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第20話 影とは
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「ところで影についてなのですが、もう少し詳しくお教えいただけませんか」
私にも憑いている影、ネロが一体どういうものか、なぜ私に憑いているのか知りたい。
「分かった。じゃあ、ちょっと座って話そうか」
殿下はソファーへと私を誘導し、殿下が着座したのを見計らって私も腰を下ろした。
執務室と違って、身体が深く沈み込みそうなくらいのクッション性があるのは来客にリラックスしてもらうためで、仕事の来客とは用途が違うのだろうか。こんな人間を駄目にするソファーなら、仕事中に使うと集中力が無くなりそうだもんね。
などと、どうでもいい事を考えていると殿下が長い足を組んだ。
美しい人はやはり行動一つ一つとってもサマになるなぁと思う。
「まず影についてだが」
口を開いた殿下に、私は意識を戻して姿勢を正す。
「はい」
「以前、影は人間や動物のなれの果てと言ったと思う。人や動物の未練や恨み妬みという強い思いが、長く地に滞在しすぎて負のエネルギーが蓄積し、闇色に染まったものだと私は見ている」
未練や恨み妬みなどの悪意は負の熱量がすごそうだ。元々私に対して持っていた感情なのか、標的を見つけて日頃から溜まっている負の感情を発散したかったのかは分からないけれど、カトリーヌ嬢ご一行様の熱意はすごかったもの。
「負のエネルギーが強いから取り憑いた相手を不調に陥れ、そして祓うのに時間がかかるのですね」
「そうだな。後者はそうだと思っていた」
「後者?」
殿下はおもむろに頷いた。
「これは君に影祓いしてもらって気付いたのだが、呪術師とは違って君の影祓いはまさにその闇の部分だけを祓っているようなんだ」
「闇の部分」
「そう。闇の部分だけを君の獣、ネロが祓う、あるいは事後、ネロが大きくなり力が増しているところを見ると吸収とでも言うのか。そのことによって闇の足枷が外れてただ純粋な思い、視覚的には光に見えたが、それが高い空へと昇って溶け込んだ。片や呪術師の影祓いは辺り一帯燃やし尽くしてしまうような、何もかも無に帰してしまうような術式だ。私に後遺症が出るのもそのせいかもしれない」
一方は浄化されて光となって穏やかに溶けゆき、もう一方は辺りを焼き払うため、術を受ける者にも影響を受けるということかな。そう聞くと呪術師様の影祓いは強力なのだろうけれども、恐ろしそうな術だ。
「影はどんな人にも憑いているのですか?」
「いや。影は言わば悪意の塊みたいなものだ。それに共鳴するような人間をより好んで取り憑くようだ。あとは影のエネルギーより下回るような人間、つまり身体が弱っている人間、心が弱っている人間ということになる。私の場合はまた特殊で、引き寄せ体質だから不調ではない時にも憑いてしまう」
引き寄せ体質ではなく、単に殿下に秘められた悪意に共鳴して取り憑くのでは? などと失礼なことを考えてしまう。
「本当に君は失礼だな。何度も言うが、私はこの国の第一王子だぞ?」
考えていなかった。口に出していた。
「申し訳ございません。つい」
言葉ほど怒っておらず、偉ぶってもいない殿下に、素直に謝っておく。
「ついは余計だ。……まあいい。続けよう。憑かれた人間は身体に変調をきたすことがほとんどだ。ただし、人によって程度もまた様々のようだが、多少なりとも何らかの異変を感じているようだ。しかし、君の場合は全く異変がない、あるいは単に気付いていない鈍感体質なだけかもしれないが、不調が起こっていないところを見ると、また特殊のようだな」
私が何も気付いていないだけの鈍感体質って。まるで脳天気なお馬鹿みたいじゃないですか。――はっ。もしや、これまでの逆襲だろうか。
「それで君の影についてだが」
「あ、はい!」
いつの間にか、ゆったりとソファーの感触を楽しんでいた私はその言葉で前のめりになる。
「正直分からない」
「…………あ、はい。正直にありがとうございました」
ここまでのお話、お疲れ様でした。
自分に労をねぎらって、私は再びソファーへと埋まった。
私にも憑いている影、ネロが一体どういうものか、なぜ私に憑いているのか知りたい。
「分かった。じゃあ、ちょっと座って話そうか」
殿下はソファーへと私を誘導し、殿下が着座したのを見計らって私も腰を下ろした。
執務室と違って、身体が深く沈み込みそうなくらいのクッション性があるのは来客にリラックスしてもらうためで、仕事の来客とは用途が違うのだろうか。こんな人間を駄目にするソファーなら、仕事中に使うと集中力が無くなりそうだもんね。
などと、どうでもいい事を考えていると殿下が長い足を組んだ。
美しい人はやはり行動一つ一つとってもサマになるなぁと思う。
「まず影についてだが」
口を開いた殿下に、私は意識を戻して姿勢を正す。
「はい」
「以前、影は人間や動物のなれの果てと言ったと思う。人や動物の未練や恨み妬みという強い思いが、長く地に滞在しすぎて負のエネルギーが蓄積し、闇色に染まったものだと私は見ている」
未練や恨み妬みなどの悪意は負の熱量がすごそうだ。元々私に対して持っていた感情なのか、標的を見つけて日頃から溜まっている負の感情を発散したかったのかは分からないけれど、カトリーヌ嬢ご一行様の熱意はすごかったもの。
「負のエネルギーが強いから取り憑いた相手を不調に陥れ、そして祓うのに時間がかかるのですね」
「そうだな。後者はそうだと思っていた」
「後者?」
殿下はおもむろに頷いた。
「これは君に影祓いしてもらって気付いたのだが、呪術師とは違って君の影祓いはまさにその闇の部分だけを祓っているようなんだ」
「闇の部分」
「そう。闇の部分だけを君の獣、ネロが祓う、あるいは事後、ネロが大きくなり力が増しているところを見ると吸収とでも言うのか。そのことによって闇の足枷が外れてただ純粋な思い、視覚的には光に見えたが、それが高い空へと昇って溶け込んだ。片や呪術師の影祓いは辺り一帯燃やし尽くしてしまうような、何もかも無に帰してしまうような術式だ。私に後遺症が出るのもそのせいかもしれない」
一方は浄化されて光となって穏やかに溶けゆき、もう一方は辺りを焼き払うため、術を受ける者にも影響を受けるということかな。そう聞くと呪術師様の影祓いは強力なのだろうけれども、恐ろしそうな術だ。
「影はどんな人にも憑いているのですか?」
「いや。影は言わば悪意の塊みたいなものだ。それに共鳴するような人間をより好んで取り憑くようだ。あとは影のエネルギーより下回るような人間、つまり身体が弱っている人間、心が弱っている人間ということになる。私の場合はまた特殊で、引き寄せ体質だから不調ではない時にも憑いてしまう」
引き寄せ体質ではなく、単に殿下に秘められた悪意に共鳴して取り憑くのでは? などと失礼なことを考えてしまう。
「本当に君は失礼だな。何度も言うが、私はこの国の第一王子だぞ?」
考えていなかった。口に出していた。
「申し訳ございません。つい」
言葉ほど怒っておらず、偉ぶってもいない殿下に、素直に謝っておく。
「ついは余計だ。……まあいい。続けよう。憑かれた人間は身体に変調をきたすことがほとんどだ。ただし、人によって程度もまた様々のようだが、多少なりとも何らかの異変を感じているようだ。しかし、君の場合は全く異変がない、あるいは単に気付いていない鈍感体質なだけかもしれないが、不調が起こっていないところを見ると、また特殊のようだな」
私が何も気付いていないだけの鈍感体質って。まるで脳天気なお馬鹿みたいじゃないですか。――はっ。もしや、これまでの逆襲だろうか。
「それで君の影についてだが」
「あ、はい!」
いつの間にか、ゆったりとソファーの感触を楽しんでいた私はその言葉で前のめりになる。
「正直分からない」
「…………あ、はい。正直にありがとうございました」
ここまでのお話、お疲れ様でした。
自分に労をねぎらって、私は再びソファーへと埋まった。
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