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第22話 胸に響く殿下のご配慮
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「すまない。こちらの事情ばかり優先させてしまった。君はまだ十六で社交界もデビューしたばかりだったな。そんな中、王宮に一人乗り込んでくることも不安だっただろうに、君の気持ちを考えもしないで本当に悪かった」
「……いえ」
殿下の真摯な謝罪に対して、私もそれ以上の言葉はない。
そう。不安だった。たった一人でいきなり王宮入りしなければならなかったのは。
殿下に対する口の聞き方がなっていなかったのも、本当は気を張っていたからで……とは言いがたいけれども。
「君の自宅は王宮からは遠いとのことだったな。とりあえず今日は一晩こちらで泊まってくれ。そして明日、学校が終われば一度自宅に戻って心の準備をしてきてくれればいい。だからこちらに戻って来てもらうのは明後日の授業終了後からとなる。それと一人、君の自宅から侍女を連れてくるといい。慣れた侍女が側にいる方が君も心強いだろう」
「え? よ、よろしいのですか?」
「ああ。明後日からよろしく頼む」
殿下の最大限の配慮が胸に響いて、私はありがとうございますと控えめに申し上げるのが精一杯だった。
その夜。
慣れぬ感触の枕に、慣れぬふわふわのベッドに、慣れぬ真っ白な天井にすぐ寝ることはでき……た。それはもう、いつも以上にぐっすり寝ることができました。
私ってなかなか図太い神経をしている人間だったのね。知らなかった。
ただし、さすがにどこか気になっている部分もあったのか、珍しく誰かに起こされる前に目が覚めた。
もし実家にいる侍女のユリアがこの現場を目撃したならば、きっと無表情の中にも驚きの表情があって、天変地異が起こるのではないかと言うだろう。彼女なら言う。間違いなく言う。
「……はぁ。そっか。もうすぐここでの生活が普通になるのね」
ため息をついた。
目が覚めて見慣れぬ風景にぎょっとしたことも確かで、これからここで生活していかなければいけないということもまたこの朝に覚悟しなければならないわけで、いつもと違う朝の憂うつ感に襲われる。
「そんな事を言ってもしかたないわね。――よし、起きよう」
再び独り言を呟き、気合いを入れ直した。
ベッドから足を下ろして立ち上がり、制服に着替える。
私が通っている学園は良家のご令息、ご令嬢のみならず、資産家の商家や一般的な庶民でも成績優秀者などが集う学校だ。学園内では平等という名の下、服装から不平等が生じないよう、制服が支給されている。
とは言え、見栄えだけ綺麗に整えたところでこの世から不平等が消えるわけでもないのにとひねた考えをしてしまう。
どちらにしろ、毎朝何の服を着ようかと頭を悩ませる必要がないし、また、それだけの資産力もない我が家にとって、制服はありがたいの一点である。
ん。今日も可愛い!
鏡の前に立って自我自賛する。……誰も褒めてくれないから、せめて自分で褒めることを許してほしい。
一人苦笑いしていると、外に繋がる扉から控えめなノックが聞こえたので返事をする。
「お目覚めになっておられたのですね。わたくし、本日よりロザンヌ様にお仕えすることになりましたクロエ・モンドールと申します。どうぞよろしくお願い申し上げます」
三十代ぐらいだろうか。茶色の髪をきちんと後ろで一つにまとめたベテランの風格が漂う清潔感のある女性だ。
「こちらこそ何も分からぬ身です。モンドール様、どうぞご指導よろしくお願い申し上げます」
挨拶を交わすと、彼女はふふと小さく微笑んだ。
優しそうな人で良かった。
「ロザンヌ様、わたくしのことはクロエとお呼びくださいませ」
え。いいのかな。私の立場としてはクロエさんよりも下の新人侍女のはずなんだけれども。
戸惑う私にクロエさんはにっこりと笑う。
「エルベルト殿下から諸事情は伺っておりますのでご心配なく」
どんな諸事情と説明したのだろう。話を合わせなくちゃいけないから、ちゃんと説明しておいてほしかった。
「王宮特有のマナーがございますので、それをお学びいただくと共に生活の補助をさせていただきたいと思っております」
「そうですか。ではどうぞよろしくお願いいたします」
「ええ。よろしくお願いいたします」
柔らかな笑顔の奥の彼女に秘められた恐ろしさを、この瞬間の私はまだ知るよしも無かった。
「……いえ」
殿下の真摯な謝罪に対して、私もそれ以上の言葉はない。
そう。不安だった。たった一人でいきなり王宮入りしなければならなかったのは。
殿下に対する口の聞き方がなっていなかったのも、本当は気を張っていたからで……とは言いがたいけれども。
「君の自宅は王宮からは遠いとのことだったな。とりあえず今日は一晩こちらで泊まってくれ。そして明日、学校が終われば一度自宅に戻って心の準備をしてきてくれればいい。だからこちらに戻って来てもらうのは明後日の授業終了後からとなる。それと一人、君の自宅から侍女を連れてくるといい。慣れた侍女が側にいる方が君も心強いだろう」
「え? よ、よろしいのですか?」
「ああ。明後日からよろしく頼む」
殿下の最大限の配慮が胸に響いて、私はありがとうございますと控えめに申し上げるのが精一杯だった。
その夜。
慣れぬ感触の枕に、慣れぬふわふわのベッドに、慣れぬ真っ白な天井にすぐ寝ることはでき……た。それはもう、いつも以上にぐっすり寝ることができました。
私ってなかなか図太い神経をしている人間だったのね。知らなかった。
ただし、さすがにどこか気になっている部分もあったのか、珍しく誰かに起こされる前に目が覚めた。
もし実家にいる侍女のユリアがこの現場を目撃したならば、きっと無表情の中にも驚きの表情があって、天変地異が起こるのではないかと言うだろう。彼女なら言う。間違いなく言う。
「……はぁ。そっか。もうすぐここでの生活が普通になるのね」
ため息をついた。
目が覚めて見慣れぬ風景にぎょっとしたことも確かで、これからここで生活していかなければいけないということもまたこの朝に覚悟しなければならないわけで、いつもと違う朝の憂うつ感に襲われる。
「そんな事を言ってもしかたないわね。――よし、起きよう」
再び独り言を呟き、気合いを入れ直した。
ベッドから足を下ろして立ち上がり、制服に着替える。
私が通っている学園は良家のご令息、ご令嬢のみならず、資産家の商家や一般的な庶民でも成績優秀者などが集う学校だ。学園内では平等という名の下、服装から不平等が生じないよう、制服が支給されている。
とは言え、見栄えだけ綺麗に整えたところでこの世から不平等が消えるわけでもないのにとひねた考えをしてしまう。
どちらにしろ、毎朝何の服を着ようかと頭を悩ませる必要がないし、また、それだけの資産力もない我が家にとって、制服はありがたいの一点である。
ん。今日も可愛い!
鏡の前に立って自我自賛する。……誰も褒めてくれないから、せめて自分で褒めることを許してほしい。
一人苦笑いしていると、外に繋がる扉から控えめなノックが聞こえたので返事をする。
「お目覚めになっておられたのですね。わたくし、本日よりロザンヌ様にお仕えすることになりましたクロエ・モンドールと申します。どうぞよろしくお願い申し上げます」
三十代ぐらいだろうか。茶色の髪をきちんと後ろで一つにまとめたベテランの風格が漂う清潔感のある女性だ。
「こちらこそ何も分からぬ身です。モンドール様、どうぞご指導よろしくお願い申し上げます」
挨拶を交わすと、彼女はふふと小さく微笑んだ。
優しそうな人で良かった。
「ロザンヌ様、わたくしのことはクロエとお呼びくださいませ」
え。いいのかな。私の立場としてはクロエさんよりも下の新人侍女のはずなんだけれども。
戸惑う私にクロエさんはにっこりと笑う。
「エルベルト殿下から諸事情は伺っておりますのでご心配なく」
どんな諸事情と説明したのだろう。話を合わせなくちゃいけないから、ちゃんと説明しておいてほしかった。
「王宮特有のマナーがございますので、それをお学びいただくと共に生活の補助をさせていただきたいと思っております」
「そうですか。ではどうぞよろしくお願いいたします」
「ええ。よろしくお願いいたします」
柔らかな笑顔の奥の彼女に秘められた恐ろしさを、この瞬間の私はまだ知るよしも無かった。
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