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第82話 執着力が半端ない
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「殿下! 彼女の慰霊祭を行い、王族一同、膝をついて頭を垂れ、心より謝罪してくださいな!」
背筋の寒さを吹き飛ばすために、とりわけ大きな声で殿下に詰め寄った。
「君は前に言っただろ。自分が行ったことは自分で責務を果たすが、前世の人物とやらの悪行の報いを受ける筋合いはない。一昨日来やがれと」
「そ、それはぁ。そうですが……」
殿下は書物を閉じて本棚に戻しながら、すっかり弱気になっている私を見て小さく笑う。
「なんてな。私たちももちろん慰霊祭はこれまで何度となく行ってきているが、効果は無かった」
「そうだったのですね」
相手が悪すぎますね。稀代の天才魔術師の上に執着力が半端ないのですもの。あなたの気魂を辿ってどこまでも追い続ける、だなんて。……ん? あなたの気魂?
「殿下。彼女は『あなたの気魂を辿り』と残しているのですよね」
「ああ。それが?」
「気魂というものがどういったものを指すのかは具体的に分かりませんが、しかしルイス王太子殿下の気魂ということですよね」
「だろうな」
私はうーんと唸る。
「それでしたらやはり標的は、ルイス王太子殿下の気魂を受け継ぐ者、ということになりますよね。先ほどの彼女の最期の言葉を、王族の血を根絶やしにしてやると捉えたのですが、そうではなさそうですね」
「ああ、そうだな。実際、王族の人間全てに星紋が現れるわけではないし、これまで王位第一継承者以外の人間にも星紋が現れたとあるから。――まあ、もっとも王族の中でそういった者が現れること自体、打撃であり弱点にはなるが」
なるほど。可愛さ余って憎さ千倍、一点集中型ということなのね。他の王族やルイス王太子殿下と結婚した公爵令嬢にも手を出していないわけだし。裏を返せば彼女はそれだけルイス王太子殿下を愛していたと言えるのかもしれない。
「ところで呪術師様であるベルモンテ侯爵家が、呪い解除に尽力なさっているのはいつ頃からなのですか」
「丁度同じ時代からだ。当時は侯爵家ではなく、位を持たぬただの呪術師家系だった。どうも元々、王家お抱えの占術師から分家した呪術師だったようだな」
占術師はともかく、王家お抱えの呪術師とはまた物騒だこと。王家に反する者を呪術で何とかしてきた時代でもあったのかしら。
「ベルモンテ侯爵家も長い歴史をお持ちなのですね。ですが、今まで呪いは解けていませんよね。その割には待遇が良いのでは?」
ただの呪術師家系が侯爵まで登りつめるなんて、大出世だ。
「確かにそうだが、長年の功績が認められて侯爵位を授かったようだ」
なるほど。四百年もの長い間、王家を支えてきたのだから、当然の報奨……と言えばそうかな。
「そうですか。わたくしはてっきりベルモンテ一族が影をばらまき、王族に取り憑いた影を除いて差し上げている構図なのかと思っておりました」
うふふと無邪気に笑ってみる。
ベルモンテ家にとっては、弱みを握って爵位とお金を手に入れることができるのだからメリットしかない。
別に突き飛ばされた怨みから言っているのではない。虫けらを見るかのように見下されたからでもない。色々な事を鑑みてのことだ。
虫が好かない人だったけど。屈辱的だったけど。腹が立ったけど!
「それは……」
おや。殿下の顔色が変わった。しかし、すぐにため息をつく。
「私も考えはしたが証拠はない。それにさすがにベルモンテ家が、この歴史書の改ざんにまで手を出すことはできない」
「こういった書物はどなたが書かれているのですか?」
「王家専属の歴史学者だ」
「だとすると当然、検閲も入るのでは?」
何か不利益になる事実がそのまま書かれていた場合、削除または修正を求められることもあるのでは。
「そうだな。門外不出にする書物とは言え、王族関係者は必ず目を通すことになるからな。ある程度の削除や修正は求められるかもしれない。だが当時、何の爵位も持たなかったベルモンテ家が口出しすることは許されていなかっただろう」
あ、そっか。当時は侯爵ではなかったものね。発言力は無いか。
「まあ、集めた史料が必ずしも正しいとは限らないし、歴史学者の分析が間違っている可能性もある。この部屋の書物が全て真実だと思わない方が賢明だろうな」
殿下は客観的な目を持っているらしい。感心感心。
「君の上から目線はどこからやって来るのかな」
と呆れ顔をしつつ。
「ただ、呪いの発端は彼女とみて良いだろうと考えている。星紋のこともあるしな」
「そうですか」
今は、ベルモンテ家が影をまき散らしている可能性も否定できませんけどね、今は!
「聞こえているぞ。何か私怨が入っていないか? ――さて、今日はこれぐらいにしてそろそろ戻るか」
「はい。分かりました」
殿下は先ほどの小部屋の仕掛けを元に戻すと、私たちは出入り口へと向かう。するとデレクさんが顔を出した。
「お帰りですか」
「はい。デレク様、ありがとうございました」
デレクさんに礼を取ると、またいらしてくださいねと彼は笑った。
殿下は私が挨拶を終えたところでデレクさんに尋ねる。
「最近、ベルモンテ家の人間がこちらに来ることは?」
「以前はほとんどお見えになりませんでしたが、ここ最近は足を運ばれるようになりましたね」
「そうか」
殿下は一瞬だけ何か考え込んだようだった。
「ベルモンテ一族には、私たちがこちらに来ていることは伝えないでくれるか」
デレクさんは私をちらっと見ると、殿下ににっこりと笑いかける。
「もちろんでございます、殿下」
「……何か勘違いしていないか?」
「いえいえ。またぜひお二人ででいらしてくださいませ」
「いや。絶対勘違いしているだろ……」
殿下はぼやきつつ、あらためてデレクさんに挨拶をして、私たちは書庫室を後にした。
背筋の寒さを吹き飛ばすために、とりわけ大きな声で殿下に詰め寄った。
「君は前に言っただろ。自分が行ったことは自分で責務を果たすが、前世の人物とやらの悪行の報いを受ける筋合いはない。一昨日来やがれと」
「そ、それはぁ。そうですが……」
殿下は書物を閉じて本棚に戻しながら、すっかり弱気になっている私を見て小さく笑う。
「なんてな。私たちももちろん慰霊祭はこれまで何度となく行ってきているが、効果は無かった」
「そうだったのですね」
相手が悪すぎますね。稀代の天才魔術師の上に執着力が半端ないのですもの。あなたの気魂を辿ってどこまでも追い続ける、だなんて。……ん? あなたの気魂?
「殿下。彼女は『あなたの気魂を辿り』と残しているのですよね」
「ああ。それが?」
「気魂というものがどういったものを指すのかは具体的に分かりませんが、しかしルイス王太子殿下の気魂ということですよね」
「だろうな」
私はうーんと唸る。
「それでしたらやはり標的は、ルイス王太子殿下の気魂を受け継ぐ者、ということになりますよね。先ほどの彼女の最期の言葉を、王族の血を根絶やしにしてやると捉えたのですが、そうではなさそうですね」
「ああ、そうだな。実際、王族の人間全てに星紋が現れるわけではないし、これまで王位第一継承者以外の人間にも星紋が現れたとあるから。――まあ、もっとも王族の中でそういった者が現れること自体、打撃であり弱点にはなるが」
なるほど。可愛さ余って憎さ千倍、一点集中型ということなのね。他の王族やルイス王太子殿下と結婚した公爵令嬢にも手を出していないわけだし。裏を返せば彼女はそれだけルイス王太子殿下を愛していたと言えるのかもしれない。
「ところで呪術師様であるベルモンテ侯爵家が、呪い解除に尽力なさっているのはいつ頃からなのですか」
「丁度同じ時代からだ。当時は侯爵家ではなく、位を持たぬただの呪術師家系だった。どうも元々、王家お抱えの占術師から分家した呪術師だったようだな」
占術師はともかく、王家お抱えの呪術師とはまた物騒だこと。王家に反する者を呪術で何とかしてきた時代でもあったのかしら。
「ベルモンテ侯爵家も長い歴史をお持ちなのですね。ですが、今まで呪いは解けていませんよね。その割には待遇が良いのでは?」
ただの呪術師家系が侯爵まで登りつめるなんて、大出世だ。
「確かにそうだが、長年の功績が認められて侯爵位を授かったようだ」
なるほど。四百年もの長い間、王家を支えてきたのだから、当然の報奨……と言えばそうかな。
「そうですか。わたくしはてっきりベルモンテ一族が影をばらまき、王族に取り憑いた影を除いて差し上げている構図なのかと思っておりました」
うふふと無邪気に笑ってみる。
ベルモンテ家にとっては、弱みを握って爵位とお金を手に入れることができるのだからメリットしかない。
別に突き飛ばされた怨みから言っているのではない。虫けらを見るかのように見下されたからでもない。色々な事を鑑みてのことだ。
虫が好かない人だったけど。屈辱的だったけど。腹が立ったけど!
「それは……」
おや。殿下の顔色が変わった。しかし、すぐにため息をつく。
「私も考えはしたが証拠はない。それにさすがにベルモンテ家が、この歴史書の改ざんにまで手を出すことはできない」
「こういった書物はどなたが書かれているのですか?」
「王家専属の歴史学者だ」
「だとすると当然、検閲も入るのでは?」
何か不利益になる事実がそのまま書かれていた場合、削除または修正を求められることもあるのでは。
「そうだな。門外不出にする書物とは言え、王族関係者は必ず目を通すことになるからな。ある程度の削除や修正は求められるかもしれない。だが当時、何の爵位も持たなかったベルモンテ家が口出しすることは許されていなかっただろう」
あ、そっか。当時は侯爵ではなかったものね。発言力は無いか。
「まあ、集めた史料が必ずしも正しいとは限らないし、歴史学者の分析が間違っている可能性もある。この部屋の書物が全て真実だと思わない方が賢明だろうな」
殿下は客観的な目を持っているらしい。感心感心。
「君の上から目線はどこからやって来るのかな」
と呆れ顔をしつつ。
「ただ、呪いの発端は彼女とみて良いだろうと考えている。星紋のこともあるしな」
「そうですか」
今は、ベルモンテ家が影をまき散らしている可能性も否定できませんけどね、今は!
「聞こえているぞ。何か私怨が入っていないか? ――さて、今日はこれぐらいにしてそろそろ戻るか」
「はい。分かりました」
殿下は先ほどの小部屋の仕掛けを元に戻すと、私たちは出入り口へと向かう。するとデレクさんが顔を出した。
「お帰りですか」
「はい。デレク様、ありがとうございました」
デレクさんに礼を取ると、またいらしてくださいねと彼は笑った。
殿下は私が挨拶を終えたところでデレクさんに尋ねる。
「最近、ベルモンテ家の人間がこちらに来ることは?」
「以前はほとんどお見えになりませんでしたが、ここ最近は足を運ばれるようになりましたね」
「そうか」
殿下は一瞬だけ何か考え込んだようだった。
「ベルモンテ一族には、私たちがこちらに来ていることは伝えないでくれるか」
デレクさんは私をちらっと見ると、殿下ににっこりと笑いかける。
「もちろんでございます、殿下」
「……何か勘違いしていないか?」
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