つかれやすい殿下のために掃除婦として就くことになりました

樹里

文字の大きさ
82 / 315

第82話 執着力が半端ない

しおりを挟む
「殿下! 彼女の慰霊祭を行い、王族一同、膝をついて頭を垂れ、心より謝罪してくださいな!」

 背筋の寒さを吹き飛ばすために、とりわけ大きな声で殿下に詰め寄った。

「君は前に言っただろ。自分が行ったことは自分で責務を果たすが、前世の人物とやらの悪行の報いを受ける筋合いはない。一昨日来やがれと」
「そ、それはぁ。そうですが……」

 殿下は書物を閉じて本棚に戻しながら、すっかり弱気になっている私を見て小さく笑う。

「なんてな。私たちももちろん慰霊祭はこれまで何度となく行ってきているが、効果は無かった」
「そうだったのですね」

 相手が悪すぎますね。稀代の天才魔術師の上に執着力が半端ないのですもの。あなたの気魂を辿ってどこまでも追い続ける、だなんて。……ん? あなたの気魂?

「殿下。彼女は『あなたの気魂を辿り』と残しているのですよね」
「ああ。それが?」
「気魂というものがどういったものを指すのかは具体的に分かりませんが、しかしルイス王太子殿下の気魂ということですよね」
「だろうな」

 私はうーんと唸る。

「それでしたらやはり標的は、ルイス王太子殿下の気魂を受け継ぐ者、ということになりますよね。先ほどの彼女の最期の言葉を、王族の血を根絶やしにしてやると捉えたのですが、そうではなさそうですね」
「ああ、そうだな。実際、王族の人間全てに星紋が現れるわけではないし、これまで王位第一継承者以外の人間にも星紋が現れたとあるから。――まあ、もっとも王族の中でそういった者が現れること自体、打撃であり弱点にはなるが」

 なるほど。可愛さ余って憎さ千倍、一点集中型ということなのね。他の王族やルイス王太子殿下と結婚した公爵令嬢にも手を出していないわけだし。裏を返せば彼女はそれだけルイス王太子殿下を愛していたと言えるのかもしれない。

「ところで呪術師様であるベルモンテ侯爵家が、呪い解除に尽力なさっているのはいつ頃からなのですか」
「丁度同じ時代からだ。当時は侯爵家ではなく、位を持たぬただの呪術師家系だった。どうも元々、王家お抱えの占術師から分家した呪術師だったようだな」

 占術師はともかく、王家お抱えの呪術師とはまた物騒だこと。王家に反する者を呪術で何とかしてきた時代でもあったのかしら。

「ベルモンテ侯爵家も長い歴史をお持ちなのですね。ですが、今まで呪いは解けていませんよね。その割には待遇が良いのでは?」

 ただの呪術師家系が侯爵まで登りつめるなんて、大出世だ。

「確かにそうだが、長年の功績が認められて侯爵位を授かったようだ」

 なるほど。四百年もの長い間、王家を支えてきたのだから、当然の報奨……と言えばそうかな。

「そうですか。わたくしはてっきりベルモンテ一族が影をばらまき、王族に取り憑いた影を除いて差し上げている構図なのかと思っておりました」

 うふふと無邪気に笑ってみる。
 ベルモンテ家にとっては、弱みを握って爵位とお金を手に入れることができるのだからメリットしかない。

 別に突き飛ばされた怨みから言っているのではない。虫けらを見るかのように見下されたからでもない。色々な事を鑑みてのことだ。
 虫が好かない人だったけど。屈辱的だったけど。腹が立ったけど!

「それは……」

 おや。殿下の顔色が変わった。しかし、すぐにため息をつく。

「私も考えはしたが証拠はない。それにさすがにベルモンテ家が、この歴史書の改ざんにまで手を出すことはできない」
「こういった書物はどなたが書かれているのですか?」
「王家専属の歴史学者だ」
「だとすると当然、検閲も入るのでは?」

 何か不利益になる事実がそのまま書かれていた場合、削除または修正を求められることもあるのでは。

「そうだな。門外不出にする書物とは言え、王族関係者は必ず目を通すことになるからな。ある程度の削除や修正は求められるかもしれない。だが当時、何の爵位も持たなかったベルモンテ家が口出しすることは許されていなかっただろう」

 あ、そっか。当時は侯爵ではなかったものね。発言力は無いか。

「まあ、集めた史料が必ずしも正しいとは限らないし、歴史学者の分析が間違っている可能性もある。この部屋の書物が全て真実だと思わない方が賢明だろうな」

 殿下は客観的な目を持っているらしい。感心感心。

「君の上から目線はどこからやって来るのかな」

 と呆れ顔をしつつ。

「ただ、呪いの発端は彼女とみて良いだろうと考えている。星紋のこともあるしな」
「そうですか」

 今は、ベルモンテ家が影をまき散らしている可能性も否定できませんけどね、今は!

「聞こえているぞ。何か私怨が入っていないか? ――さて、今日はこれぐらいにしてそろそろ戻るか」
「はい。分かりました」

 殿下は先ほどの小部屋の仕掛けを元に戻すと、私たちは出入り口へと向かう。するとデレクさんが顔を出した。

「お帰りですか」
「はい。デレク様、ありがとうございました」

 デレクさんに礼を取ると、またいらしてくださいねと彼は笑った。
 殿下は私が挨拶を終えたところでデレクさんに尋ねる。

「最近、ベルモンテ家の人間がこちらに来ることは?」
「以前はほとんどお見えになりませんでしたが、ここ最近は足を運ばれるようになりましたね」
「そうか」

 殿下は一瞬だけ何か考え込んだようだった。

「ベルモンテ一族には、私たちがこちらに来ていることは伝えないでくれるか」

 デレクさんは私をちらっと見ると、殿下ににっこりと笑いかける。

「もちろんでございます、殿下」
「……何か勘違いしていないか?」
「いえいえ。またぜひお二人で・・・・でいらしてくださいませ」
「いや。絶対勘違いしているだろ……」

 殿下はぼやきつつ、あらためてデレクさんに挨拶をして、私たちは書庫室を後にした。
しおりを挟む
感想 262

あなたにおすすめの小説

王宮に薬を届けに行ったなら

佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。 カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。 この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。 慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。 弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。 「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」 驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。 「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」 ※ベリーズカフェにも掲載中です。そちらではラナの設定が変わっています。(貴族→庶民)それにより、内容も少し変更しておりますのであわせてお楽しみください。

狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します

ちより
恋愛
 侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。  愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。  頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。  公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。

報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を

さくたろう
恋愛
 その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。  少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。 20話です。小説家になろう様でも公開中です。

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

私が、良いと言ってくれるので結婚します

あべ鈴峰
恋愛
幼馴染のクリスと比較されて悲しい思いをしていたロアンヌだったが、突然現れたレグール様のプロポーズに 初対面なのに結婚を決意する。 しかし、その事を良く思わないクリスが・・。

婚約白紙?上等です!ローゼリアはみんなが思うほど弱くない!

志波 連
恋愛
伯爵令嬢として生まれたローゼリア・ワンドは婚約者であり同じ家で暮らしてきたひとつ年上のアランと隣国から留学してきた王女が恋をしていることを知る。信じ切っていたアランとの未来に決別したローゼリアは、友人たちの支えによって、自分の道をみつけて自立していくのだった。 親たちが子供のためを思い敷いた人生のレールは、子供の自由を奪い苦しめてしまうこともあります。自分を見つめ直し、悩み傷つきながらも自らの手で人生を切り開いていく少女の成長物語です。 本作は小説家になろう及びツギクルにも投稿しています。

【完結】地味な私と公爵様

ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。 端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。 そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。 ...正直私も信じていません。 ラエル様が、私を溺愛しているなんて。 きっと、きっと、夢に違いありません。 お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)

ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく

犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。 「絶対駄目ーー」 と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。 何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。 募集 婿入り希望者 対象外は、嫡男、後継者、王族 目指せハッピーエンド(?)!! 全23話で完結です。 この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。

処理中です...