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第41話 ジェラルド・コンスタントの極秘任務(三)
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「ですが」
私は片目を伏せて、こほんと咳払いをする。
「ユリアさんの過去のお話はここで最後にいたしましょうか。私から始めたこととは言え、ユリアさんにとって不利益になるお話となりますからね」
「殿下にもご迷惑をおかけするかもしれませんね。ユリアを知っていただく上でこのお話は避けられませんから、ついお話に出してしまいました」
ロザンヌ様は申し訳ございませんと目を半ば伏せられた。
「ユリアはあの通り、控えめに申しましても愛想が良くはないでしょう。ストリートチルドレン時代に色んな人に裏切られたそうなので、人間不信なのです。それでも頑なな性格はかなり改善された方なのですけれども。感情も豊かになりましたし」
あれでだろうかと思ってしまうのはやはり失礼だろうか。……失礼だな。
「あと、ジェラルド様に当たりが強いのはきっと、その時代に騎士様に追われたりされたからではないでしょうか。わたくしに伴っての王宮入りも当初は随分と拒否されました」
「そうでしたか」
「ええ。――あ。長々と話し込んでしまい申し訳ございません。わたくし、そろそろ学校に向かいませんと。本日はジェラルド様以外の方が馬車にご同乗くださるのでしたよね」
朝、部屋でお聞きしましたと少し残念そうにしてくださっているように見えるのは、私がそう思いたいからかもしれない。
「はい。申し訳ございません。本日は殿下より特別任務を拝命いたしました」
「そうですか。殿下のご命令でしたら仕方ありませんものね。次の機会を楽しみにしております。それではこれで失礼いたします」
「はい。どうぞお気を付けて行ってらっしゃいませ」
ロザンヌ様はありがとうございますと笑顔で礼を取ると、背を向けて部屋から出て行かれた。
本日は特別任務があるので自由に動けるよう、まずは部下への配備変更指示を出す。その後、ユリアさんの監視に入るが、ロザンヌ様のご登校に同行されるのでお帰りになられてからとなる。それまで少し時間があるので、できるだけ仕事を消化して……。
頭の中で順序立てていると、殿下の執務室に繋がる扉が開かれたので、私は立って迎える。
「どうかされましたか」
「今日はロザンヌ嬢は来なかったのか?」
「いえ。先ほどまでおられましたが、学校に向かわれました」
「は!? ロザンヌ嬢はなぜこちらに来なかったんだ?」
殿下は忌々しそうに眉をひそめられたので、私はすぐに頭を下げた。
「失礼いたしました。私が失念いたしました。殿下へご挨拶に伺っていただけるようにと申し上げるべきでした」
「いや。別に、彼女に朝の挨拶を強要しているわけではないが」
感情を出しすぎたと思われたのか、少し気まずそうに言葉を濁される。
「だが、彼女は私には挨拶無しなのに、なぜジェラルドにだけ挨拶をしていったんだ?」
殿下は腕を組み、不愉快そうに目を細められた。
まだロザンヌ様が侍女に付かれて日は浅いはずなのに、殿下の感情は揺さぶられていらっしゃるようだ。
常日頃から抑え気味にする必要がある殿下の感情の起伏が嬉しくも、自分には成し得なかったことに残念もある。だが、ロザンヌ様に向ける気持ちは尊敬であって、悔しさではないことを認めざる得ない。
「……何を笑っているんだ?」
我知らず笑みがこぼれていたらしい。殿下はますます面白くなさそうな表情をなさった。
拗ねたような表情をなさっているのを、ご自分では気付かれているのだろうか。
「いえ。失礼いたしました。ロザンヌ様は昨日の事を謝罪に訪れてくださったのです。侍女のユリアさんを伴って」
「ユリア・ラドロか。彼女が君に謝ったのか?」
「そうですね」
必要以上の言葉を出さずに笑みを浮かべると、殿下はああなるほどと察してくださったようだ。
「あれはさすがロザンヌ嬢の侍女といったところか。曲者だから君でも手を焼くかもな」
「さすがロザンヌ様の侍女とは。ロザンヌ様は素敵なご令嬢ですよ」
ついたしなめると殿下は目を見張られた。
「君の目は節穴か? あるいは目の前に妙な煙幕でも漂っているのか?」
見えぬ煙幕を振り払うかのように手を動かされる殿下に苦笑してしまう。
「確かに芯が通った聡明なご令嬢ですが」
「……ああ。君の前では猫を被っているのか」
「他人は自分を映す鏡と申しまして」
自分との評価が異なるご意見に反論してしまうのは、ロザンヌ様のことをお話しになっている殿下は肩の力を抜かれていて、それを嬉しく思うからかもしれない。
「――っ! ジェラルドも言うようになったな」
「申し訳ございません」
悪びれずに笑顔で返すと、ロザンヌ嬢の影響だなこれはと殿下もまた苦笑いされた。
私は片目を伏せて、こほんと咳払いをする。
「ユリアさんの過去のお話はここで最後にいたしましょうか。私から始めたこととは言え、ユリアさんにとって不利益になるお話となりますからね」
「殿下にもご迷惑をおかけするかもしれませんね。ユリアを知っていただく上でこのお話は避けられませんから、ついお話に出してしまいました」
ロザンヌ様は申し訳ございませんと目を半ば伏せられた。
「ユリアはあの通り、控えめに申しましても愛想が良くはないでしょう。ストリートチルドレン時代に色んな人に裏切られたそうなので、人間不信なのです。それでも頑なな性格はかなり改善された方なのですけれども。感情も豊かになりましたし」
あれでだろうかと思ってしまうのはやはり失礼だろうか。……失礼だな。
「あと、ジェラルド様に当たりが強いのはきっと、その時代に騎士様に追われたりされたからではないでしょうか。わたくしに伴っての王宮入りも当初は随分と拒否されました」
「そうでしたか」
「ええ。――あ。長々と話し込んでしまい申し訳ございません。わたくし、そろそろ学校に向かいませんと。本日はジェラルド様以外の方が馬車にご同乗くださるのでしたよね」
朝、部屋でお聞きしましたと少し残念そうにしてくださっているように見えるのは、私がそう思いたいからかもしれない。
「はい。申し訳ございません。本日は殿下より特別任務を拝命いたしました」
「そうですか。殿下のご命令でしたら仕方ありませんものね。次の機会を楽しみにしております。それではこれで失礼いたします」
「はい。どうぞお気を付けて行ってらっしゃいませ」
ロザンヌ様はありがとうございますと笑顔で礼を取ると、背を向けて部屋から出て行かれた。
本日は特別任務があるので自由に動けるよう、まずは部下への配備変更指示を出す。その後、ユリアさんの監視に入るが、ロザンヌ様のご登校に同行されるのでお帰りになられてからとなる。それまで少し時間があるので、できるだけ仕事を消化して……。
頭の中で順序立てていると、殿下の執務室に繋がる扉が開かれたので、私は立って迎える。
「どうかされましたか」
「今日はロザンヌ嬢は来なかったのか?」
「いえ。先ほどまでおられましたが、学校に向かわれました」
「は!? ロザンヌ嬢はなぜこちらに来なかったんだ?」
殿下は忌々しそうに眉をひそめられたので、私はすぐに頭を下げた。
「失礼いたしました。私が失念いたしました。殿下へご挨拶に伺っていただけるようにと申し上げるべきでした」
「いや。別に、彼女に朝の挨拶を強要しているわけではないが」
感情を出しすぎたと思われたのか、少し気まずそうに言葉を濁される。
「だが、彼女は私には挨拶無しなのに、なぜジェラルドにだけ挨拶をしていったんだ?」
殿下は腕を組み、不愉快そうに目を細められた。
まだロザンヌ様が侍女に付かれて日は浅いはずなのに、殿下の感情は揺さぶられていらっしゃるようだ。
常日頃から抑え気味にする必要がある殿下の感情の起伏が嬉しくも、自分には成し得なかったことに残念もある。だが、ロザンヌ様に向ける気持ちは尊敬であって、悔しさではないことを認めざる得ない。
「……何を笑っているんだ?」
我知らず笑みがこぼれていたらしい。殿下はますます面白くなさそうな表情をなさった。
拗ねたような表情をなさっているのを、ご自分では気付かれているのだろうか。
「いえ。失礼いたしました。ロザンヌ様は昨日の事を謝罪に訪れてくださったのです。侍女のユリアさんを伴って」
「ユリア・ラドロか。彼女が君に謝ったのか?」
「そうですね」
必要以上の言葉を出さずに笑みを浮かべると、殿下はああなるほどと察してくださったようだ。
「あれはさすがロザンヌ嬢の侍女といったところか。曲者だから君でも手を焼くかもな」
「さすがロザンヌ様の侍女とは。ロザンヌ様は素敵なご令嬢ですよ」
ついたしなめると殿下は目を見張られた。
「君の目は節穴か? あるいは目の前に妙な煙幕でも漂っているのか?」
見えぬ煙幕を振り払うかのように手を動かされる殿下に苦笑してしまう。
「確かに芯が通った聡明なご令嬢ですが」
「……ああ。君の前では猫を被っているのか」
「他人は自分を映す鏡と申しまして」
自分との評価が異なるご意見に反論してしまうのは、ロザンヌ様のことをお話しになっている殿下は肩の力を抜かれていて、それを嬉しく思うからかもしれない。
「――っ! ジェラルドも言うようになったな」
「申し訳ございません」
悪びれずに笑顔で返すと、ロザンヌ嬢の影響だなこれはと殿下もまた苦笑いされた。
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