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第21話 お涙頂戴話
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「まあ。これからもっと詳細に調査していくことで明らかになる……といいなと思う」
冷めた目で見る私に気付いたのか、殿下はそう付け加えたけれども、全く頼りにならなーい。
「あ。そう言えば、殿下は引き寄せ体質だとおっしゃいましたが、陛下や王妃殿下、第二王子様や王女様に影は憑いておられないのですか?」
「ああ。それはない。時折、どこからかもらって来ることがあるが、全て私に引き付けられるから彼らに大きな問題が起こったことはない」
私は両手をぱちりと合わせた。
「エルベルト殿下は王家御用人の掃除夫でございますね」
「うん。君はもう少し私に対する敬意を覚えようか」
お綺麗な顔を引きつらせて笑う殿下。
最初に心の声を出してしまったせいで、そしてそれをお許しいただいている寬容な殿下だから現在、私の首と胴体が繋がっているだけで、所変われば、人が変われば本気で首が飛んでいるかもしれない。
「いや、その前にこの事が母の耳に入ったら……」
ぶるり。
酷い寒気に肩を震わせて腕をこすった。
き、気を付けないと。
「はい! これからしっかりと勉強させていただきます!」
「良い心がけだが、王族の権威をも凌ぐ君の母君は一体何者なんだ」
顔色を変えて必死に頷く私に殿下は呆れる。
「それで他に質問はあるか?」
……あ。あるある。ちゃんと聞いておかなきゃ。
「本日、護衛官様にお助けいただいたのですが、あの方にはわたくしのことをお伝えになっておられないのですよね」
「ジェラルドか。彼は誠実で真面目な性格で、心技体が強く、影を寄せ付けすらしない信頼の置ける人間だ。ただ、彼に限らずだが、職務以上の情報を伝えることはしていない。私は体が弱いと認識はされているかもしれないが、当然私の事情も知らない。君のことを知らせているのは事情を知る父上と母上のみだ」
王家は代々、殿下のような人が現れるとおっしゃっていたし、陛下と王妃殿下も御存知だからなのだろう。でもそうか、信頼できる部下においても殿下の諸事情については話さないのか。立場上、警戒心を解いて人と接することが許されないのかもしれない。
誰もが憧れる華麗なる王族とは言っても、どこか孤独な所がおありなのね。しかも度々取り憑かれて体調を崩すなんて、大変な生活……ん?
「ふと思ったのですが、殿下は先日も寝込んだとおっしゃいましたよね。殿下のご容体について、王宮に出入りする方々には知られているのですか?」
「知られないように気を付けているが、顔色が悪いと気遣われることもあるし、寝込むこともある。周りにも身体が丈夫ではないと思われているだろうな。政務に支障が出ないよう、普段からできるだけ一日の仕事量を増やしてはいるが」
「まあ……。いつ倒れてもいいようにお仕事量を増やすなど、何ともお涙頂戴するお言葉ですね」
ハンカチで目を拭うしぐさをしてみる。
「お涙頂戴とは揶揄する時に使う言葉だ」
「まあ! わたくしとしましたことが。勉強不足で誠に申し訳ございません」
「嘘だ。絶対に知っていただろ」
「ほほ。ご冗談を」
疑わしそうな瞳で殿下は睨み付けてくるので、私は唇に指を当てて笑った。
まったくと殿下は息を一つ吐いた。
「質問は以上か? これでもお涙頂戴ものの忙しい身だからな。無いなら、そろそろ失礼させていただくが」
嫌味っぽく言われた。大人げないな!
それでも私はご機嫌を損ねて立ち去る前に慌てて尋ねる。
「あ、いえ。それで肝心な事なのですが、わたくしはいつからこちらに寄せていただければ良いのでしょうか?」
「は? 今日からだが」
「は、はい!? 今日? 今すぐ!? もうこの瞬間から!?」
びっくりするような発言が殿下の口から飛び出して、私自身も飛び上がりそうだった。
「いつでも王宮に来られるよう準備しておいてくれと言ったはずだが」
「もちろんしておりましたよ! ですが、今日だとは事前におっしゃっていただけなかったではありませんか。わたくしの荷物だって持ってきておりませんのに」
「それは後で届けさせる。今日、明日の日用品もこちらで用意するから心配は無い」
「い、いえ。それはそうですが、わたくし、今日からとは夢にも思っておりませんでしたので、家族に出発の挨拶を告げてきておりません」
抗議するけれど、何だそんな事かと殿下は少し笑う。
「別に永遠に帰さないわけでもないし、挨拶くらい、いつで――」
私がここに来て初めて不安そうな表情を見せてしまったせいだろうか。殿下は目を見開いて言葉を切った。
冷めた目で見る私に気付いたのか、殿下はそう付け加えたけれども、全く頼りにならなーい。
「あ。そう言えば、殿下は引き寄せ体質だとおっしゃいましたが、陛下や王妃殿下、第二王子様や王女様に影は憑いておられないのですか?」
「ああ。それはない。時折、どこからかもらって来ることがあるが、全て私に引き付けられるから彼らに大きな問題が起こったことはない」
私は両手をぱちりと合わせた。
「エルベルト殿下は王家御用人の掃除夫でございますね」
「うん。君はもう少し私に対する敬意を覚えようか」
お綺麗な顔を引きつらせて笑う殿下。
最初に心の声を出してしまったせいで、そしてそれをお許しいただいている寬容な殿下だから現在、私の首と胴体が繋がっているだけで、所変われば、人が変われば本気で首が飛んでいるかもしれない。
「いや、その前にこの事が母の耳に入ったら……」
ぶるり。
酷い寒気に肩を震わせて腕をこすった。
き、気を付けないと。
「はい! これからしっかりと勉強させていただきます!」
「良い心がけだが、王族の権威をも凌ぐ君の母君は一体何者なんだ」
顔色を変えて必死に頷く私に殿下は呆れる。
「それで他に質問はあるか?」
……あ。あるある。ちゃんと聞いておかなきゃ。
「本日、護衛官様にお助けいただいたのですが、あの方にはわたくしのことをお伝えになっておられないのですよね」
「ジェラルドか。彼は誠実で真面目な性格で、心技体が強く、影を寄せ付けすらしない信頼の置ける人間だ。ただ、彼に限らずだが、職務以上の情報を伝えることはしていない。私は体が弱いと認識はされているかもしれないが、当然私の事情も知らない。君のことを知らせているのは事情を知る父上と母上のみだ」
王家は代々、殿下のような人が現れるとおっしゃっていたし、陛下と王妃殿下も御存知だからなのだろう。でもそうか、信頼できる部下においても殿下の諸事情については話さないのか。立場上、警戒心を解いて人と接することが許されないのかもしれない。
誰もが憧れる華麗なる王族とは言っても、どこか孤独な所がおありなのね。しかも度々取り憑かれて体調を崩すなんて、大変な生活……ん?
「ふと思ったのですが、殿下は先日も寝込んだとおっしゃいましたよね。殿下のご容体について、王宮に出入りする方々には知られているのですか?」
「知られないように気を付けているが、顔色が悪いと気遣われることもあるし、寝込むこともある。周りにも身体が丈夫ではないと思われているだろうな。政務に支障が出ないよう、普段からできるだけ一日の仕事量を増やしてはいるが」
「まあ……。いつ倒れてもいいようにお仕事量を増やすなど、何ともお涙頂戴するお言葉ですね」
ハンカチで目を拭うしぐさをしてみる。
「お涙頂戴とは揶揄する時に使う言葉だ」
「まあ! わたくしとしましたことが。勉強不足で誠に申し訳ございません」
「嘘だ。絶対に知っていただろ」
「ほほ。ご冗談を」
疑わしそうな瞳で殿下は睨み付けてくるので、私は唇に指を当てて笑った。
まったくと殿下は息を一つ吐いた。
「質問は以上か? これでもお涙頂戴ものの忙しい身だからな。無いなら、そろそろ失礼させていただくが」
嫌味っぽく言われた。大人げないな!
それでも私はご機嫌を損ねて立ち去る前に慌てて尋ねる。
「あ、いえ。それで肝心な事なのですが、わたくしはいつからこちらに寄せていただければ良いのでしょうか?」
「は? 今日からだが」
「は、はい!? 今日? 今すぐ!? もうこの瞬間から!?」
びっくりするような発言が殿下の口から飛び出して、私自身も飛び上がりそうだった。
「いつでも王宮に来られるよう準備しておいてくれと言ったはずだが」
「もちろんしておりましたよ! ですが、今日だとは事前におっしゃっていただけなかったではありませんか。わたくしの荷物だって持ってきておりませんのに」
「それは後で届けさせる。今日、明日の日用品もこちらで用意するから心配は無い」
「い、いえ。それはそうですが、わたくし、今日からとは夢にも思っておりませんでしたので、家族に出発の挨拶を告げてきておりません」
抗議するけれど、何だそんな事かと殿下は少し笑う。
「別に永遠に帰さないわけでもないし、挨拶くらい、いつで――」
私がここに来て初めて不安そうな表情を見せてしまったせいだろうか。殿下は目を見開いて言葉を切った。
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