つかれやすい殿下のために掃除婦として就くことになりました

樹里

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第28話 ユリアらと合流

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 その日の学校では特に問題が起こることもなく、無事一日が終わった。
 おそらくもう迎えの馬車は到着していることだろう。我が家の馬車も到着しているだろうか。
 ジェラルドさんはユリアのことは認識していると言っていたし、今朝も言葉だけで軽い紹介をしたけれど、やはり私を介して会ってもらう方がいい。
 そう思った私はクラスメートとの別れの挨拶もそこそこに急ぎ足で門へと向かった。
 しかし既に二人は顔を合わせていたようだ。

「ユリアー!」

 私は走りながらユリアに声をかけると、私に気付いた彼女が視線を声の方に向けてくれる。ほとんど変わらないけれど彼女の顔が少し緩んだ気がした。

「お、お待たせいたしました、ジェラルド様。――ユ、ユリア、待った? 待った? 待った!?」

 息せき切らしながら彼らの元に到着すると、まずジェラルドさんに挨拶し、次いでユリアに尋ねる。

「いいえ。今、到着したところです。それよりロザンヌ様、そんなに急いで駆け付けなくても大丈夫です」
「ユリアがジェラルド様に何か失礼な事を口走らないかと思って焦ったのよ」
「ロザンヌ様からそのような事を注意されるのは心外なのですが」

 不満そうなのか、苦笑しているのか、顔には表情を出さないので分かりづらいユリア。

「だってあなたは初対面の人でも真顔で手厳しい事を言うから、誤解を生むかと思って」
「私は心の中で思った事を正直に申し上げているまでですが」
「時に正直は人を傷つけるものよ」
「まさにその通りにございますね。これから王族の方々や上級貴族の方とお会いする機会も増えますことでしょうから、お嬢様・・・、どうぞお気を付けくださいませ」
「――っぐ」

 嫌味っぽくお嬢様と言って、ユリアに逆襲される。

「だ、大丈夫よ。わたくしが失言するのはエルベルト殿下の前のみだもの」

 ええ。それもどうかと思いますけれども。

「さようでございますか。私も人を選んでございますのでご心配ありません」
「ちょっとぉ! それって、わたくしもその失言していい人種に選ばれているということ?」

 そんなやり取りをしていると、横で小さく笑い声が聞こえた。

「お二人、本当に仲がよろしいのですね」

 はっ。ジェラルドさんの事を忘れていた。
 私はまた慌てて彼の方に向き直る。

「ジェラルド様、お見苦しい所をお見せして、申し訳ありません」
「いいえ。とんでもありません。お二人の絆をしかと拝見いたしました」

 好意的に受け取ってくれるジェラルドさんはさすがです。

「あらためまして、彼女は私に付いてくれる侍女、ユリア・ラドロです」

 私は手の平でユリアを指し示して紹介すると、彼女は黙礼する。

「ありがとうございます。私はジェラルド・コンスタントと申します。よろしくお願いいたします。――さて。合流しましたことですし、王宮へ参りましょうか」
「はい。よろしくお願いいたします」
「ダングルベール家からロザンヌ様の生活必需品をお運びいただく馬車は、先行く私たちの馬車の後に従ってください。ユリア様はこちらの馬車にご同乗くださいませ」

 ジェラルドさんは馬車の御者に指示を出すと、ユリアを見た。

「かしこまりました。ただジェラルド様、私はしがないただの小市民に過ぎませんので、敬称は不要にございます。どうぞユリアとお呼びくださいませ」
「ですが」

 彼は私の方を見たので、私は頷いた。
 こうと言ったら、梃子でも動きませんから、ユリアは。きっとユリア様と呼ばれる度に繰り返し繰り返し、何度でも訂正するだろう。それは昨夜、戦い抜いた私が一番よく分かっている。

「承知いたしました。それではユリアさん、これからよろしくお願いいたします」

 ジェラルドさんにとってもそれが最大限の譲歩だったのだろう。ユリアは一瞬逡巡したようだけれど、彼女もまた譲歩してよろしくお願いしますと礼を取った。

「では馬車に乗りましょう」

 ジェラルド様が手を差し伸べてくれるや否や、逆位置よりユリアからも手を差し伸べられて、一瞬狼狽える。
 そういえば、普段はユリアがやってくれていた。ジェラルド様は少し面食らっておられるし、ユリアは無表情に私を見てくるし、どちらの手を取るべきか。
 交互に彼らの顔を見回した結果、私は……両方の手を取ることにした。

「ありがとうございます。ではお先に」

 馬車に入った後、ちらりと背後に目をやると。

「ユリアさん、お手をどうぞ」
「いえ。一人で大丈夫です」

 ジェラルドさんの好意を蹴って早々と馬車に乗り込み、失礼しますと私の席の横に体を滑らせてきた。

 うわあぁぁぁ!

 続いて行き場の無くなった手を下ろしたジェラルドさんが乗り込んできて、私たちの向かい側に座る。

「あ、あの、ジェラルド様! あ、ありがとうございました」
「いいえ」

 慌ててフォローする私に笑みを見せた後、御者に指示を飛ばすと馬車は緩やかに出発し始めた。
 ユリアはジェラルドさんと目を合わせないよう視線を流しているし、馬車の中では何となく重苦しい空気が漂っている。

 ユリア、ジェラルドさんに対してライバル心をむき出しにしている?
 私は何とかこの空気を入れ換えようと前のめりになって口を開いた。

「え、えっと! 本日……もお日柄がよろしく」
「そうですね。ロザンヌ様の王宮入りにふさわしい日となりました」

 彼は笑顔で大人な対応をしてくれるものの、ユリアの人嫌いに少しばかり前途多難さを感じずにはいられなかった。
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