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第43話 ジェラルド・コンスタントの極秘任務(五)
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いや。今ここで頭を悩ませている場合ではない。ユリアさんを追わなければ。
彼女は周りも背後も全く気にすることなく、真っ直ぐにリネン室へと向かう。
リネン室から洗濯場がある外に繋がっているので、私は先回りして庭へと出た。
そこでは暖かい日差しの中、数人の侍女たちが声を上げながら楽しそうに洗濯している微笑ましい姿があった。
……あったのだが。
ユリアさんが姿を現すや否や、それまでの楽しそうな笑い声は瞬く間に消え、彼女らは何かを企む悪い笑みを顔に貼り付けた。そして一人の侍女が合図を送ると、もう一人が何気なさを装って、大量のシーツを抱えて前が見えないであろうユリアさんの前に足をそっと差し出す。
「――っ!」
思わず息を呑んだが、彼女は本能的に危機を察したのか、シーツを乱すこともなく、ひょいとそれを飛び越えると何事もなかったようにスタスタと歩いて行った。
残されたのは悔しそうに歯軋りする侍女たちだ。
私は女性の恐ろしい一面を見た気がした。
その後も水を掛けられそうになったがすんでの所で避けてみせたり、不意に飛んできた石をギリギリまで引きつけてからホウキで打ち返したりと、なかなかの運動能力を見せてくれた。
……いや。わざとギリギリで回避して相手を煽っているようにしか見えない。おそらく飄々とした態度も彼女らを刺激しているのだろう。
頭痛で頭を抱えながら建物の陰から監視していると、それまで忙しく動いていた彼女がベンチに座った。
昼食の時間らしい。パンが入った籠を抱えている。
彼女の身に、あまりにも様々な出来事が立て続けに起こったことに気を取られ、いつの間にかお昼の休憩がやって来ていたことにすら気付かなかった。
と、その時。
「いつまで私について回るつもりですか」
辺りには人気が無く、独り言とも取れる言葉をユリアさんが口にした。
まさか気配を悟られているとは思わずに身を固くしたが、無駄だろう。諦めて彼女の前に立つことにした。
「驚きました。まさか気付かれるとは。お恥ずかしい。これでも一応、エルベルト殿下の護衛官長なのですが」
軽く笑ってみせるが、彼女は淡々としたものだ。
「朝からずっとですよね」
「ええ。その通りです。朝、他の侍女の方に大量のシーツを押しつけられているお姿を偶然お見かけして、気になってしまいまして」
素直に答えると、彼女は偶然ですかとそこで初めて唇を薄く引く。
私の言葉を額面通りに受け取っていないのは明らかだ。
「失礼ながら観察させていただいたのですが、新入りのあなたに対して、周りの方々の当たりが強すぎますね。クロエさんにはご相談されましたか。取りなしていただけるのでは」
「他の侍女と馴れ合うつもりはありませんので必要ありません。それに自分の身は自分で守ります」
確かに言葉通り、彼女は自分の身は自分で守っている。そこに反論の余地はない。
「ですがこの事をロザンヌ様がお知りになったら、悲しまれるのではないかと」
「そう思われるなら、何も見なかったことにしてください」
なるほど。切り返しが早い。確かに殿下がおっしゃるように、さすがロザンヌ様の侍女といったところだ。
私は小さく笑う。
「ユリアさんは反射神経が良いのですね」
「昔取った杵柄です」
ストリートチルドレン時代に身に付けた警戒心と身体能力だろうか。とはいえ、昔のことを自ら語り出すつもりはないだろう。私はわざとぶつけてみる。
「ああ。ストリートチルドレン時代の」
すると彼女はこちらを見て一瞬だけ目を見張ったが、ロザンヌ様ですかとすぐにため息をついた。
「ええ。お話しいただきました」
ロザンヌ様にはお話しされぬようご忠告申し上げたが、本人から話を聞く分には問題がないだろう。……などと、あの真っ直ぐなお方は想像もされないのだろうなと自嘲してしまう。
ユリアさんは私にどうぞとベンチの端を見たので座ると、籠の中からパンを一つ取って差し出してくれた。
「よろしいのですか」
「よろしくなければお渡しいたしません」
「そうですか。では。ありがたく頂戴いたします」
本来なら今は職務中だが、これも彼女に近付く行動として許される範囲だろう。パンを受け取ると、彼女は私から視線をふいと外して前を向いた。
彼女は周りも背後も全く気にすることなく、真っ直ぐにリネン室へと向かう。
リネン室から洗濯場がある外に繋がっているので、私は先回りして庭へと出た。
そこでは暖かい日差しの中、数人の侍女たちが声を上げながら楽しそうに洗濯している微笑ましい姿があった。
……あったのだが。
ユリアさんが姿を現すや否や、それまでの楽しそうな笑い声は瞬く間に消え、彼女らは何かを企む悪い笑みを顔に貼り付けた。そして一人の侍女が合図を送ると、もう一人が何気なさを装って、大量のシーツを抱えて前が見えないであろうユリアさんの前に足をそっと差し出す。
「――っ!」
思わず息を呑んだが、彼女は本能的に危機を察したのか、シーツを乱すこともなく、ひょいとそれを飛び越えると何事もなかったようにスタスタと歩いて行った。
残されたのは悔しそうに歯軋りする侍女たちだ。
私は女性の恐ろしい一面を見た気がした。
その後も水を掛けられそうになったがすんでの所で避けてみせたり、不意に飛んできた石をギリギリまで引きつけてからホウキで打ち返したりと、なかなかの運動能力を見せてくれた。
……いや。わざとギリギリで回避して相手を煽っているようにしか見えない。おそらく飄々とした態度も彼女らを刺激しているのだろう。
頭痛で頭を抱えながら建物の陰から監視していると、それまで忙しく動いていた彼女がベンチに座った。
昼食の時間らしい。パンが入った籠を抱えている。
彼女の身に、あまりにも様々な出来事が立て続けに起こったことに気を取られ、いつの間にかお昼の休憩がやって来ていたことにすら気付かなかった。
と、その時。
「いつまで私について回るつもりですか」
辺りには人気が無く、独り言とも取れる言葉をユリアさんが口にした。
まさか気配を悟られているとは思わずに身を固くしたが、無駄だろう。諦めて彼女の前に立つことにした。
「驚きました。まさか気付かれるとは。お恥ずかしい。これでも一応、エルベルト殿下の護衛官長なのですが」
軽く笑ってみせるが、彼女は淡々としたものだ。
「朝からずっとですよね」
「ええ。その通りです。朝、他の侍女の方に大量のシーツを押しつけられているお姿を偶然お見かけして、気になってしまいまして」
素直に答えると、彼女は偶然ですかとそこで初めて唇を薄く引く。
私の言葉を額面通りに受け取っていないのは明らかだ。
「失礼ながら観察させていただいたのですが、新入りのあなたに対して、周りの方々の当たりが強すぎますね。クロエさんにはご相談されましたか。取りなしていただけるのでは」
「他の侍女と馴れ合うつもりはありませんので必要ありません。それに自分の身は自分で守ります」
確かに言葉通り、彼女は自分の身は自分で守っている。そこに反論の余地はない。
「ですがこの事をロザンヌ様がお知りになったら、悲しまれるのではないかと」
「そう思われるなら、何も見なかったことにしてください」
なるほど。切り返しが早い。確かに殿下がおっしゃるように、さすがロザンヌ様の侍女といったところだ。
私は小さく笑う。
「ユリアさんは反射神経が良いのですね」
「昔取った杵柄です」
ストリートチルドレン時代に身に付けた警戒心と身体能力だろうか。とはいえ、昔のことを自ら語り出すつもりはないだろう。私はわざとぶつけてみる。
「ああ。ストリートチルドレン時代の」
すると彼女はこちらを見て一瞬だけ目を見張ったが、ロザンヌ様ですかとすぐにため息をついた。
「ええ。お話しいただきました」
ロザンヌ様にはお話しされぬようご忠告申し上げたが、本人から話を聞く分には問題がないだろう。……などと、あの真っ直ぐなお方は想像もされないのだろうなと自嘲してしまう。
ユリアさんは私にどうぞとベンチの端を見たので座ると、籠の中からパンを一つ取って差し出してくれた。
「よろしいのですか」
「よろしくなければお渡しいたしません」
「そうですか。では。ありがたく頂戴いたします」
本来なら今は職務中だが、これも彼女に近付く行動として許される範囲だろう。パンを受け取ると、彼女は私から視線をふいと外して前を向いた。
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