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第83話 ユリアは元暗殺者!?
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書庫室を出て、ふと思い出した。
そういえばユリアはどうしているかしら。いくら体力に自信があるからと言って、男性しかも騎士たちと同じメニューをこなせているとは思えない。その辺りはジェラルドさんがうまく配慮してくださっているとは思うけれども。
「あの、殿下。騎士様の鍛練場はどこにあるのでしょうか」
「ああ。確かに君の侍女のことが気になるな。では執務室に戻る前に寄ってみよう」
私たちは再び一階へと降りて鍛練場に向かうことになった。
書庫室は王族とベルモンテ侯爵家のみの利用なのでその辺りは人気がなかったけれど、鍛練場へと向かう道はそろそろ人が増えてきた。私は殿下とはまた距離を取って廊下を歩く。
殿下は距離を取らないでくれとおっしゃったけれど、私が殿下と王家の秘密に迫るほどに私の存在を誰かに知られてはいけなくなる。殿下とは心の距離を詰める度に、社会的距離が遠のいていく気がした。
この気持ちは何というのだろう。……悲しい? 寂しい? 切ない?
そんな事を考えていると、歓声のような盛り上がっている声が聞こえてきて、私ははっと我に返る。
「ここだ」
鍛練場に着いたらしい。
私たちはこっそりと出入り口から覗くと、中央で木剣らしき長い棒を持って立っているユリアの姿が見えた。
服は借り物のようで、サイズの合っていない練習着を無理に巻き込んで詰めている感じだ。その彼女の側に尻餅をついた男性がいる。
「五人抜きだ!」
「すげえ!」
「彼女、俺たちと同じメニュー量をこなしてたよな!?」
「俺なんてまだ膝が笑って立つことすらできないぞ? 化け物か!?」
男性と同じメニューをこなした――だと!? しかもその後に仮試合で五人抜き!?
殿下はどん引きしている私に振り返る。
「……君の侍女は確か、元暗殺者だと言ったか?」
「イエ。ただの盗人。……だったような、そうではなかったような」
ちょっと自信がなくなってきました。
「よーし! 次は俺だ!」
いかにも屈強そうな男性が立ち上がる。
騎士としての自尊心があるのでしょう。華奢に見える女性相手に負けられないですからね。だけど……。
「止めないと! ユリアはもう限界です」
目にまだ炎は灯っているけれど、今はその精神力だけで立っている状態だろう。
「わたくし、止めて――」
「待て」
飛び出そうとした私に殿下は手を伸ばしてきたので、触れないように慌てて身を引いた。
「あ、危ないではありませんか。もう少しで触れるところでしたよ」
殿下に抗議したが、それには答えず顎で指し示すので、私はその方向に視線をやった。するとジェラルドさんが中央へと歩いてきていて、ユリアと騎士にそれぞれ制止の手の平を向けていた。
「両者、本日はここまでです」
「何だよ、邪魔するな。俺たち騎士が負けたままで終われるかよ」
「そうだそうだ!」
「ジェラルド官長! このままだと男の沽券にも関わります!」
騎士たちが周りではやし立てる。
――女性一人相手にその態度は何!? 子供か!
私はぎりりと拳を作る。
「皆、清粛に」
ジェラルドさんは決して怒鳴り声ではないのに騒ぎ声の中でも通る声で制すると、一瞬の内に静まり返った。
ジェラルドさんはやはり凄い……。
「おい、ジェラルド。このままで終わって、俺たちが納得できるとでも思うのか? 騎士の威信に関わることだぞ!?」
「アラン騎士」
不満そうに眉をひそめるアラン騎士に対して、ジェラルドさんは冷静沈着だ。
「彼女は騎士と同じメニューをこなし、仮試合も彼らを相手に五試合行っています。そのような彼女と試合に臨み、勝ったところで騎士の威信を保てるとは到底思えないのですが」
「くっ。た、確かに」
アラン騎士は反論できるべくもなく、大きくため息をつく。
「分かった。じゃあ、今日はここまでにしてやるか。次、互いの体調が万全の時に戦おう。首洗って待っておけよ」
「……お疲れ様です」
ユリアは売り言葉を買わず、アラン騎士ばかりが息巻くばかりで空振りした形になる。本人に悪気はないのだけれども当然、彼はむっと眉根を寄せた。
ハラハラしたけれど、ユリアの常日頃からのなおざり対応を承知しているジェラルドさんは、取りなすように彼女の前に立ちはだかり、アラン騎士の視線から隠した。
「それでは私たちはこれで下がりますので、皆さんのご指導をあなたにお任せしてよろしいですか」
「あ? ああ」
笑顔のジェラルドさんに毒気を抜かれたのか、任されたことに責任を感じたのか、素直に分かったと頷く。
「ありがとうございます。では、よろしくお願いいたします。――ではユリアさん、参りましょう」
「……はい」
ジェラルドさんは実に紳士的にユリアをエスコートして鍛練場の外へと連れ出した。
そういえばユリアはどうしているかしら。いくら体力に自信があるからと言って、男性しかも騎士たちと同じメニューをこなせているとは思えない。その辺りはジェラルドさんがうまく配慮してくださっているとは思うけれども。
「あの、殿下。騎士様の鍛練場はどこにあるのでしょうか」
「ああ。確かに君の侍女のことが気になるな。では執務室に戻る前に寄ってみよう」
私たちは再び一階へと降りて鍛練場に向かうことになった。
書庫室は王族とベルモンテ侯爵家のみの利用なのでその辺りは人気がなかったけれど、鍛練場へと向かう道はそろそろ人が増えてきた。私は殿下とはまた距離を取って廊下を歩く。
殿下は距離を取らないでくれとおっしゃったけれど、私が殿下と王家の秘密に迫るほどに私の存在を誰かに知られてはいけなくなる。殿下とは心の距離を詰める度に、社会的距離が遠のいていく気がした。
この気持ちは何というのだろう。……悲しい? 寂しい? 切ない?
そんな事を考えていると、歓声のような盛り上がっている声が聞こえてきて、私ははっと我に返る。
「ここだ」
鍛練場に着いたらしい。
私たちはこっそりと出入り口から覗くと、中央で木剣らしき長い棒を持って立っているユリアの姿が見えた。
服は借り物のようで、サイズの合っていない練習着を無理に巻き込んで詰めている感じだ。その彼女の側に尻餅をついた男性がいる。
「五人抜きだ!」
「すげえ!」
「彼女、俺たちと同じメニュー量をこなしてたよな!?」
「俺なんてまだ膝が笑って立つことすらできないぞ? 化け物か!?」
男性と同じメニューをこなした――だと!? しかもその後に仮試合で五人抜き!?
殿下はどん引きしている私に振り返る。
「……君の侍女は確か、元暗殺者だと言ったか?」
「イエ。ただの盗人。……だったような、そうではなかったような」
ちょっと自信がなくなってきました。
「よーし! 次は俺だ!」
いかにも屈強そうな男性が立ち上がる。
騎士としての自尊心があるのでしょう。華奢に見える女性相手に負けられないですからね。だけど……。
「止めないと! ユリアはもう限界です」
目にまだ炎は灯っているけれど、今はその精神力だけで立っている状態だろう。
「わたくし、止めて――」
「待て」
飛び出そうとした私に殿下は手を伸ばしてきたので、触れないように慌てて身を引いた。
「あ、危ないではありませんか。もう少しで触れるところでしたよ」
殿下に抗議したが、それには答えず顎で指し示すので、私はその方向に視線をやった。するとジェラルドさんが中央へと歩いてきていて、ユリアと騎士にそれぞれ制止の手の平を向けていた。
「両者、本日はここまでです」
「何だよ、邪魔するな。俺たち騎士が負けたままで終われるかよ」
「そうだそうだ!」
「ジェラルド官長! このままだと男の沽券にも関わります!」
騎士たちが周りではやし立てる。
――女性一人相手にその態度は何!? 子供か!
私はぎりりと拳を作る。
「皆、清粛に」
ジェラルドさんは決して怒鳴り声ではないのに騒ぎ声の中でも通る声で制すると、一瞬の内に静まり返った。
ジェラルドさんはやはり凄い……。
「おい、ジェラルド。このままで終わって、俺たちが納得できるとでも思うのか? 騎士の威信に関わることだぞ!?」
「アラン騎士」
不満そうに眉をひそめるアラン騎士に対して、ジェラルドさんは冷静沈着だ。
「彼女は騎士と同じメニューをこなし、仮試合も彼らを相手に五試合行っています。そのような彼女と試合に臨み、勝ったところで騎士の威信を保てるとは到底思えないのですが」
「くっ。た、確かに」
アラン騎士は反論できるべくもなく、大きくため息をつく。
「分かった。じゃあ、今日はここまでにしてやるか。次、互いの体調が万全の時に戦おう。首洗って待っておけよ」
「……お疲れ様です」
ユリアは売り言葉を買わず、アラン騎士ばかりが息巻くばかりで空振りした形になる。本人に悪気はないのだけれども当然、彼はむっと眉根を寄せた。
ハラハラしたけれど、ユリアの常日頃からのなおざり対応を承知しているジェラルドさんは、取りなすように彼女の前に立ちはだかり、アラン騎士の視線から隠した。
「それでは私たちはこれで下がりますので、皆さんのご指導をあなたにお任せしてよろしいですか」
「あ? ああ」
笑顔のジェラルドさんに毒気を抜かれたのか、任されたことに責任を感じたのか、素直に分かったと頷く。
「ありがとうございます。では、よろしくお願いいたします。――ではユリアさん、参りましょう」
「……はい」
ジェラルドさんは実に紳士的にユリアをエスコートして鍛練場の外へと連れ出した。
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