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第70話 ユリアのしたい事
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本日は学校がお休みだ。
陽気なお天気でこんな日は、ゆっくり手足を伸ばして惰眠をむさぼりところだけれども今日は殿下とのお約束がある。そう。王宮内探索だ。
「服はどうしようかな」
私はクローゼットを前に腕を組む。
遊びでもないし、おめかしする場でもない。動きやすい服装の方が良いか。
「どこかにお出かけですか」
側に寄ってきたユリアに問われて私は首を振った。
「いいえ。殿下と王宮掃除の下見に行くの。例の影のね」
「そうですか。ではやはり侍女服がよろしいのではないでしょうか」
「そうよね、やっぱり」
上級貴族なら女性が王宮内にいることもあるが、社交界などで開放される日以外は着飾ったご令嬢方が大勢出入りしているわけではない。侍女服の人間の方が王宮に馴染むだろう。
「そもそも逢い引きってわけでもないものね」
「逢い引きでございますか。殿下と」
「ではないってこと!」
「ええ。存じております」
冷静に返答された。
なぜかムキになってしまった私が馬鹿みたいではないか。……うーん。ユリアに遊ばれている気がする。
「よくよく考えたら殿下とは職務上、一日一回必ず顔合わせしなければいけないわけで、殿下付きの侍女って休みは無いのよね」
と愚痴ったところで、はっと気付く。
「ごめんなさい。そう言えば、王宮でわたくしの侍女はユリアだけだから、あなたも休みが無かったわね。ゆっくり休んでいて」
「ゆっくり休むとは。……私は何をすれば良いのですか」
「え。だから何もしなくていいってば」
「何もしなくて、どうやって時間を潰せばいいのですか?」
ユリアに真顔で問われて、しどろもどろになった。
「え、えっと? 好きな事とかやりたい事をするとか」
「好きな事……はありませんが、少し体を鍛えたいですね。王宮に来てから体が少々鈍ってしまった気がします」
ユリアはそう言いながら肩を手で押さえてくるくると回す。
「はっ!? 体を鍛える!?」
「はい。使用人室は三人の共同部屋ですので、朝の運動もままならないのです」
毎日やっていたのか。そういえば実家にいた時、木の枝に足を引っかけて逆さづりで腹筋をしたり、懸垂をしているユリアの姿を目撃したことがあったっけ。
「休みに体を鍛えたいって、どこぞの騎士の発想よ……。と言うか、それって休んでいないし」
「私のやりたい事ですから」
彼女がやりたい事があると自発的に言うのは珍しいことなので、希望を叶えてあげたい。
「そう。では、体を鍛えたいのならばジェラルド様にご相談してみましょうか。騎士団の鍛錬場とかあるでしょうし」
そこなら運動道具なども揃えてあるのではないだろうか。
「女人禁制なのではないでしょうか」
「今はいないけれど、過去には女性騎士がいて活躍されていた時代もあったみたいだから、それは無いと思うけれど聞いてみましょう」
私はとりあえず侍女服に着替えると、ユリアを伴って護衛官室へと訪れた。
「失礼いたします」
「……します」
ほぼほぼ聞こえないユリアの挨拶と共に護衛官室に入室すると、そこには殿下もいらっしゃった。
「おはようございます、殿下。ジェラルド様」
「おはようございます」
「ああ、おはよう」
私は二人を前にきちんと礼を取ると、殿下は挨拶を返してくれる。
大丈夫。殿下がおられるせいか、ユリアもちゃんとやっているのを横目で確認いたしました。
「おはようございます。ロザンヌ様、ユリアさん」
ジェラルドさんはユリアにも笑顔を向けて挨拶してくれる。が、もちろんユリアは愛想笑いを返すことなどしない。ただ、目線とわずかな会釈だけで答えるだけだ。
で、でもまあ、うん。進歩したよ。
「早いな。もう行くか?」
殿下に問われて私は心を引き戻す。
「あ。いえ。実はですね、その前にジェラルド様にご相談がありまして」
「ジェラルドに?」
眉をひそめた殿下は横のジェラルドさんを見ると、ジェラルドさんは少し困った様に笑った。
なぜ自分ではなく、ジェラルドさんに相談なのか、ということだろうか。まず殿下にご相談するべき話だったかなと思いつつ、私は話を続ける。
「はい。騎士様の鍛錬場使用の許可を頂けないかと」
「鍛錬場使用の許可ですか?」
「一体、誰が何のために?」
疑問に首を傾げるジェラルドさんと目を細めた殿下が尋ねてきた。
まあ、普通に考えて騎士様以外が鍛錬場の使用なんて希望しませんものね。不審に思われても仕方がないでしょう。
「ええっと……」
私はちらりとユリアを見るとまた正面を向き、へらっと笑ってみせる。
「ユリアが体を鍛えたいと」
「ああ、なるほど。彼女が体を鍛え――はっ!?」
殿下は私と同じ反応で驚いた。
陽気なお天気でこんな日は、ゆっくり手足を伸ばして惰眠をむさぼりところだけれども今日は殿下とのお約束がある。そう。王宮内探索だ。
「服はどうしようかな」
私はクローゼットを前に腕を組む。
遊びでもないし、おめかしする場でもない。動きやすい服装の方が良いか。
「どこかにお出かけですか」
側に寄ってきたユリアに問われて私は首を振った。
「いいえ。殿下と王宮掃除の下見に行くの。例の影のね」
「そうですか。ではやはり侍女服がよろしいのではないでしょうか」
「そうよね、やっぱり」
上級貴族なら女性が王宮内にいることもあるが、社交界などで開放される日以外は着飾ったご令嬢方が大勢出入りしているわけではない。侍女服の人間の方が王宮に馴染むだろう。
「そもそも逢い引きってわけでもないものね」
「逢い引きでございますか。殿下と」
「ではないってこと!」
「ええ。存じております」
冷静に返答された。
なぜかムキになってしまった私が馬鹿みたいではないか。……うーん。ユリアに遊ばれている気がする。
「よくよく考えたら殿下とは職務上、一日一回必ず顔合わせしなければいけないわけで、殿下付きの侍女って休みは無いのよね」
と愚痴ったところで、はっと気付く。
「ごめんなさい。そう言えば、王宮でわたくしの侍女はユリアだけだから、あなたも休みが無かったわね。ゆっくり休んでいて」
「ゆっくり休むとは。……私は何をすれば良いのですか」
「え。だから何もしなくていいってば」
「何もしなくて、どうやって時間を潰せばいいのですか?」
ユリアに真顔で問われて、しどろもどろになった。
「え、えっと? 好きな事とかやりたい事をするとか」
「好きな事……はありませんが、少し体を鍛えたいですね。王宮に来てから体が少々鈍ってしまった気がします」
ユリアはそう言いながら肩を手で押さえてくるくると回す。
「はっ!? 体を鍛える!?」
「はい。使用人室は三人の共同部屋ですので、朝の運動もままならないのです」
毎日やっていたのか。そういえば実家にいた時、木の枝に足を引っかけて逆さづりで腹筋をしたり、懸垂をしているユリアの姿を目撃したことがあったっけ。
「休みに体を鍛えたいって、どこぞの騎士の発想よ……。と言うか、それって休んでいないし」
「私のやりたい事ですから」
彼女がやりたい事があると自発的に言うのは珍しいことなので、希望を叶えてあげたい。
「そう。では、体を鍛えたいのならばジェラルド様にご相談してみましょうか。騎士団の鍛錬場とかあるでしょうし」
そこなら運動道具なども揃えてあるのではないだろうか。
「女人禁制なのではないでしょうか」
「今はいないけれど、過去には女性騎士がいて活躍されていた時代もあったみたいだから、それは無いと思うけれど聞いてみましょう」
私はとりあえず侍女服に着替えると、ユリアを伴って護衛官室へと訪れた。
「失礼いたします」
「……します」
ほぼほぼ聞こえないユリアの挨拶と共に護衛官室に入室すると、そこには殿下もいらっしゃった。
「おはようございます、殿下。ジェラルド様」
「おはようございます」
「ああ、おはよう」
私は二人を前にきちんと礼を取ると、殿下は挨拶を返してくれる。
大丈夫。殿下がおられるせいか、ユリアもちゃんとやっているのを横目で確認いたしました。
「おはようございます。ロザンヌ様、ユリアさん」
ジェラルドさんはユリアにも笑顔を向けて挨拶してくれる。が、もちろんユリアは愛想笑いを返すことなどしない。ただ、目線とわずかな会釈だけで答えるだけだ。
で、でもまあ、うん。進歩したよ。
「早いな。もう行くか?」
殿下に問われて私は心を引き戻す。
「あ。いえ。実はですね、その前にジェラルド様にご相談がありまして」
「ジェラルドに?」
眉をひそめた殿下は横のジェラルドさんを見ると、ジェラルドさんは少し困った様に笑った。
なぜ自分ではなく、ジェラルドさんに相談なのか、ということだろうか。まず殿下にご相談するべき話だったかなと思いつつ、私は話を続ける。
「はい。騎士様の鍛錬場使用の許可を頂けないかと」
「鍛錬場使用の許可ですか?」
「一体、誰が何のために?」
疑問に首を傾げるジェラルドさんと目を細めた殿下が尋ねてきた。
まあ、普通に考えて騎士様以外が鍛錬場の使用なんて希望しませんものね。不審に思われても仕方がないでしょう。
「ええっと……」
私はちらりとユリアを見るとまた正面を向き、へらっと笑ってみせる。
「ユリアが体を鍛えたいと」
「ああ、なるほど。彼女が体を鍛え――はっ!?」
殿下は私と同じ反応で驚いた。
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