか分からないわけだし。

「それと私付きの侍女という王命となるが、対外的にはただの行儀見習いということにしておいてほしい」

 ただの行儀見習いでも宮廷に務めるならば、後ろ盾になるだろう。

「はい。かしこまりました」
「食事についてだが、この部屋で取ってくれ」
「はい。……あ。一人ででしょうか」

 これまで家族と朝も夕も一緒に取っていたので、一人となると何とも味気の無い食事になりそうだ。

「基本はそうだな。何なら陛下以下、我々王家の者と一緒に食事できるよう手配するが」
「いえっ! それは謹んでご遠慮申し上げます」

 私は慌てて固辞した。
 天井を突き破らんぐらいの至れり尽くせりすぎな待遇だ!

 止めて。それ絶対止めてほしい。味気の無いどころの話ではない。間違いなく緊張で喉は詰まるし、何を食べても味がないだろうし、食欲はなくなるだろう。せっかくの食材に対して失礼だ。何よりも、食事マナーには自信が無い!(きっぱり)

「まあ、それもそうか」
「例えば、侍女の方々と一緒の部屋でお食事を取るというのは構いませんか」
「いや。君は肩書き上、侍女とは言っているが、実務は違うのでできるだけ彼らと一緒にしたくはない」

 新人侍女のくせに特別待遇されることを、良く思われないからかもしれない。

「ああ、そうだ。私も多忙で執務室で食事を取ることが多いので、何ならその時に同席してもいい」
「それは……そうですね。半年くらい考えるお時間を頂けると幸いにございます」

 と柔らかく・・・・お断りすると、殿下は何が不満なんだと眉をひそめ、少し不足そうに呟いた。
しおりを挟む
感想 262

あなたにおすすめの小説

王宮に薬を届けに行ったなら

佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。 カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。 この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。 慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。 弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。 「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」 驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。 「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」 ※ベリーズカフェにも掲載中です。そちらではラナの設定が変わっています。(貴族→庶民)それにより、内容も少し変更しておりますのであわせてお楽しみください。

狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します

ちより
恋愛
 侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。  愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。  頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。  公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。

報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を

さくたろう
恋愛
 その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。  少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。 20話です。小説家になろう様でも公開中です。

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

私が、良いと言ってくれるので結婚します

あべ鈴峰
恋愛
幼馴染のクリスと比較されて悲しい思いをしていたロアンヌだったが、突然現れたレグール様のプロポーズに 初対面なのに結婚を決意する。 しかし、その事を良く思わないクリスが・・。

婚約白紙?上等です!ローゼリアはみんなが思うほど弱くない!

志波 連
恋愛
伯爵令嬢として生まれたローゼリア・ワンドは婚約者であり同じ家で暮らしてきたひとつ年上のアランと隣国から留学してきた王女が恋をしていることを知る。信じ切っていたアランとの未来に決別したローゼリアは、友人たちの支えによって、自分の道をみつけて自立していくのだった。 親たちが子供のためを思い敷いた人生のレールは、子供の自由を奪い苦しめてしまうこともあります。自分を見つめ直し、悩み傷つきながらも自らの手で人生を切り開いていく少女の成長物語です。 本作は小説家になろう及びツギクルにも投稿しています。

【完結】地味な私と公爵様

ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。 端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。 そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。 ...正直私も信じていません。 ラエル様が、私を溺愛しているなんて。 きっと、きっと、夢に違いありません。 お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)

ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく

犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。 「絶対駄目ーー」 と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。 何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。 募集 婿入り希望者 対象外は、嫡男、後継者、王族 目指せハッピーエンド(?)!! 全23話で完結です。 この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。

処理中です...