つかれやすい殿下のために掃除婦として就くことになりました

樹里

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第81話 呪いの言葉

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 恋人だった人からの怨みで呪いをかけられたのは分かったけれど、でもその彼女が恨んでいたのはルイス王太子殿下なのよね。

「あの、殿下。その恋人が呪いをかけたのはルイス王太子殿下のみだったのなら、なぜ今も呪いが続いているのでしょうか」
「その恋人に刑を執行したと記載しているから、憎しみが増した彼女は最後の力を振り絞って、さらに子々孫々にまで続く呪いをかけたのだろうと。彼女のいまわの際の言葉が残されている」

 ――たとえ死してもあなたの気魂を辿り、どこまでも追い続ける。あなたの魂魄が絶えるその日まで。どれほど時を費やそうとも、いつの日にかあなた――

 あなたの血を根絶やしにするその時まで、だろうか。
 彼女の底知れぬ執念に我知らず、こくんと息を呑んだ。

「じょ、情熱的な方なのですね」
「……なるほど。そうとも言うな」

 冗談です。同意して頷かないでください。

「と、ところで。彼女は裁判にかけられて有罪と判断され、刑を執行されたということでしょうか」

 空気を変えたくて尋ねた質問だったけれど、殿下は苦々しい表情を浮かべる。

「殿下?」

 殿下は言うべきかどうか逡巡している様子だ。しかし、私が答えを聞くまでは梃子でも動かないぞの姿勢にため息をついた。

「いわゆる魔女裁判だな。裁判と言うから一見、相手の申し開きに耳を傾けるようだが、その実は有罪ありきで進められて実刑を受けることがほとんどだったようだ。しかし彼女の場合は、ルイス王太子に呪いをかけた確固たる証拠が揃っていたとのことで、裁判すら受けることなくすぐに刑が執行された」

 聞く必要などないのかもしれない。聞かない方がいいのかもしれない。
 それでも私の口から出た言葉は。

「執行された刑とは?」
「……大勢の民衆の前で、魔女としてほぼ裸体の状態でさらし者にし、罵倒と石を投げかけさせる。その後、火あぶりで処刑したと歴史書には書かれている」
「そ、んな……いくら何でも。酷い」

 その光景を想像して口を両手で覆った。
 どれほどの辱めだっただろう。どれほどの苦しみだっただろう。どれほどの悲しみだっただろう。恋人に裏切られた揚げ句、民衆に罵られ暴力を受けて。

「そんなの酷い。いくらその女性が間違ったことをしたとしても、元々はルイス王太子殿下が恋人を裏切ったのが悪いのではありませんか! いいえ。少なくとも誠意を見せていたら、彼女はきっとそこまではしなかったでしょう。きっとボロ切れのように捨てられたのだわ!」

 王族の人間どもも同罪よ! 末代まで祟られろぉぉぉっ!

「ロザンヌ嬢、君が魔女だったか……」

 喉まで出かかった言葉を私はやっぱり押さえきることはできなかったみたいだ。

「――はっ。失礼いたしました。わたくし、はしたなくも少し興奮してしまいました」
「……少しだったかな? まあ、ともかくだ」

 殿下はごほんと咳払いする。

「それだけ興奮するなら魔女狩りの絵を見せたくはないところだが」
「え? 何でしょうか。何か意味があるのでしょう? 見ますよ。いいです。覚悟は決まりました。叫びません。喚きません。怒りません。さあ、どうぞ!」

 疑わしそうな目を向けつつ殿下は私が見えるように腕を下げた。
 先に話に聞いていたものの、実際、絵で見ると顔をしかめざるを得ない。

 上半身を裸体に晒された彼女の足元には薪が敷き詰められており、彼女を取り囲むように大勢の民衆が大小の石を持って振りかぶっている姿が描かれている。火付けの執行人や剣や槍を持った騎士、さらには聖職者の姿もある。

 聖職者すら止めようと思わなかったのか。聖職者だから止めなかったのか。
 思わず目を逸らそうとしたところで。

「気分が悪いとは思うがここを見てくれ」

 殿下がそう言って彼女の肩口を指さした。その先にあったものは黒いにじみのようなもの。

「何でしょう、痣ですか? 星の形をした。星の……あ!」
「そうだ。私の手首にある星紋の痣と酷似しているだろう。最初は翻訳本を作成する時に、にじみでも作ってしまったのかと思ったが、原本を確認したところ、同じ場所にも星の形の痣があった」

 再現率が高いだろうと殿下は皮肉っぽく笑う。
 星紋は彼女の呪いを受けた者を指し示す印。それと同時に彼女を示す痣を王族に刻み込むことで、彼女の怨念が常に側にあることを嫌でも意識させる。

 ――たとえ死してもあなたの気魂を辿り、どこまでも追い続ける。

 先ほどの彼女の言葉を思い出して今度こそ背筋に悪寒が走り、肌が粟立った。
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