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第75話 美女の正体
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殿下とまたすぐに合流できるように、木陰で待機しておいた。
万が一、先ほどの貴族令嬢とどこかへ移動するようならば私は執務室に戻ろうかとも考えていたけれど、話を終えると二人は早々に別れた。
私はこそっと顔を出すと、それに気付いた殿下は周囲を確認した後、足早にこちらへとやって来た。
「ロザンヌ嬢、大丈夫だったか? 彼女に突き飛ばされたように見えたが、本当に怪我は無かったのか?」
ああ、やっぱり殿下から見えていたのね。
少し苛立った様子で矢継ぎ早に尋ねてくる殿下に私は頷いた。
「はい。ありがとうございます。大丈夫です。突然の出来事でちょっとびっくりしましたが。えっと。それであのご令嬢様は」
「彼女はクラウディア・ベルモンテ侯爵令嬢だ」
「――ベルモンテ侯爵令嬢!?」
うわぁ。道理で貫禄があると思った。
もしかしたらあの時の社交場でもいらしたかもしれないけれど、私はそれどころでなかったものね。
「そして彼女は代々呪術師の家系だ」
「え!? それではまさか殿下の」
「ああ。王家お抱えの呪術師だ。もちろん表向きはただの侯爵家として通っているが」
弱みを握られているというアレですか。爵位も報酬として要求されたものだったりして。
「ところでクラウディア様は殿下に何とご説明されたのですか」
私と殿下の二人だけの秘密よ、なんて含みのある言い方をしていたけれどもっ。なぜかちょっとムカつきました。
「彼女は幼少期より呪術師としての才能を発揮し、陰でベルモンテ家の実権を握っているとも言われている実力者だ。君が影の側で呑気に掃除しているので、取り憑かれては大変だからと突き放したらしい」
あ、ああ。なるほど。場所に居憑く影も人間に取り憑く可能性があるから、私を助けてくれたってことなのね。
迫力が凄かったけど、思いっきり押されたけど、なぜか冷たい視線で睨まれたけれども、焦っていたからってことで……いいのよね?
私が影に取り憑かれることにも気付かないでお気楽そうに掃除していたからなのだろう、きっと。――鈍感で悪かったですね、鈍感で!
「別に好きで鈍感なわけじゃ。わたくしだって見えているなら、もう少し危機感を持って掃除を……ん?」
いつの間にか、ぶつぶつと呟いていた私だったけど、ふと違和感を覚える。
あれ? 何だかおかしいな。だってネロが影祓いしてくれている最中だったわけでしょう。その状況が見えていたならば、止めることもないわけで。
私は小首を傾げてうーんと唸る。
「あの、殿下。ネロは今もわたくしのすぐ側にいますか?」
「ああ。今は肩に乗っている――違う。右肩だ」
左肩を触ろうとしたら、殿下に訂正された。
私はごほんと咳払いする。
とにかくネロがどこかに行ったわけではないのね。
「殿下。クラウディア様の登場でバタバタしてしまいましたが、噴水の影はどうなりました?」
殿下は確認のため、噴水に目をやる。
「最初より薄くはなったが、まだ完全に消えていないな。クラウディア嬢の横やりで中途半端になったようだ」
「なるほど。薄くなった。……なるほど。薄くなったとね」
「何を考えている?」
もったいぶる私を前に、何だかうざったそうに目を細める殿下。
「クラウディア様は本当に見えているのですか?」
「え? 彼女は呪術師だし、見えているからこそ、君を影から離そうと突き飛ばしたんだろう?」
「チッチッチッチ」
これだから世間知らずの甘ちゃんは。
私は人差し指を掲げて揺らしつつ首を横に振ると、殿下は君に言われるとはなと顔を引きつらせた。
「もし見えていたならば、影が祓われているところも気付いたはずではないですか? 影が消えかかっている最中に止めたりしますか? それにクラウディア様は私に影が憑いているとはおっしゃいませんでした」
まあ、私のことなどどうでもいいから影が憑いているなどと口にしなかったにしても、私を突き飛ばした勢いで、私が殿下に近寄ることを止めなかったのはおかしい。呪術師家系ならば、殿下が影を引き寄せる体質なのは承知しているはずだから。
「――確かに」
「ですから、クラウディア様は影が見えていないのではないでしょうか」
殿下は腕を組むと拳を作って顎に当てる。
「仮に彼女が見えないとしたら、なぜ君を突き飛ばした?」
「それはですね」
私は生唾をごくんと飲み込んだ。
「それは?」
「それは……」
真剣な表情の殿下に、私は硬い握り拳を作って叫んだ。
「そこまでは分かりません!」
「…………ああ、うん。その答え、結構予想していた」
殿下はまた苦笑いの表情に戻った。
万が一、先ほどの貴族令嬢とどこかへ移動するようならば私は執務室に戻ろうかとも考えていたけれど、話を終えると二人は早々に別れた。
私はこそっと顔を出すと、それに気付いた殿下は周囲を確認した後、足早にこちらへとやって来た。
「ロザンヌ嬢、大丈夫だったか? 彼女に突き飛ばされたように見えたが、本当に怪我は無かったのか?」
ああ、やっぱり殿下から見えていたのね。
少し苛立った様子で矢継ぎ早に尋ねてくる殿下に私は頷いた。
「はい。ありがとうございます。大丈夫です。突然の出来事でちょっとびっくりしましたが。えっと。それであのご令嬢様は」
「彼女はクラウディア・ベルモンテ侯爵令嬢だ」
「――ベルモンテ侯爵令嬢!?」
うわぁ。道理で貫禄があると思った。
もしかしたらあの時の社交場でもいらしたかもしれないけれど、私はそれどころでなかったものね。
「そして彼女は代々呪術師の家系だ」
「え!? それではまさか殿下の」
「ああ。王家お抱えの呪術師だ。もちろん表向きはただの侯爵家として通っているが」
弱みを握られているというアレですか。爵位も報酬として要求されたものだったりして。
「ところでクラウディア様は殿下に何とご説明されたのですか」
私と殿下の二人だけの秘密よ、なんて含みのある言い方をしていたけれどもっ。なぜかちょっとムカつきました。
「彼女は幼少期より呪術師としての才能を発揮し、陰でベルモンテ家の実権を握っているとも言われている実力者だ。君が影の側で呑気に掃除しているので、取り憑かれては大変だからと突き放したらしい」
あ、ああ。なるほど。場所に居憑く影も人間に取り憑く可能性があるから、私を助けてくれたってことなのね。
迫力が凄かったけど、思いっきり押されたけど、なぜか冷たい視線で睨まれたけれども、焦っていたからってことで……いいのよね?
私が影に取り憑かれることにも気付かないでお気楽そうに掃除していたからなのだろう、きっと。――鈍感で悪かったですね、鈍感で!
「別に好きで鈍感なわけじゃ。わたくしだって見えているなら、もう少し危機感を持って掃除を……ん?」
いつの間にか、ぶつぶつと呟いていた私だったけど、ふと違和感を覚える。
あれ? 何だかおかしいな。だってネロが影祓いしてくれている最中だったわけでしょう。その状況が見えていたならば、止めることもないわけで。
私は小首を傾げてうーんと唸る。
「あの、殿下。ネロは今もわたくしのすぐ側にいますか?」
「ああ。今は肩に乗っている――違う。右肩だ」
左肩を触ろうとしたら、殿下に訂正された。
私はごほんと咳払いする。
とにかくネロがどこかに行ったわけではないのね。
「殿下。クラウディア様の登場でバタバタしてしまいましたが、噴水の影はどうなりました?」
殿下は確認のため、噴水に目をやる。
「最初より薄くはなったが、まだ完全に消えていないな。クラウディア嬢の横やりで中途半端になったようだ」
「なるほど。薄くなった。……なるほど。薄くなったとね」
「何を考えている?」
もったいぶる私を前に、何だかうざったそうに目を細める殿下。
「クラウディア様は本当に見えているのですか?」
「え? 彼女は呪術師だし、見えているからこそ、君を影から離そうと突き飛ばしたんだろう?」
「チッチッチッチ」
これだから世間知らずの甘ちゃんは。
私は人差し指を掲げて揺らしつつ首を横に振ると、殿下は君に言われるとはなと顔を引きつらせた。
「もし見えていたならば、影が祓われているところも気付いたはずではないですか? 影が消えかかっている最中に止めたりしますか? それにクラウディア様は私に影が憑いているとはおっしゃいませんでした」
まあ、私のことなどどうでもいいから影が憑いているなどと口にしなかったにしても、私を突き飛ばした勢いで、私が殿下に近寄ることを止めなかったのはおかしい。呪術師家系ならば、殿下が影を引き寄せる体質なのは承知しているはずだから。
「――確かに」
「ですから、クラウディア様は影が見えていないのではないでしょうか」
殿下は腕を組むと拳を作って顎に当てる。
「仮に彼女が見えないとしたら、なぜ君を突き飛ばした?」
「それはですね」
私は生唾をごくんと飲み込んだ。
「それは?」
「それは……」
真剣な表情の殿下に、私は硬い握り拳を作って叫んだ。
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「…………ああ、うん。その答え、結構予想していた」
殿下はまた苦笑いの表情に戻った。
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