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第42話 ジェラルド・コンスタントの極秘任務(四)
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「とにかくユリア・ラドロについての調査を頼む」
殿下は顔を引き締めて話を切り替えられた。
「承知いたしました。彼女が王宮に戻り次第、監視に入ります。その間、何か早急のご用件がありましたら、副官に私を探すようにとお伝えくださいますようお願い申し上げます」
「分かった」
殿下は小さく頷かれる。
普通は自分の任務以上の事情を聞いてはならないが、今回は特別任務として与えられた職務なので、事情を伺っても良いだろうか。
一瞬悩んだが、口を開く。
「殿下。今回特別任務に就きますが、それに当たってお尋ねしたいことがあります。ユリアさんを監視するということは、彼女に何か不審な点があるのでしょうか」
私の目には特に不穏な感じは受けなかった。ロザンヌ様を介して彼女を見ているせいだと言われれば、そうかもしれない。
「……ちょっと影がな」
「影ですか?」
「ああ、いや」
ぽろりと零された言葉を拾って尋ねるが、殿下は小さく笑って否定する。
「彼女は感情が外に出ないから、何を考えているか分からないだろう。どんな気持ちでロザンヌ嬢の侍女に就いているのか気になってな」
「ロザンヌ様に害をなすかもしれないとお考えですか」
「そこまではどうかな。分からないが。だから調査してほしい」
殿下も特段な確信をお持ちでのことではないようだ。何にせよ、ロザンヌ様のことを気にかけていらっしゃるのは確かなのだろう。
「承知いたしました。余計な事をお尋ねしました」
「いや。私こそ先に話すべきだった。ジェラルドは信頼できる人間だと思っている。だが立場上、全てを話すことができず、すまない」
「いいえ。身に余るお言葉です」
礼を取ると、殿下はそうかと少し悲しそうに笑みを零された。
ユリアさんの監視という特別任務だが、まず準備段階としてユリアさんを指導する侍女、クロエ・モンドール女史にユリアさん自身のこと、彼女の仕事の流れについてお話を伺った。
ユリアさんは一度聞いただけで習得でき、仕事も驚くほど早い優秀な人物とのことだ。だから新人侍女には任せない仕事もついお願いすることがあるのだとか。ただし、彼女の全てが完璧ではないと言う。
冷たい容姿というよりはむしろ愛想の無い(クロエ女史がそうおっしゃった)表情と態度、また入ったばかりなのに王族居住区に出入りできる特別枠という印象が強く、周囲に溶け込めずに浮いた存在になっているとのことだ。だが、当の本人は全く気にしていないのが、それはそれで頭痛の種らしい。
なるほど。……表情も変えずに淡々と仕事をこなしている彼女の姿が容易に想像できてしまう。
しかし、実際彼女が動いているところもこの目で確認しておきたいと思ったので、しっかり観察することにした。
ユリアさんはロザンヌ様を学校までのお見送りをした後、王宮に戻ってきた。戻って来てまず清掃に入るために、彼女はリネン室から必要な物を持ち出した。ここからしばらくはロザンヌ様のお部屋の清掃となるので、一度監視は外れる。しかし手際がいいらしく、想像以上に早くロザンヌ様のお部屋から出てきた。
クロエ女史としては周囲の者たちと馴染ませようとするあまり、本来なら必要ない普通の宮廷侍女としての役目も与えているという。
口答え一つせずにそれを黙々とこなしていると言うが、ロザンヌ様のお部屋に時間をかけても誰も文句は言わないだろうに、素早く終わらせて一般的な仕事も行う彼女は生真面目、と言ったところだろうか。
十分な距離を取って彼女の後をつけていると、他の侍女が使用済みのシーツ類を持って運ぶユリアさんを見つけ、自分が持っていた大量のシーツを押しつけている姿が目に入った。その結果、前方も見えぬ程、うず高く積まれてしまった。
当の侍女と言えば、すぐに他の侍女とお喋りに講じる。しかしユリアさんはそんな様子を気にも留めず、軽々と持って歩いて行く。その背中を先ほどの侍女と同僚がお喋りを止め、何だか悔しそうに睨み付けていた。
仕事を押しつけられても表情一つ変えず、文句一つ言わず完璧にこなすユリアさんは確かに上司受けするだろう。しかしそれは意地悪したい人間からすると余計神経を逆なでするのかもしれない。
とは言え、自覚があるのかないのかは別にして、新人侍女として入って来たユリアさんの行動としては間違っていない。
ユリアさんを監視するだけの任務なのに、彼女が取るべき最適な言動は何なのかと、私は思わずうーんと頭を悩ませた。
殿下は顔を引き締めて話を切り替えられた。
「承知いたしました。彼女が王宮に戻り次第、監視に入ります。その間、何か早急のご用件がありましたら、副官に私を探すようにとお伝えくださいますようお願い申し上げます」
「分かった」
殿下は小さく頷かれる。
普通は自分の任務以上の事情を聞いてはならないが、今回は特別任務として与えられた職務なので、事情を伺っても良いだろうか。
一瞬悩んだが、口を開く。
「殿下。今回特別任務に就きますが、それに当たってお尋ねしたいことがあります。ユリアさんを監視するということは、彼女に何か不審な点があるのでしょうか」
私の目には特に不穏な感じは受けなかった。ロザンヌ様を介して彼女を見ているせいだと言われれば、そうかもしれない。
「……ちょっと影がな」
「影ですか?」
「ああ、いや」
ぽろりと零された言葉を拾って尋ねるが、殿下は小さく笑って否定する。
「彼女は感情が外に出ないから、何を考えているか分からないだろう。どんな気持ちでロザンヌ嬢の侍女に就いているのか気になってな」
「ロザンヌ様に害をなすかもしれないとお考えですか」
「そこまではどうかな。分からないが。だから調査してほしい」
殿下も特段な確信をお持ちでのことではないようだ。何にせよ、ロザンヌ様のことを気にかけていらっしゃるのは確かなのだろう。
「承知いたしました。余計な事をお尋ねしました」
「いや。私こそ先に話すべきだった。ジェラルドは信頼できる人間だと思っている。だが立場上、全てを話すことができず、すまない」
「いいえ。身に余るお言葉です」
礼を取ると、殿下はそうかと少し悲しそうに笑みを零された。
ユリアさんの監視という特別任務だが、まず準備段階としてユリアさんを指導する侍女、クロエ・モンドール女史にユリアさん自身のこと、彼女の仕事の流れについてお話を伺った。
ユリアさんは一度聞いただけで習得でき、仕事も驚くほど早い優秀な人物とのことだ。だから新人侍女には任せない仕事もついお願いすることがあるのだとか。ただし、彼女の全てが完璧ではないと言う。
冷たい容姿というよりはむしろ愛想の無い(クロエ女史がそうおっしゃった)表情と態度、また入ったばかりなのに王族居住区に出入りできる特別枠という印象が強く、周囲に溶け込めずに浮いた存在になっているとのことだ。だが、当の本人は全く気にしていないのが、それはそれで頭痛の種らしい。
なるほど。……表情も変えずに淡々と仕事をこなしている彼女の姿が容易に想像できてしまう。
しかし、実際彼女が動いているところもこの目で確認しておきたいと思ったので、しっかり観察することにした。
ユリアさんはロザンヌ様を学校までのお見送りをした後、王宮に戻ってきた。戻って来てまず清掃に入るために、彼女はリネン室から必要な物を持ち出した。ここからしばらくはロザンヌ様のお部屋の清掃となるので、一度監視は外れる。しかし手際がいいらしく、想像以上に早くロザンヌ様のお部屋から出てきた。
クロエ女史としては周囲の者たちと馴染ませようとするあまり、本来なら必要ない普通の宮廷侍女としての役目も与えているという。
口答え一つせずにそれを黙々とこなしていると言うが、ロザンヌ様のお部屋に時間をかけても誰も文句は言わないだろうに、素早く終わらせて一般的な仕事も行う彼女は生真面目、と言ったところだろうか。
十分な距離を取って彼女の後をつけていると、他の侍女が使用済みのシーツ類を持って運ぶユリアさんを見つけ、自分が持っていた大量のシーツを押しつけている姿が目に入った。その結果、前方も見えぬ程、うず高く積まれてしまった。
当の侍女と言えば、すぐに他の侍女とお喋りに講じる。しかしユリアさんはそんな様子を気にも留めず、軽々と持って歩いて行く。その背中を先ほどの侍女と同僚がお喋りを止め、何だか悔しそうに睨み付けていた。
仕事を押しつけられても表情一つ変えず、文句一つ言わず完璧にこなすユリアさんは確かに上司受けするだろう。しかしそれは意地悪したい人間からすると余計神経を逆なでするのかもしれない。
とは言え、自覚があるのかないのかは別にして、新人侍女として入って来たユリアさんの行動としては間違っていない。
ユリアさんを監視するだけの任務なのに、彼女が取るべき最適な言動は何なのかと、私は思わずうーんと頭を悩ませた。
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